偽典・女神転生 幻想郷黙示録   作:キャスディOTP

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神仙郷と黄金のリンゴ

一面を埋め尽くす、鮮やかな黄色の花。夏も終わりだというのに大輪を咲かせている眼下の向日葵たちを見て、イホリは感慨に浸っていた

 

「向日葵もここまで咲きほこると壮観だな」

 

外の世界の千葉県や北海道などにも似たような向日葵畑はあるが、奥地に拡がる何ヘクタールもある草原に、ここまで本数のある向日葵が咲いている場所は幻想郷にしかないだろう

 

藤原妹紅、樹島イホリの二人はそんな太陽の畑にて聞き込み調査を行っていた。もちろん捜索対象が妖精なので、聞き込み相手も妖精に限られる

 

「それで、彼女を拉致された場所には心当たりがないと?」

「うーんラルバの妖力はわかりやすいから、彼女が最近消えたのはわかってたけど。まさか攫われてるなんてね、てっきり誰かに殺されて一回休みの状態になったのかと思ってたわ」

 

金髪の妖精はのんきな様子でエタニティラルバ拉致の人物に心当たりはないと応える。妹紅は重い息を吐いた。これで17体目だ

 

「妹紅さん、それで、まだ彼女の居場所はわからないんです?」

「駄目だな。どうもこの太陽の畑以外の場所で拉致されたようだ」

「当てが外れたみたいですね…」

 

里の人間たちには太陽の畑、そこへ向かう道中は危険なので慧音たちと別れたのが30分ほど前。空を飛べる妹紅とは別に、移動手段が全力疾走しかないイホリにとってこの太陽の畑を抜けるだけで一苦労だ。イホリは大きなため息をこぼした

 

「妙だな。里の御阿礼の子曰く、エタニティラルバ改め常世神は普通の妖精と同じく太陽の畑を中心に活動していると聞いたんだが」

「話に聞いた例外の妖精のように、霧の湖に住んでる可能性は?」

「ないな。そもそもアゲハチョウの妖精なんだから、寒い所は苦手だろう」

 

こうなると残る手は彼女の妖力を逆探知するしかなくなる。いくら幾星霜の時を生きた蓬莱人たる妹紅でも名しか知らない妖精の幽かな妖力を探知するのは厳しい

 

「かくなる上は彼女と親しかったさっきの妖精を無理にでも連れて行って私が幻想郷中を飛び回るしかないか…」

「私も空が飛べたらよかったんですけどね」

「お前も魔力はあるから、飛べないはずはないんだが…。いかんせん素質が地上の戦闘に偏過ぎているきらいがあるな。捜索も、それに伴う弾幕勝負も厳しい」

 

蛇は地を這う者で、空を飛ぶ蛇など聞いたことがない。空中戦が基本の弾幕ごっこでイホリが全く役に立たなかったのもそのせいである

 

「せっかく強力なスペルカードを作れたというのに…勿体ないやつ」

「死なないっていう話が本当だったら、私も下手なりに努力しようとはしますよ」

 

しかし、弾に当たれば死ぬ。女の子しかやらないゆるふわごっこ遊びではなく、弾幕が当たったら爆発して死ぬ普通の戦争である。当たり判定が蛇頭のせいで横に広く、グレイズも何もないイホリには無理難題だった

 

「不死身なんだからいいじゃん」

「不死身じゃないです。50回死ねるだけです」

 

∞と50では天と地ほどの差がある。イホリは自身と似たようなものとして謙遜する白髪の少女の存在を半ば畏敬の念を込めて見ていた。真の不老不死とは死と生がないということ。つまり“知恵の身を食す前の純粋な人間”ということだ

 

「それより、他の方法を考えよう。私もいくら慧音の頼みとは言え妖精をつれて幻想郷を駆け回るのは面倒だ」

「だったら最後にこの土地の管理者に聞くのはどうです。風見幽香とかいう人に、彼女が攫われたのがこの場所でないのなら彼女は知らないはずですし、逆にこの場所なら彼女は絶対に知っているはずですよ」

