先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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主人公くんは混血サルカズですが、「比較的純血に近い混血」でもあるので炎魔の特徴が強くでています。
ただ「炎魔」の存在は知られていても、その姿を知る人は王庭の主かその一族、長生きなサルカズくらいなので、一般的には「少し変わったサルカズ」くらいの印象です。
両親共にサルカズですが、父親の種族の影響で尻尾は少し変わった形をしています。
ミトムくんの尻尾に似てますが別のサルカズ種族です。




「エルデル」の決断

 

 テレジアの臣下であるスヴェルドフレムが率いる組織「エルデル」。

 双子の魔王が対立した今、追放されたテレジア側であるスヴェルドフレムにとって、由々しき事態であった。

 このままカズデルに残れば、敵対する軍事委員会の監視――最悪の場合の粛清は免れないだろう。

 だがカズデルから完全な撤退をしてしまえば、この都市に生きる市井の人々の明日はどうなる?

 敵対するテレシス率いる軍事委員会は、カズデルを離れロンディニウムへと向かう準備を進めている。

 そしてスヴェルドフレム率いる組織「エルデル」が今尚監視の目だけに留まっているのは、テレシス殿下及び軍事委員会なりの温情だとも理解していた。

 大地の同胞を救うための活動を行うスヴェルドフレム率いる組織が存続している理由でもあった。

 

 それゆえ、スヴェルドフレムは今、苛烈な板挟みに立たされていた。

 

 テレジアへの忠誠は決して揺るがぬものであり、己が誇りでもあった。

 しかし、現実の前では誇りもまた、命取りになりかねない。

 テレシスの軍が今なお彼を、「エルデル」を完全に粛清しないのは、かつての“魔王の臣下”という名残ゆえか、あるいは、彼の組織が行ってきた人道的な活動に一定の評価を下しているからだろう。

 

 だがその均衡は、いつ崩れるか分からない。

 

 スヴェルドフレムは、部下たちと日々、市井に潜みながらも、都市の平穏を陰から支え続けていた。

 軍事委員会がロンディニウムへの派兵へと前向きな意向を示している今、外に敵を求めることで、内なる矛盾から目を逸らしている。

 だがその結果、市井の人々への支援は後回しにされ、貧困は街角に影を落としていた。カズデルに残る人々は、日々の糧を得ることにも苦しんでいる。

 ここで完全に手を引けば、ただでさえ不安定な秩序は音を立てて崩れるだろう。

 ましてや、派兵の準備に勤しむ軍事委員会の空白を利用して悪意ある勢力が入り込むことになれば、カズデルの民草は真っ先にその犠牲になる。

 

 組織の存続は危うい。活動の自由も限られる。

 しかし、それでも。

 スヴェルドフレムの選択は明快だった。

 

 スヴェルドフレムは都市を捨てなかった。

 テレジアの理想に殉じながらも、テレシスによる制圧の只中で、彼は“未来の種火”を守るという選択を取ったのだ。

 

 それは、剣ではなく“誓い”による戦い。

 

 故に、スヴェルドフレムは苦渋の決断を下した。

 組織の中枢、すなわち戦力・情報・資金運用に関わる主要メンバーたちは、粛清の危険を回避すべくクルビアへと撤退させた。

 彼らは今後、国外からの支援活動と情報収集に専念することになる。

 

 一方で、カズデルに残ることを望んだ者――この地に根を張り、家族や仲間と共に暮らしてきた者たち、あるいは都市の崩壊を座視できぬと覚悟を決めた志士たち――は、現地協力者たちと共に都市に留まることを許可した。

 彼らはあくまで“非戦闘組織”として、都市の医療、食料供給、治安維持に当たることになる。

 敵対ではない。ただし、己の矜持と民の明日のために剣を抜く覚悟は常に秘めていた。

 

「お前たちは“希望”だ。だがその火を絶やすな。炎を育てるのは、ここではなく、いずれ来る“その時”だ……」

 

 静かに、だが確かに、スヴェルドフレムの組織は“潜伏”という形で残された。

 都市を見捨てず、理想を掲げつつも、現実に抗うことも辞さぬ覚悟をもって。

 

 それはかつてスヴェルドフレムが捧げた誓い――テレジアの剣としてではなく、「目に映る同胞をより多く救うこと」だった。

 

 最も、その“非戦闘組織”という詭弁が、いつまで通用するかは定かではない。

 軍事委員会が現状を「潜在的反乱分子」と見なせば、その寛容は一瞬で終わる。

 特にテレジア派と明言はされずとも、スヴェルドフレムという存在が組織として認識されている限り、彼に忠を誓う者たちの思想もまた疑われるのは避けられない。

 

 彼らの医療物資や食糧供給が監視対象となるのは時間の問題であり、その一挙手一投足に「兵站活動」の疑いをかけられれば、理由はどうあれ、軍事委員会は“敵対組織”として粛清に動くだろう。

 

「正しき道を掲げようとも、歴史は常に力によって塗り潰される。だが、力を持たぬ者にしかできない闘いもある……それを信じて進むしかない」

 

 それは賭けであり、理想の綱渡りだった。

 だが、彼らが賭けるに足る価値がこの地にあると信じたがゆえに――。

 スヴェルドフレムはあえて、沈黙した。

 

 そしてスヴェルドフレム自身もまた、静かに――しかし確固たる意志をもって、このカズデルから自らを「追放」する決断を下した。

 それは逃亡ではない。あくまで組織の生存を第一に考えた、冷徹で現実的な選択だった。

 

