先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
冷たい空気が張り詰める。
ケルシーは瞼を伏せ、胸奥に沈めていた痛みを押し殺した。
彼女にとって、テレジアの死は今なお癒えぬ傷だ。
その最期を看取らせたのがスヴェルドフレムであったことは事実。
だが――ドクターが起こしたその瞬間に至るまでの裏切りを、彼はどこまで知り得たのか。
「……」
ケルシーの沈黙は、否応なく意味を持った。
それは彼女自身の答えを示すよりも、むしろ相手に思考の隙を与える冷徹な戦略。
しかし、スヴェルドフレムにとっては、沈黙そのものが最も重い言葉だった。
「ケルシー。お前の胸の内を明かさずとも構わん。我々の道は、あの時既に分かれている」
「――俺が導き出す答えは一つだ」
彼の声は低く、岩盤のように重い。
かつて殿下に剣を捧げた忠義の男が、結び得た信頼の綻びを断ち切ろうとしている。
「俺は……奴を見届ける。信じるに値する存在か、裏切りを繰り返す亡霊か。いずれにせよ、真実が示されるその時まで――俺の剣は俺自身のものだ」
ケルシーは彼を見据えたまま、一歩も退かない。
その眼差しは氷のように澄んでいるが、深奥には言葉にならぬ痛切な想いがあった。
彼女もまた、ドクターの未来を信じるのか、それとも過去を断罪するのか。
その答えを自らに問う日々を歩んでいるのだから。
「……スヴェルドフレム」
彼女は小さく呟いた。
「あなたがどれほど憎もうと、疑おうと……私には、あの人を信じる理由がある」
「ならば、俺には俺の理由がある」
二人の間に流れるのは、かつての協力の記憶ではなく、決裂の予感だった。
言葉の刃が交わされるたびに、遠くで戦火が燃え上がる幻を見たような気がした。
――それでも、スヴェルドフレムは未だ「視て」いる。
裏切りを糾すためか、それとも希望を見出すためか。
いずれにせよ、その眼差しの先には常にドクターがある。
ケルシーは確信していた。
いずれ、この問いは必ず答えを迫るだろう――誰にとっても、逃れられぬ形で。
その時、スヴェルドフレムは剣を振るうのか。
あるいは、かつて殿下に捧げた忠義を、新たに別の者へと託すのか。
声の端に籠るのは、怒りだけではない。憤りの奥にある疲労、そしてどこかで燻る哀惜。
手にした刃は、かつて殿下に捧げたものであり、同時に今も彼自身を定義する物差しでもある。
切るためのものではなく、見定めるための灯でもあるように聞こえた。
ケルシーはその宣言を受け止めるように、微かに視線を落とした。彼女はすぐには答えず、静寂を意図的に長く引き伸ばす。それは言葉を選ぶ時間でもあり、また相手の覚悟を確かめる時間でもある。
やがて、彼女の声が低く、論理的な輪郭を帯びて戻る。
「事実と因果は分けて考えるべきだ。あなたの剣はあなたのものだという論点には異論はない。だが、故人への恩義と、現実に対する判断は別問題だと言える」
その語り口は冷徹で、まるで法や試験を前にした教授のように遠慮がない。だが、その冷徹さの向こうに、確かに消えない記憶の影がちらついているのは否めなかった。
二人の間に流れる時間は、ゆっくりと濃くなる。壁の向こうでかすかに聞こえる都市の雑踏、燃え残る戦場から運ばれてきた匂い。どれもがこの場の重力を増幅させる。
スヴェルドフレムは一歩だけ近づき、鞘に預けた指先をわずかに震わせる。剣は沈黙しているが、その存在感は場の空気を引き締める。
「ならば見届けるまでだ。お前はお前で、選ぶといい。だが、その選択がいつか刃を交わすことになるならば――覚悟しておけ」
ケルシーはわずかに息を吐き、スヴェルドフレムを見据えた。彼女の瞳には決して激情は映らない。だがその眼差しの奥には、深い理解と傷が同居している。
「覚悟は既にしてある。だが私の選択を安易に“断罪”や“賛同”で片付けるべきではない。証拠と理性を以て、私は判断を下す」
言葉が交わされるたび、二人の距離は微かに広がる。かつて共に力を振った日々の温度が、冷めた余韻として残る。だが同時に、それぞれの胸に灯るもの――信念か執着か、はたまた単なる責務か――揺れ動きながらも消えはしない。
主人公がサルカズ以外に転生すると大体病弱か早死にする。主人公くんのキャパがサルカズ以外の肉体強度に耐えられないからである。