 

イホリのその発言で妹紅は根本的に間違いに気付いた。失念していたとでもいうような表情で頭を抱える

 

「そうだった、よく考えたらありえないんだ。風見幽香がいる時点で攫われた場所に太陽の畑はありえない。だって今もお前の首を虎視眈々と狙っているようなイかれた女がいる時点で悪魔が侵入できるはずがない」

「え、私狙われてたんですか。風見幽香とかいう人に」

「そうだ。今は私が抑えてるから大丈夫なだけであって、もう70回は殺されてる」

 

余裕で50を超過している。イホリは額に脂汗を浮かべて、今すぐこの場所から出ましょうと急かす。しかし、妹紅の緋色の瞳はある存在を捕えた

「む、あいつは…」

「なんですか。風見幽香が今にも私をミンチにしようと向かってきてるんですか!お願いします、なんでもするから助けてください」

「いや、珍しい存在を見つけてな。ピクシーだ」

妖精(ピクシー)?そんなもんそこら中にいるじゃないですか」

「悪魔のお前が知らないのか…そっちじゃない、最近増えた悪魔の方のピクシーだ」

「悪魔のピクシー?なんですかそれ」

 

妹紅が指をさした方には、向日葵の陰で休む赤髪に露出の多い青のレオタードを来た確かに周囲の妖精とは違う存在がいた

 

「あれがピクシー?」

「見ろハイピクシーもいるぞ」

 

ピクシーの傍らには水色の髪を逆立てたピクシーよりやや大きい体躯の妖精もいる。二人とも涼し気な様子で低空飛行しているので、周囲に溶け込んでおり今まで気づけなかったようだ

 

「へーあんなもんが悪魔なんですね。てっきり『外道』とか『邪神』みたいな邪悪な存在ばかりが悪魔と数えられるばかり」

「私も話半分にしか聞いてないがどうやら悪魔にはLIGHT、NEUTRAL、DARKの三つの属性に分けられるようだ。おそらくピクシーはNEUTRALだろう」

「じゃあ仲間、違った仲魔にできるんですかね」

「何?悪魔は仲間にできるのか!初めて知ったぞ」

 

悪魔に関してはなぜかイホリよりも造詣が深かった妹紅だが悪魔を仲魔にできることは知らなかったようだ。目に見える形で驚嘆している

 

「えぇ、河童曰く豊聡耳神子、聖白蓮、二ツ岩マミゾウという人物らが会話で悪魔を支配できたようです」

「マミゾウ?あぁ、憑依異変で世話になった狸の旦那か、最近竹林でも妙な活動をしていると思ったら」

 

妹紅は挙げた人物に心当たりがあるようだった。イホリはその化け狸とやらに今度話を聞いてみようと考えた

 

「じゃあイホリ、さっそく行ってこい。ピクシーを仲魔にしてみろ」

「え、いきなり?マミゾウにコツを教えてもらうとかなく?」

「同じ悪魔なんだから口説くにコツもないだろう。それにこんなチャンス二度とないかもしれんぞ」

 

(自分を70回殺せる人物が機会をうかがっている今はチャンスなのか…?)

 

しかし、イホリは考えるのを辞めた、さっそくピクシーたちの下へ向かう。妹紅も地上へ降りて悪魔会話の様子を固唾をのんで見守る

 

「へぇ、見ない顔の悪魔ね…」

「あなたも何か探しもの?」

→「妖精を探している」

「どんな子?」

→「緑髪に蝶の翅が生えた妖精だ」

「あたしその子なら知ってるわよ」

→「本当か!?どこにいる」

「そんな大声出さないでよ…。魔法の森の洞穴の近くで見たわ」

→「ありがとう。それで仲魔になってくれ」

「いきなりすぎない?ちょっと引く」

→「ごめん」

「まぁいいか。ちょうどあたしもお願いも聞いてくれる悪魔を探していたの。この太陽の畑を出て玄武の沢へ連れて行ってくれる悪魔をね」

「どうあたしを仲魔にする?」

→「はい」

「…あたしは妖精ピクシー。今後ともヨロシク、ね」

 

