先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
やけに道路空いてるな思ったら世間は三連休らしいと思い出す。
本編思い付かないので代わりに投稿します。
作者的に曇らせたいけど、本編では曇らせたくない……
夕刻――エルデル本部の食堂には、今日も賑やかな声が満ちていた。
任務を終えた者たちが長机を囲み、温かな湯気を立てる皿へと手を伸ばす。
誰かが失敗談を笑い話に変え、別の誰かが作戦の成功を酒で乾杯する。
それは、ごくありふれた光景だった。
だからこそ、守る価値がある。
「ボス」
カルディオスコポスが椀を片手に顔を上げた。
「今日は食べないんですか?」
スヴェルドフレムは足を止める。
食卓には一つだけ空席が残されていた。
彼が腰を下ろすことも珍しくはない。
「仕事がある」
短く答える。
カルディオスコポスもそれ以上は聞かなかった。
スヴェルドフレムは静かに食堂を後にする。
扉が閉まると同時に、背後から笑い声が漏れ聞こえた。
その声は少しずつ遠ざかっていく。
――仕事など、なかった。
数時間前。
エルデルの医療施設で、一人の幼いサルカズが息を引き取った。
鉱石病だった。
懸命な治療も、その小さな命を繋ぎ止めることはできなかった。
遺族の願いにより、葬送は古いサルカズの作法に則って執り行われた。
祈りを捧げる者。
静かに涙を流す母親。
幼い兄弟は、まだ死というものを理解できず、眠っているだけだと信じていた。
その光景が、胸に残っていた。
子どもの年齢が、記憶の奥底に眠る誰かと重なった。
それ以上は考えない。
考えてしまえば、今日救えなかった命ではなく、自分自身を悼むことになる。
あの食卓へ向かうことができなかった。
仲間たちの笑顔は、エルデルが目指し続けた景色そのものだ。
怯えることなく食事を囲み。
明日の予定を語り合い。
子どもたちが笑い。
誰も飢えを恐れずに済む場所。
そのために、彼らは戦い続けてきた。
だが、その同じ日にも。
救えなかった命は確かに存在する。
理想は嘘ではない。
現実もまた、嘘ではなかった。
その二つを、今日ばかりはうまく胸の中で折り合いをつけられない。
人気のない部屋へ入る。
机の上には、誰かが気を利かせて置いていった夕食があった。
もう湯気は立っていない。
椀を手に取り、一口啜る。
冷めたスープの温度だけが、今の自分にはちょうどよかった。
部屋の外では、仲間たちの笑い声がかすかに響いている。
スヴェルドフレムは、その声に耳を澄ませながら、最後まで誰とも言葉を交わすことなく、一人で食事を終えた。
【未来への祈り】
孤児院の一室。
窓際に座ったサルカズの少女は、小さな手で一本のクレヨンを握っていた。
紙の上を、ぎこちない線がゆっくりと走る。
扉の前で足を止めたスヴェルドフレムは、その様子を静かに見守った。
少女は数ヶ月前に保護されたばかりだった。
傭兵だった父を亡くし、爆弾魔の女傭兵に押し付けられた所をスヴェルドフレムが預かったのだ。
鉱石病には感染している。
だが、荒野で暮らしていた子どもとしては、病状は驚くほど穏やかだった。
適切な治療を続ければ、まだ長く生きられる。
カルテにそう記したのは、他でもない彼自身だった。
少女は夢中で絵を描いている。
握られたクレヨンは、ずいぶん短い。
何度も使われ、紙を巻く帯はところどころ剥がれていた。
孤児院では、傷み切った備品は順次新しいものへ交換している。
それでも残っているということは――誰かが彼女に譲ったものなのだろう。
「何を描いているんだ」
声を掛けると、少女は顔を上げる。
「お花」
紙の上には、拙い線で白い花が描かれていた。
「きれいだったの」
その一言だけだった。
どこで見た花なのか。
誰と見た花なのか。
少女は語らない。
スヴェルドフレムも尋ねなかった。
その記憶まで奪う権利は、自分にはない。
「せんせい」
少女が遠慮がちに口を開く。
「わたしも、お花育てられる?」
彼は少しだけ目を細めた。
「ああ」
「きっと育てられる」
少女は嬉しそうに頷き、また紙へ向き直る。
その姿を見つめながら、スヴェルドフレムは静かに思う。
この子が、この先どんな道を歩むのかは分からない。
戦士になるのか。
術師になるのか。
あるいは、誰かを救う側になるのか。
それでも。
願うことくらいは許されるだろう。
願わくば、この子が穏やかな人生を歩めるように。
……それは、争いを宿命としてきたサルカズにとって、あまりにも似つかわしくない願いなのかもしれない。
だが、その願いを捨ててしまった時、自分は何のためにエルデルを築いたのか。
その答えだけは、今も変わらず胸の内にあった。
【氏族紋様が刻まれた護符】
かつてサルカズは氏族ごとに異なる紋様が刻まれた護符を持ち歩いていた。しかしカズデル侵攻の際、多くの一族が離散した結果、その伝統は廃れてしまった。
葬送の際には氏族ごとに対応が別れる。
【傷だらけのドッグタグ】
ボロボロになったドッグタグ。ある傭兵の名前が刻まれている。ある女傭兵が少女と共に押し付けてきたもの。
「アタシはもういらないから、アンタにあげるわ」