先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話 作:Calく
灰色の雲が低く垂れ込め、街路に立つ建造物は沈黙したまま、ただ侵入者を見下ろしていた。
ロンディニウム。
かつてヴィクトリアの心臓であった都市は、今や別の鼓動に支配されている。
ロドス一行は人目を避け、崩れかけた建物の影に身を潜めていた。
その時、路地の向こうから荒々しい声が響く。
「……なんだ? 騒がしいぞ」
鎧の擦れる音。
重く、異質な足取り。
サルカズの戦士だった。
市民が息を呑み、言葉を失う。
その背後には、武装したダブリン兵士たちの姿があった。
「……うっ……」
「……」
「へえ、誰かと思えば売国奴たちだったか」
その嘲りを含んだ声に、空気が一段冷える。
「その言葉を使うな」
ダブリン兵士は低く、だがはっきりと言い返した。
「俺たちはヴィクトリアとはもう関係ないんだ、魔族」
次の瞬間、サルカズ戦士の表情が歪む。
「誰がその呼び方していいって言ったよ?」
一触即発。
市民は身を縮め、ロドスの面々も息を殺す。
「フンッ……家なしの浮浪者どもが」
吐き捨てるような言葉。
「混乱に乗じて運良く他人の都市を占領したからって、ロンディニウムの主になった白昼夢でも見てんのか?」
サルカズ戦士は一瞬、沈黙し――そして、笑った。
「ハハッ。俺が貴様らのように、ロンディニウムなんぞを本気で気にかけると思っているのか?」
彼は周囲を見回し、あからさまに興味なさげに言う。
「確かにまあまあ綺麗で、死臭もしないがな。俺からすれば、この都市はむしろぶっ壊しちまった方がすっきりする」
その言葉に、市民の肩が震えた。
「サルカズがここにいるのは、魔王がいるからだ」
その一言が、空気を凍りつかせる。
――魔王。
その単語に、アーミヤの胸が強く脈打った。
(……魔王?)
ロドス内部回線に、情報が流れる。
「……その件に関しては、まだ情報がきていません」
アーミヤは小さく息を吸い、ドクターの方を向いた。
「ただ、事実として……」
彼女の声は静かだが、確信を帯びていた。
「テラ各地に散らばるサルカズたちが、今まさにこの地に集まりつつあります。招集されているのは、普通の傭兵だけではありません」
彼女はロンディニウムの中心部――見えない“何か”を見据える。
「より古く……より強大な力が、この都市の中心にいます」
ドクターが何かを言おうとする前に、アーミヤは続けた。
「ドクター……私は感じるんです」
その瞳が、わずかに揺れる。
「ロンディニウムに一歩一歩近付くにつれ、私の心に流れ込んでくる……」
彼女は胸に手を当てる。
「そして、私の思考に絡みついてくる感情が、うごめき始めて……」
息を詰め、言葉を選ぶ。
「――より、強烈になっています」
それは憎悪か。
哀しみか。
それとも、かつて彼女が見上げた“王”の残滓なのか。
ロンディニウムは答えない。
ただ、沈黙のまま、彼女たちを迎え入れようとしていた。
――ロドスがロンディニウムへと向かう数ヶ月前。
占領下のヴィクトリア国ロンディニウム。
王庭の面々が居並ぶ大広間に、冷えた空気が満ちていた。
壁を飾る紋章も、床に敷かれた絨毯も、もはやヴィクトリアのものではない。
それらはただの“戦利品”として、サルカズの権威を飾る背景に成り下がっていた。
その中央に、ひとりの男が立つ。
スヴェルドフレム。
――否。今日からは、フローガ。
混血であり純血ではない、だが誰よりも多くの血を踏み越えてきた存在。
左右に、双生の魔王が並び立つ。
その背後には、王庭の主と貴族たちが、まるで彫像のように沈黙していた。
「汝、フローガ」
冷たい声が大広間に響く。
「ロンディニウム占領区域の一部を預ける。また、我が軍の一部部隊の指揮を許可する」
それは褒賞であり、同時に――鎖だった。
フローガは片膝をつく。
形式に従い、頭を垂れる。
「……仰せのままに」
その声は低く、平静だった。
だがその内側では、スヴェルドフレムという名と共に、何かが静かに切り離されていく。
否応なしに軍事委員会の協力者となったスヴェルドフレムに与えられたのは、認識を阻害する仮面と、新たな名と立場であった。
サルカズの英雄と同じ名――フローガ。
炎魔の末裔として、将軍の位を与えられる。
もっとも、その部隊の大半は兵ではない。
彼を“監視”するの者たちだ。
統率できなければ、理由をつけて処断できる。
成果を挙げれば、その立場に縛り付けられる。
どちらに転んでも、首輪は締まる。
急な任命であったが、その名と異名だけは瞬く間に広まった。
既に滅んだとされる炎魔の血を引くサルカズ。
軍事委員会に拾い上げられた、希望の象徴。
その仮面の下で、スヴェルドフレムは薄く息を吐いた。
(名を与えるとは、そういうことか)
英雄の名を背負わせ、将軍の地位を与え、逃げ道を塞ぐ。
名を与えるという行為は、単なる褒賞ではない。
それは“切り離し”だ。
スヴェルドフレムという名が知られすぎているからこそ、
彼が軍事委員会側についたと明確になれば――エルデルの活動は、即座に疑われ、狩られる。
だから彼は殺されない。
代わりに、別人として生かされる。
フローガ。
炎魔の末裔。
軍事委員会が抱える将軍。
その名は、サルカズの英雄の名を借りていながら、エルデルとも、ロドスとも、そしてスヴェルドフレム本人とも切り離されている。
第三者からから見れば、彼は“軍事委員会のフローガ”でしかない。
それは保護であり、同時に隔離だった。
軍事委員会は理解している。
スヴェルドフレムを殺すよりも、“スヴェルドフレムという存在”を消した方が、遥かに多くのものを制御できると。
仮面は顔を隠すためではない。
“属する場所”を、曖昧にするためのものだ。
今この場にいるのは、魔王に仕える“将軍”フローガ。
王庭の視線が彼に注がれる。
尊敬でも、期待でもなく、利用価値を測る目だけがそこにあった。
双生の魔王の片方が、スヴェルドフレムに目を向けた。
「統治権も、軍権も、それ自体はただの道具よ。本当に与えるものは――責任」
「貴方が何を見て、何を守り、何を得るのか……私は、貴方の道のりを見届けるわ」
テレジアは、静かに微笑んだ。
それは承認であり、同時に――彼を、争いの中心へ送り込むための祝福でもあった。
ほかのアクナイ二次創作のScoutが生き生きしながらロドスオペとコミュ取ってるの読むと、自分の作品の死亡済Scoutを振り返ってから「… 俺が殺した……!」ってなって勝手に辛くなってる