偽典・女神転生 幻想郷黙示録 作:キャスディOTP
「いや、それもお前らがやれよ」
そうイホリが反対すると背中から生えている二匹の蛇頭が口を開けて威嚇していた。尾がないのでシャーシャー音は出さないとはいえ、我ながら妙な体になったと彼は自嘲する
「悪魔退治って幻想郷のだろう?助けてくれた恩があるとはいえ俺は一刻も早く…何かをしなければならないんだ」
「何かって何よ」
紫は呆れている
「えーっとそれは」
『創世だ』
瞬間、頭に響くしわがれた声
「そう俺は創世?をしなければならないんだ」
「あら感心じゃない。それは貴方の半身の入れ知恵?」
「多分そうだ」
「ならあなたが何の神なのか聞いてみてくれる?」
しかしその後一切“声”からの反応はなかった。合一した何者かの神は『創世』という単語だけのみ望んでいるようだ
「それで創世ってなんだ?」
紫は説明しつかれてしまったのか呆れてしまったのか、黙ってしまったのでここで狐尾の女性、藍が口をはさんだ
「まぁ、馬鹿にもわかりやすく言うと世界を一度作り直す方法だ」
「つまり、姉や全世界の生命を甦らせることができるってことか」
「まぁ、そうとも言えるでしょう」
「どうやってやるんだ?」
「色々方法はあるけど、ナホビノであるあなたは外の世界の至高天に至るのが一番いいでしょうね」
紫が再び今度はストゥールに座りながら答える
「やっぱり外の世界じゃないか。なら今すぐ出るぞ」
「それは無理ね」
「なぜだ」
「だった貴方、弱いもの」
「あぁそうだな弱い。本当にナホビノかと疑ってしまうくらいに」
紫は嘲笑しながら言い放った、藍もそれに同調している。己は邪神と合一して不老不死で最強の存在になったのではないか、イホリの甘い考えがたった今へし折られた
「橙より弱いナホビノに創世なんて無理に決まっているでしょう。やっぱり悪魔退治を通して強くならないとね」
「具体的にどれくらいだ?」
「そうね…LV99くらいかしら」
「レベル!?レベルができちまったのかこの世界、まるでゲームじゃないか」
「滅亡以前もあったわよ。ちなみに現在の貴方のレベルは1ね」
レベル1。ゲームでいうと最初からだ、こんな大仰な蛇頭がついているのにレベル1。イオリは自身と半身に失望した
「それで、どうやってレベルを上げるんだ」
「簡単よ。狩りをすればいいの。悪魔を殺してそのマガツヒを吸収するのよ」
「さっきから言ってるがそのマガツヒってのはなんだ」
「言ってもわからないでしょうけど…生体マグネタイト。激しい感情の変動を起こす人間や悪魔なんかに苦痛を与えると放出されるもので、魔界には空間中にもあるし、元人間界にも多少は存在していたわね」
そんなものがこの世にあったのかとイホリは驚いた。苦痛を与えるとはどのような行動をさすかと逡巡しているとある方法が思い浮かぶ
「つまり…生きたまま捕食すればいいってことか」
「それが一番効率がいいでしょうね」
「あまり推奨できる方法ではないですけどね…」
紫は乗り気だが、藍は引いているようだ。無理もない。しかしイホリは余裕しゃくしゃくだった。なぜなら蛇頭に捕食させればいいからである
「じゃあさっそくその悪魔とやらがいる場所につれていってくれ」
そうイホリがいうと紫は扇子をしまい。何もない空間をひと撫でするとそこに歪が生じ、やがて眼球がのぞく不気味な空間の裂け目が現れた
「これに入りなさい。ここら辺は強大な悪魔が多いからレベル1の貴方でも勝てそうな悪魔がいる場所へ連れて行ってあげるわ」
(そういえばマヨイガ…今ここにいる場所は冥界にあるとか言っていたか)
なんにせよ難易度を下げてくれるというならありがたい話だ。眼前の異空間に少しおびえながら、イホリは不思議な香り漂うスキマへと飛び込んだ
***
そこは鬱蒼と生い茂る森の中の道だった、小鳥が囀り、青空がのぞいている。一直線に突き進んでいる道路は、舗装されていて安心感のある日本の原風景だ
「ここはどこだ」
「ここは、人里近くの本道ね。最近はここにすら弱い悪魔が出没して困るって霊夢から聞いていたのだけど…」
「紫様、発見しました」
蘭が見つけたそれは、頭が茄子のような形をした紫色の不気味な小鬼がいた。三人で蹲り何かを貪っている
「あれはなんだ?」
「幽鬼ガキだ。餓鬼道におちた元人間でかなり個体数の多いメジャーな悪魔だ」
「あんな不愉快な連中が、幻想郷にとどまるようになるなんてたまったもんじゃないわ。早く退治して頂戴」
