「スペちゃん。白鳥の湖は誰が作ったか知ってる?」
昼休み。マルゼンさんは、踊りのレッスンをしてくれている最中にそんな事を聞いてきた。
「あぁ、はい。確か3大バレエの……チャイコフ、スキーさん?」
私の受け答えに、マルゼンさんは「ぴんぽーん♪」と腕で丸マークを作って笑顔を向ける。
「白鳥になる呪いをかけられたお姫様のオデット。彼女に恋を宣誓する王子様ジークフリート。古典的だけど、ステキなお話よね♪」
一応、練習の前段階で物語は頭に入れたつもりだけど。ただ、どうしても、私はあの『王子様』の事は好きになれない。
「あら、そんな顔をしてはだ・め・よ? 男の子の一度の浮気(あやまち)くらい許せる器量を持たないと。あなたはオデットの役なんだから」
マルゼンさんは、笑顔のまま今度は指でバッテンのマークを作る。なんとなく、バツが悪かった。
「う、うぅ~。私よりマルゼンさんの方が王女様に向いてると思うんです。こう、気品というか……」
「ノンノン。他の人達からもスペちゃんが王女様役を推薦されたんだから、自信を持って」
彼女は「それに……」と口にすると、一旦間を置いてから語り始める。
「ワタシはどっちかというと『道化』の役割の方が向いてると思うのよ」
その語感的に、私にはどうにもマルゼンさん向きの役ではないように思えた。その感想を彼女も感じ取ったのか、くすりと笑いながら言葉を続ける。
「だって、オデットみたいに衣装が白一色じゃなくて、ワタシのトレードマークの赤だし♪」
「それが理由ですか~?!」
そのツッコミがマルゼンさんの期待通りだったのか、しばらくクスクスと二人で笑い合う。
「王女様、王子様……それはとてもステキな役だと思うけど。お姉さんは、観客にとって『親しみやすい存在』でありたいと思うの」
そう語るマルゼンさんは、どこか遠くを見据えているように感じた。やけに寂しそうな表情に映ったのは何故だろう。
――マルゼンさん。私はあなたを親しい存在だと思っています。
最初こそは、『全戦全勝常勝無敗のウマ娘』というイメージで、どこか雲の上のような存在に感じていました。
生ける伝説のような存在。歴史に名を残すようなウマ娘。
でも、一緒に過ごす時間が増える度にその印象は変わっていきました。
それは、マルゼンさんがとても気さくな方だから。それは、マルゼンさんがとても優しい方だから。それは、マルゼンさんがとても面倒見の良い先輩だから。
先輩としても、ウマ娘としても。マルゼンさんが、私の中で大きな存在になっていたから。
だから、その「寂しさ」を埋める為に彼女へ伝えなければならないと思った。
「私にとって、マルゼンさんは親しみやすい存在です!」
これまでの付き合いから感じていた事を、私は力強く言葉にする。
マルゼンさんは少しびっくりした顔をしてから……笑顔で一言。
「さぁ、踊りを続けましょう?」