偽典・女神転生 幻想郷黙示録   作:キャスディOTP

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寂滅為楽の王と五蘊盛苦の蛇

イホリは、地獄に落ちるなら等活地獄だろうと想っていた。lvをあげるためと称して何体をも悪魔を葬ってきたからだ

 

しかし、眼前に迎えた景色は獄卒による罪人解体ショーで死屍累々の悪道ではなく、森閑とした暗い森の中だった

 

そういえば、とイホリは思い至る。ダンテの神曲の冒頭にこんなシーンがあったような。人生半ばで暗い森に迷い込んだダンテは紀元前の詩人ウェルギリウスと出会い、地獄を案内されるというあらすじだったはずだ

 

地獄の入り口がこんなヨーロッパ特有の常緑樹林だとしても何ら不思議な事ではない。して、今自分はどこにいるのだろう

 

地獄の入り口といえばイスラエルの地中奥深くにあり、すり鉢状の階層になっていると聞くが、今イホリが落ちてきたのは上の階層…阿修羅界からであり、さながらこの涼風吹きすさぶ森は、地下にあってここから地球の中心に向かって更なる地獄が伸びているのではないか

 

だとしたら不気味なことこのうえない話である。屈強な根や茨で埋め尽くされており歩くこともままないこの場所はさながらアガルタであり、今自分は地中旅行をしているとでもいうのか

 

(神代時代の遺物でも落ちてるかもしれんな)

 

そんな呑気な気分で、仲魔たちと森を探索していると奇妙な小屋があった。鬱蒼たるこの森の中でその小屋だけを木立は囲んでおらず這いめぐらされた根もなく、何の生命のない黒い土にひとつポツンと小屋だけが外界から隔絶されている。

 

死穢を好む死神のために建てられた一堂の祠ででもあるかのそれに、似たような性質を持つイホリもまた、吸い寄せられるように小屋へ入っていく

 

中には荘厳の作りの扉があった。ブロンズで造られたそれは極黒の光をたたえ、全体で八面の浮彫には悪魔や天使が彩られ西洋神学めいた構成を感じる

 

何やら文章も書いてあるがおそらくラテン語で読めない。顔を近づけてみると音もなく扉が開き、そこから這い寄るような闇がイホリを包んだ

 

そこから先は、まるで自分が死刑へと向かっていく過程をタイムラプスで撮影されたかのような過程だった

 

刑死の瞬間から肉体が腐敗へと向かっていくように、地獄の各場面が遷り変り、墜ちていく

 

アケローン川で銀髪のやせた死神が亡者を櫂で追いやり、舟に乗せて地獄へと連行していく姿が見えた

 

辺獄で、早逝した嬰児(えいじ)やキリスト以前に産まれた人物など洗礼を受けずに死んだ者が蚊に刺されながら無感動にたたずむ様子が見えた

 

愛欲者の地獄で、肉欲に溺れた者が、荒れ狂う暴風に五体を裂かれるのが見えた

 

貪食者の地獄で、大食の罪を犯した者が、三つ頭の猟犬に生きたまま食われ、のたうち回る姿が見えた

 

貪欲者の地獄で、吝嗇(りんしょく)と浪費の悪徳を積んだ者が、重い金貨の袋を転がしつつ互いに罵る姿が見えた

 

憤怒者の地獄で、怒りに我を忘れた者が、血の池地獄で互いに責め苛む姿が見えた

 

ティベリウス、ヘロデ、カラカラ、ヒットラーや毛沢東などの暴君が堕天使と共に永劫の炎に赤熱した環状の城塞に容れられるのが見えた

 

異端者の地獄で、あらゆる宗派の異端の教主と門徒が、火焔の墓孔に葬られ、墓をベルゼブブの遣いたる蛆に荒らされているのが見えた

 

暴力者の地獄で、隣人に暴力を振るった者が、煮えたぎる河フレジェトンタに漬けられ、自己に対して暴力を振るった者が、奇怪な樹木と化しハーピーに身を(ついば)ばまれる姿が見えた

 

悪意者の地獄で悪意を以て罪を犯した者が、マーレボルジェへ落とされ、様々な呵責を受けさせられる姿が見えた

 

そして最下層、裏切者の地獄でイスカリオテのユダと共に、氷漬けにされる大魔王(ルシファー)の姿が見えた

 

(ルシファーは嘆きの河に囚われている。こんな状態でヤハウェを殺害するなど不可能なはず)