《『妖精 ピクシー』 lv2が仲魔になった!》

 

『妖精 ピクシー』 lv 2

 

《ユニークスキル 悪魔の仲立ち》

 

HP MP 攻撃回数 マッカ0 NEXTEXP 10

36 24 1            

物 火 氷 電 衝 破 呪

- - - - 耐 弱

 

力 魔 体 速 運

3 6 4 2 7

 

所持スキル

ジオ ディア

 

「そうと決まれば、こんなとこ早く出ましょ」

 

大収穫だった。妹紅の下へ戻り、エタニティラルバの場所を特定し、妖精ピクシーを仲魔にしたことを伝える

 

「傍から見ていたが、なかなかやるじゃないか。私も今度別の悪魔に試してみることにしよう。1300年近く生きてきたがこんなことは初めてだしな」

 

妹紅はなにか考えがあるようだ、背を岩に預け何か熟考している。不老不死の身でありながら悪魔を利用して何かやってのけようとしているのだろうか

 

イホリはふととある事実を思い浮かべた。1300年前、飛鳥時代か奈良時代かは曖昧だが西暦は700年だろう

 

西暦700年の藤原氏…鎌足は違う…、ならその息子藤原不比等(ふじわらのふひと)。淡海公として葬られた彼は四人の妻を娶って10人近くの子をもうけていたが…その中に妹紅なんて名前はいただろうか

 

(まさかな)

 

「?どうかしたのか」

「いえ、さっそく魔法の森とやらに向かいましょうか」

 

仮に事実だとしてもそれが何だというのだろう。いくら不比等の子だとしても歴史に埋没した人物など珍しいことではない。彼には名称不明の5女がいたという説もあるし、それにこの時代の貴族の男など、やりたい放題で有名だ。そんなんだから竹取物語で平然と誹謗されたのだろう

 

 

 

***

 

まっすぐに伸びた豊富な樹種が隙間なく林立しており、陽の光すら届かない原生林、魔法の森

 

二人がその鬱然と広がる境界に足を踏み入れた際、陽はすでに地平線の下へと沈もうとしていた

 

「ゲホッゲホッなんだ、想像していたよりもよほど空気が悪いなここは」

「キノコが放つ高濃度の癪気だ、あまり長居しないほうがいいだろう。呼吸器官からやられると死ぬまでに地獄の苦しみを味わうことになる」

「死ぬ前提なのか…まぁいいです。ピクシーの言っていた洞穴とやらに向かいましょうか」

 

そのピクシーだが魔法の森の癪気に耐えられないのは明白なので外の道に待機してもらっている。もっとも玄武の沢は、魔法の森のすぐ隣なので彼女は帰ろうとすればすぐに帰れるのだが

 

「見つけた。あれじゃないですか」

「やっとか、私はもう足が痛くなってきた。魔法の森じゃ上空を飛べないのが悔やまれる」

 

南へと下った先にそこだけ日光の光が降りている洞があった。かなり目立つので広大な魔法の森の中でも、彼女は場所を覚えられたのだろう

 

「しかし、妙だな。常世神、ラルバはなぜこんな辺鄙(へんぴ)な場所にいたんだろう」

「越冬用じゃないですか。洞穴なら中は温暖でしょう、それにこの癪気で妖怪も人間も入ってこないと来た」

「しかし、悪魔は入れるようだな」

 

妹紅が視線を向けた先には緑のヘドロのような物体と石油の塊のような不定形の生物が列をなして洞穴の中へと帰っている。『外道 スライム』と『外道 ブラックウーズ』だ

 

「ビンゴですね。じゃあ早速慧音さんと里の人たちに報告にいきましょうか」

「いや慧音に伝える必要はない。この場で片付ける」

 

