先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
Wとの会話が描きやすすぎてつい書いてしまう。
荒れ果てた戦場を、Scoutはなお駆け抜ける。
その唇から零れるのは、散った仲間の名。
「……レイファ……ミミ……サムタック……」
「……マリー……ロングトーン……スリンカー……」
「……スコーピオン……ムラム……カクテル……ユラン……」
「……プータル……ソラナ……」
「すまない」
その声は次第に掠れ、血に濡れながらも彼は進む。
たとえ己の命が燃え尽きるとわかっていても。
だが、その行く先に立ちはだかる影があった。
隻眼のサルカズ傭兵の男が、大剣を背負って行く手を阻む。
「……お前をつけていた。イネス一人でお前の相手をするのは、荷が重いと思ってな」
Scoutは足を止め、荒い息を吐きながら目を細める。
「……ヘドリー……やはり……あんたか」
「取引条件はお前の命だ。それに慈悲を示すつもりはなかったが……」
「……それでも俺は、お前に生きて――いや……」
「もうこれ以上、チャンスを与えてやることはできない」
Scoutは嗤う。血に濡れた唇の端が吊り上がった。
「フッ……どうやら……今の隊長はWみたいだな……」
「……あんたは……最初から……」
ヘドリーは黙し、ただ剣を構える。
炎のような殺意を放ちながら、それでもその目には僅かな悲哀が宿っていた。
「……すまない。そろそろ休んでくれ、友よ」
Scoutは最後の力を振り絞って剣を握り、か細い声で呟く。
「あんたたちは……ここにいるべきじゃない……」
「……そんなこと、わかっている」
「最初からな」
二人の刃が火花を散らす。
だが力尽きかけたScoutに、その一撃を受け切る術はなかった。
Scoutから流れ出た鮮血が戦場を彩る――。
Scoutの胸中にあったのは、最後まで仲間たちの名。
逃げ切る道はあった。
彼一人であれば、きっと。
だが彼は――仲間の犠牲を背負い、その魂を無為に散らすことだけは拒んだ。
だからこそ中央を目指し、最期まで足を止めなかったのだ。
ヘドリーは友を一瞥し、離れた建物でうずくまる気配を察知した。
――しかし、あえて無視する。
「……」
ほんの僅かの間だけ視線を留めたのち、彼は踵を返した。
取引は果たされた。
それ以上の感傷も、理由も口にはしない。
ただ、犠牲を選んだ男の意思を、心の奥底に沈めて。
◇
戦闘の余韻。
瓦礫と煙の中に、かすれた笑い声が響いた。
「――へえ、なかなかやるじゃない。さすがドクターね」
Wは肩を竦め、砕け散った瓦礫を足先で蹴る。額には薄い血の筋が伝っていたが、その双眸は爛々とした光を宿している。
不意にWが目を細め、ふっと吐息をもらした。
「……あぁ。懐かしい感じがする。……ずっと前に、似た空気を嗅いだことがあるわ」
彼女の表情に、ほんの一瞬、怒りとも寂しさともつかない翳りが走る。
アーミヤは息を呑んだ。Wは、まるでアーミヤ自身を見透かすように視線を這わせる。
「そういうことか……なるほどね。アンタが――」
何かを理解したように呟き、そこで言葉を切った。
次の瞬間、背後のレユニオン兵に視線だけを向ける。
呆れたようなため息を吐いたレユニオン構成員が、指示を下す。
「……お前ら、繁華街まで撤退だ。あの連中は放っておけ」
「こっちは飽き飽きしてんのよ。このままグダグダ続けてたってつまんないもの」
苛烈な声音に、兵たちは顔を見合わせながら後退していった。
Wは小さく笑い、ロドスの二人に背を向けながら片手をひらひらと振る。
「――さて。次会う時を楽しみにしてるわ、アーミヤ」
