先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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テラ歴1094年〜:バベル「カズデル奪還作戦」
作戦開始


 

 キャベンディッシュ公爵が突きつけた派兵の期限が刻一刻と迫る中、テレシスは着実に手を打っていた。  

 ロンディニウムの工業区画の使用権、そして国境の通行権を勝ち取った彼は、ついに動き出す。

 軍事委員会の軍勢と、鋼の意志を宿したサルカズ傭兵たちを率い、テレシスはヴィクトリアの地を目指した。

 あくまで冷静に、だがその瞳には、決して後戻りのない覚悟が宿っていた。

 

 

 

 

 

 テラ歴1094年――カズデル地区、「バベル」ロドス号本艦にて。

 本作戦の指揮官たるドクターによる、「カズデル奪還作戦」の演説が行われていた。

 

「ドクター、精鋭戦力はすでにそれぞれ要所へと配置についた」

 

「各位、我々と軍事委員会の軍事力には確かに差がある。移動都市カズデルに対する包囲攻撃は、本来不可能な作戦であった」

 

「しかし、テレシスはキャヴェンディッシュ公爵が突き付けた最後通牒に逆らうことはできず、予定を繰り上げてロンディニウムへと急行した」

 

「現在のカズデルは軍事委員会の一部王庭メンバーのみで指揮している状態にある。言い換えれば、彼はこの都市を放棄したようなものだ」

 

「それにより、移動都市の人々と留守を預かる兵士には、間違いなく混乱がもたらされていることだろう。

 

「軍事委員会の旗が降ろされたその瞬間――テレジア殿下は軍事委員会がカズデルを放棄したという事実、そしてバベルによるカズデルの解放を宣言する」

 

「テレジア殿下には本艦を守っていただく。また、本艦護衛に足る戦力も残してあり、その指揮は自分が執る」

 

「各位がカズデルの門を押し開き、溶炉への安全なルートを確保した後に、殿下は迅速に主要作戦部隊と合流を図る」

 

「奇襲の制限時間は六時間。それを超えてしまえば軍事委員会に反撃する機会を与えることとなり、脆弱なバベルは危険にさらされるだろう」

 

「夕日がカズデルにそびえる溶炉を照らす時、我らは炉と議事堂を占領し、ほどなくしてバベルの旗が月と共に揚がる」

 

「その時――」

 

「――停戦の宣言がカズデル全域に響き渡るだろう」

「各位の成功を信じている」

 

 

 

「素晴らしい演説だったわ、ドクター」

 無事に演説を終えたドクター。

 その傍らへと立ったテレジアは、ドクターへ労りの言葉をかけた。

「だが今のは士気を高めるための聞こえのいい演説でしかない。歴戦の戦士やケルシーであればきっと気づいているだろう」

「恐らくバベルの損失は甚大なものとなってしまう」

 疲労が滲んだ声音で応えるドクターに、テレジアは何気なく告げる。

「……テレシスがこれほど大きな隙を見せるなんて、彼らしくないわ」

 ふと告げたテレジアの言葉に、飲料を持ったドクターの手が……瞬き程の間、僅かに揺れた。

「……だけどあなたを信じる。この代償を払えば、私たちはきっとカズデルを奪還できるって」

 その言葉にドクターは言葉をこぼす。

「……この大地に二つのカズデルが共存する可能性はないのか?」

「あるかもしれないわね。けれど一つの力を二つに分けてしまえば、次の外敵の襲撃を防げなくなってしまうかもしれない」

「それに、都市なら再建できるけど、サルカズが数千年もの間、本当の意味で成し遂げられていないのは団結することなのよ」

「軍事委員会でさえ、最後まで現存するすべての王庭を招集することは叶わなかった」

 ドクターがバイザー越しにテレジアを見つめた。

「……」

「もしかしてあなたは、テレシスに王冠を掲げさせれば、何か変わるかもしれないと考えているの?」

 僅かに驚愕を含んだテレジアの言葉を、ドクターは否定した。

「……そんなことはない」

「戦争に嫌気が差して、ただ腹を満たすことだけを求めて各地より集ったサルカズたちは、やはり団結して自分たちの『魔王』に抗うだろう」

「『団結』とは、なんとシンプルでいて、想像の及ばない言葉だろうか」

 

「……そうね」

「勝利の後、あなたにあの都市を案内させて」

「あそこは私の家であり、多くのバベルの仲間たちの……そしてケルシーの家でもあるんだから」

「これだけ長くバベルのために戦ってくれたあなたが、一度も私たちの語る故郷に足を踏み入れたことがないなんて、なんだか私が意地悪をしているみたいね」

 

「魂の溶炉がカズデルにもたらす光と熱を見届けましょう。あの都市は苦痛の上に成り立っているけれど、私たちは平穏な明日を貪欲に望んでいるのよ」

 そのテレジアの言葉に、ドクターは答えた。

「……わかった」

 






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