先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
プリとドクターの出会いの時系列は原作の展開次第では全然違う可能性あるかもしれませんが、取り敢えずこの作品ではこの方向性で行きます。
旧き者の目覚め
テレジアへ
そちらの都市で起きていることは私も耳にした。君の喪失感は身にしみてわかる。カズデルは我々にとって特別な意味を持つ場所だからな。
しかしバベルが根なし草のように荒野をさまよう必要はない。君に以前話したあの船をレム・ビリトンで見つけてある。
発掘作業は順調に進み、二年の修復作業を経て、船は基本的な機能を回復するに至った。
今後、これはバベルの希望を乗せて航行を続ける。
私の帰還を待っていてくれ、テレジア。
追伸:船内で例のものを見つけた。確かにあった。
これはこの世界を覆すに足る遺産だ。君たちが生きるこの世界を。
だからこそ、君と話し合う義務があると私は考えている。
――ケルシー。
レム・ビリトンで発掘された舟――ロドス・アイランド号。
移動都市にも劣らぬ巨体に加えて、移動能力と設備を備えたその舟は、カズデルを離れたバベルにとって第二の拠点となった。
そのロドス本艦内部で、テレジアと再会したケルシーは――ある場所へと向かっていた。
「あの者は源石を最も理解する人物だ」
「源石により生まれる苦難を解決しようというのなら……」
「あの者が最も相応しい人選だろう」
「いや……すまない、テレジア」
「この件に関してだけは、どれだけ予備の対応策を用意していようとも確固たる自信を持つことはできない」
「 そして、今回私は……信じることを選ぶ」
ケルシーの手は、どれほどの歳月沈黙していたかもわからぬ扉にすでに触れていた。
ロドスは再び衝撃による震動を迎えた。
扉が、動く。
…………。
……。
源石は我々の文明が凝縮してできたビーコンとなる……。
――いつの日か、死した故郷に広い宇宙のどこからか他の生命体が訪れ、現状を打破する方法を探し求めたとき――
――彼らは目の当たりにするでしょう……。
我々が輝いたことを。
我々が抗ったことを。
我々がここに眠ることを。
我々が破滅を目前にして、後に続く者へと贈ったもの――。
――希望を。
…………。
……。
「(未知の言語)ここは……」
「(未知の言語)もう……その時が……訪れたのか?」
警告:未知なるエネルギーのアクティベートが検知されました。
警告:PRTSシステム権限への干渉を確認……。
警告:PRTSシステム権限が操作されてい――
PRTSシステム権限を再設定しました。管理者権限を確認しました。
「(未知の言語)テラ……」
「(未知の言語)これは……データベースに記録されていない……新たな言語?」
「(未知の言語)文明は……すでに……誕生した……?」
「(未知の言語)君は……」
ケルシーは石棺の中の人物と鋭い視線を交わした。
そして、テレジアはケルシーの緊張を感知した。
目覚めたばかりの人物は、石棺の中でごく短い夢を見ていただけであるかのような感覚を抱いた。
眠りにつく前に別れを告げた生命が、目覚めの瞬間もまた自分のそばで見守っていたのだから。
ケルシーは不安げに時を待った。彼女には確かめるべきものがあるのだ……
今しがた目覚めた彼女の希望に、恐ろしい変化が起こっていないかを。
「(未知の言語)ならば君は……すでに自らの生命の意味を見つけたのか?」
「ケルシー……」
「そちらの友人の体には、源石が予期せぬ形で存在しているだけでなく……」
「(未知の言語)彼女は……ああ、『文明の存続』も有している」
「(未知の言語)では名前……この者たちの文明においても、その存在を指し示す類いの呼称はあるのか?」
ケルシーがその名を告げた。
「テレジア」
「テ……レ……ジ……ア」
辿々しかった言葉は、テレジアの名前を呼び繰り返す頃には、流暢なものへと変わっていた。
驚きを見せるテレジアに、目覚めた者は記憶から学んだのだと告げる。
目覚めた者はテレジアの前まで歩み寄り、両手を差し伸べると、手の平を見せた。
「我らの世界は……すでに失われた。過去の言語は……過去に留まるべきだ」
「それよりも……君たちにとても興味がある。君は『文明の存続』に気づき……ひいてはそこに入り込んでいる」
「教えて……ほしい――」
「君たちの文明に関する、すべてを」
「そうすれば、ようやく自分の……過去の世界の手がかりを見つけられるかもしれない」
…………。
……。
件の目覚めから半月後、その知らせはスヴェルドフレムの耳にようやく届いた。
「■■■■ではなく、ドクターと名乗ったのか」
事の顛末を聞いたスヴェルドフレムは、そう言った。
スヴェルドフレムが――先史文明時代を生きていた■■■■が知る情報は少ない。
ドクター。
