太った方の十神白夜は、高度育成高等学校に入学する 作:超高校級の御曹司
皆さんこんばんは。
明日の0時ごろに4話を投稿予定でしたが、急な発熱と酷い頭痛に悩まされ、書ける状況じゃないので投稿は見送らせていただきます。
次話にはなんと、ついにあの人が登場するのでかなり気合を入れて書いていたのですが、非常に残念です。
症状が治まり次第、また執筆をさせていただきます。(2024/11/24 22:24:30)
入学式の翌日、俺は学校内を散策し、またもや疑問を抱いた。この学校には至る場所に監視カメラが仕掛けられている。私立の学校であればよく見る光景だが、この学校は国が運営している国立の学校だ。
勿論、この学校には財界の大物の子息子女も通っているため、防犯目的で設置されたと考えればおかしくはない。にしても、その量が異常だった。
(教室に4台、廊下は各教室の前と後ろの扉の前に1台ずつ、階段の前、階段の踊り場にそれぞれ1台ずつ、トイレの前にも2台ずつ。かなりの量の監視カメラが設置されている。その割に、特別棟や部室棟にはほとんどカメラが設置されていない。職員室の中も確認したが、生徒が生活するスペースと比べて、監視カメラの量は格段に減っていた。勿論、校長室や理事長室も同じだ。これは一体どういうことだ?)
監視カメラの設置場所、その数から導き出される意味について考察していると、クラスメイトの一之瀬が話しかけてきた。
「あ!やっほー!十神君!今日は良い天気だね」
「……フン、そうだな。雲ひとつない快晴だ。太陽が眩しいくらいに俺を照らしているな」
俺がそう返答すると、一之瀬は何かに気付いたように手を叩く。
「そういえば!まだ連絡先を交換していなかったよね?」
「フン、下民と連絡を取り合うほど俺は愚かではない。だがまあ、どうしてもと言うなら交換してやらなくもないがな」
俺がそう言うと、彼女はポケットからスマートフォンを取り出し始める。そして連絡先を交換すると、嬉しそうに画面を俺に見せてきた。
「……うん!これで登録完了だね!ありがとう!」
(……一之瀬帆波、か。この学校は実力主義を掲げているから、十神財閥の御曹司である俺と繋がりを持つことで何か得をすると考えているのか、それとも純粋な好意なのか。まあ、どちらにしても好都合だ。コイツは入学初日にほとんどのクラスメイトから信頼を勝ち取り、他クラスの生徒とも繋がりを持っている。何かと利用価値が高そうだな)
「一之瀬、ところでお前はここで一体何をしていたんだ?もうとっくに完全下校時刻は過ぎているが?」
「私はちょっと散歩していただけだよ。十神君は?」
「俺か?俺は、この学校について調べていた。この学校は一般的な高等学校とは違う。システムも、進路の保証も、授業の内容や設備も、色々疑問に思う点も多かった。だからこそ、この学校について調査をしていたんだ」
「そうなんだね!確かに、普通の学校とはちょっと違うもんね」
一之瀬は納得したように頷きながら呟く。そして俺は彼女にこう続けた。
「ちょっとどころではないがな。この学校について様々な疑問を持っているが、ひとつ上げるならば、そこの特別棟の廊下と本校舎の廊下を見比べて見ろ。そうすれば、お前にも俺の言いたいことが分かるはずだ」
俺がそう言うと、一之瀬は少し考える素振りを見せたあと、ゆっくりと口を開いた。
「……うーん、照明の数が少ない、かな?本校舎は明るいけど、特別棟は少し薄暗い感じがするね」
一之瀬はそう言い、俺の方をじっと見つめる。
(期待外れだったか。お前ならば、監視カメラの数について気付くと思ったんだがな。まあ良い、使えない人間ならば使えるよう育てるのが、上の者の務めだ。人材育成か、本物の十神白夜もやっていることだ。ちょうど良い、一之瀬を指導してやろう)
