先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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「エルデル」が「バベル」と協定を結んだことはカズデルではよく知られているが、そのリーダーの存在について知るものは少ない。
ある人はリーダーなど存在しないのだと言い、その存在は疑わしいものと見なされている。
あるサルカズの男がよく指示をしている姿が見られているが、彼はきっと「エルデル」そのものではなく、武力担当のリーダーなのだろう。


炎魔と緑髪のフェリーン

 

――カズデル地区、「エルデル」本部にて。

「生きて戻ったか、フェリーン」

「……貴方がその問いを口にした時点で、答えはすでに明白だろう。問題は、生きていたことそのものではなく、その意味が何かという点にある。貴方は何を恐れ、何を期待し、何を思い描いていた?」

「……チッ。*サルカズスラング*」

「その長ったらしい喋りを聞くと、貴様の首を切り落としたくなるな」

「何はともあれ、無事で何よりだ、ケルシー」

 苛立たしげな様子を隠さず告げたサルカズの男は、あらゆる感情を呑み込んで緑髪のフェリーンを迎えた。

「我々『エルデル』は、大変不本意だが――貴様を歓迎しよう」

 そう告げたサルカズの男――スヴェルドフレムは、緑髪のフェリーンことケルシーを「エルデル」の中へ招き入れた。

 

 

「エルデル」を設立後、魔王テレジアによって半ば強制的な和解をさせられたスヴェルドフレムは、ケルシーというフェリーンを嫌っている。

 それは組織員の中で共通認識であり、スヴェルドフレムにとっても同じ認識である。

 例えかつての先史文明から生きる遺物であろうと、万年の使命を抱えて生きる下僕であろうと、スヴェルドフレムにとってこのカズデルを塵にした仇という事に変わりはない。

 もし己がただの異族で、或いはただの先史文明の生き残りであったなら、このような複雑な感情は抱かなかっただろう。

 ……だが皮肉なことに、この緑髪のフェリーンが大地の行く末を見ている同胞でもある。

 かつての滅びを、かつての終わりを、この大地の誕生を、このフェリーンは眺めてきた。

 スヴェルドフレムの生を超える万年の歴史を、このフェリーンは……AMa-10は生きてきた。

 

 あの瞬間――仇の首を落とすため、剣がフェリーンの首に触れかけた刹那。

 

 魔王の力を介して、万年の記憶が流れ込んできた。

 

 流砂は空を舞い、光は目に映る全ての物事に疑念を植えつける。

 遠くで彼女を呼ぶ声が響く。

 魂が彼女の皮膚を剥ぎ取るように感じ、そこで初めて彼女は、自身が深い疲れに包まれていたことを理解する。

 彼女は広大な大地を見渡した。それは生命を育み続けている。

 振り返り、曖昧な記憶の中から自分の名を探し始める。

 ケルシー。

 彼女は自らがこの文明の崩壊した遺産の中で使命を背負って生まれたことを知っていたが、その先に待つ運命は分からず、それを知る者もいなかった。

 食事や眠りを避けられないように、その使命から逃れることは彼女には不可能だった。

 彼女は古の遺産の上に足を踏み入れ、何千年、何万年と積み重ねられた記憶と知恵を丁寧に整理し始めた。

 廃墟から立ち上る新たな国家を目にし、その滅びた王権がかつて自らが捨て去った成果の一つであったことを思い出す。

 戦火の中で掲げられた新しい旗を見て、かつて共に戦った仲間同士が、共通の敵に立ち向かうために手を取り合ったことを回想する。

 だが、彼女は変わらない。彼女には過去も未来も無い。

 しばらくの沈黙を経て、ようやく思考が整理される。

 彼女は自らが迎えた前回の死を思い出した。

 流れ去った年月は、生命の姿を変えるには十分な時間だった。

 生命はその野生に従って繁栄し、大地は絶えず姿を変えていく。

 人工の機械が轟音を響かせて動き出し、源石エネルギーの輝きが影を照らし出す。

 星々が偽りの空の裏側へと隠される意志は、今もなお地表で繰り広げられる興亡を見守り続けているのだろうか? 

 テラの人類が築き上げた文明が、冷徹な虚空へと送り出され、数え切れない命が失われたあの終わりが来るまで、どれだけの時間が残されているのだろうか?

