先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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バベル――その名は先史文明においてよく知られた神話に登場する塔の名前でもある。なぜケルシーは、その名前をつけたのだろうか。




ドクターへの信頼

 

スヴェルドフレム仕える魔王テレジアと双子たるテレシスの対立はやがて内乱へと発展した。

双子の魔王が袂を分かったあの日から、カズデルの空は変わった。

 

かつて共に未来を語り、サルカズの明日を夢見た双生の魔王は、いまや一方が理想を掲げ、一方が武力で互いに刃を交えている。

 

――テレジアと、テレシス。

 

どちらの「殿下」に忠誠を誓うか。その選択はすべてのサルカズに、そしてあらゆる傭兵団に迫られた。

カズデルのあらゆる傭兵は、どちらの殿下に……どちらの理想につくかを迫られた。

テレジア率いる組織バベルとテレシス率いる軍事委員会の戦争もまた激化の一途を辿っていた。

カズデルはもはや、かつてのような一枚岩ではなかった。

テレジア率いる組織バベルと、テレシスが掌握した軍事委員会との内戦は日ごとに激化し、カズデルの地に再び血が流れた。

 

そんな中で、スヴェルドフレムは己の組織――エルデルを率いて、本拠地をカズデルから遠く離れたクルビアへと移していた。

表向きは「中立」。だが、誰もが知っている。彼は魔王テレジアに仕える者であり、その忠誠は決して浅いものではないと。

スヴェルドフレム率いる組織エルデルがクルビアへと本拠地を移し数年。

ドクターが目覚め、バベルへと加わってから四年でもある。

彼の名は、今や多くの者の口に上るようになった。

だが、スヴェルドフレムは、はるか昔から知っていた――

あの男がいかなる存在であるのかを。

 

「……ドクターか。ケルシーが告げた通り、奴の生命への慈しみは確かなものだった」

 

ドクターの慈愛は先史文明の同胞だけでなく、このテラの人類にも向けられているようだった。

確かに、奴は天才と言うにはあまりにも情が深い。

全く異なる種族である今の人類にも情をだくほどに。

ケルシーの言葉を、彼は信じていないわけではなかった。

ドクターの生命への眼差しは、確かに温かく、強く――優しすぎるほどだった。

今のテラの人類にも、種を越えて情を抱くことができる。

その慈愛は、もはや“同胞”という範疇をも超えていた。

だが、奴は――かつての先史文明のあの計画を作り上げた一人でもある。

そして、ドクターは――今のテラを作り上げた源石の創成者だった。

本当に、奴は過去を断ち切れたのか?

古き人類を諦め、今の世界を受け入れることができたのか?

本当にドクターが、かつての人類を諦め、今の人類へのみ目を向けることが出来るのか?

 

ケルシーは、奴を信じた。

ドクターの「従者」として生まれ、幾世代を経てもなお彼を見守る存在。

その信頼に、偽りはなかっただろう。

 

弟子の一人であるアスカロンは、駄獣に振り落とされ生命の飛沫を知った間抜けなドクターの姿を信じた。

 

主たるテレジア殿下は、ドクターの明晰さを、慈悲深さを、そしてあの理想を信じ、共に歩む道を信じた。

 

ならば、俺もまた……やつを信じるべきなのか?

 

スヴェルドフレムは目を閉じた。

その問いには、まだ答えを持っていなかった。

心に宿る、信頼と懐疑の狭間で揺れる灯火は、まだ消えてはいなかった。

 

 

 

 







――カズデル地区、国境付近。

「私の質問に答えるか、ここで死ぬか、選べ。」
――質問に答えよう。
「お前はバベルを裏切ったのか?」
――そもそもバベルに属してなどいない。しかし彼らのための奮闘を放棄するつもりもない。
「なぜ私に会いに来た?」
――求めるものがあるから。
「私は名もなき輩には付き合わぬ……悪霊よ」

そこで行われた交渉の末を知る者はこの場の二人のみ。

「……ならばよい。負い目など感じず、お前の決めたことを成せ」
「高みにいる悪霊を制裁する者がいないことが心配なのであれば、私がお前の罪を裁こう」
――サルカズの運命をもてあそぶ者がいなくなる、その時まで。


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