先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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【閑話】テレジアと剣の誓い

「エルデル」が「バベル」と協定を結び、異族との融和が少しずつ進み始めた頃。

「バベル」「エルデル」「カズデル軍事委員会」を忙しなく往来するテレジアが、ある日スヴェルドフレムに呼びかけた。

 

「スヴェルドフレム。あなたも気分転換に――炉がよく見える場所に行ってみない?」

「あの炉に……ですか?」

「ええ。……私も、さすがに少し疲れたわ。それに……こうして立ち止まるのも、悪くないでしょう?」

 

 そうして魂の炉が燃え盛るのがよく見える場所から、街の景色を見下ろすスヴェルドフレムとテレジア。

 そんなテレジアの横顔を見るスヴェルドフレムだったが、ふとこの魔王が都市の建設者でもあることを思い出した。

 

「この都市をどう思うか、ですって? ふふ、そうね……どこを切り取るかで、見え方は変わるものよ」

 

「高くそびえるこの上から見下ろせば、街並みと、そこを行き交う人々の流れが映るでしょうね。でも、街を歩けばどうかしら?壁のひび割れに歴史を感じ、路地裏の片隅に誰かの営みが息づいているのを見つけるかもしれない」

 この都市を見守り続けてきた「魔王」は、穏やかな眼差しで街を見下ろす。

「このカズデルは、多くの人の思いが積み重なってできたものよ。その一つひとつを拾い上げれば、きっとあなたにも、この場所がどんな顔をしているのか見えてくるんじゃないかしら」

 かつての侵攻以前の姿を知る両者は、この「カズデル」はあまりにも小さく頼りないことを理解している。

 この都市を一から築き上げたテレジアにとって、この「カズデル」ほど愛着のあるものはないだろう。

 その言葉を反芻していると、ふとこちらを振り向いてテレジアが尋ねた。

「あなたはどうなの? スヴェルドフレム」

「は……私ですか?」

 

「……サルカズの歴史は怒りと血に塗れています。北へ離れたウェンディゴとサイクロプスの目は、このカズデルへと向けられることは無いでしょう」

「この百年ほどで多くの支族が力を失い、純血は失われつつあります」

 

「私は……――ここで過ごした数十年、テレジア殿下の偉業を何度もお聞きしました」

 この「魔王」を表す言葉は無数に存在する。

 「移動都市カズデル」を創り上げた賢王。

 六大英雄の一人。

 双生の魔王。

 カズデルの英雄。

 そのどれもが輝しい、武勇に溢れた英雄の姿そのものだ。

「ですが、私は……この都市で暮らし、あなたの元で過ごすうちに、彼らの日々を少しでも良くしたいと願うようになりました」

 中にはテレジアを盲信的英雄と見なす者も多いが、スヴェルドフレムにとっては……この「魔王」は、この大地に希望を持って抗う「救済者」だと強く感じた。

「あなたの理想の元、臣下として尽くします。このティカズの剣に誓って」

「私のこの身は、あなたの為に振るわれましょう……テレジア殿下」

 

 そう告げたスヴェルドフレムに、テレジアは、

「なら、誓いの儀式をやらなくちゃね」

 その一言で、遠い彼方の記憶を思い出したスヴェルドフレムは、その意図を理解した。

「殿下がそう仰るのなら」

 そうしてスヴェルドフレムは――古代ティカズの例に則り、目の前の主に誓いをたてる。

 それは失われて久しく、理解できるものは旧い王庭の主か、目の前の魔王のみが察することが出来るであろう儀式。

 臣下の礼をとり、左膝をたて片膝をつく。鞘ごと剣を外し、柄をテレジアに向けて差し出す。

 その剣をテレジアが受け取り、剣の平らな部分をスヴェルドフレムの首の横に当て、優しく撫でた。

「(古代サルカズ語)あなたが我らティカズの、あるいは敵の暴虐に逆らい、大地に奉仕するすべての者の保護者かつ守護者となるように」

 魔王の祈りの言葉に、スヴェルドフレムは応えた。

「(古代サルカズ語)たとえ我が盾が砕け、鎧朽ちようとも、この剣が汝を守り続けん」

 

