太った方の十神白夜は、高度育成高等学校に入学する 作:超高校級の御曹司
この世は平等か、それとも不平等か。
そう問い掛けられれば、誰もが不平等だと嘆くだろう。
この世界には目に見える見えないに関わらず、大小に関係なく、確実に格差が存在する。貧富の差、生まれ持った才能の差、生まれ育った環境の差、学力の差、限界値の差。様々な格差が存在し、その差を実感して嘆くのはいつも持たざる者である。
俺はそんな世界で、格差という障害を取り払うように気付けば詐欺師になっていた。どうしようもない貧富や環境、生まれ持った才能の差すらも、全てを騙してしまえば持たざる者のように見せることができる。俺は人を騙すことに特価しており、持たざる者でありながら格差を嘆かぬ上層階の人間として振舞うことが出来た。
騙すことで、俺は様々なものを手に入れ、そして俺という存在そのものが逆に消えてしまった。以前の俺はどんな姿で、どんな物が好きだったのか、嫌いだったのか、本当の家族や友人はどこにいるのか、もう全て忘れてしまった。
それでも俺は過去を見ずに前へと進むのだ。なぜなら、もう帰る場所も自分の過去すらも消えてしまったのだから。これからも、俺は人々を騙し、居場所を自ら作らなければ生きていけない。
この世は不平等だ。しかし、それで嘆くのは差を埋める努力をしてからだ。真の限界を知ってからだ。本当に心が折れるのは、様々な努力をしこれ以上先の想像が出来なくなった時だ。俺はその時まで捨てた過去を想うことなく、歩き続けるのだ。
◇◇◇
東京都高度育成高等学校
東京の埋立地にある日本政府が作り上げた、未来を支える人材を育成する全国屈指の国立の高等学校だ。3年間外部との連絡は断たれる上、学校の敷地内から出るのは禁止された寮生活になるが、卒業すると希望する進学先、就職先を保証してくれる夢のような学校だ。60万平米を超える敷地内は小さな街といっても過言はなく、何1つ不自由なく過ごす事のできる楽園のような学校である。
そこに俺は有名な大企業の御曹司、十神白夜の影武者として入学することになった。
俺の名前は、今日から十神白夜だ。俺が今まで人になりきり、別の人間の人生を歩んできたように、今回俺は十神白夜として学校生活を送ることになっている。学校側に怪しまれないよう、入試の段階から俺が受験しているため、合格さえすれば難なく通うことができるだろう。
過去に、俺は有名な子役や総理大臣の人生を歩んだこともある。体型について疑問に思われることはあったが、誰もがすぐに俺を本人だと認識し、簡単に騙すことができた。今回俺が相手にするのは、国立の名門校の教員達だ。総理大臣の時も周りの大臣連中を騙すことができたのだから、あの時に比べれば簡単だろう。
「ここが、高度育成高等学校か」
従者に運転してもらい、俺はようやく高度育成高等学校の校舎に到着する。運転手の男は、外に出て俺の座っている席側の扉を開ける。
「到着致しました、白夜様」
「ああ、ご苦労」
リムジンから降りると、通りかかる生徒たちに好奇の目を向けられる。この車が珍しいからか、それとも有名人な十神財閥の御曹司の姿に驚いているからか、運転手の態度に何事かと思って注意を向けているのかは不明だが、それでも俺は傲慢に不遜に、そして持つ者としての務めを果たさなければいけない。
「荷物を渡せ」
「はっ!かしこまりました」
荷物を受け取り、赤いジャケットを羽織り、俺は歩き始める。
「行ってらっしゃいませ!」
頭を下げる従者に前を向いて歩きながらも手だけは振る。あの男は、本物ではない十神白夜に対して最高の礼を尽くした。ならば本物を演じる俺はそれに応えるのが筋を通すということではあるが、十神白夜は不遜な男。礼など言わない。ならば、口では示さず態度で示すしかないのだ。
(すまないな、十神の従者よ。礼を言いたい気持ちはあるが、今はそれができないのだ)
こうして俺は高度育成高等学校の下駄箱に向かう。そこには白いホワイトボードが置かれており、そこには各クラスの生徒の名前が書かれていた。どうやらここで自分のクラスを確認し、そこに向かうようだ。
(この学校には、A~Dの4つのクラスがある。さて、俺はどのクラスに組み分けられたんだ?)
