偽典・女神転生 幻想郷黙示録 作:キャスディOTP
無人の人里、すでに陽は墜ち、頼りない薄明りだけが支配する薄明の空間
そこを複数の悪魔が我が物顔で跋扈していた、さながら百鬼夜行のように写るが移動しているのは全て西洋の悪魔である
粘液を吐き出しながら這いずりまわっているのが『邪竜 ワーム』、『外道 ブラックウーズ』、『外道 スライム』
複数の足と頑強な肉体を持ち、その膂力で獲物を捕らえ捕食する獣たち 『妖獣 バイコーン』『妖虫 ミルメコレオ』
魔力で、宙に浮かびながらその傲慢さを全面的に醸し出しているのが『外道 レギオン』『邪神 バフォメット』
いずれもDARK-CHAOS種族に属する。混沌と殺戮を好む邪悪の使途たちである
いずれも自由を愛し、縛られるのを嫌われる彼らであるが、今回はバフォメットを群れの長とし、つるんでいるようだ
…いや、知能の低さゆえに支配されているというのが正しいか
「驚いたな」
バフォメットは低く掠れた声を出しながら、眼前の獲物を睥睨する
「…殺さないで」
おびえて蹲る、ピンク色の髪をした少女。鯨をあしらった帽子をかぶっており、前掛けをつけたその姿からどこかの酒場の店員のようにも見える
「こんな“小さな人里”の人間どもは我の【まどろみの渦】で眠らせたと思っていたが…?貴様どこに隠れていた。今先ほど回収が終わったというのに」
少女は恐怖で声も出せなくなってしまったようだ、泣きながら震えている。その様子を見て外道たちは下賤な笑みをこぼす
「まぁいい。神獣が起きる前にこれを見つけられたのは幸いだった。おい!この女を“
そう言ってバフォメットは頭上の炎と煙をくゆらせながら手下である悪魔達に指示する
「先も言ったがくれぐれも丁重に扱えよ。こいつらは貴重な人質だからな。フォツフォッフォ」
そうして少女はバフォメットのキツケにより、気絶させられバイコーンの背に放り投げられるそうになる、その時だった
おなじDARKの理を持つ、人蛇一体の悪魔が降りてきたのは
「そこまでだ!」
【ブフ】!
「!!!!??」
氷のつぶてがバイコーンの頭部に命中し、突然の攻撃によってパニックになった黒馬はどこかに逃げていった
「貴様?!何者だ!」
「人里の人間を消したのはお前らだな?彼らをどうした、殺したのか」
バフォメットは驚いた様子だが、イホリを分析すると嘲笑を浮かべる
「なんだlv2の雑魚じゃないか。高位の邪神たる我に勝てると思ってるのか?」
「質問に答えろ」
『邪神バフォメット』のレベルは33。その取り巻きたちもlv12からlv29とイホリよりはるかに高い
「里人をどうした」
「ふん、殺しはしていないさ。お前たち人間は察知できない異界にて人質として拘留してるだけだ」
「目的はなんだ」
「雑魚に答える必要はないな。ヒーロー気取りのお前が、今できることは惨たらしく死ぬことだけだ!」
【ムドオン】
山羊頭の邪神の指先から漏れ出した闇がイホリを包む。得も言われぬ不吉な感覚があるが、効果はなかったようだ。むしろイホリは体中の傷が癒えるのを感じた
「む、耐性か。面倒な、おい誰かこの馬鹿を始末しておけ。我はまだやることがある」
要は呪殺吸収持ちのイホリを相手に呪殺属性の攻撃魔法しか持っていなかったのである。バフォメットはバイコーンに放り投げられた少女を魔法で浮かべると緩慢な所作で逃げていった
「待て!」
イホリは蛇頭を伸ばすが、眼前の悪魔によって防がれる 『邪竜ワーム』と『妖虫ミルメコレオ』だ
「食っていいぞ」
「グォォォォ!!1」
バフォメットは捨て台詞を吐くと、そのまま少女と外道たちをつれて闇に消えた。残された悪魔二匹はイホリという久しぶりの食事を前に昂っている
『妖虫ミルメコレオ』 lv 29
《ユニークスキル 必殺の調べ》
HP MP 攻撃回数 マッカ1000 EXP 600
293 110 1
物 火 氷 電 衝 破 呪
- - - 弱 - - -
力 魔 体 速 運
31 26 48 37 32
所持スキル
タルンダ 狂いかみつき
『邪竜 ワーム』 lv 22
《ユニークスキル 死に至る病》
HP MP 攻撃回数 マッカ500 EXP 200
99 10 1
物 火 氷 電 衝 破 呪
- 弱 - - - - -
力 魔 体 速 運
30 16 29 12 15
所持スキル
ディア 突撃 テール
レベル差、ステータス差から見てもイホリに勝ちの眼はない
ユニークスキルの面から見ても《必殺の調べ》《死に至る病》は味方全体は物理属性のクリティカルダメージが上昇し、状態異常の敵に対して命中率とクリティカル率が上昇するという合わせると恐ろしい代物だ
しかし、逃走は許されない。戦うしかなかった
【アギ】!
