先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
テラ歴108■年、ホワイトバーチの森。
日が暮れた森の中、スヴェルドフレムは二つの気配を感じ取った。
静かに、だが確実に間合いを詰めてくる二つの影。
一人は、まだ幼さの残る傭兵の少年。
もう一人もまた幼さの残る少女――だが、よく目を凝らせば、その外見は少年と同じサルカズに偽装されていることに気づいた。
「……異族とサルカズが組むとはな」
低く呟き、スヴェルドフレムはわずかに身構えた。
わずかに踏み込んだ少年の刃。
初撃は甘い――だが、勢いに任せた力には侮れぬ鋭さがあった。それは若さであり甘さであり、傭兵歴が浅いと判断したスヴェルドフレムは、引くことなく受け止めた。
不意に、肌を刺すような違和感を感じ取る。
肌で感じた感覚から、アーツを使われている事に気づき――不快感を覚えるままに少女を一瞥した。
「*サルカズスラング*」
だが少女にのみ意識を向けるだけでなく、少年の動きもまた見逃さず対応する。
軽やかな体捌きで迫る少年の刃を紙一重でいなし、少年の手首にわずかな圧をかける。
「ぐっ……!」
動きの軸を乱された少年は、そのまま体勢を崩し、膝をついた。
「■■■■!」
少女が少年のものらしい名を呼び――同時にその隙を突くように、少女が滑るような速さで間合いに飛び込んでくる。
小柄な身体。外見は少年と同じだが、スヴェルドフレムは察した。
――……未熟な偽装で、サルカズの目を欺けると思ったか? キャプリニーの少女よ。
心中でだけ呟き、スヴェルドフレムは重心をわずかに後ろに引いた。
少女の短剣が風を裂く。
それを読んでいたかのように、スヴェルドフレムは指先ひとつ動かすだけで、少女の手首を払った。
衝撃を殺し、骨を折らず、ただ武器を弾き飛ばす絶妙な力加減。
「武器を失った貴様は、どうする……」
次の瞬間、少女は体術に切り替えてきた。
スヴェルドフレムはその動きに、遠い過去の光景を重ねた。
かつて、意表を突かれ負った傷。
この荒野では、時に少年少女の命を刈り取らねばならない判断を往々にして迫られる。
刹那の躊躇いが、今度は自身や仲間の命を奪うことを知っているからだ。
故に――スヴェルドフレムはためらわない。
少女の蹴り足をすくい、流れるような体捌きで彼女を地面に転がした。発動させたアーツによる置き土産を残して。
同時に、少年が立ち上がりかけた動きを見逃さず、地を這うように踏み込み、刃の間合いに入った。
少年の喉元すれすれで止まる剣先。
そこに込めたのは、殺意ではなく――警告。
「動くな。……まだ、生かす選択肢は残っている」
スヴェルドフレムは静かに言った。
少年の喉元に、冷たい刃が突きつけられる。
スヴェルドフレムの手は微動だにせず、剣先は少年の皮膚をかすめるほどの距離で静止していた。
背後で倒れている少女もまた、スヴェルドフレムのアーツを感じ取ったのか、動かずにいた。
「次の一手は、お前の選択次第だ」
声色には、感情の波が一切感じられなかった。
それはスヴェルドフレムが過去の数え切れない戦場で培った、冷酷な判断力を匂わせた。
少年が視線を少女へと向け――、アーツによる置き土産を認識したと同時に、スヴェルドフレムは続けた。
「お前の仲間――あの少女だが、お前がこの場で無謀な行動を取れば、俺はアーツを発動し彼女の首元を爆裂させるだろう」
一瞬、空気が凍りついた。
少年の瞳に恐怖と怒りが交錯する。
「だが、戦闘をやめれば、アーツは解除する。選べ。死ぬか、生きるか」
スヴェルドフレムの言葉は、まるで判決を下す裁判官のように冷徹だった。
スヴェルドフレムにはこれまでの転生で積み上げてきた、かつての戦場での経験が刻み込まれている。
意表を突かれて負った傷、仲間の死、そして、やむを得ず少年少女の命を奪った過去。
ただの傭兵ならば、さっさと始末しているところだが――これもスヴェルドフレムの甘さだった。
長い沈黙を経て、それは下された。
やがて少年の手が震え――彼はナイフを下ろし、静かに頷いた。
スヴェルドフレムは剣を引いた。