生徒たちの合間を縫うように前へ出ると、ちょうど自分の名前が書かれた紙を見つける。その紙は、1年Bクラスの生徒の組み分け表だった。
(俺はBクラスか。この学校は実力主義を謳う学校だ。この学校にふさわしい生徒として、最善を尽くそう。それが十神白夜としての責務なのだからな)
クラス表を確認した俺は生徒の合間を縫うように、また元いた場所へ戻る。そして靴を履き替え、近くに見える階段を上り始める。その時、目の前をゆっくりと歩く少女の姿を目にする。彼女は杖を持ちながら手すりにしがみついて、ゆっくりと階段を上がっていた。
(困っている人間を見捨てるなど、十神の名にかけて許されない行為だ)
「おい、お前。クラスはどこだ?」
「え?……い、1年Aクラスです、が?」
「そうか。1年生か。ならちょうど良いな」
「……ちょうど良いって、何が……?」
俺は呆然とした様子で固まる少女の荷物を奪い、彼女を抱き上げて担ぐように階段を上る。
「ちょ、ちょっと!何するんですか?!あなた、十神白夜君ですよね?なんでそんなに太ってしまったんですか?いえ、そんなことより!今すぐ床に!床に降ろしてください!」
「黙っていろ……舌を噛むぞ」
「い……いやああああああっ!降ろしてええ!」
俺はそう言いながら、猛スピードで階段を駆け上がる。そのスピードに少女はぎゃあぎゃあと悲鳴を上げる。そして1年生の教室が並ぶ3階の廊下に到着すると、俺は勢いを殺すようにキューブレーキを踏み体を斜めに倒し、左足を軸に方向転換し、また猛スピードで走る。
「わあっ、ちょっ!もうやめてえぇぇ!」
涙目の少女なんてお構い無しに走り続け、Aクラスの教室の前に到着する。勢いを殺し、スライディングで少女をしっかり抱えながら止まる。
「ふぅ……着いたぞ」
「もう!何するんですか!降ろしてと何度言ったことか!聞こえてましたよね?あなた!」
「階段を上がるのが大変そうだから送ってやっただけだが?」
「そ、それはそうですけど……だからってこんな運び方する必要は……」
少女は恥ずかしそうに、スカートの裾を押さえながら俺を見る。
「……全く、十神財閥の御曹司様も随分と堕ちたものですね」
「なんだと?」
「だってそうでしょう?あなた、今私をを荷物のように抱えながら階段を上がって来たんですよ?そんな姿、他の生徒が見たらどう思うとお考えで?十神財閥の御曹司がこんな非常識な人だなんて、きっとみんな失望するでしょう。あなたはもっと品のある方だと思ってました」
「……そうか、それは悪かったな。謝罪しよう」
俺は少女に荷物を渡すと教室の扉を開ける。
「……入らないのか?」
「いえ、ただ……」
少女は目を見開いたまま、俺を見つめている。その顔には驚愕の色が見て取れた。
「……何か着いているか?」
「え?……いいえ、何も着いていませんよ。ただ、貴方が素直に謝罪を口にするだなんて、明日は雪でも降るのではと心配しているのですよ」
本物の十神白夜は、傲慢で不遜だ。偉そうで、勝つことが全てだと考えている。しかし、彼にだって心はある。俺はそう信じてる。だからこそ、十神の名に恥じない行動を心掛けようとしているのだ。だから、俺の行動が過去の十神白夜とかけ離れていたとしても、俺はそれすらも信じさせてみせる。
「……桜が開花し、散り始める4月に東京で雪が降るだと?冗談も程々にしろ。馬鹿に見えるぞ、愚民」
「……ば、馬鹿にみえる?ぐ、愚民ですって……?」
「なんだ、愚民という言葉を知らないのか?勉強不足だぞ。知らないのなら後で調べておけ」
俺はそう吐き捨てながら、教室に入る。しかし、その瞬間後ろで恨みの籠った声がした。
「天才である私を馬鹿にするところだけは、変わっていないようですね。十神君、私は必ずあなたを潰します。天才として、同じ天才であるあなたを再起不能にして差し上げます」
「……できるものならやってみろ、俺は全てを統べる十神白夜。天才だろうとなんだろうと、関係ない。俺は全てに勝つ男、だからな……坂柳有栖」
背後に立つ少女は坂柳有栖。頭脳の天才であり、十神白夜とは幼いころからの知り合いだと資料で読んだ。確か父親がこの学校の理事長を務めているらしく、かなり名門の家に生まれた令嬢らしい。しかし、体が弱く生まれつき身体に問題があるようで、歩行が困難で杖を用いて歩いているそうだ。
初めは彼女が坂柳有栖だという確信が持てず半信半疑だったが、この少女が資料の人物だと分かれば、話は別だ。あとは、十神白夜として振る舞うだけである。
「……俺は全てに勝つ。お前が俺を潰すというのなら、俺は正々堂々とお前を返り討ちにしてやろう。では、また会おう」
その後教室に入り、自分の席を確認してから窓際の席に座ると、隣の席の男子が俺を見るなり驚いたように目を見開く。
「……お前、まさか"あの"十神白夜か?」
「 どの十神白夜かは知らないが、俺は十神財閥御曹司である十神白夜だ」
「……覚えているかは分からないが、昔綾小路先生主催のパーティーで出会ったことを、覚えているか?」
「綾小路先生?……確か、今はもう失脚した政治家の名だったか?」
全く記憶にない名前に俺は首を傾げる。すると神崎はショックを受けたのか、少し落ち込むような素振りを見せた。
「……まあ、覚えていなくても無理ないか」
「フン……すまないな。あまりの退屈さに、その記憶は頭から抹消されているようだ。すまないが、名前を教えてくれないか?もう二度と、お前の存在を忘れないと誓おう」
「……いや、別にそんなこと誓わなくても良いんだがな」
男子生徒はそう言いながら、頭を掻く。俺はそんな彼を見ながら、心の中でこう叫んだ。
(おい!本物の十神白夜よ!知り合いや友好関係に関する資料は全て用意するよう言っただろう!だが、綾小路先生とやらのパーティーで出会ったこの男子生徒についての記載はどこにもなかったぞ!説明しろ!十神!)
