先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

94 / 100
示された道

血は、細く長く石畳に引かれていた。

 

それはもはや“道”と呼ぶべきものだった。

生へと繋がる道ではない。

終わりへと導く、ただ一方通行の軌跡。

 

フェリーンの女は、振り返らない。

振り返るだけの余力も、意味も、すでに失われているのだろう。

よろめきながらも、なお足を動かし続けるその背は、

どこか滑稽で――そして、あまりにも脆かった。

 

スヴェルドフレムは、その様を遠くから静かに見ていた。

 

マンフレッドが見逃したことは、知っている。

そして、自分もまた、同じ選択をしたことも。

 

……どのみち、あの女の運命は尽きる。

 

冷静な判断だった。

感傷を差し挟む余地などない、ただの結論。

 

この都市において、逃げ場を失った負傷者が辿る結末など、ひとつしかない。

 

それでも。

 

ほんのわずかに――言葉にもならぬ何かが、胸の奥で引っかかった。

 

見届けるべきではないのか。

せめて最期くらいは。

 

その考えは、あまりにも遅く、そしてあまりにも軽い。

 

彼は、将軍だ。

フローガとして、与えられた役割がある。

 

一人の末路に足を止めることは、許されない。

 

「……」

 

わずかに目を伏せ、そして、視線を外す。

 

断じたのだ。

それで終わりだと。

 

やがてそれも、遠ざかっていく。

 

傲慢さで身を固め、虚勢で自らを支えていた女。

 

その最期がどのようなものになるのか、スヴェルドフレムはもう見ない。

 

だが。

 

――せめて。

 

心の奥底で、誰にも届かぬ祈りが落ちる。

 

――安らかであれ。

 

それが許される祈りなのかは、分からない。

それでもなお、彼はそう願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

一方、その頃。

瓦礫に囲まれた一角で、ロドスはなお前進を続けていた。

空を裂く轟音が、断続的に都市を揺らす。

「クロージャさん、防衛砲を停止させる方法を一早く見つける必要があります――」

 

アーミヤの声は冷静だったが、その奥に焦燥が滲んでいる。

 

「もしマンフレッドに勝たねば止まらないということなら、速戦即決しないといけません」

「時間が経てば経つほど、地下に残したオペレーターや自救軍の方たちはさらなる危険にさらされます」

 

通信の向こうで、わずかなノイズ。

 

「はい……彼の心は目の前のこの戦場にはありません」

 

続く声は低く、確信を帯びていた。

 

「ただブラッドブルードと都市防衛砲が、自救軍の生きる望みをすべて破壊するのを待っているんです!」

 

その言葉を、遮るように。

 

「時間稼ぎ? 素晴らしい推測だ」

 

静かな声が、戦場に落ちた。

振り向かずとも分かる。

そこにいるのが誰かを。

マンフレッド。

「ドクター」

その呼びかけは、嘲りでも威圧でもない。

むしろ――興味だった。

「ただの偶然で魔王の力を得られたそちらのコータスなどよりも、私は君にずっと興味があったのだ」

 

瓦礫の上に立つ影が、わずかに首を傾げる。

 

「君は過去にこれよりも厳しい状況に直面したことがあるのだろう――そして常により良い結果を得られる選択をとれるようだ」

 

刹那。

砲撃の轟音が、遠くで響く。

「教えてくれ、次に君はどう動く?」

その問いは、戦術ではない。

試しだった。

「長期的な脅威を排除するために、ここで全力を尽くして私を殺しに来るか――」

一歩、踏み出す。

「それとも、ほかの方法で私を避け、下のヴィクトリア人たちの命を救うか?」

選択は、提示された。

どちらも正しい。

どちらも誤り得る。

そして――どちらも、犠牲を伴う。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。