「キョォ!!!!」
Hpが比較的低く、攻撃力の高いワームから狙う。弱点の火炎魔法で燃やすと悲鳴をあげ、肉の焼ける匂いがした
「さらに【アギ】!」
火球がワームの下腹部に着弾すると今度は前回とは比べ物にならない絶叫を上げてのたうち回る。あと二撃火炎魔法を命中させれば殺せるだろう
しかし、問題は妖虫ミルメコレオの方だった
上半身が獅子で下半身が蟻の身体をしたこの悪魔はバフォメット率いる悪魔達の中では最もレベルが高く、耐性もイホリがもっていない電撃弱点と強敵である
「ガハッ!」
イホリは突進を食らい吹き飛ばされた。スキルではなく、ただ体当たりされただけでこの威力。レベルの差は絶大である
【テール】
皮膚を燃やされて怒り心頭のワームは倒れたイホリに自身の強力な旋回する尾で攻撃した
「ぐぅっ!」
あと一撃食らえば死ぬだろう。邪悪な生物の本能か、それともイホリ本来の性質か。息絶える前にせめて瀕死のワームだけはと、殺しにかかった
【アギ】!
「qrr!!!zdsjfjgszk!!」
死に体のイホリが唱えた魔法により熱線がワームを焦がす
「ウォォォォ【アギ】!」
「キョォォォォォx!!!!」
更に追撃する火球を放ち、ワームを燃やす。内部に油でも詰まっていたのか、燃え尽きる前に体中が爆発四散した
「グォォォォォx!!!」
【狂いかみつき】
その爆発に驚いたのかミルメコレオは発狂しながらイホリにかみつき、咀嚼しながら振り回す。これにより致命の一撃を食らい、声も出せなくなったイホリは下半身を食いちぎられ、血しぶきを上げながら上半身は地面に放り出される
(ここで、終わるのか…)
生に未練があるとするなら、創成のことだった。姉が生きていて、なおかついじめられない世界を創り直したかった
姉の赤茶色の髪、
走馬灯に思い浮かぶのは姉、樹島サホリの顔と記憶ばかり
そして、最後にイホリの眼に映ったのは広大な宇宙と、そこにいる半身だった
広大な宇宙に蜷局を巻く、ウロボロス世界蛇の如き巨体の蛇。上半身だけは人間のそれで恐ろしい眼光を放ちながら、天をも擦る大男の怪物はイホリを見下ろしながら言った
『まだ使命を果たしておらぬ』
そういうと怪物は肩から生えた無数の毒蛇を、すでに息絶えたイホリの蛇と入れ替えた
『残り98匹』
そうしてイホリは目覚める。また会おう、最後にそんな言葉を聞いた気がした…
***
「ハッ!」
黄泉から蘇ったイホリはまず最初に下半身の確認をした。五体満足に四肢がついている。捥ぎ取られた腰から先も、失った血液も文字通り再生している
こんな芸当ができるのは文字通り己の半身しかいない
「助かったのか?」
いや、まだ終わっていなかった。おそらく再生までに30秒とかかってないのだろう、まだ戦闘は終わっていない。屠ったはずの獲物が生き返ったことに気づいていないミルメコレオは呑気に四散したワームの焦げカスを食べていた。おそらく蛇が生えたイホリの身体には猛毒があると思ったのではないか
「しねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
【狂いかみつき】
「ギャオアン!」
ミルメコレオは新しく生え変わったイホリの蛇による奇襲をもろに受け悲鳴を上げながら横転した。急所にあたったようだ
【毒の液】
イホリはさらに蛇頭にかみつかせたままミルメコレオの静脈に毒を注入する
ここから先は死と血と毒が飛び散る、死屍累々の、己の命を使ったマラソンだ。絶望的なレベル差があって、ある程度蘇れる保証がある以上これしかないとイホリは考えた
ひたすら【狂いかみつき】を連打する、何の知恵もないごり押しだが、運が良かったのかミルメコレオの急所にあたり何度も横転する姿が見られた
そして絶え間ない回数イホリは死んだ…
ミルメコレオも【狂いかみつき】を持っている。何度も何度も肉をえぐられそのたびにショック死や失血死を繰り返し、再び半身に呆れられながら再生し、最後には己も獣の一つとなって雄たけびを開けながら蛇頭と共に突撃した