その言葉にイホリは困惑したが、妹紅はすでにやる気のようだ。どのみち里人は癪気で入れないし、神獣たる慧音でも満月でない今では大した力もないようなので、この二人だけで突入するのはある意味英断といえる

 

「ではどうやって侵入しましょう。コソコソ隠れていくか、正面突破か」

「私の扱う魔法や弾幕は派手かつ効果力だから、くだんの常世神を巻き込んでしまう可能性が高い。役割分担といこう」

「わかりました。Lv12だけど大丈夫かな?」

 

イホリが侵入および陽動、妹紅が人質やラルバの解放といった分担になった。ピクシーは外に置いてきてしまったので戦闘は当然だがイホリ一人で行う

 

《『人間 藤原妹紅』 lv99がゲストゲストキャラクターとして加わった!》

 

ゲスト『人間 藤原妹紅』 lv 99

 

《ユニークスキル 老いる事も死ぬ事も無い程度の能力》

 

HP MP 攻撃回数 マッカ500 NEXTEXP 0

308 383 1            

物 火 氷 電 衝 破 呪

耐 吸 弱 - 耐 無 無

 

力 魔 体 速 運

64 88 70 78 68

 

所持スキル

フェニックス再誕 ラグナロク アカシャアーツ 火炎プレロマ 火炎ギガプレロマ

コンセントレイト 奈落のマスク 物理耐性

 

 

 

***

そしてそんな二人の闖入者(ちんにゅうしゃ)と時を同じくして、洞穴の奥にて相対する二人の悪魔がいた

 

『邪神 バフォメット』と『魔王 ロキ』である

 

「今回の遠征の結果はこれっぽちか。スライム、レギオンどももっと多くの金銀を削ってこいと言っただろう。おいバフォメット!お前はいい加減に不老不死の神薬を見つけたのか」

「いや、我は…」

「じゃあ純白の鳥獣は?見つけたのか」

「…否」

「何やってんだ!!お前らは」

 

紫色の肌にロックなボンテージスーツを着た蝙蝠羽の男、ロキは大声を出した。北欧神話の悪神にしてトリックスターだが、今回は普段のひょうひょうとした余裕あるふるまいとは違い、どこか必死で切羽詰まっている

 

「こんな機会。またとないんだぞ!常世国だぞ!あの神仙郷の!玲瓏たる金玉できた宮殿に、不死の妙薬。そこにしか住んでない神鳥!それがどれだけ貴重なのか、お前ら理解できてないだろう!」

「いや我は、それよりやらねばやらぬことが」

復讐の女神たち(エウメニデス)達の復活だろう?そんなことはわかっている。だが今やるべきことはそれじゃない。目の前の神薬だ」

「なら貴様が探せばよかろう…なぜ我がやればならぬ」

「それができたらとっくにしてるっつーの。この妖精の操作で忙しんだよ」

 

ロキの傍らにいる水色の髪に幼虫特有の黄色い角をはやした少女、エタニティラルバは幸せそうに眠っているが、夢遊病者のように歩き回りながら普通の人間が見たらある種精神に異常をきたすような神秘的な舞を踊っている

 

その姿を受けて煌々と輝く龍穴は、その近くに散布された大判小判と同じ黄金にきらめき、崇高な気配を漂わせている。これが常世へのポータルだった

 

「おれの【精神支配】のスキルは強力だが、その分操作中は一切体の自由が効かないんだ」

「口の筋肉は動かせるようだが…」

「与太を吐くんじゃない!山羊風情が何様のつもりだ」

 

酷い言われようだが、lv33のバフォメットと違いロキはlv56もあるので戦闘になればバフォメットに命はない

 

「しかし貴様はすでに不老不死の源である黄金のリンゴをいくつも所持しているであろう…なぜ神薬にこだわる」

「リンゴは神の、不老不死の源であって人間が食っても効果はない。しかし神薬…“蓬莱の薬”は違う。それを食ったどんな生物も不老不死へと昇華させることができる。おまけにその蓬莱人の生き胆を食えばほかの奴も不老不死になれるという致せりつくせりだ。オレは人間を不老不死にしたいんだよ」

