先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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この大地には苦痛が満ちている。救われたいと願うことは許されざることなのか?




【第一部】テラ歴⬛︎⬛︎⬛︎年〜898年:カズデル
傭兵フローガ


 鉱石病と呼ばれる感染症が存在する。源石と呼ばれるエネルギー鉱石との長期接触により感染する不治の病。

 感染者は不治の病と共存を余儀なくされ生きている。

 感染者の死によって引き起こされる広範囲感染――崩壊現象も相まって、より差別は苛烈なものへ。

 有史以来、数多の国家が感染者や貧困層を支配下におき迫害してきた歴史がある。

 その非人道的行為は許されるものでは無いが、しかし鉱石病の性質、人々からの差別がそれを助長させてきた。

 

 天災と鉱石病――大きくこの二つの苦難に晒されているテラの大地。

 差別と災害に見舞われながらも、人々は生きている。

 

 魔王が治める都市でもありサルカズ達が住む国でもあるカズデル。

 

 カズデルと呼ばれるそこに、フローガと呼ばれる男がいた。彼はサルカズの傭兵だった。

 サルカズ――時に悪魔と呼ばれ、貧困故に傭兵につくものが多いからか、傭兵と言えばサルカズを指すほど――溢れ者が多い種族。そしてさらに、鉱石病の感染のしやすさも相まって恐れられている。

 サルカズと聞けば眉をひそめる者も少なからず存在し、世間一般的には世の嫌われ者と行っても過言ではないだろう。

 歴史的観点から見ても、このカズデルという国は数百、或いは数千はくだらないほど興亡を繰り返している。

 ある日、サルカズの傭兵団に依頼が入った。依頼内容は感染リスクの高い源石が生えた荒地を根城にする盗賊団の殲滅。

 そんな場所になぜ行くのか? 答えは簡単で、傭兵の感染者を雇わなければならないほど手が足りなかったのだ。

 その為、感染者であり古参兵でもあるフローガ達傭兵団が派遣されることになったのだ。

 

「ったく。荒地を根城にする盗賊の殲滅ねぇ……また面倒な依頼じゃねぇか。リーダーも物好きだよなァ」

「まぁまぁ。これも仕事ですよ。確かに内容はゴミですが、報酬の高さを考えれば――多少目をつぶれば良い話ですし」

 仲間の言葉に、フローガは顎先をかきながらぼやく。

「……まぁ、そりゃごもっとも。確かに今時こんな場所で、感染リスクを考えずにうろついてりゃ死ぬしな。そう考えりゃ感染者にゃ割の良い仕事だ」

 

 そんなことを話していると、目的地についたようだ。傭兵が数人。そしてその近くには一人の男が立っている。

 

 身なりはそれなり、富裕者とまでは言わないが仕立ての良い服装を見るに、悪い暮らしはしていないように見える。

 恐らくはサルカズだろう。サルカズは他の種に比べて、特有の角をしている為すぐにわかる――もちろん例外はあるが。

 

「用件は」

 

 傭兵団の隊長である男が言う。それに一瞬口を紡ぐも、すぐに男は語りだす。

 

「ここら一帯に盗賊団がいるのは知っているな?」

「ああ」

「そいつらを殲滅して欲しい。報酬は弾む」

「ほう? そりゃ良い。で、その盗賊共はどこにいるんだ?」

「このさらに奥地。最奥に拠点がある。そこに奴らはいる」

 報酬は――男が告げた言葉に、傭兵達の歓声があがる。

「そうかい。ならとっとと済ませてやろうじゃないか」

 

 隊長格の男がそう言うと、傭兵達は各々武器を持ち足を踏み入れる。

 そしてフローガ達もまた同じように進んでいく。

「しっかしあの盗賊共も馬鹿だよな。こんな辛気臭ぇところにアジトなんざ作りやがって」

「まぁ、分からなくもないですねぇ……僕もあまり長くいたくはないところですし」

 

 先行する傭兵達がそんな事を話す中、フローガ達はそんな彼らの後をついていく形で進んでいく。

 すると何かに気づいたように一人の男が声をあげる。

 

「待て」

 

 そして後列にいた一人の男の首根っこを掴んでは、自分の目の前に持ってくる。

 

「……あれはなんだ?」

 

 男が指差したのは岩に覆われた横道だった。薄暗くてよく見えないのか、男は目を凝らしている。

 

「あ? そんなの……っておい!」

 

