先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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 チェルノボーグに乗り込む前にエルデルメンバー達は一般的なサルカズ傭兵団の格好してます。



傲慢な炎と罰する炎

 

 混乱するロドス一行を前に、ウルサス憲兵団の隊長が前に出る。

 厚い軍服の裾を払い、短く吐き捨てるように言った。

 

「事情は知らないが、ここで起きていることは――貴様らには関係ない」

 

 その声音は鋭かった。だが、そこにあるのは無用な敵意ではない。

 隊長の瞳には軍人としての矜持と、先ほど助けられた恩義の色が揺れていた。

 

「我々はこの持ち場を守る。だから――お前たちは去れ」

 

 アーミヤは一瞬迷ったが、すぐに深く頭を下げる。

 彼女はドーベルマンらと合流地点へと急いだ。

 

 残された憲兵隊の前に、霧を裂いて現れた影が一つ。

 レユニオン幹部。

 その歩みには恐れも逡巡も無く、鋭く光る双眸が兵たちを射抜いた。

 

「……チェルノボーグ人が」

 

 吐き捨てるような冷たい声。

 それを合図にするかのように、再び戦端が開かれた。

 

 

 

 ――その光景を遠巻きに見ていた影があった。

 

 白霧を背景に交錯する戦場を眺め、彼は小さく呟いた。

 

「烏合の衆ではないな。憲兵ども、よく持ちこたえている……」

 興味深そうに目を細める。

 

「さて、助力してみるか? ……あれに我らを"魔族"と罵る意識さえなければ、だが」

 

 その声音は軽く、しかし確かに、状況を秤にかける者の冷静さを孕んでいた。

 

 

  ◇

 

 

 殺気が、肌を刺すように漂った。

 クラウンスレイヤーは本能に従い、わずかに体をずらす。

 

 ――その瞬間。

 

 アーツが、紙一重の距離で布地を焦がし、焦げる匂いが立ち上った。

 熱風が頬をかすめ、反射的に一歩後退する。

 

 目の前の敵は、まだ動きを緩めない。刹那の判断と直感が、今、この戦場の生死を分けた。

 だがその姿を目にした瞬間、クラウンスレイヤーは思わず呟いた。

 

「サルカズだと……?」

 

 声が思わず漏れた。確かに、この戦場には数多のサルカズ傭兵団が居座っている。

 だが、そのほとんどは何らかの組織に従軍しており、フリーの傭兵団など存在するはずもない……筈だった。

 

「お前達……新手のサルカズ傭兵団か」

 

 視線の先、規律ある動きと鋭い眼光。――連中は異質なサルカズたちだった。

 その存在感が、周囲の戦場の空気を微かに揺らす。

 

 一人ではない。集団だ――しかも、組織の規律を持って連携しているサルカズたち。

 

 アーツが飛び交う中、クラウンスレイヤーはその練度の高さに背筋を凍らせた。憲兵団の兵士たちもまた、他の傭兵団とは異なるサルカズ達に驚きを見せた。

 

 同時に状況を把握しかねていた憲兵団は、戦闘の最中に救われたことを理解した。応戦しつつも、感謝の意を表す声が上がる。

 

 サルカズと呼ばれる彼らに対し、憲兵団の口から「魔族」などという言葉は一切出なかった。ただ、冷淡に、しかし的確に敵を制する彼らを見ての敬意がそこにはあった。

 

 スヴェルドフレムはその様子を見届け、口角をわずかに上げる。

「見る目はあるようだな。……助力して正解だったか」

 

 憲兵隊の必死の抵抗と、エルデルの助力もあってか、クラウンスレイヤー率いるレユニオン部隊は、一時撤退を余儀なくされた。

 

「お前達サルカズがどこの一員かは知らないが――我々はお前達を脅威として覚えておく」

 

 その言葉が残るや否や、姿を現した時と同様、濃い霧に包まれたかと思えば、彼らの姿は跡形もなく消えていた。

 