「ああ、もちろん――そっちのあんたも、ね?」
ロドス一行を見送ったWは、ため息を吐いた。
静寂が戻った戦場で、Wは背後に視線を向ける。
「――もういいでしょ? 覗き見なんて趣味悪いと思わない?」
影からゆっくりと姿を現した。
琥珀と紅の二色が混じる瞳が、薄い笑みを浮かべるWをじっと射抜く。
「妙な言い方はやめろ、W」
「……お前の無軌道ぶりがどこまで続くのか、見届けてやっていただけだ」
スヴェルドフレムの言葉に、Wがはっと笑った。
「ふぅん? わざわざそんな言い訳……やっぱりあんたも“ドクターのお友達”ってわけ?」
挑発めいたWの声は軽やかだが、その瞳の奥には何か探るような光が宿っていた。
「エルデルのリーダー様が、ただの偵察なんて有り得ないわよね……」
スヴェルドフレムは応えず、ただ無言で立ったまま、ロドスが遠ざかっていった方向を見やる。
その横顔を眺めながら、Wは小さく笑った。
「あの子うさぎちゃんのこと、気にかけてるの?」
「……似てるわね。あの人と――」
言いかけて、低い声音がさえぎった。
「お前は好きに踊ると良い」
低く唸るように言ったスヴェルドフレムは、蛍光灯の残光のような瞳でWを見据えた。
「……相変わらず嫌な奴」
Wは手にした爆薬を弄びながら肩をすくめる。
「でも――あの子、うさぎちゃん。あれは本物だわ。アンタがどう思ってるかは知らないけど、あの子は……同じ匂いがする」
スヴェルドフレムの眉がわずかに動いた。だが口を開くことはない。
「……あーあ、やっぱり面白い。アンタみたいな奴がうさぎちゃんをどう見るのか、それだけで酒の肴になるわ」
「ま、いいや。あんたが何を企んでようと、あたしのやり方は変わらないし」
Wは薄暗い街灯の下に足を運び、振り返る。その瞳に宿る光は、愉快げでありながら、どこか遠い。
「なら好きにすればいいわ。あんたも、あたしも」
言い捨てると、Wは風に髪をなびかせ背を向けた。手をひらひらと振り、
「じゃ、またね。次はもっと楽しい花火を上げてあげるから」
「また会う時までに、せいぜい面白いサプライズを準備しておくと良いわ」
軽快な足取りで去っていくWの背を、スヴェルドフレムはしばらく無言で見送る。
やがてその巨躯もまた、静かに闇へと紛れ込んでいった。
◇
Ace小隊は辛くもスヴェルドフレムの介入によって戦場を離脱することに成功した。
背後ではなおも炎の咆哮が轟き、都市を焼き尽くす熱が追いすがる。
だが彼らはあの戦士の背を最後に見たとき――確かに「生き延びる希望」を得たのだ。
ロドス本隊と合流した瞬間、安堵が広がるはずだった。
しかし、待ち受けていたのはあまりに痛ましい現実だった。
「――Aceさん……その腕……!」
アーミヤが叫ぶ。
Aceの左腕は、腕の関節から先が存在しなかった。
タルラの業火に呑まれ、肉も骨も黒く炭化していた部分は――既に、切断されていた。
その切断痕はあまりに整っており、苦渋の決断を下した誰かの剣によって処置されたことは明らかだった。
炎に呑まれれば命ごと失われる。
ならば切り落とすしかなかったのだ。
どんな代償を支払おうとその命を繋ぐために。
Aceは痛みを隠すように、かすかに微笑む。
「大丈夫だ、アーミヤ……お前が生きていれば……俺たちの意味は、まだ消えてない」
小隊の面々は、血と煤にまみれながらも、小隊長の決断を支えるように無言で頷いた。
その姿は――英雄を支える兵士ではなく、仲間そのものだった。
戦場からの撤退は成功した。
だがそれは決して「完全な撤退」ではなかった。
Ace小隊十三名のうち、帰還できたのは八名。
残る五名は――炎に呑まれ、瓦礫に潰され、あるいは仲間の盾となって殉じた。