「着眼点は悪くない。だが、比較すべきは照明の数ではない。監視カメラの数だ。本校舎の廊下と特別棟の廊下、どちらが監視カメラの数が多いか分かるか?」
俺がそう質問すると、一之瀬は口に手を当てて考え込む。そしてしばらくしてから口を開いた。
「それは……本校舎の方が監視カメラの数は圧倒的に多い、かな。でもどうしてなんだろう?特別棟の監視カメラには蜘蛛の巣が貼られていたり、照明がないからか映像の映りは悪そうだよね。それに比べて、本校舎の方は監視カメラが映す場所を照らすように多くの照明が設置されてる。何か意味があるのかな?」
「……さあな」
俺は素っ気なく答え、歩き出す。一之瀬も俺に続くように歩き出し、更に質問をしてきた。
「十神君は何か知っているの?」
「フン、残念ながら俺は何も知らない。だが、俺が理性と知性を持つ人間である以上、考えることはできる。一之瀬、答えを聞くことは簡単だが、それでは意味がない。勉強だってそうだ。答えを見たところで、テストの時に問題が解けるとは限らないだろう?何故なら、答えを見るだけでは、思考と理解の過程を経ていないから、天才以外問題を解くことは不可能だ。だから、お前も生徒会役員として、Bクラスの中心人物として活躍したいと願うのならば、考えろ。思考を辞めた時、人は前に進めなくなる。分かったか?」
「……うん、ありがとう十神君。私、色んな人の意見ばかり聞いて、みんなの為に何かしようってそればかりだった。でも、それだけじゃダメだよね。やっぱり、私自身が考えて答えを出すことも大切だよね」
「フン、精々努力するんだな」
俺はそう言うと、一之瀬をその場に置いて帰路に着く。
一之瀬に厳しいことを言うようだが、誰かの意見や考えを聞くことは誰にでもできることだ。しかし、一之瀬は向上心を持って学校を良くするために生徒会になりたいと思い、Bクラスの中心人物としてクラスを率いていく存在になりつつある。そんな彼女が、他人の意見にばかり振り回されているようでは、俺のクラスの格が落ちる。
十神財閥の次期後継者に相応しいクラスにする為にも人材育成は絶対に通らなければいけない道だ。遠回りは許されない。だからこそ、彼女には自分の力で考え答えを出すことを求めた。
(俺のようになれとは言わない。だが、自分の力で結論を出せるようになれば、それはきっと今後の人生で役に立つ。俺がそうだったのだから、彼女の人生にとってもプラスになるはずだ)
そう考え、俺は寮へと帰った。
翌日、ついに体育の授業で水泳の指導が始まった。この学校は温水プールを所有しており、年中季節に関係なく泳ぐことが可能だ。更衣室にはシャワールームも完備されており、授業後には身体を清潔にすることが可能だ。ドライヤーも10台設置されており、少し順番を待つことにはなるが、全員が短時間で髪を整えることができるのは有難い。一般的な市民プールの施設と何ら変わらないクオリティであり、この学校の資金の豊かさを改めて実感した。
「こんな時期にプールなんて珍しい学校だよな!」
「ああ。少し肌寒いが映す場所を、温水ならばすぐに温まるだろう」
柴田と神崎がプールについて話しながら着替えていると、ふと俺を見る。
「十神は水泳は好きか?……その体だとなかなか動きにくそうだが」
柴田がそう尋ねる。彼の質問に思わず俺は笑いそうになった。過去には有名な水泳選手のフリをして生活していたこともある。そんな俺が水泳を苦手なわけがない。
※当たり前だが、神崎と柴田は十神を本物の御曹司だと思っているので、詐欺師の過去なんて知らないのである。
「フン、あんまり俺を笑わせるな。俺はどんな体型であろうと、スポーツに支障をきたすことはない。十神の名にかけて、常に最高のパフォーマンスを披露できると誓ってやる」
