先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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世間は三連休らしいがそんなものはうちにはないよ。



主部②

 一人のサルカズ。

 大火。同じような大火だった。全てを焼き尽くしても、悪意は焼き払えない。邪悪から生まれた大火。

 そして同じように大火に囲まれたテントの中、大声で雄たけびを上げるサルカズ。

「再び謀反だ! 奴らは協定を破り、我らの駐屯地を襲撃した!」

「駐屯地に集うは一般人、あれらは兵士に非ず! 抗う力を持たぬ無力なサルカズの民だ!!」

「何故我が妻と子を殺す? 何故我が民はこれほどまで不等な扱いを受けねばならぬ!?」

「何故我らは生きることすら許されぬ!?」

「我らはただ、安寧の地を願っただけだ!  我らはただ、生きていく場所を求めただけなのだ!」

「我らがサルカズだからか!?」

 

 アーミヤの涙が、炎で蒸発する。

 アーミヤが尋ねる。

 

「私たちが感染者だからですか?」

 

「我らがサルカズであるという理由のみで、冷酷非道な、家畜以下の扱いを受け、この大地で生きることが許されぬのか?」

 

 そのサルカズの叫びは燃え盛る炎を突き抜け、アーツを突き抜け、時代を突き抜けた。

 

「彼らがどんな罪を犯した? 皆罪なき者たちではないのか!?」

 アーミヤが小さな声で尋ねる。

「彼らが憎いですか?」

 ――記憶は答えてはくれない。

 しかし大柄なサルカズは、誰かが必ずそれを問うてくれると信じているかのように続ける。

 いや、彼は自分自身にそれを問い続けているのかもしれない――。

 

「奴らは我らを憎んでいるのか!? 奴らは理由もなく我らが同胞を殺め、約束を反故にし、罪を覆い隠すために更に大きな罪を犯し続けている!」

 

「それは支配か? 遊戯か? 利益か? それとも――骨の髄まで染み込んだ悪意か?」

 

「奴らが憎むべきは、我らなのか?」

「奴らは己自身を憎むべきではなかろうか。自らの土地をあのような姿に変貌させた己自身を。我ら全員を悪と決めつけた己自身を憎むべきだ!」

 

 サルカズが剣を手に取った。

 

 黒と蒼色が長剣の隅々にまで浸透する。その重量がアーミヤの肩にのしかかり、長剣がアーミヤの手の中に現れた。

「私は奴らが憎いのか?」

 憤怒。怒り……際限なき怒り――この大地の一切の苦痛と不公平への怒り。

 サルカズの越えてはいけない一線を越え、アーミヤの心の一線をも越える。

 憎しみでは恨みすら殺せない。悪意を育むものがどうして悪意に勝てるだろう。

 しかし……怒りは違う。

「たとえ私が報復せず、恨みを抱かずとも、永遠にこの身に怒りを宿し続ける権利がある!」

 サルカズが怒り、吠えた。

「もし、これが奴らの望まぬ結末であるのなら、奴らは初めから過ちの道を歩んでいたのだ!」

 

 彼の雄たけびを浴びて、とめどなく震え畏縮した炎は、嘲笑するオレンジ色から蒼色へと変わった。蒼色の炎はさらに燃え盛る。

 サルカズが長剣を抜き放つ。その剣は長く鋭い。蒼き炎が黒い刀身に沿って滑り落ちる。

 それとともに彼の怒りが高まる。

 

「もしこれが結末だというのなら、受けて立とう! 私がこの結末を貴様らに、全ての者に、そして私自身にもたらさん!」

 

「この大地が私に武器を置くことを許さないのなら、終末が訪れるその時まで、私はこの剣と共に戦い抜こう!」

 

 大柄のサルカズがそう叫んだ後、誓いに背いた者を全員殺し、今際の際に、親友のサルカズに看取られたことを、アーミヤは知っている。

 

 そしてこの剣がまるで存在すらしなかったかのように、灰となって消えていったことも、アーミヤは知っている。

 しかし、このサルカズの君主の蒼き怒火は、彼の経験と共に、すでにアーミヤの一部となっていた。

 

 不死の黒蛇が告げた。

 燃え残った黒い影の奥で、蛇の眼がタルラを射抜く。

 

「……一つ、訂正しよう。コータス」

 

 その声音には、軽蔑も嘲笑もない。

 ただ、長い年月の果てにしか辿りつけぬ、冷たい確信だけがあった。

 

「貴様は――確かに“本物”だ」

 

 炎が揺らめいた。

 アーミヤの頬をかすめた熱が、唐突に冷たく感じられる。

 

「――感染者と一般人、その双方の共通の敵への怒りを。それを、どうして“お前”の中に見出せると思った?」

 

一歩踏み出すたび、地面が低く震える。

 

「今の、僅かな満足のために」

「なぜ、数千年後にようやく実を結ぶはずの平和と栄光、積み上げられるべき知恵の行く手を塞ぐ?」

 

蛇の影が揺れ、声が鋭くなった。

 

「お前たちには――経験が足りなさすぎる」

 

沈んだ声音。だがその奥には、老いた者が若者に向ける苛烈な真実があった。

 

「破滅の瀬戸際に押し込まれ、国家そのものの息が止まりかける痛みを……お前たちは知らない」

「感染者が苦しみに縋り、なお生を選んできたのと同じように、ウルサスもまた、幾度も崩壊の淵で踏みとどまってきた」

 

不死の黒蛇は、まるで光景を“今”見ているかのように語る。

 

「ハガンの騎兵を見たことがあるか。大地を踏み潰し、武器をぶつけ合い、その行進だけで山を平らにし、川の道筋を変えるほどの轟音を響かせる姿を」

 

「悪夢のケシクたちが、曲刀で頭蓋骨を擦り上げるときにあげる、あの甲高く、死の匂いに満ちた鳴き声を聞いたことがあるか」

 

「ルーシの勇士、何万という兵の鼓膜を破る艦砲射撃を浴びたことは? ガリアの横暴な軍勢が、血と泥の中で無残に砕け散る瞬間を、この目で見たことは?」

 

黒蛇は首をもたげ、静かに断じた。

 

「――お前たちは無知だ」

 

しかし、その声に憤りはなかった。

 

「だが、それを責めはしない。知らぬことは罪ではない。だが、知らぬまま世界を壊そうとするならば……話は別だ」

 

黒蛇の影が大きく広がり、世界を覆うように揺らめく。

 

「もしお前たちが自らの愚行を実行へ移し、ウルサス民が“一つの信念”の下に再び団結することを阻もうと言うなら、ウルサスの大地の再繁栄を妨げようと言うなら……」

 

蛇はその身を反らせ、咆哮を寸前で押し殺した。

 

「――私を止めてみろ」

 

沈黙。

 

そして最後の一言が、鉄より重く落ちた。

 

「来い」

 

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