 そんな男の行動を見てか、後列にいた傭兵の一人が男へと駆けていく。しかし、その横道から突如現れた存在に思わず後退りしてしまう。

 それは巨大な蜘蛛のような生物だった。

 異様な身体には所々源石が生えており、複眼がギョロギョロと蠢いている。

 全身が黒い毛で覆われたその生物は、自身の前に現れた男へと狙いを定めると口を大きく開く。

 そしてそこから放たれたのは紫色の液体だった。

 噴射された液体が剥き出しの鉱石へと叩きつけられると同時に、どろりと溶けるのが見えた。

 傭兵はそれを間一髪で回避するが、しかし蜘蛛の猛攻はまだ終わらない。今度は尻にある糸を射出しそれを男に巻きつけ、自分の目の前まで引き寄せる。男は抵抗しようともがくが、なす術なく拘束されてしまう。

 そんな光景に後列にいた傭兵達が慌てる中、フローガだけは冷静に状況を判断していた。

「あれ、どうなってやがる」

 フローガは観察する。そこには無数の蜘蛛のような生物が張り付いており、次の瞬間一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 フローガ達は武器を構え応戦しようとするも、多勢に無勢。薄暗く足場の悪い荒野の中でアーツで迎撃するが、次々と傭兵達が倒れていく。麻痺毒のような効果があるのか、糸で縛られた傭兵たちの身体が小さく痙攣しているのがわかる。

「クソッ!」

 また一人またひとりと倒される中、フローガは焦っていた。この危機的状況で、アーツを使うか否か。

 フローガは感染者だ――武器を振るう中、視界に映るは己の皮膚を突き破る源石。

 既に体表に現れるまで進んでいる鉱石病を考えれば、使いたくはない。が、このままではジリ貧だ。

 無数に蔓延る蜘蛛の姿が脳裏を過ぎる。

 ならば、今ある命で賭けるしかあるまい。

「……ま、仕方ねぇよなぁ」

 一瞬、床に伏した傭兵達の気配を探るが――既に事切れていることに気付いてしまった。歴戦の隊長も――先刻まで話していた傭兵たちも――皆、死んでいた。己以外。

 どうやら、蜘蛛は苦しまずに殺す毒も打ち込んでいたらしい。

「なんだ、死んでんじゃねぇかアンタら」

 カチカチと牙をうち鳴らす蜘蛛の群れが、間近に迫っていた。

 ――どうやら俺たちは、岩に囲まれた広い場所へと追い詰められていたらしい。

 

 同時に依頼人に嵌められたのだと気付く。

 恐らく盗賊団など初めから居なかった――ただ、目をつけた傭兵団を潰す為の罠だったのだと。

 

 ――俺たち感染者は、サルカズはいつもそうだ。

 ――迫害され、屑石のように捨てられ、あるいは使い潰される。

 いつの時代も問い続けた、何故だと。

 サルカズと言うだけで忌まれる。

 感染者と知ると、善意は敵意に変わった。

 幾星霜と嘆いた過去が脳裏に過り、唇が吊り上がる。

 使い捨てられるのなら。

「――を殺せば良い」

 絶体絶命の危機――だがフローガは慌てなかった。むしろ不思議なまでに心は凪いでいた。

「俺は今、機嫌が良い。そうだな――死んだアンタらを弔うついでだ」

「蜘蛛共――俺の邪魔すんなら、死ね」

 

 フローガはそう呟くと、アーツを発動させる。

 瞬間的に荒れ狂う炎風が吹き荒れると同時に、周囲一帯が赤く照らされた。

 フローガの頭上に渦巻く炎で構成された、燃え盛る巨人の上半身が浮かぶ。

 炎が唸り、焔の巨人が拳を振り上げる。

猛き炎魔の怒り(ムスペル)

 叩きつけられた拳から炎が舞い上がり、万物を飲み込んでいく。

 無数に蔓延る蜘蛛さえも包み込んだ炎の檻は、全てを焼き尽くす。

 蜘蛛も死体も、

 焼いて

 灼いて

 焚いた。

 全てを炎が呑み込んだ後。

 そして静寂が訪れる。

 

 

 

 

  

 その後、フローガという男は傭兵の世界から姿を消した。

 フローガという名前を持つ人物が現れるのは、さらにその後――テラ歴898年に、同じ名前の将校が戦場に立つまで。

 

 






魔王クイロンがサルカズローグで来るらしいですね。まぁサルカズローグはIF展開混じってるみたいなんで200年前のカズデル侵攻関係の情報とかそれ以前のカズデルについての情報は……あると嬉しい。
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