 

つまりヤハウェを殺したのは…そう逡巡し、真実に至る直前。目が覚めた

 

「ウワァァァァァァァァ」

 

そう、地獄の門の中はまたしても落とし穴だった。イホリはその永遠に続くような虚無に落ちる過程で夢を見ていたのである

 

しかし、そんな永久的な奈落にも終わりがある。黙示録の奈落の主、蝗害(こうがい)と破滅を司る魔王アバドンがその巨体に大口を開けて今まさにイホリを食らおうとしていた

 

憐れ、前後不覚、覚醒直後での視野狭窄に陥ったイホリにはその事実に気付けず落ちていく

 

破滅まであと秒読みかといったところで、三本の骨槍がアバドンの身体に突き刺さった。けたたましい断末魔をあげ、顔だけの悪魔はマガツヒに散った

 

「何が起き...」

「死眼豁開」

 

ここは伏魔殿か。ブラックホールのような何の光もない闇の中、何者かの声が聞こえる

 

「未来多きナホビノよ…、たとえ地獄におちようと最後まで己の眼はかっぴらくものだぞ」

 

その者の声は空虚でありながら実像を伴い、妙に凛然としていた。声色は少女のようだが老獪さも感じられる、どこか矛盾した声

 

「誰だ」

 

声をあげると一瞬で周囲の闇が晴れ、視界が明瞭になる。地獄は、想像していたよりも広い。紅色の空に覆われた荒涼たる荒野が、水平線の彼方まで果てしなく広がっている

 

声の持ち主である少女はそこにいた。紫がかった長い黒髪に、鬼を思い起こさせる角。ゆったりとしたとび色の服を着た小柄な彼女は、しゃれこうべが埋まった岩に腰掛けながらこちらを見ていた

 

「我が名は日白残無(にっぱくざんむ)。人鬼であり、この地獄の支配者でもある」

「地獄の支配者?つまり貴方が閻魔様ですか?」

「いやヤマは別にいる。地獄の一勢力である鬼の王とでも言っておこうか、お前をこの地に招いたのも儂じゃ」

 

龍穴に移送される直前の布都の言葉は聞いていた。鬼門に向かった状態で龍穴に触れれば鬼のいる場に転送される…。鬼とは残無のことだったのか、イホリは毘沙門天が“鬼”神にあたるとして、異界に飛ばされたのは毘沙門天に招致された結果だと思っていたが、残無に会うまでの過程の一つだったらしい

 

「俺は地獄に用なんかありませんよ」

「お前にはなくとも儂にはある。それは向こうも同じこと」

「向こうとは?」

「お前は、脱獄囚だということをいい加減理解した方がいいな。お前の半身は現在指名手配中だ。向こうの地獄…いや冥府からな」

「指名手配!?」

「あぁ、お前の親爺が造った監獄から分霊とはいえ勝手に抜け出した脱獄囚だ。多くの神々が知恵探しにまい進している世とはいえ、かつての大罪人が玉座につくのは向こうとしても問題なんだろう。本来なら西洋の地獄はヘカーティア殿の担当なんだが…あの方も玉座に興味があって、忙しいのだろう」

 

それこそ三者すべてを総動員しても...と残無はこぼすが、イホリには鬼の言っていることがさっぱりわからなかった。親爺とは誰のことなのか、ヘカーティアとは何者なのか、舶来の神話に明るくない彼には自分の半身の正体などいまだわからなかったのである。そのことを残無に伝えると彼女は半ば呆れながら、大儀そうに口を開いた

 

「この期に及んでまだ半身の真名すら掴めぬとは、愚かなナホビノじゃの。親爺が誰かだと?決まっておる、冥府神タルタロス殿じゃ。お前さんの半身の名前は”テューポーン”。大地母神ガイアと奈落神タルタロスから産まれた最恐最悪の怪物じゃ!」

「!!?」

 

テューポーン、その名前を聞いた瞬間イホリの脳内に溢れる存在しない記憶。間違いなく脳裏に映るその映像は彼の、半身のものだった

 

 

 

***

 

宇宙の果て、無。空間も時間も存在しないその場は、素粒子の対生成と対消滅が繰り返されるだけの無法則空間

 

大地母神ガイアはここで産まれた。始まりの女神は、原初の混沌より生まれた

 