 軍事委員会と敵対関係にあるテレジアの忠臣――その名が、存在が、いかに組織の立場を危うくするかは、彼自身が誰よりも理解していた。

 彼がこの地に留まる限り、いずれ「非武装組織」の仮面ははがされ、関係者すべてが「敵対組織」として処理される未来は避けられない。

 

 だが完全に断ち切ったわけではない。

 連絡経路は今も生きており、必要な支援や情報の共有は可能な体制が整っている。

 

 ただし、それはあくまで平時の話であり――万が一、緊急事態が発生した際にスヴェルドフレム自身が駆けつけることは、事実上不可能に近い。

 彼が姿を現した瞬間、それは即ち「組織がテレジア派の指揮下にある」証明となり、粛清の口実を敵に与えるに等しいからだ。

 

「“守る”とは、刃を振るうことばかりではない。己の存在が火種となるならば、消えることもまた――、一つの矜持だ」

 

 そう呟き、「エルデル」メンバーを率いるスヴェルドフレムは、決して振り返ることなく、カズデルの境界を越えた。

 

 ――テラ歴1091年、魔王テレジア追放。

 同時期、「エルデル」もまたカズデルからの事実上の撤退を余儀なくされたのだった――。

 

 

 

 

 

「……スヴェルドフレム。あの時、あなたが口を噤み、ただ静かに私に頭を垂れた姿を、私は決して忘れない」

 

「それでもあなたは――己の信念に従い、私の傍に残ってくれた。私の剣であることに迷いはないと、その言葉の重さを、私は深く知っているわ」

 

「エルデルの者たちは……賢明な選択をしたわ。カズデルの地に残れば、彼らの志も、血も、無残に潰される。今は去るべき時。それが、いつか再び希望を紡ぐ礎になると、私は信じている」

 

「それでも……民を捨てず、病める都市を見捨てぬと残った者たちがいた」

「家族を、友を、誇りを抱きしめて、この地に骨を埋める覚悟を持った彼らを、私はその選択を誇りに思うわ」

 

「ならば、共に行きましょう。たとえ残された道が少なくても……それでも私は、歩みを止めない」

 

「あなたが傍にいてくれるならば、私はきっと、最後まで戦えるわ」

 

「エルデルの者たちにも、どうか伝えてちょうだい」

「『――魔王は、決してあなたたちを見捨てない』と」

 






☆おまけ話「サルカズ部族の言葉」

「*とあるサルカズ部族スラング*か? それとも*過激なサルカズ部族スラング*の方だったか、貴様らは」

 ボスが怒りを見せる時、敢えて相手の出身に合わせてスラングを言っているように感じる。
 サルカズのどんな辺鄙な部族出身だろうと、ピタリと当たりをつけて的確に相手の動揺を引き出す。
 その一言で、対象の表情は確実に変わる。
 驚愕、警戒、羞恥、そして怒り――。
 スヴェルドフレムは相手の出自を見抜く。
 それも、見下すためではない。"正確に、痛いところを突くため"だ。
 どれほど辺境の部族であろうと、どれほど忘れ去られた言い回しであろうと、ボスはまるでそこに生まれ育ったかのようにスラングを吐く。

 言葉の抑揚、呼吸の間。
 衣の織り目、装飾品の一部、武器の紋章、癖のある仕草、沈黙の質すら、ボスの観察眼には情報となる。

 そしてスヴェルドフレムは知っている。
 その一言が、どんな刃よりも深く心を裂くということを。
 戦場でも、交渉でも、裏切りの場でも、それは常に有効だ。どれだけ強がっていようと、どれだけ隠していようと、出自という根は誰にとっても避けられぬ弱点だ。
 それは異族にも発揮されるが、最も効力があるのはやはり同じサルカズを相手にした時だ。
 スヴェルドフレムはそれを操る。
 傲慢でも軽蔑でもない。あくまで冷徹な戦術として。
 その技術をボスが「正しく使う」限り、サルカズという複雑な民族のなかで、誰もボスに軽々しく口を利く奴なんざいねぇ。

 たまに、あの人はよく知らねぇサルカズ部族の言葉で、他の奴らと話し合ってることがあるんだ。
 カズデル以外でも、サルカズの一団と接触することはある。
 そう言った時は大抵ボスが表立って話し合ってんだが……。
 何言ってんのか、俺たちにはさっぱりだ。聞いたこともねぇ音の並びで、発音も舌が絡まりそうなくらい独特でな。
 でも、それが通じてるんだよ。しかも、相手の顔がみるみる変わっていくのが見て取れる。

 あれはたぶん……挨拶とか雑談じゃねぇ。
 交渉だ。懐柔だ。時には脅しだ。

 お偉方が使うような……古代サルカズ語でも、公式な言葉なんかでもねぇ、その土地で育った奴だけが知ってる本音の言葉だ。
 恐らく……部族の名誉とか、誇りとか、禁忌に触れるような……そんな会話だ。

 なにがすげぇって、たぶん本当に全部覚えてんだ、あの人。
 どこで誰と会ってきたのか、どれだけ資料を漁ったのか知らねぇけど、サルカズって種族の深淵まで、あの人の中に刻み込まれてる気がする。

 ……正直、あの姿を見るたびに思うんだ。
「ああ、俺たちが本気で怒らせちゃいけねぇ相手ってのは、ボスなんだろうな」ってな。

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