先史文明研究員がテラ人になって転生し続けている話   作:Calく

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抗戦

 

「ドクター、数日の間別行動をしようと提案された時、それが最善の選択だということはわかってました。ですが……」

 

「少なくとも今は無事に合流できましたね、ドクター。私はとても嬉しいです」

 

「……明日は厳しい戦いになるはずです」

 

「ここ数日、私たちはいくつかの行動を起こし、現在ロンディニウム内にいるサルカズ軍がどう対応してくるかを探っていました」

 

「マンフレッドとブラッドブルードがすぐに戦場に現れると予想されます。私とアスカロンさん、それとLogosさんで全力で彼らを食い止めます」

 

「ケルシー先生だけでなく、AceさんとOutcastさん達がナハツェーラーとリッチの足止めを担当してくれています。しかし、それも長くは続かないでしょう」

 

アーミヤの言葉は、戦場の喧騒に押し潰されそうでありながら、なお不思議なほど明瞭だった。

遠くで砲火が鳴り、術の残光が裂けた空を白く照らす。

ロンディニウムの崩れた通路の先で、今まさにロドスの命綱が切れかけていることを、その声は告げていた。

 

 

 

 

異なる戦場で、ケルシーは一瞬たりとも表情を変えないまま、視線だけを前へ送った。

 

「Mon3ter、囲うように戦え。守る必要はないが、離れる必要もない」

 

命令は簡潔だった。

だがその一言の裏には、あらゆる損耗を数え上げたうえでなお残った、ぎりぎりの最適解がある。

Mon3terは無言で跳躍し、まるで囲い込む檻のように戦場の周縁へ散る。

ナハツェーラーの戦士たちが一斉に踏み込んでくるが、その進路は一つずつ、冷たく、正確に塞がれていった。

 

「Outcast! Ace! 君達はこの戦線の要だ」

 

ケルシーの声に、Outcastが短く笑う。

彼女の銃口はぶれない。

年齢を思わせる白い髪が揺れても、その指先だけは戦場のどこよりも静かだった。

 

「しかし君たちは病み上がりでもある。無理はするな」

 

その忠告に対して、彼女は軽く肩をすくめる。

 

「そりゃあ勿論。老骨でも折れる骨はあるさ」

 

乾いた冗談だった。

だが、その声には実際に死を見てきた者だけが持つ、妙な軽さがある。

それは諦観ではない。

むしろ、ここで折れてたまるかという意地だった。

 

次の瞬間、闇の向こうからアーツの狙撃が降り注ぐ。

それは一本の矢のように見えて、実際には何重もの術式が重ねられた、死を運ぶ光だった。

通常の障壁では受け切れない。

逸らせば後方が焼かれる。

だが、その一撃を受け止めたのは、Aceの盾だった。

 

鈍い金属音が響く。

爆ぜる火花。

足元の石材が砕け、盾の裏で彼の身体がわずかに沈む。

それでもAceは一歩も退かない。

 

片腕には、調整された鉛色の義手がはまっていた。

新しい金属の表面はまだ戦場の光に慣れていないのか、どこか無骨で、だが確かな重みを宿している。

その義手が、狙撃を受けた衝撃を受け流し、彼の構えを崩させなかった。

 

「その為の鍛練だ。新しい腕の慣らしにはちょうど良い」

 

Aceの声は低く、疲労の影を含んでいながらも、芯はまったく折れていなかった。

たった今の一撃で腕を失う前よりも、彼の立ち姿にはむしろ重みがある。

失ったものを埋めるのではない。

失ったうえでなお、立つ技を覚えた者の姿だった。

 

ケルシーはその様子を確認し、短く目を伏せた。

だが感傷はない。

ここで必要なのは感想ではなく、命の維持だ。

 

「Outcast、右前方。二拍遅い。そこに次が来る」

 

「見えてるよ」

 

即答と同時に銃声が走る。

Outcastの弾丸は、まるで相手の呼吸を読んだかのように、射手の喉元を正確に貫いた。

倒れた敵の背後から、さらに別のナハツェーラーが迫る。

だがMon3terがその進路を割る。

巨大な怪物は、守るでもなく離れるでもなく、ただ“戦線そのもの”として存在していた。

 

戦場の空気が、ぎりぎりの均衡で保たれている。

誰か一人でも崩れれば、連鎖的に壊れる。

誰か一人でも踏みとどまれば、次の十秒が買える。

 

「……まだ来るのか」

 

Aceが低く呟いた。

盾の縁に走ったひびを見ながらも、その声には不思議な落ち着きがある。

 

「来るさ」

 

Outcastは笑った。

 

「奴さん達は“足止め”されてるって感覚がないんだろうね。だからこそ、こっちが止める。止めて、止めて、止め切る」

 

彼女の言い方は軽い。

だが、撃つ弾は重い。

戦場を渡るその一発一発に、彼女の生き残ってきた歳月が詰まっている。

 

ケルシーは、目の前の蠢く敵を見据える。

彼女の眼差しは計算の光を宿している。

残された戦力、敵の配置、時間、撤退路。

すべてを組み上げたうえで、なお足りないものがある。

 

だが、それでも。

 

「戦神率いる戦士達は精鋭だ。物量で押し切られれば戦況は一変するだろう」

 

淡々とした声だった。

だがその中には、確かな命令がある。

 

「Ace。義手の可動域は」

 

「まだ広げられる。無理をすればな」

 

「……惜しむ余裕はないようだ。すまない、Ace」

 

「了解」

 

即答だった。

そこに迷いはない。

病み上がりでも、片腕でも、盾で止めることができるなら止める。

その覚悟だけで、彼はここに立っている。

 

Outcastが、弾倉を打ち替えながら小さく口笛を吹いた。

 

「昔は、こんな連携なんて想像もしなかったねぇ」

 

「生き残ったからだ」

 

ケルシーはただそう返す。

 

「生き残った者だけが、次の一手を持つことができる」

 

その瞬間、再び敵の群れが押し寄せた。

ナハツェーラーの戦士たち。

精鋭の術者たち。

その背後には、まだ終わらぬ戦争の匂いがあった。

 

Aceが盾を構え直す。

Outcastが照準を合わせる。

Mon3terが周囲を割る。

ケルシーが次の指示を口にする。

 

そしてアーミヤは、彼らの向こう側で息を呑みながらも、退かない。

 

この戦線は、まだ持つ。

だが、持つ理由は一つしかない。

 

――誰も、まだ終わっていないからだ。

 

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