先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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暴君と炎魔

 

 

 Aceたちが撤退していくのを視界の端で確認すると、スヴェルドフレムは肩を竦めるようにして、正面の「暴君」と向き直った。

 

「私を前にして余裕とはな、サルカズ」

 

 タルラの声は低く唸り、周囲を包む炎がさらに燃え盛る。

「サルカズ……。何者であれ、この街を燃やす私の邪魔をするのなら――」

 

 轟、と地を這う炎が広場全体を舐め尽くす。鉄骨が軋み、石畳が赤熱し、わずかに残っていた建物の影は一瞬で熱に呑み込まれた。

 その炎の只中に立つスヴェルドフレムは、唇を吊り上げる。

 

「傲慢だな、ドラコ。己が炎こそが世界を覆うと信じて疑わんとは」

 

 彼の掌に生じたのは、タルラの炎と異なる、獰猛に唸る悪炎。

「だが覚えておけ。炎には炎でしか抗えぬこともある」

 

 二つの炎が衝突する。轟音と共に衝撃波が走り、瓦礫は宙に舞い、火の粉が舞う。

 タルラの炎は荒れ狂う灼熱の奔流。

 スヴェルドフレムの炎は、まるで獣の咆哮のように質量を持ってぶつかり合う。

 

 互いの炎が互いを削り合い、広場の空は二分される。

 タルラの瞳に一瞬、驚愕が宿った。

 

「……貴様、その炎は……!」

「答えを求めるな、暴君。それを知っても、誰も信じはしない」

 

 スヴェルドフレムの笑みは、獰猛さと冷ややかさを同時に宿していた。

 

 ――Aceたちが離脱した後に残ったのは、ただ灼熱の地獄で繰り広げられる、炎と炎の死闘だった。

 

 広場を揺るがす。遠雷のような轟音と共に、空からは黒雲が裂け落ち、鈍い閃光が街を貫いた。――天災が迫る。

 

 スヴェルドフレムは燃え盛る炎の奔流をアーツで弾き飛ばすと、灼熱の空を仰ぎ見る。

「……時は尽きたな。ここに留まる理由はない」

 

 踵を返そうとしたその瞬間――タルラの炎が彼の行く手を遮るように滾った。火柱は壁となり、天へと伸び、街の残骸を赤く染め上げる。

 

「逃げるのか?」

 タルラの声は怒りに滲み、しかしその奥には確かな警戒の色が潜んでいた。

「その炎……お前は、なぜ私の前に現れる」

 

 スヴェルドフレムは炎壁の向こうに立つタルラを一瞥し、鼻で笑った。

「――その答えを知る資格が、貴様にあるものか」

 

 黒炎が唸りを上げ、壁を破ろうと突き進む。

 タルラもまた全力の炎を叩きつけ、広場はもはや地獄の坩堝と化した。

 

 轟音。閃光。崩落。

 天災の鉄槌が都市を砕き、逃げ惑う影が遠方に散る中――ただ二つの炎だけが、互いを焼き尽くさんとぶつかり続ける。

 

 だが、次第にタルラの炎に乱れが生じ始めた。

 天災の衝撃で地盤が崩れ、足場を奪われる。

 スヴェルドフレムはその隙を逃さず、炎を鋭く突き出した。

 

「道を開け。貴様に構っている時間はない」

 

 その一撃が壁を裂き、熱風が吹き荒れる。タルラは咄嗟に後退し、追撃を浴びる前に炎を収束させた。

 

「……*ウルサススラング*」

 

 苛立ちを滲ませながらも、タルラは引き下がる。天災の嵐が、すでに彼女自身の兵を呑み込み始めていた。

 

 タルラは苛立たしげにスヴェルドフレムを見遣る。

 

 天を裂くような轟音が響き渡った。

 広場の空が裂け、黒雲の中から降り注ぐのは、ウルサスを飲み込む厄災――天災の前触れ。

 

 吹き荒れる熱風にすら炎が混ざり、街が溶鉱炉のように灼熱へと変わっていく。

 それでもタルラは退かず、纏う炎をさらに滾らせた。

 燃え盛る赤の瞳が、対峙する男を射抜く。

 

「逃がすと思うか、サルカズ……!」

「違うな、ドラコ。これは逃走ではなく、生存の選択だ」

 

 スヴェルドフレムの爆炎が応じる。

 互いの炎が再び衝突し、光と熱の奔流が広場を呑み込む。

 建物は次々と崩落し、地面すら爛れていく。

 

 ――だが、両者ともに理解していた。

 このまま戦いを続ければ、いずれ天災そのものに飲み込まれることを。

 

 タルラは歯噛みする。彼女の炎が押し返されるわけではない。ただ、この場においては時間が敵だ。

 退けばロドスを追う手が鈍り、残ればこの街ごと埋葬される。

「……厄介な」

 タルラの声音には苛立ちと、一抹の動揺が混ざっていた。

 激闘の最中、降り注ぐ天災はレユニオンの兵士の命を奪い続けている。

 スヴェルドフレムは獰猛に口角を吊り上げる。

「このまま兵の信頼すらも失うつもりか? 暴君よ」

「……ちっ」

 火花を散らすように互いを睨み合ったまま、やがて双方の炎は徐々に引いていく。

 タルラは名残惜しげに、しかし理性の声に従って炎を散らした。

「――撤退だ」

 その背中を見送りながら、スヴェルドフレム率いるエルデルもまた天災の轟音を背にした。

 

 





「星砕きの英雄」
あるサルカズの戦士は、天より降り注いだ隕石をその炎で砕いた。
偉業の果て、彼は王宮に侍ることを許されたという。
英雄の名はもはや伝わらず。
しかし、迫害に喘ぐ同胞にとって、彼は今も拠り所である。

 ――――――

フロムのテキスト好きなんですけど、中々上手くいかないんですよね……凡人には難しすぎる。
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