「賢明な判断だ。次もその幸運が訪れることを祈ると良い、幼き同胞よ」
…………
……
まだ私が「■■■」と呼ばれるようになる前、ホワイトバーチの森でヘドリーに出会った。
同じ年頃のサルカズの少年が、森でやむなく手を汚したキャプリニーの少女に、気まぐれに手を差し出してから数年と経っていない頃。
私がヘドリーと行動するようになってから、傭兵を始めて数年も経っていなかった。
私は異族がカズデルで生きる為に、キャプリニーの角を削り、サルカズに偽装した。
と言っても、彼らには私の偽装は直ぐにバレてしまう。
私がサルカズを見ても分かるように、彼らも私を見てもすぐに分かるのだろう。
私はサルカズに擬態する、変わり者のキャプリニーの女。
ヘドリーと出会ってからサルカズ傭兵に混じり、カズデルの傭兵として生きていた。
そんな時、ホワイトバーチの森に再び踏み込むことになった。
ある傭兵団の団員の暗殺。
目の前に現れた、長身の男。
重い空気を纏い、まるで一切の隙を見せていなかった。
私たちに渡された依頼書には、確かにこの近辺を通る標的の特徴が書かれていた――そしてその条件は合致していた。
ヘドリーと目配せを交わし、私たちは無言で攻撃に移った。
まずはヘドリーが、滑るような動きで間合いを詰めた。
私はそれに続き、短剣を逆手に持ち、横合いから襲いかかる――はずだった。
だが。
ひっそりとアーツを放ち、男の影へと触れ感情を読み取ろうと伸ばした刹那――。
ゾクリ、と肌が粟立つ感覚。
男の目が――私のアーツを通じ、冷徹な殺意に満ちた感情が流れ込んできた。
――それは冷静で、冷徹で、冷酷な、無機質ささえ覚える――黒い殺意。
あの男は優先順位を見定めていた。奇襲に焦ることなく、私たちの実力を測り、より効率的な殺し方を模索しているのだと理解した。
私のアーツは具体的な感情は読み取れない。
だが、この感情を以前にも感じ取ったことがある――暗殺依頼を請け負った暗殺者と対峙した時だった。
気付けば、容易くいなされた私の首に、アーツによる産物だろう炎の様に揺らめく蝶が止まっていた。
全く見えなかった。
間合いも、間の取り方も、次元が違った。
「動くな。動けば――」
冷たい声が耳を打つ。
私の心臓が跳ね上がった。
やっと気付いた。
私たちは、狙うべき獲物を間違えた――自身の勘違いに。私たちは狩人ではない――追われる獲物なのだと。
この男は、私たちが追うべき標的じゃない。
私たちは、ドラコの尾を踏んでしまったのだと。
格が違う。
「選べ。死ぬか、生きるか」
まるで感情のない声だった。
呼吸一つ間違えれば、ヘドリーも、私も死ぬ。
ヘドリーは、剣を手放した。
刃が地面に転がる、乾いた音だけが響く。
男は、一瞬だけヘドリーを見下ろし、無言で剣を引いた。
「賢明な判断だ」
言い捨てると、彼は背を向け、森の奥へと姿を消していった。
振り返りもしなかった。
私たちは、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
あの日以来、私は思う。
――私たちは生かされたのだと。
けど、まさかその後――あの男と再会した話をヘドリーから聞いた時は、生きた心地がしなかったのは別の話だ。
蝶のように見えるアーツによる生成物は、火の粉のように舞い、周囲を巻き込むように爆裂します。
操作できる爆発物みたいなもんです。
欠点はめっちゃ目立つし爆発した時の音もすごいし、味方を巻き込みかねないことです。
主人公くんはいざとなったら○すのも仕方ないと思い抵抗されたら普通にやってました。
蝶のような形にしてるのは昔々に我が子が喜んでくれたからです。
主人公くんはカズデル侵攻前の百年前くらいに異族の襲撃で妻と長男を失ってます。襲撃相手は皆◯しにしました。
主人公くんとしては異族は基本嫌いですが、ここ数百年で歩み寄りは必要だという考えに変わりました。
それを理解しているので、憎しみを表に出すことはあまりないです。
異族であっても個人とは良い関係を築ける、築く事もできます。
異族、中でも子供に関してはわりと甘いので成人前、幼さの残る年齢なら場合によっては敵であっても見逃したりします。