結果…
《戦闘に勝利した レベル12に上昇 アギはアギラオに変化した マハラギを習得した》
『残り88匹…』
アナウンスのように半身の警告が頭の中に響いた。これまでで12匹の蛇頭を犠牲にしている、つまり6回死んだということだ。衣服は自身の血と歯型にまみれボロボロになっているし、何度も死と再生を繰り返したせいで“覚醒酔い”のような眩暈に襲われている
しかし、気分は晴れやかだった。レベルが上がってステータスが上昇したのか前より肉体精神共に丈夫になった気がする
しかし、悠長に勝利の余韻に浸っているわけにはいかない。急いで連れ去られた少女を追わなければ
「待て」
イホリが最後に見かけたスライムの方角へ向かおうとしたその瞬間、凛とした透き通るような声が彼を呼び止めた
その刹那、急激にが強くなる
「うわっ、なんだ!」
イホリは立っていられなくなり、その場に座り込んでしまう。そして、彼は急速にすべてを理解した。過去、現在、すべての情報が入り込んでくる、そして“人々の声”も
(そうだ。何が小さい無人の人里だ、“広大で大勢の人間がいる活気ある人里”じゃないか!)
「大丈夫か?」
目を開けるとそこには赤銅色の眼に、蒼の混じった銀髪をした美しい女性がいた
「俺は…」
「ウォォォォx!!!」
「よくやった!」
「見直したぜ!悪魔のねぇちゃん?にぃちゃんか」
瞬間、歓喜の喧騒に包まれる。周囲を見ると武装した多数の里人たちが松明や武器を手に抱えながらイホリを褒めたたえている
「何が、起きて…」
「声をかけるのが遅れてすまなかった」
五重塔のような帽子をかぶった女性はただ平謝りしている。イホリには何が起きているのかさっぱりわからなかった。そもそも己はなぜ“無人の人里だと勘違い”していたのか
「慧音の能力だよ」
すると女性の傍らにいた新雪のごとき肌と髪をした緋色の瞳の少女が不敵な笑みをこぼしながら言う
「どういう…」
「お前の戦い見てたぜ。まさか不死人が他にもいるとはな。人間とも違うし、蓬莱人とも違うようだが」
なぜかイホリは自身の能力をすべて見透かされた気がした。不死人とはなんだ、この紅白リボンのモンペを来た女性はいったい何者なのだ
「慧音、それで奴らの能力のからくりはわかったのか?」
「えぇ。山羊の悪魔は常世と言っていた。常世、つまり常世の国、奴らが利用している異界の正体はそれです」
疑問を問う間もなく白髪の少女と銀髪の女性…慧音との間で話が進んでしまう。そしてとうとう胴上げが始まるが、イホリは当人なのに一番蚊帳の外だった
「よし、みんな聞いてくれ。美宵を始めたとした一部の有志や、そこにいる悪魔が体を張ってくれたおかげで奴らの厄介な能力の正体が分かった。悪魔達はおそらく妖精を利用して亜空間移動をしている。かくれんぼはもう終わりだ!今から彼女、エタニティラルバがいる場所に攻め込むぞ」
「ウォォォォォォォ!!!」
彼女の言葉を皮切りに迸る熱気、喊声が里中にこだまする。どうやらバフォメットらには相当辛酸を舐めさせられたらしい
「もちろん志願兵以外は来なくていいからな!私としてはお前たちを傷つけさせたくない気持ちしかないんだ。今回の偽装工作だってうっ…」
「慧音、それは士気が下がるから。やめとけって」
涙む慧音を宥める少女、イホリはその様子を見て事態の全貌をようやく掴めそうになってきた
「なぁ、あんたも来るだろ?山羊悪魔に引導を渡すのは即死魔法が効かない私か、お前しかいない」
少女は妹紅と名乗ったが、以前正体がつかめなかった。人間であるが人間じゃない、まるでナホビノだがそれとも違う、純粋な…魂の入れ物?
「どうした?ついてくるのか、来ないのか」
「は、はい」
もともとすぐ悪魔の下へ向かう腹積もりだったとはいえ、灰染めの髪の少女、妹紅と場の雰囲気に押されイホリは身を小さくしながら討伐隊に加わった