 残された時間は限られている。

 彼女のほとんどの時間は、テラが自ら破滅へと突き進むのを阻み、人々が正しい道へと舵を切れるよう導くことに費やされてきた。

 それだけで、彼女の身も心もすでに疲れ果てていた。

 彼女は決して全知全能の存在ではない。

 それでもなお、この手ですくえる限りのすべてに手を伸ばし続けてきた。

 その使命が公正であったことなど、一度たりともなかった。

 ――急がなければ。

 手段を選んではいられない。彼女は破壊されたカズデルに視線を向ける。

 或いは、今度こそ決断を下す時が来たのかもしれない。

 

 …………

 ……

「ケルシー。これが……あなたが前回歩んだ旅路なのね」

「実際には、君が見たものよりさらに果てしなく、何千何万倍も長いものだがな。テレジア」

「それでも私は今、初めてあなたを――私の敵を、理解できたのかもしれないわ」

「……同感だ、サルカズの王よ」

 

 それは、ケルシーという個体の歴史だった。

 サルカズの魔王と、先史文明から生きるAMa-10との接触。

 その一端を、スヴェルドフレムは『視た』。

 一瞬にも満たない互いの記憶の交差を経て――スヴェルドフレムは現実に感覚が戻ってきた。

「……」

 フェリーンの首を落とすはずだった剣は、薄皮に触れるだけに留まっている。

 やがて、スヴェルドフレムは、自ら剣を手放した。

 魔王テレジアへ己の首を差し出すように傅いた――結果、テレジア主導のもとケルシーとの「和解」が行われた。

 

 そんな過去に思いを馳せながら、スヴェルドフレムは隣を歩くケルシーへと目を向ける。

 この緑髪のフェリーンは、己をどう捉えているのだろう。

 消え去ったと思っていた先史文明の欠片か?

 大地に翻弄される、哀れなサルカズの一人か?

 共に大地の未来を憂う、協力者か?

 

 スヴェルドフレムがテレジアの真意を掴みそこねて居るように、このフェリーンもまた秘密主義であり――真意を悟らせない。

 

 スヴェルドフレムの憎しみは消えぬ炎であり、ケルシーという存在はそうした憎しみを滾らせる。

 しかし同時に、この大地の未来を見続ける同胞とも呼べる存在である以上、滾り続ける「殺意」のままに振る舞うことは、理性がある以上できない。

 

 ケルシーもまたスヴェルドフレムの複雑な感情を理解している。

「私は貴方を説得しようとは思わない。憎しみとは、それを抱く者自身が向き合わなければならないものだ。ただ、私たちが共に生きるこの都市にとって、何が最善なのか――それは貴方も理解しているはずだ」

 万年の時を生きる緑髪のフェリーンは、常にテラの大地の『未来』を模索している。

「貴方が私を憎む理由は理解できる。だが、それでも都市の未来を考えるならば、選択肢は一つしかない。私たちは、この都市をより良いものにするために協力するべきだ」

 スヴェルドフレムとケルシーは、共通認識のもと協力せざるをえないことを互いによく理解していた。

「貴方が私を憎む理由は理解しているし、それを否定するつもりもない。ただ、感情とは別に考えなければならないことがある」

「カズデルは、変化の時を迎えている。私たちがどう思おうと、それは避けられない。そして、貴方が望む未来を実現するために、今何をすべきか――その答えは、もう見えているはずだ」 

 そう語るケルシーに、スヴェルドフレムは同意を示す。

「奇遇だな、ケルシー。その点において、『エルデル』と『バベル』は、より良い関係を築くことができるだろう」

 

「我々サルカズの組織『エルデル』が『バベル』と協定を結んだ……これは、既に多くの者が知る事実だ」

 

 魔王テレジアが「バベル」の理想を掲げた時点で、その理念を打ち壊さんと狙う者は少なくない。

 

「サルカズと異族の融和の一歩になりうる成果の一つと言える」

「ガリアの滅亡により、大地の流れは大きく変わり、両殿下が新たなサルカズの在り方を示された」

 

 サルカズは、異族を憎むと同時に恐れているからだ。

 だが、憎み恐れるだけではこのカズデルは、変わることができないということも理解していた。

 スヴェルドフレムはそうした同胞を――殿下の命を狙うのならば、手に掛ける覚悟を決めている。

 

「私が、誓う相手は殿下のみ。私はあの方の為に振るわれる剣となることを決めた。……貴様の組織ではなく、だ」

 

「『エルデル』は『バベル』にできる限り手を貸すことを約束しよう」

 

「……未来の為、大地の為、同胞の為に」

 

 そのためならば、スヴェルドフレムは同胞の血に汚れることを厭わない。





スヴェルドフレムがケルシー嫌ってるのはカズデル侵攻の首謀者というのもあるけど、妻子との思い出つまった家とか息子夫婦の家とか思い出のある日常の景色とか全部ぶっ壊されたから。
めちゃくちゃ嫌いだけどテレジアや先史文明を滅ぼしたものを考えると○すのは待つか的な。
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