 戦場に静寂が戻る。煙が晴れた先で、――スヴェルドフレムは、憲兵隊の隊長に問いかける。

「……を見かけなかったか?」

 

 憲兵隊は即答はせず、だが戦闘の中で見かけた小さな光景を伝える。小兎のような姿のコータスの少女が、奇妙な一団を率いて移動していた――と。

 

 スヴェルドフレムは頷き、静かにその情報を胸に刻む。次に備えるべき方角を、すでに頭の中で描き始めていた。

 

 

  ◇

 

 

 広場に辿り着いたロドス一行を、炎に包まれた存在が待ち受けていた。

レユニオンのリーダー――暴君タルラ。

 

 彼女の瞳は冷たく、放たれる炎のアーツが周囲の地面を焦がす。

「屈伏せよ……!」

 

 Aceはドーベルマンとニアールを見やり、低く指示を出した。

「ここは俺たちに任せろ。先に行け。すぐに追いつく――いつもの言葉通りにな」

 

 その声には、揺るがぬ信頼と覚悟が込められていた。

 アーミヤは頷き、ドーベルマンとニアールはその場を後にする。炎の渦の中、残されたAceと小隊は、強敵タルラに立ち向かう覚悟を新たにした。

 

  ◇

 

 今や街の半分は焼け落ち、この広場も火の海と化していた。炎は空気を揺らし、鉄も融けるほどの熱気が辺りを覆っている。

 

 それでもタルラは、立ち塞がるAceと小隊を前に微かに笑みを浮かべた。

「大したものだ……」

 

 その声には、単なる賞賛以上のものが込められていた。炎に包まれた広場の中で、彼女は敵の強さを認めつつも、その力を自らの意志で押し潰そうとする覚悟を決めた。

 タルラの炎がAceの片腕を黒く焦がし尽くし、彼を飲み込まんとするその刹那。

 突如として異なる奔流の炎が立ち塞がった。炎の奔流は渦巻き、タルラの攻撃を拒み、空気を震わせた。

 

 煙と熱の中から姿を現したのは、スヴェルドフレム――獰猛な炎魔を思わせる笑みを浮かべて。

「傲慢なドラコの炎らしいな」

 

 その声に、ただの脅威以上の意味が込められている。次いで満身創痍なAceへと視線を向けた。

 冷徹でありながら、どこか懐かしさを漂わせる響き。

「……これは私のきまぐれだ。かつての協力者の誼としてな」

 息をするだけで焼き尽くされそうな灼熱の中、崩れそうな体を無理やり支えながらAceは、ふっと笑みをこぼした。

 片腕を失い、痛みで全身が軋むようでも、その瞳には不屈の光が宿っている。

「はは……やれやれ、悪くないな、こんな熱い戦いも」

 

 炎の奔流を前にしてもなお、彼の笑みは恐怖ではなく、仲間への信頼と覚悟の証のように見えた。

 スヴェルドフレムの獰猛な笑みと交錯し、戦場の熱気はさらに昂ぶり、焦土の広場に新たな緊張をもたらす。

 

「貴様……周辺にはレユニオンの同胞達がいたはずだが」

 

 タルラの声は低く、そして冷ややかだった。

 広場の周囲ではエルデルのメンバーが、レユニオンの戦闘員たちと激しく交戦している。

 火花とアーツの奔流が交錯し、戦慄と灼熱に包まれていた。

 

 だが、リーダーたる彼の直感は迷わなかった。

 満身創痍で立ちすくむAceの姿を捉えた瞬間、スヴェルドフレムの瞳に感情の揺れが生じる。

 ロドスと袂を分かったエルデル――とはいえ、かつて共に戦った縁を思い、見捨てるという選択を捨てた。

 多少の打算もあるが、Ace個人の人柄を好ましく思っていた故でもある。

 

 炎と瓦礫が渦巻く広場へ、異なる炎を纏いながら歩を進める。

 灼熱の空気の中でも、スヴェルドフレムの存在は異様なまでに落ち着いていた。

 その一挙手一投足が、戦況の流れを微かに変えようとしていた。

 

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