そんな虚数空間でガイアとその息子テューポーンは語り合っていた。二つの戦争に勝利し、今や神々の王たる位置を盤石なものにしたゼウスを討つという物騒な話であったが、二中の様子は至極穏やかだった

 

そこは何者でも干渉できない母と子だけの場所だった

 

「母上、我は必ずやゼウスめを懲らしめてやりましょう。このカオスから出たら星をも突く巨体と、邪悪な容貌のため満足に母上と会話もできない不肖の身ですが、力だけは自身があるのです」

「あぁ、なんて嬉しいことを言ってくれるのでしょう。でもどれだけ巨体であろうと、醜かろうと、その存在を恥じる必要はありません。ヘカトンケイルも、キュクロープスも皆容姿のせいで奈落へと堕とされましたが、ティーターンの神々やギガンテスの神々と同じく愛しい我が子であり、その存在を不当に扱うものは、誰だろうと許しません」

 

それは大昔の話。神代の時代に、ギリシアで起きたこと。回想は遷り変り、雷霆が迸る

 

バルカン半島南東部。東の黒海と南のマルマラ海とエーゲ海で囲まれたこの地に、かの蛇とゼウスは対峙していた

 

「異兄弟よ、恨んでくれるな。太古の昔から、牛神と蛇神は敵対する定めよ!」

 

右半身を彫刻のような純白の光輝の鎧で、左半身を凶悪な鎌を携えた漆黒の獣性の鎧で包んだその男神はニヤリと笑いながら、雷火による猛攻をしかけてきた

 

ティーターノマキアーから始まった天空神ゼウス率いるオリュンポスの神々と、大地母神ガイアとの確執は、ギガントマキアーを経ても収まらずガイアはタルタロスと交わり、怪物の王テューポーンを産んだ

 

テューポーンは、天の星々に頭が擦れるほど巨大で、肩から百の蛇の頭が生えており、腿から上は人間と同じだが、腿から下は巨大な毒蛇である

 

暴風と猛火を繰り出し、天も海も灰燼と帰し、暴れに暴れまわったその衝撃と熱波は地下深くの冥府やタルタロスまで揺るがすほどで、その闘いの激しさに神々も恐れおののきなんと動物の姿に変身してエジプトまで逃げてしまった

 

しかし、雄一その場にとどまったゼウスだけが蛇に戦いを挑み、テューポーンは一度は勝利するも、モイライ三姉妹の計略にかかり一度喰らえば絶対に望む結果は得られなくなる無常の果実を食してしまう

 

その後は呪いにより防戦一方で、とうとうバルカン山脈まで追い詰められた

 

「アダマスの鎌よ!眼前の敵を切り崩せ」

【万物粉砕!】

 

「万物を破壊し燃やし尽くす雷霆よ!目の前の敵を焼き滅ぼせ」

【ケラウノス!】

 

カオスすら焼き尽くす神雷と金剛の鎌の激甚な攻撃により、消耗したテューポーンはなんと背後の連なる山々を一つを投げつけようとするが、標高2,376 mと富士山や八ヶ岳の劣る高さの山では質量が足りず、雷霆の威力により向きを変えられ逆にハイモス山に押しつぶされてしまう

 

これが戦いによる決定打となり、テューポーンは地中海まで逃れ、最終的にはイタリアのエトナ火山に下敷きにされたのだった

 

「ガァァァ!!!グワァァァァァァァァ!!!!」

 

テューポーンのゼウスに対する憎しみと、どんな姿だろうと息子達を想う母、ガイアの哀しみがイホリの脳内に反芻する

 

「理解できたようだな。お前の半身がどれだけ呪いに呪われた存在であるかを」

『母上の雪辱を果たさなければ...!!!復讐をしなくては。奴に、奴を、ゼウスを殺さねば!!』

「落ち着け、半身に乗っ取られ始めているぞ。いくら地獄が広大とはいえ、腕を伸ばせば世界の東西の涯にも達する巨大な輩を今この場に出すわけにはいかん」

 

錯乱が戻り、イホリは肩で息をした。膨大な情報と感情の波が流れ込んできたのである。無理もない

 

「俺はこれから、どうすれば…」

 

イホリは自身の物ではない怒りと絶望を抱えながら亡羊に嘆いていた。この様子だといますぐ外の世界に出てギリシャに行き、エトナ火山から冥府に入りその最奥タルタロスにいる本体と更なる合一を果たしてゼウスを殺した方が得策かもしれない

 