「しかし神薬はおそらく常世国…蓬莱山の中でも頂上にあって、とても我の配下にはできない。道中の純金箔や純銀箔を削るくらいしか…」

「だから無能だって言ってんだよ!クソ、こうなる前に有能な手下を連れてくるべきだったぜ」

 

ロキは嘆く。今ここで【精神支配】を解除して本国へ戻ることは簡単だが、エタニティラルバがこの舞を踊りだしたこと自体奇跡みたいなものなので、二度目の支配では常世にアクセスできなくなる可能性があった

 

「しかし、このままじゃこの妖精の精神力も尽きるか…仕方ない。何が起こるかわからんが一度解除して」

「そこまでだ!」

「!」

 

洞穴に少年の凛とした声が通る。ロキが音の方へ眼をやるとそこに毒液が吹きかけられた

 

「ああ、ああぁぁ……目がぁぁぁああああーーーー!!」

 

ロキは毒弱点なため、眼球に猛毒を食らったロキはショックと痛みでのたうち回った。その際に【精神支配】の魔法は途切れたようだ。エタニティラルバは目を覚ますが、呆然自失で何が起こっているのかわかっていない。その憐れな妖精を早速と救う少女の腕

 

「貴様らは…あの時の」

「ずいぶん会話に熱中していたな」

 

背から翼でなく蛇を生やす怪物樹島イホリは、すでに勝ち誇った様子で、その怪しく輝く紫の眼光で二人の悪魔を見た

 

「人質の救出は容易だったぞ」

 

そしてイホリの背後から展開される炎の領域。刹那、轟音と共に隕石のように劫火の翼を携えた少女が降ってきた。藤原妹紅である

 

「そもそも人質というか、お前らは半分慧音の策に乗せられてんだがな」

 

本来の慧音の《歴史を食べる程度の能力》であれば人里の完全な秘匿が可能なのだが、バフォメットたちはすでに里を認識しており、常世からコソコソと干渉してきたため人口の極端な減少と、里の規模縮小程度に収まったのだった

 

「さぁどう料理してやろうか。山羊頭はともかくそこにいるパンクな悪魔はちょっと強そうだな」

「妹紅さん、やっちゃってください!」

「お前もやるんだぞ?」

 

意識が明瞭になったロキは【精神支配】を妹紅に試みるが効果はない。Lvが上の相手には効かないようだ

 

「くそ、なんなんだこいつ。ここにこんな強大な奴がいるなんて知らなかったぞ。しかも人間だと」

「ロキよ。ここは幻想郷だ。我らより強大な人間がいてもおかしくない場所だぞ。だからこそ常世より隠伏し、霊界トランス状態となって活動していたのだ」

「山羊は黙ってろ!畜生、いったん退くしかねぇな」

「逃がすと思うのか?」

「逃げさせてもらう」

 

【マハムドオン】

 

バフォメットは範囲呪殺魔法を唱えるが、当然二人に効果はない

 

「やれやれ、あの亡霊といい、どうして私に出会い頭に死の術を食らわせようとしてくるんだ?」

「我々に呪殺が効くと思うな」

 

【アカシャアーツ】!

【狂いかみつき】!

 

妹紅は身体は弱いが、不死身だからこそできる肉体への反動を顧みない高位の物理技で、イホリは半身の持つ凶器でバフォメットに襲い掛かり、哀れ山羊頭は肉体を悉く破壊され、吹き飛んだ

 

「ガァァァァァァ!!!貴様らよくも」

「まだ生きてるのか。タフな奴だ」

 

妹紅はバフォメットの生命力に感心していたが、耐えられたのは奴の持つスキル【食いしばり】によるものである

 

「我も堕ちたものだ。一時期は聖堂騎士団の崇敬を集めたほどの大悪魔だったというのに、このざまよ」

「あぁそうだな。さっとと死ねい」

「しかし侮るな」

 