犠牲者はそれだけではない。
Scout小隊の十三名もまた、犠牲となった。
エリートオペレーターであるScout本人の不完全な遺体――他十二名の遺体が確認されたのだ。
報告を聞いたドーベルマンの表情は険しく、ニアールは拳を握りしめて唇を噛む。
アーミヤは、声を失った。
彼女の耳には、仲間の断末魔と燃え崩れる都市の轟音がまだ響いていた。
Aceは、自らの失われた腕を気にすることなく、淡々と告げる。
「……これが、現実だ。俺たちはここで命を賭けてでも……お前たちを守らなきゃならなかった」
彼の声は不思議なほど静かだった。
痛みや後悔ではなく、ただ「覚悟」だけが宿っている。
生還した八名の兵士たちは、失った仲間たちの名を胸に刻むように、無言でAceの背に続く。
その背は、失われた半数の仲間たちの「遺志」を背負ってなお、揺るぎなかった。
↓scoutとAceと主人公くんのバベル時代のやり取り
壁際に立つサルカズの男――スヴェルドフレムの姿に、Aceがゆっくりと近づいてきた。
装備を外し、肩を軽く回すと、彼は無造作に声をかける。
「……さっきの動き、見てたんだがな。あんたの剣、恐ろしく速いな。俺たちじゃ到底真似できそうにない」
スヴェルドフレムは視線をわずかに上げ、口元にかすかな笑みを浮かべた。
「誉め言葉として受け取っておこう。だが俺の刃は、殿下を護るためのものだ。技を競うためにあるわけではない」
Aceはうなずき、しばし黙ってから低く呟く。
「“誰かを護るため”か……俺も、そのためにここに立っているつもりだよ。仲間も、ドクターもな」
その言葉に、スヴェルドフレムの瞳がわずかに細められた。
彼の脳裏には、密かに抱く疑念がよぎる。
そして、かつての遠い文明の記憶も。
しかし彼は、その記憶を胸に沈め、ただ言葉を返した。
「……護るというのは、果てのない戦だ。必ずしも報われるものではない。だが、それを諦めないのなら……お前も俺も、同じだろう」
Aceはその答えに、小さく笑った。
「そうかもしれないな」
――その横で、壁にもたれていたScoutが口を開いた。
「ただ護るだけじゃなく、俺たちは前に進まなきゃならない。犠牲を抱えたままでも……それを超えて行く。そうでなきゃ、意味がない」
Scoutの声は、冷静でありながら強く響いていた。
その言葉に、スヴェルドフレムは初めて視線をscoutに正面から向ける。
scoutの言葉を、Aceが肯定する。
「背負うだけでも、十分だ。……俺も同じだ。だから、前へ行くんだ」
沈黙が降りる。
互いの過去が交わることはない。だが、胸に宿すものは確かに似ていた。
Aceが場を和ませるように肩をすくめる。
「ま、俺たちが揃えば、オペレーターとしては鉄壁ってところだな。ドクターも安心だ」
その言葉に、スヴェルドフレムは一瞬、苦々しいものを感じながらも――やがて静かに頷いた。
「……そうだな。護るべきものがある限り、俺も剣を振るおう」
AceとScoutは言葉なくその姿を見つめた。
その横顔は確かに、魔王の傍に侍る忠臣の姿だった。
――――――
原作のイベストに出てきたクリスマス生首を思い出して、アクナイ世界にもああいう文化あるなら首実検とかありそう……ならscoutの首ももしかしたら……。
ここまでの流れとしては、
Ace小隊がタルラとぶつかる。
↓
スヴェルドフレム乱入、Ace小隊を逃がす。
↓
scout小隊がW率いるへドリーイネス部隊に殲滅させられる。
↓
ロドスとWが戦闘後、見逃される。
スヴェルドフレムがWと会話する。
↓
Ace小隊がアーミヤ部隊と合流。
scout部隊全滅の報せが届く。