「俺の名前は……神崎隆二だ。よろしくな」
「神崎隆二か……ああ、よろしく。覚えたぞ」
「それは良かった。これからは、仲良くしよう」
俺はその後担任が教室に来るまで、窓の外をぼんやりと眺めながら時間を潰した。そして、ホームルームが始まる時間になると、可愛らしい外見をした1人の女性が入ってきた。
「えー新入生のみんな。私はこのBクラスの担任を務めることになった、星之宮知恵です。普段は保健室で養護教諭を担当していまーす。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しないの。卒業までの3年間、私が担任として君たちと一緒に過ごすことになりました。みんな、よろしくね」
現在、本物の十神白夜は異母兄弟たちと後継者の座をかけたバトルを繰り広げている。その間、俺は本物以上に十神白夜として振る舞い、本物が全寮制の学校に通っていると思わせなければいけない。この騙しが露呈すれば、大問題になる。だからこそ、慎重に騙し、大胆に十神白夜を演じなければならない。
(……難儀なものだな。しかし、俺は総理大臣の影武者も務めた男。この程度のヤツらを騙すなんて、朝飯前だ。期待していろよ、十神白夜。俺がこの学校でお前に残せるものは全て、残しておいてやる。御曹司として、時期後継者として必要なものを、全て、な)
俺はそう心の中で誓いながら、ホームルームが終わるのを待った。
「さて、これから君たちには自由時間が与えられるんだけど……その前に一つ聞きたいことがあるんだよね」
星之宮先生はそう言いながら、生徒名簿らしき紙を取り出して出席簿を見る。そして何故か少し怒り気味に俺に視線を移すと、席から立ち上がるよう促した。まあ良いだろう。これも十神白夜として乗り越えなければならない壁の一つだというのなら、それすらも超えてみせようじゃないかと意気込んで、俺は立ち上がる。
「なんだ?この十神白夜に何か文句でもあるのか?言ってみろ」
「文句っていうか……中学時代の調書によると、随分痩せていたみたいだけど……どうして急にそんな体型になってしまったの?本当に、十神白夜君なのよね?」
「俺が十神白夜であることに変わりはない。俺はこの姿で入学試験も受けたと記憶しているが、違うのか?星之宮知恵」
「いいえ、ただ約ひと月でその体型になるなんて、全く想像できなくてね……」
「想像できない、か。クク……実にくだらないな。だからなんだ?太ろうが、痩ようが、俺が十神白夜である事実は変わらない。グリーンヒルジュニアスクールに通い、5ヶ国語を操るペンタリンガルで、十神財閥関連グループ十神ベルズの社長だ。くだらない考え、妄想を垂れ流すのはやめろ。弱く見えるぞ」
俺はそう言い残して、自分の席に座。その際、神崎が俺の名前を呼んだ気がしたが、特に興味はないので無視した。
(体型程度で怪しまれても、どうとでも言える。このくらいなら、まだ序の口だな。しかし、十神白夜の過去を知る人間が2人もいるとはな。下手な演技をすれば、影武者だと疑われてしまうかもしれない。これからは、演技も少し慎重にした方が良さそうだ)
これからのことに少し頭を抱えながらも、俺は心の中でこう言った。
(見ていろよ、十神白夜。お前の名を、この学校に深く深く刻んでやる。十神白夜として、俺もここで勝利することを誓ってやろう)
本物とは程遠い過去を持つ俺だが、それでも精一杯十神白夜を演じてみせる。全てを騙し、十神白夜がここに存在したことを皆の記憶に焼き付けてやるのだと、そう決意を固めるのだった。
氏名 十神 白夜
所属 1年Bクラス
学籍番号 S01T009097
誕生日 5月5日
【学力】 A
【知力】 A
【判断能力】 A-
【身体能力】 A
【協調性】 E-
【面接官からのコメント】
学力が高く、また、5ヶ国語を操る天才であり、留学中の成績もトップ、在学中も十神財閥の関連会社の社長を務め、業績を向上させるなど、かなりの天才である。
学力試験では理科で1問間違えたことにより、総合順位が2位となった。
身体能力も高いため、本来であればAクラスに配属されるが、協調性がなく、自分勝手な行動を取ることが多いため、Bクラス配属とする。
※別途資料参照
【担任からのコメント】
天才的な頭脳と身体能力、経営や言語の才能を持っている生徒です。
しかし、人間性に問題があるので、協調性を持ち改善されるようサポートしていきたいと思います。