そう言ってイホリが瀕死のバフォメットにとどめを刺そうとした瞬間、地面が紅く輝く。洞穴の地面に施された魔方陣が山羊悪魔の一挙動によって起動したのだった

 

「逆五芒星か」

 

洞穴全体に施された悪魔の象徴たる魔方陣。『召喚陣』ともいえるそれは邪悪な気配を漂わせながら今恐ろしき術式を発動しつつあった

 

「我はバフォメット。サバトの山羊、暗黒の皇帝にして、黒ミサを司りし者。今我と配下のその悪魔達の命を触媒に、招致する」

 

魔方陣が轟音と共に鮮紅の光輝を放つ、みるみるうちに周囲のスライムやブラックウーズ、レギオンといった外道たちが集めればどんな願いをもかなえられる穢れ、マガツヒへと還元されていく

 

そしてバフォメットの命をも…

 

「出でよ、復讐の女神達よ!そしてこの者たちに絶対なる死を与えよ!」

マガツヒが集約され、そのエネルギーが下へと落ちると激甚な爆発が起こり、思わずイホリと妹紅は、粉塵から眼球を守るため顔で手で覆う。そして目を開けるとそこには巨大な怪物がいた

 

「グォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

煙と共に咆哮するヒルと鰭脚類が混じったような体躯のそれは、およそ豊満で柔らかそうな肉体とは別に頭部には鮫を連想させる凶悪な顎と牙を携えていた

 

「なんだこいつは見るからに凶暴そうだな。こいつが復讐の女神だと?」

「【アナライズ】」

 

驚嘆する妹紅を横目にイホリは怪物のステータスを開示する

 

『邪竜 ラドン』 lv 71

 

《ユニークスキル ヘスペリアの巨竜》

 

HP MP 攻撃回数 マッカ3500 NEXTEXP 8800

1730 200 1            

物 火 氷 電 衝 破 呪

無 吸 弱 - - 耐 耐

 

力 魔 体 速 運

65 18 70 35 38

 

所持スキル

狂いかみつき チャージ 暴れまくり ファイアブレス 咆哮

丸かじり 

 

「いや明確に違いますね。ラドンだと?確かどっかの神話か何かの怪物だったはず」

 

100の頭を持つドラゴンとされているラドンは黄金のリンゴを守護する役割を持っていた。別の神話体系とはいえイズンと共に黄金のリンゴを奪ったロキの性質に惹かれたのだろうか

 

「なら相手にとって不足はないな、どのみち手加減は苦手なんだ。最高火力で消し炭にしてやる」

「え、火炎吸収ですよ」

「問題ない。私のこれは”貫通”する」

 

妹紅は空に浮かび、全力で妖力を自身の周囲に集中させる。鳳凰が天を翔るようにフェニックスを象った灼熱の翼を具現させるとこう唱えた

 

【フェニックス再誕】

 

超高温の熱波が洞穴内部を焼き尽くす。灼熱地獄もかくやといった様相だが、この魔法及びスペルカードの神髄はここからである

 

火炎弾が全方位に展開され、逃げ場のない所を数千度を誇る不死鳥弾が高速でラドンを襲う

 

「グギャァァァァァァ!?!?!?!」

 

熱波には平気な顔だったラドンもこれにはひとたまりもなかったようで、それが何機をも衝突するものだから何の攻撃もできないまま、邪竜は灰燼と化した

 

そしてイホリは弾幕に巻き込まれてピチュった。半身からもはや通例の警告を受ける

 

「あの、勘弁してください妹紅さん。洞穴が一瞬で火山口みたいになっちゃいましたよ」

「ん?人質や常世神は外に連れ出したんだし問題ないだろう。さすがにあそこまで私のスペルカードは及んでない」

 

手加減できないとの言葉は本当だったようだ。しかし自身が巻き込まれたのはいいとして、北南問わず欧州で不老不死の源とされる黄金のリンゴを守護する怪物が、東洋で不老不死の象徴たる仙薬…蓬莱の薬を飲んだ不死鳥に討たれるのは何かしらの配剤を感じる