 その誓いを見届けたテレジアは、スヴェルドフレムに覚悟を問いた。

「その言葉の重さを、あなたは理解しているかしら? 剣とはただ振るわれるだけのものではないわ」

「誰かを守るために、その身を削り、痛みを知りながら、それでも立ち続ける覚悟が必要よ」

 

「……そうね、なら一つだけ約束してちょうだい」

 

「どんな時も、あなた自身を見失わないこと。私の剣である前に、あなたはあなた自身であるべきよ」

 

 スヴェルドフレムはその日、己の身を剣として守る誓いをテレジアに捧げた。

 

 

 …………。

 

 ……。

 

 それは、かつて過ごした昔日の記憶。

 テレジアとケルシーは「大地の在り方」について語り合った。

 

「テレジア、この『世界』はより良いものになるだろうか? 貧困、争い、文明が生まれてから人々は歴史を繰り返しているというのに」

 

「ケルシー。貴方はいつもそうやって、未来のことに目を向けているのね」

 

「確かに、人々は同じ過ちを繰り返してきたわ。貧困、争い、欲望に駆られた愚かさ……。文明が生まれてから、どれだけの時間が流れても、人は完全には変わらない」

 

「でも、それでも私たちは進んでいるのよ。すべてを変えることはできなくても、誰かの手で、小さな光をともすことはできる」

「歴史が繰り返されるとしても、その中に確かに積み重ねられるものがあるなら――私は、それを『前進』と呼びたいわ」

 

「この『大地』がより良いものになるかどうかは、誰かに委ねられた未来じゃない。私たちが、今、どう生きるかで決まるのよ。……そう思わない? ケルシー」

 

「……君の意見に賛同しよう、テレジア」

 

 

 過ぎ去った記憶の紐を結びなおし、テレジアはスヴェルドフレムが去った方向を見つめる。

 ふと隣に見知った気配を感じた。

「やはりここに居たか、テレジア」

「ケルシー」

 緑髪のフェリーンが、やや疲れを募らせた顔色で立っていた。

「……随分と君を探した」

 

「君がどこで何を考えていたのか、詮索するつもりはない。だが、時間は止まらないし、私たちにはまだすべきことがある」

「……随分と気にかけているようだな、テレジア」

「彼が一介のサルカズと言うには、あまりにも特殊であることは君も理解しているだろう」

「……確かに、彼は冷静だ」

 

「憎しみを抱えながらも理性を失わず、目的のために動ける者は貴重だ。衝動に流されず、互いに利益を見出せるならば、共に歩むことは可能だろう」

 

「だが、冷静さと信頼は別の話だ。共に進む道のりの中で、彼が何を選ぶか、それを見極めることが重要だ」

「互いに認め合う関係を築けるかどうか――それを決めるのは、言葉ではなく行動だ」

 

「私からの評価を知りたいと?」

「……」

 

「望む結果を必ずしも得られると保証できるわけではない。だが、現時点で『エルデル』と『バベル』は、少なくとも――」

 

「同じ認識を持って進む事ができる、『同胞』になりうる関係性だと言えるだろう」

 

「……そろそろ戻るべきだ。このカズデルには、君を必要とする者ばかりだからな」

 






剣の誓い云々の奴は捏造かつ適当なので参考にしないほうが良いです。

・もしカズデルローグに秘宝として存在したらIF

秘宝【ティカズの剣】
「かつてあるサルカズ将校が使用していた剣。その鞘には旧いカズデルの軍旗を模した紋章が掘られている。
古代サルカズの技術が集約されたもので、炎魔の炎、アンズーリシックの土石の力、リッチの知識、バンシーの巫術が用いられている。
カズデル侵攻で失われたと思われていたが、双生の魔王が英雄達の墳墓にて発見し、後にあるサルカズの男に下賜された」
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