「どんな体型でも最高のパフォーマンスを発揮できる、か。名言みたいだな」
柴田と神崎は納得したように頷くと着替えを進める。
そしてプールサイドに出ると、多くの生徒が既に集まっており、俺の肉体に釘付けになっていた。
「……十神、相変わらずデカイな」
「泳ぎにくそうだけど、大丈夫なのかしら?」
クラスメイトたちは俺の肉体に目を向けていた。するとそこに一之瀬が現れ、声を掛ける。
「十神君、その体だと泳ぐのは難しいんじゃない?大丈夫?」
一之瀬はそう言いながら俺の隣まで来ると、ちょこんと隣に座り込む。その行動には他の生徒も驚きを隠せずざわついた。
「流石一之瀬!優しいな!」
「十神!何かあったらすぐ言えよ!みんなでお前を助けるからな!」
男子も女子も口々に俺に声を掛けてくる。だが俺は一之瀬に顔を向け、口を開いた。
「そこまで、俺は水泳が不得意に見えるのか?」
「あ、あはは……な、なんかごめんね」
俺がそう聞くと、一之瀬は申し訳なさそうにしながら謝る。
(フン、まあ良い。俺は十神財閥の御曹司の影武者だ。体形の維持も運動能力の高さも、通常とは比べ物にならないレベルにあると自負している。最後に信じられるのは、脂肪と糖質だけだ。その為に、俺は日々肉を沢山食べてきた。コンディションはバッチリだ。見ていろ、愚民ども。俺の最高のスイミングを見せてやる)
そう思いながら意気込んでいると、体育科の教師がやって来た。
「見学者は……0人か。Bクラスは優秀だな。では、早速だが準備体操をしたら実力が見たい。すぐに泳いでもらうぞ。俺が担当するからには、必ず夏までに全員泳げるようにしてやる」
(……必ず夏までに全員泳げるようにしてやる、だと?どういうことだ?夏に水泳大会でも開催されるのか?まさか、その順位が俺たちに与えられるポイントに影響するということか?!これは真剣に水泳の練習をしなければいけないようだな。確か、学校近くのジムにはプールもあったはずだ。ジムに通うのも検討してみるか)
その後、準備運動を終えると全生徒はクロールを3本泳ぐ。そして全員が泳ぎ終わると集合の合図がかかった。
「じゃあ今からタイム測定を始めるぞ。今回は男女別に計測する。男女別でそれぞれ1位の記録を取ったやつには、特別に5000ポイントをやろう。逆に最下位になった生徒には補習だ。さぁ、始めるぞ」
水泳のタイム測定が始まり、俺は男女別に行われるタイム測定で1位の記録を取ることを目標にしていた。
「次の組み、位置につけ。よーい……ピーッ!」
ホイッスルの音が響き、全員が一斉に水の中に飛び込んだ。俺が飛び込むと一際大きな水飛沫が上がる。
「きゃぁ」
俺の後ろで順番待ちをしていた女子生徒、白波千尋に水飛沫がかかる。しかし、俺は本気で泳いでいた為、そんなこと知る由もない。
誰もが俺が最下位になると確信する中、俺は猛スピードで手足を動かし、スイスイとマグロのように泳いでいく。
「すごい!十神速いぞ!」
「十神君って、動ける……デブだったんだ!」
「はやすぎない?!十神君、水泳選手の早川選手の泳ぎにそっくり!実は早川選手本人だったりしない?」
沸き立つクラスメイトたちの声など耳に入ることなく、本気で手足を動かし続ける。前方を泳ぐ柴田を抜き、間一髪のところで1位に輝いた。
「……ハッ、と、十神23秒25、柴田25秒11……」
その後も、ゴールに着いた生徒たちの名前が呼ばれ、タイムが告げられていく。
(23秒25か。水泳選手の早川に成り代わっていた頃よりも、随分衰えたな。だがまあ、高校生の水泳レベルなら上位に入るレベルだ。これならば、十神の名に泥を塗ることは無いだろう)
プールから上がり、タオルで体の水を拭き取る。そして再び整列して次の計測が始まった。
俺はプールサイドに腰掛けて、泳ぐ生徒たちを観察することにした。しかし、人生はなかなか思い通りにはいかない。