蘭が無感動に答え、紫が不愉快そうに言った。元人間を殺すというのには気が引けるが、姉がいた世界を一刻も早く復活させるため、綺麗ごとは言っていられない
「よし」
「待て」
覚悟を決めたイホリがガキたちに忍び寄ろうとすると蘭が突如とどまるよう言った
「なんだ?」
「お前、魔法は使えるのか?魔法を使えるのであれば、弱点を突いた方がいい」
「使えるわけないだろ?占い師じゃあるまいし、それにせっかく変なものがくっついてるんだからこいつに攻撃させよう」
「…アナライズと唱えてみろ」
イホリには蘭の意図がわからなかったがとりあえず唱えてみることにした
【アナライズ】
すると何もなかった空に突如ゲームの画面のようなステータス表示が現れた
『幽鬼 ガキ』 lv 1
《ユニークスキル 集中攻撃》
HP MP 攻撃回数 マッカ EXP
20 19 1 20 9
物 火 氷 電 衝 破 呪
- 弱 弱 弱 弱 - 無
力 魔 体 速 運
3 2 5 4 1
所持スキル
ひっかき スクカジャ
「うわぁびっくりした!なんだこれまんまゲームじゃないか」
突然現れた画面に驚嘆する彼を面白そうに見ながら、蘭は自分自身にもアナライズと唱えてみろと言う
【アナライズ】
するとイホリのステータスも宙に現れた
『合一神 樹島イオリ』 lv 1
《ユニークスキル 最後の怪物》
HP MP 攻撃回数 マッカ NEXTEXP 8
50 100 1 0
物 火 氷 電 衝 破 呪
- - - - - 弱 吸
力 魔 体 速 運
7 7 7 7 7
所持スキル
アギ ザン ブフ ムド
狂いかみつき 毒の液
「ふーん。このレベル帯でスキル量の多さはなかなかいいんじゃないかしら」
「そうですね。狂いかみつきという中レベル帯での物理スキルも持っています」
「それに呪殺吸収、破魔弱点ねぇ。まぁろくでもない神が半身なのはわかるわね、蛇神であることと、創成へのこだわり…なんとなく神性が推察できるわ。いずれ正体もわかるでしょう。もう行くとしましょうか」
「はい、紫様」
「すまん、呑気に会話してないで誰かこれを説明してくれ。スキルってなんだ?弱点ってなんだ」
しかし後ろを振り返るとそこには誰もいなかった。フスマで移動してしまったようだ
「オイ!ダレダテメェ」
「ナンダシラネーアクマガイルゾ!ヨウカイカ?」
「ダレデモカマワネェ!コンナチーセーニクヨリコッチヲサキニクッチマオウ!」
弱い目に祟り目。二人がいなくなってしまった上に大声を出してしまったことでガキがイオリの存在に気付いたようだ
「くそっ!やるしかない。適当に撃つぞ」
【アギ】!
そう唱えると、イオリの細い指から拳大の炎が発射され、ガキの肉体を焼き貫いた
「ガァァァァァァ!!!」
苦痛にあえぐガキを横目にすぐさま詠唱を続ける
【ザン】!
するとどこからか小規模のつむじ風が起こり、カマイタチがごとくガキを切り裂いてミンチにした。今度は殺せたようだ
「ユルサネェ!!」
「コロス!コロス!!」
大やけどを負ったがまだ立ち上がるガキと、無傷なガキが今度は攻撃に移る
【ひっかき】
ガキは鋭い両手の爪でイホリの上半身を傷つけた
「いてっ!」
服が切り裂かれ、血しぶきが上がる。立て続けに無傷のガキはイホリに接近すると頑丈な歯を使い腹を噛んだ
「グウッ!」
急所にあたった!激痛と共に腹肉の一部を持っていかれてしまう
【ひっかき】
一瞬、三途の川が見えたイホリは気合いで爪で切断を躱した
「この野郎!見てろ」
激痛から立ち直ったイホリは怒りのままに魔力を張る
【ブフ】!
手負いのガキの上に氷のつぶてが現れるとそのまま落下し、砕け、ガキを氷の彫像に変えた
【狂いかみつき】!
攻撃を畳みかける。縮地のように高速で最後のガキの下に接近すると、二対の蛇頭が襲い掛かりガキは身体全てを穴だらけにされて死亡した
《戦闘に勝利した レベル2に上昇》
絶大な疲労感と痛みがイオリの身に来襲した。体力精神力共に相当持っていかれたようだ
(危なかった。もし最後の攻撃が当たっていたら死んでいただろう)
半身は不老不死の存在になれると語っていたが真実かどうかはわからないし、試す気もなかった。わかってはいたことだが命のやり取りは相当重い
(魔法があったとはいえ、ここまで疲弊するとは思わなかった)
どこが弱い悪魔なのか。あの二人に対する怒りが湧き上がってくる。今度会えたら文句の一つでも言ってやろうと考えたが、彼は知らなかった
もう二度と“八雲紫”と“八雲藍”に会えないという事実を
(疲れた、人里が近くにあるんだったな。そこまで移動するか)