先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
「アーミヤ」
「あ……スヴェルドフレムさん」
ふと、一人で艦内を歩くアーミヤを見つけた。
用件を尋ねれば、テレジア殿下を探しているのだという。その手に抱える絵本には、『クイロンの遠征』と書かれていた。
夜も深くなり、殆どのバベル職員は眠りへと入っている。
どうやらこの小さなコータスの少女は、眠れないまま人寂しさに襲われたようだ。
夜ということで消灯時間になり、非常時用のわずかな明かりだけが、道の輪郭を浮かび上がらせていた。
まだ幼い少女にとって、全く違う顔を見せるこの廊下は恐ろしく感じるのだろう。
「テレジアさんに……読み聞かせの約束をしてもらったんです。でも……廊下が、暗くて……その……」
「……なるほど」
「不安なら、俺が側について居よう」
スヴェルドフレムは手を差し出し、握られたアーミヤの手の小ささに驚いた。
同時に、昔日の記憶がふと頭をよぎる。子ども特有の高い体温、小さな体躯。手の柔らかさ――闘いを知らない、まだ無垢な手。
スヴェルドフレムが――前回の生で喪った、幼い温もりを思い出した。
「……」
「スヴェルドフレムさん?」
首を傾げるアーミヤに、何でもないと告げ、子供の歩幅に合わせて歩みを進める。
いつか、この温もりが失われる時は来るのだろうか。
この少女が闘いを知り、戦場に立つ日もまた来るのだろうか。
「そう慌てなくても良い、アーミヤ。子供の足に合わせることは慣れているからな」
「あっ……は、はい!」
いつか迎えるかもしれない少女の運命をスヴェルドフレムは思考する。
とはいえ、大人が子供に願うことなど一つしかない。
健やかに育ってほしい。
それだけだ。
アーミヤはスヴェルドフレムの子供ではないが、バベルの皆に可愛がられている。
今はただ、この幼い少女を守るだけだ。
両親を失い、拾われたこの異族の少女は、異種族だらけのこの船でも明るく過ごせている。
この少女が、やがて皆の希望となるのはいい。
だが、その道が孤高の果てに孤独を伴うものであってはならない――スヴェルドフレムはそう思った。
まだ幼いその背には、背負うべき責務も、責任もない。
誰かに守られ、微笑み、泣くことを許される時間があっていいはずだ。
いつか、この小さな背中にも重いものが課される日が来るかもしれない。
だとしても。今だけは、せめて今だけは。
この子がどうか“子供”のままで居られるように。
それが、過去に守れなかったものへの贖いであり、今を生きる者としての、スヴェルドフレムが選んだ覚悟だった。
いつかの昔日の記憶。
「狩りに行きたい? ……駄目だ。お前達はまだ幼い」
「そんな小さな手足では、オリジムシにすら集られるぞ」
「……荒野は恐ろしい猛獣も、危ない輩も彷徨く危険な場所だ。立派な兵士を目指すのは良いことだが」
「もう少し大きくなってから――そうだな、俺の腰くらいにはデカくなってからだ」
「ん? ああ……それはだな、■■■■の……母さんの手料理を毎日食ってたらデカくなったんだ。お前達も大きくなりたかったら、苦手な野菜も食べれるようにならないとな」
「母さんからも言われているだろう?」
「……ふっ、そんなに拗ねるな。何も、狩りには行くなと言いたいわけじゃない」
「お前達だけでは危ないからな。俺がついていくと言えば、母さんも許してくれるさ」
「あとで……母さんには俺からも言っておこう」
「■■■■には苦労ばかりかけているからな」
「ほら、ちょうど母さんが呼んでるぞ? 行っておいで」
普段そんな顔を見せない子持ちキャラが「親」としての顔を見せるのが癖です。
主人公くんと奥さんとの出会いは、荒野で異族に追われている所を見かけた主人公くんが助けたのがきっかけです。
旅の護衛として雇われて旅を続けるうちに夫婦になりました。
奥さんの死後、その遺品をバンシーの谷に納めたので今も残ってます。