「十神!」
「十神君!」
記録測定が終わった柴田や神崎、自分の番まで時間がある一之瀬等の生徒たちが俺の前に滑らないようにゆっくり歩きながら近付いてきた。
「……なんの用だ?」
「十神君、クロールすっごく速かったね!プロの早川選手を見てるみたいだったよ!」
「ああ!十神って水泳本当に得意だったんだな!疑って悪かった!」
「……十神、お前は凄い才能を持っているな。水泳の経験があるのか?」
一之瀬、神崎、柴田の順に話しかけてくる。俺は質問に対して嘘の回答をしていく。
「水泳に関する教育であれば、幼少期に受けている。十神財閥の御曹司が泳げないなど、あってはならないことだからな」
「そうなんだ!もしかして、早川選手とも知り合いだったりするの?泳ぎ方が彼に凄く似ていたように感じたんだけど!」
一之瀬にそう言われた時、俺は嫌な汗をかいた。それもそのはず、俺は以前水泳のオリンピック日本代表である、早川が不調で試合に出れなくなった時、彼に成りきり、何とか銅賞を獲得した経験がある。
早川の水泳映像を幾度となく観察し、早川の泳ぎ方の癖を分析し、できる限り彼に似せた泳ぎを習得したのだ。似ていると言われても、仕方はない。
だが、早川に似ていると思われ続ければ、いずれ十神白夜の影武者という可能性に行き着いてしまうかもしれない。それだけは避けなければいない。だから、この回答には嘘の中に真実も混ぜる必要がある。
(この嘘で!真実を隠す!)
「と、十神君?聞いてる?」
「……ああ、すまない。勿論聞いている。少し過去を懐かしんでいたんだ。オリンピック男子代表の早川とは受賞パーティーで会ったことはあるが、親しい中ではないな。だが、早川の元コーチである上村には幼少期、水泳の指導をしてもらったことがある。上村と早川の泳ぎはかなり酷似していることで有名だろう?だから俺も似た泳ぎ方を習得してしまっていたんだろう」
俺は咄嗟に十神財閥の別の御曹司の過去のデータが書かれたファイルの存在を思い出し、似たような経験をした異母兄弟の過去から、それらしい御伽噺を考えて話した。
「あ、確かに早川選手に似た泳ぎ方の選手が昔いたって話は聞いたことがあるかも!」
「へぇ!そうなのか!十神って本当に凄いやつと知り合いなんだな!なぁ、今度その時の話詳しく聞かせてくれよ!」
「フン、俺の話が聞きたければ、まずは俺よりも上の順位を取るところから始めることだな」
俺がそう言うと、柴田は笑いながら答えた。
「ああ!次は絶対に十神より速く泳いでやるぜ!」
「私も負けていられないな!女子で1位取れるように頑張らなきゃね!」
そんな会話をしながら熱い青春の1ページを堪能していると、一之瀬の番が近付いてきた。
「あ、そろそろ私の番みたい。じゃあ、行ってくるね!」
「ああ、頑張ってこい。お前の全てをぶつけてくるんだ」
俺は一之瀬にエールを送る。それから全員の測定が終わると、教師は1位と最下位の発表をした。
「それにしても十神!お前のタイムは世界レベルだぞ!水泳部に入って、先生と一緒にインターハイを目指さないか?ゆくゆくは、オリンピックも視野に入れて「必要ない。時間の無駄だ」……そうか。だが先生はずっと待ってるからな!お前の才能はこんなところで眠ってしまうには惜しいものだ!」
俺が拒否しても、教師の男は昔ながらの熱血漢といった様子でグダグダと水泳部に勧誘し続ける。しかし、授業の終わりが近くなると、慌てた様子で全員に早く着替えて次の授業の準備をするよう呼び掛けた。
(……世界レベル、か。だとしてもあの時の試合に比べればタイムは随分落ちてしまっている。少し体を鍛える必要がありそうだな)
俺はそんなことを思い、今日の夜こっそりジムに向かって入会手続きをしたのだった。