 

「さぁ帰ろうか。里で慧音たちが報告を待っているだろう」

「あっ待ってください、この残ったラドンの燃えカス。もらってもいいですか?」

「別に構わんが、何に使うんだ?」

「あれだけのマガツヒによって造られた存在なんです。悪魔たる私が口にすれば強くなれずはず」

 

妹紅から見ればわざわざ黒焦げの肉を食べる変人にしか映らないがイホリ達悪魔にとってはレベルを効率よく上げる手段だった

 

《レベル20に上昇 アギはアギダインに変化した》

【残り86匹…】

 

(うん?残機が増えた?弾幕に焼かれて84匹だったはず)

 

「どうした?」

「なんかラドンの肉を食べたら残機が増えました。意味が解りません」

「そうか、悪魔も大変なんだな」

「そうでもないですよ。そうだ、悪魔と言えば」

 

まだ生き残りがいたはずだ。焦土と化した洞穴内を探索すると奴はいた

 

「おい待て、オレを殺したらお前らにもデメリットがあるぞ」

 

端っこで縮こまっているロキである

 

妹紅の戦闘力を見てロキは完全に戦意を失ったようでヘラヘラと媚びたような笑みを浮かべながら命乞いをする

 

「さっきの話、一部聴いていたが本当か?」

 

妹紅はロキを火葬する態勢に入ってたが、ここでイホリが尋ねる。もちろん常世国とそこにある蓬莱の薬のことだ

 

「あぁ本当だとも、蓬莱山とそこの宮殿に.,.あぁそうか合点が言った。そこの白髪のお前は蓬莱人だな?」

「だったらなんだ」

 

雰囲気が一瞬で剣呑で緊張感を帯びたものになる。蓬莱の薬は妹紅が人を殺した原因であり、カグヤとの永遠の確執の要因であり、恒久的な絶望からのRunagaterと化した契機でもある、いわば藤原妹紅という魂と結びついた言葉なのである。その物体の名を本人の前で安易に語ることは許されなかった

 

「そう、怒るなよ。なぁ、取引しないか。オレはお前らが攫った妖精を使えば、蓬莱の薬を手に入れることができる。オレは全ての人間を蓬莱人にしたいと考えている、神々と渡り合えるようにな、わかるぜ、その目つき、復讐したい神がいるんだろう」

 

イホリは何を言っているのかわからなかったが妹紅の心中は荒れ狂っていた。なぜ目の前のパンク風の怪しい男に自信が何よりも殺したい相手を見抜かれなければならないんだろう

 

「そこのお前はナホビノだな?ガハハハッ!面白いメンツじゃないか。蓬莱人に、ナホビノとはねぇ。ならお前できるんじゃないか?」

「何をだ」

 

ロキはこちらに近寄ってくるが、悪意は感じない。しかし、極めて恣意的なおもちゃを見つけてはしゃぐ子供のような感情を感じる

 

「できるんだろ?悪魔合体を」

「造れるんだろ?こいつの復讐したい神を」

 

【ラグナロク】

 

瞬間、業火が燃え盛り、視界が赤く染まる。妹紅が眼前のロキを燃やしたようだ。イホリが突然のことに驚きながら隣の妹紅を見て、戦慄した

 

彼女は、白皙の肌をさらに白く染め、幽鬼のような姿でかすかな微笑を浮かべていた。完全に正気はなく、殺意と怒りにとって縁どられた眼は何の光も讃えていなかった

 

「土は土に、灰は灰に、塵は塵に」

「過去をとやかく言われるのは好きじゃないんだ」

 

焼き殺されたロキの死体は、もはや本人なのか判断できないほど原型が無くなっている。そして、妹紅はぞっとするほど乾いた笑顔でイホリに言った

 

「帰ろう。慧音の下へ」

 

しかし皮肉にも、イホリはその姿を凄艶だと感じてしまった

 

《邪神 バフォメットの合体が解禁されました》

《邪竜 ラドンの合体が解禁されました》

 

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