かつて先史文明時代は■■■■と呼ばれていた天才は、当時もその驚異的な頭脳を生かし、壮大な計画に加わる研究者達の期待を真に背負うリーダーでもあった。
最もそれは、目で見て取れるカリスマ性とは少し異なるものだ。
例えるなら暖かな暖炉のような――天才が持ちうる傲慢さや孤高な精神とは無縁に思える、人間的魅力を持っていた。
天才そのものと言える頭脳に対し、小市民的気安さを持っていた■■■■……ドクターは、あらゆる研究者から慕われていた。
あの女――典型的な天才であるプリースティスも、ドクターの元で接する内に、人間的魅力に興味を持つようになったらしい。
そうだ――ドクターとプリースティス。あの二人は、かつての壮大な計画の中心人物だったと言える。
私はただの一研究者に過ぎず、あくまでも外から見た印象でしか無いが。
「私は源石の造り主ではないが、ドクターの発言から考えるに、この融合は意図しないものだったようだな」
「……星々が虚空へと消えていく流れに、抗う為に私達は幾つもの計画を打ち立てた」
「あらゆる犠牲の末に起きた結末を、私は知り得ていない。私が見たのは、過ぎ去った残骸ばかりだ」
ドクターの近くには、大抵あの女がいた。典型的な天才であるあの女と、ドクターがなぜうまく接することができるのか――不思議だった。
そうしてドクターについて回想していると、ふと今朝の出来事を思い出した。
「ケルシー……奴には釘を刺されたな。殿下の力を警戒しているのか? 或いは……ドクターへ……何かしらの情報が流れることを……恐れていると?」
――彼との関わりを深めすぎることは、思わぬリスクを伴うことがある。だからこそ、最低限の距離を保つことを勧めよう。
――表面的な優れた一面だけを見て、深く関わりすぎることは、後々大きな影響を及ぼすかもしれない。それを理解しておいて欲しい。
ドクターとの再会を、心待ちにしていなかったと言えば嘘になる。
サルカズにとって、鉱石病に感染することは祝福であり呪いだ。
スヴェルドフレムの肉体は、既に鉱石病に感染している。体表の鉱石は背中に薄っすらと現れており、何時ぞや確認した時は、まるでサンクタの片翼の様になっていた。
前回のように末期の鉱石病ではないが、これまでの転生と同じように、やがて己の身体は源石と完全に融合し――来たるべき時に、然るべき処置がされなければ、源石の媒介者となるのだろう。
「叶うならば、魂の炉の薪になれると良いが」
源石――それはかつて先史文明の希望であり、この大地を覆い尽くす筈だったもの。
だが、テラの大地は源石に完全に呑み込まれることなく――呑まれながらも、テラの文明は存続している。
「天災は源石を媒介し、源石は鉱石病を通して情報を蓄え、俺達テラの人類の情報を記憶していく――」
「鉱石病という苦痛を与えながら」
故に――このテラの現状を、鉱石病の現状を、あの天才に尋ねたかったのだが……。
「奴が警告するほどではな。おまけに、巫術を介しての契約まで結ばされてしまった」
――これは『ドクターへの接触制限』だ。テレジアの護衛に徹することが私から貴方への要求だ。
――貴方に与えられた役割は、かの者との接触を制限し、今はテレジアの護衛に徹することだ。
「無駄な接触は避け、必要最低限の関わりに留めておくべきだ。いかなる理由があろうと、今はドクターの安全を最優先にしなければならない」
「外部との接触は、状況を悪化させる可能性がある。今は警戒を怠らず、冷静に任務を全うすることが求められている」
ケルシーはスヴェルドフレムがドクターへと与える影響を恐れている。それが一体どういった事情から来ているのかまでは分からないが、明言された以上、ドクターとの接触は控えるべきだ。
スヴェルドフレム側の監視を放つにしても、既にアスカロンがドクターの護衛として控えており、今も見張っているだろう事は察している。
不用意な動きはケルシーの……ひいてはテレジアの不信を呼ぶだろう。
テレジアとドクターの関係性がどう動くか予測できない現状では、「エルデル」としてもスヴェルドフレム個人としても容易に動くことはできない。
「ケルシー。ドクターはこのテラの大地を左右する鍵だ。……だが先史文明の生き残りが、本当にテラの人類に味方してくれるのか?」
スヴェルドフレムが契約を交わした後、そう尋ねた。
その問いにケルシーは逡巡した後、告げた。
「貴方のその問いに対する答えは、私が彼を信じているということに尽きる」
「彼は先史文明の生き残りであり、かつての人類を見てきた者だ。しかし、その心には変わらぬ善性と命への深い慈しみが宿っている」
「だからこそ、私は彼を目覚めさせた。彼の力が、今の文明にとって必要だと感じたからだ。それに、彼はその力を他者のために使うことを惜しまないだろう」
「私は信じている。彼の行動が、今の文明にとって大きな支えとなることを」