先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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イベントストーリーのツヴィリングトゥルムの黄金のネタバレとサルカズ種族のリッチについてのネタバレを含みます。本編に関係ないので飛ばして良いです。


【幕間】リターニアの高塔にて

  

 

 ――テラ歴969年、リターニア。

 

 

 高塔と呼ばれる場所にフレモントとヘーアクンフツホルン――巫王は居た。

 今日、彼らは政の報告の為に落ち合ったのではなかった。

 以前から打ち合わせていた通り――彼らは今日、偉業を成す為に来たのだ。

 巫王は淡々と告げる。

「貴様は未だに金律楽章の書き換えとその後の一連の国策が、国家全体を未知の動乱に陥らせるのではないかと心配しているのか?」

 巫王の言葉に、フレモントは懸念を告げる。

「あれがどんな代物か、なぜ千年来修正しようと思った者も、できた者もいないのかなど、お互い分かっているだろう」

 

 フレモントの言葉で巫王は揺らぐことはない。

「無論、楽章を作り上げた先賢たちが千年前に及びがたい偉業を成し遂げたのは自明である」

 ――"リターニア"とはその時よりこの国の名となり、同時に単なる国の名ではないのだ。

 

 かつて異なる十の異民族たちをまとめるため、各異民族の長達が練り上げ作り上げた偉業こそが金律楽章である。

 制度面だけでなく、芸術や道徳など人の心の動きにまで影響し、全てのリターニア人の価値観を形作っている。

 しかしシラクーザの独立運動に伴い、十あった管区が九となり、金律楽章におけるリターニアという国の定義に矛盾が生じた。

 金律楽章というシステムに矛盾が起きれば、リターニアという国を揺るがす致命的ななにかが起きかねない。

  

「しかしあらゆる真理は朽ちる。シラクーザの不和反目がその最たる証拠である」

 ――だからこそ私はリターニアのためにより良い未来をもたらすのだ。

 リターニアの新たな君主は懐から楽章を取り出し、リッチの方へ顔を向けた。

 その声は決して威圧的ではない。

 だがフレモントには、その壮大な言葉の数々が、一度砕け散り、そして新たな形へと編み直されていく様が、はっきりと聞こえた。

 

 

 

 

 

  

 ――フランツ。

 

 低い声音の呼びかけに、フランツ――フレモントはハッと意識を取り戻す。

 場の空気に呑まれていたことに気づいたフレモント。

 ――ふと己の手が、宙に漂う巫術の音符に危うく触れかけていたの見て、慌てて引っ込める。

 フレモントを呼んだ男――巫王は悠然と佇んでいる。

 

「空気中の音符には触れるでない」

「我が削除したこの旋律の中で溶け合う術式は、完全に散逸するまで依然恐ろしい力を有している」

「感情を落ち着かせ、千年前の先賢たちの意志を避け、心を引っ張られないようにするのだ……」

 

 部屋の中を静かに旋律が漂い、「シラクーザ」の音色が「リターニア」の壮大な楽章の中から消えていく。

 フレモントは、遠くで雷鳴が轟き、雨が絶え間なく降り注ぎ、風が荒々しく吹き抜ける気配を感じた。

 「リターニアの意志」は、天地を揺るがすほどの力となり、この狭い空間を何度も押し流していく。

 その場に立つだけで、圧倒的な力がフランツの胸を締めつけ、心臓の鼓動を抑え込んだ。

 部屋の中央に立つ人物は振り向かない。

 まるで世界のすべてを背負うかのように、沈黙の中で、ただ堂々と佇んでいた。

 「そうだ、フレモント。貴様らは世界のもう一面を、何と呼んでいたのだったか?

 世間話のような気軽さで、巫王はその話題に触れた。フレモントは答えた。

「(サルカズ語)千糸万弦の終始だ」

 それを聞いた巫王はちんけな名だ、と呟いた後、

「――『命結』の存在が、リッチという種族に何よりも特殊だと言える能力をもたらした。命結を隠せば、貴様らは永遠に終わらぬ命持つようになる」

「リッチは無限の時間の中で世界の無限の真実を垣間見ることができたというのに、それらをただの知識の一ページとするだけなのか?」

 それにまた答える。

「慎み深さは我々の天性だ。発見が多くなるほど、住むに適した場所は少なくなる」

 フレモントの答えに、巫王は貴様はどうなのだ、と尋ねる。

 ――私?

 戸惑うフレモントに、

「『千糸万弦の終始』……貴様は事あるごとに配下のリッチたちが若すぎるやら融通が利かないやらと不満を口にするが、その空間を自らの命結を隠す引き出しとするだけだ。入って見てみたくはないのか?」

 フレモントは巫王の言葉を理解した時――思わず絶句した。困惑――いや怖気と言った方が良い。

 リッチとキャプリニー、王庭の主とリターニアの皇帝は、常にこのように言葉なくして心を通わせる。

 どれだけ緊迫した瞬間でも、二人は依然隙を見つけ何らかの話題について話し合うことができる。哲学、音楽、時にはリターニアの気候や飲食。

 巫王は――ヘーアクンフツホルンは、極めて自然にこの件に言及した。リッチの生死を真に脅かすその秘密に。

 ――初めに、この男を消せるだろうかと考えた。

 あらゆる手段を講じて、この男の命を消し、リッチという種族がリターニアから去ることを。

 ――次に、これまでの付き合いからこの男の環境や性格、思考の全てを回想する。

 この男の目的を。

 それは長い沈黙だったかもしれないし、瞬き程の間であったかもしれない。

 

 ――やがてフレモントは声を上げて大笑いした。

「ちょうど、あの空間の研究について私もいくらか行き詰まっていたところだ」

「ヘーアクンフツホルン、もし本当に興味があるのなら……命結を貸してやらんでもない」

 

 フレモントはそう言った。

 

 ――だが、この男の発想はどこから来たのだろうか。

 

 ふとした疑問。千年に一度の天才ならば、取るに足らないただの思いつきと捉えることも出来る。

 だが、ただの思いつきにしては、妙な確信があるように見えた。

 そう……異なる空間に、意思ある生物が入ることができると、当たり前のように告げた。

 

 何処かで聞きかじった話にしても、あまりにも異様な考え。異常……何処ぞの御伽噺にしても、妙な話だった。

 そんな昔話も御伽噺も長く生きたフレモントは聞いた覚えがなかった。

 とは言え、他種族の全てを知っていると豪語出来る訳では無く――或いフレモントの知らない発想がどこかにあったのかもしれない。

 

 ――この千年に一度の天才ならば、また面白いものを見せてくれるに違いない。

 




次は主人公視点でカズデルに戻ります。
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