「向こうの神々に復讐しようと考えているなら、それは悪手じゃぞ」

「もしお前がゼウスを討った場合、間違いなくヘカーティア殿がお前を殺すじゃろう。ほぼ形ばかりなものだが、一応はゼウスの部下でもあるからな」

 

それに、と残無は付け加える

 

「ゼウスが自身の知恵を見つけてナホビノ化していない保証もない。お前の半身の本体がどれだけ強力無比だろうと、“蛇神は牛神には勝てない”。祇園精舎の守護神…牛頭天王が八岐大蛇を討ったように、これはもう理によって定められている。」

 

その事実を深堀りすると、蛇神は創世できないという真実にたどり着くのだが、それは残無も隠岐奈も知らないためイホリに知るすべはなかった

 

「だが安心しろ。お前を向こうの連中に突き出したりもしないし、ヘカーティア殿が動いていない現状ギリシアの神々もお前に手を出してこないだろう」

「じゃあ創世を…」

「そこで、自身が強くなる必要があるわけじゃな。だからこそお前さんに仕事を依頼したい」

 

残無は莞爾(かんじ)と微笑んだ。なんだか最初からこの鬼の掌の上なのではないかとイホリは錯覚する

 

「この依頼を通しておけばお前は最強になれるだろう。その上で創世なり、ゼウスを懲らしめるなり好きにするといい。ヘカーティア殿と敵対するのはオススメせんが、複数回殺されたのち弾幕ごっこでもすれば案外、手打ちにしてもらえるかもな」

「…内容は」

「この新地獄は、一部の鬼神が行政を担当しているのじゃが、その中の鬼神長の四柱が魔界の癪気にあてられたか、なんと受胎後の東京で軍を作って坑道に立て籠ってしまったんじゃ」

 

鬼神長なんて大仰な肩書きをもつ人物が悪魔化したということだろうか。それなら別にわざわざ坑道へ侵入しなくとも、悪魔合体で済みそうだとイホリは遠くの平原に一匹佇んでいるラークシャサを見て考えた

 

「どのような方法でもいい、水鬼、風鬼、金鬼、隠形鬼。この馬鹿どもを地獄に連れて帰ってきてくれ」

「貴方がやればいいのでは」

「それが厄介なことに鬼神は自治権も持っててな。一種の藩のようなものを作り上げていて、領主を失って暴動が起きている。看守たる鬼が秩序を失えば、当然囚人たる亡者たちも暴れ始める。地獄にも魔界産の悪魔は現れるし、畜生界の動物霊がどさくさに紛れて勢力を拡大するわでカタストロフが起こっているのよ。今は部下が鎮圧を行っているが、いずれ儂自ら掣肘(せいちゅう)を加えなければならぬ」

 

実に面倒だと額に薄い汗を流す残無。地獄でプリズンブレイクが起きたら罪人たちはどこへ逃げるのだろうか、上の階層の阿修羅界に行くのか、それともそのまま地上に出てるのか、死んでいるのに?そんな与太をイホリは心の中で考える

 

「この地獄は儂や鬼神、閻魔の許可がない限り出られることはないとはいえ、広大な地獄を巡ってまた戦乱を目にすることになると気が滅入る。だからこそお前に更なる依頼を伝えたい」

「え、まだあるんですか」

「当然だ、“依頼を通して”と言ったであろう愚か者。まぁとはいえ、曖昧な仕事内容にはなるんじゃが…」

「曖昧?」

「この幻想郷は非常に繊細なバランスで成り立っている。人も神も妖怪もシステムに保護されながら、共存できているのは殆ど奇跡に近い。だが悪魔が加われば話も変わってしまう」

 

残無は滔々と語った。いかに悪魔なる存在が幻想郷において劇毒であるかを

 

曰く魔界産の悪魔は理性がほとんどなく、スペルカードルールによる決闘を理解できない

 

貶められた神々の方は、信仰を分散するし、何より神が悪魔と評されること自体が破滅を招きかねない

 

「外の世界を知っている儂らや、デビルサモナーにとっては神も天使も鬼も龍も獣もまとめて悪魔じゃが、里人にはそうではない。いと尊き日本の神仏の信仰の在り方が乱れれば信仰の力も弱まってしまう」

天使というメシア教の存在自体も幻想郷にとっては強すぎて毒になるらしい

 

「そして最も問題なのが“誰でも悪魔を仲魔にすることができる”という事実じゃ。今は少数の実力派以外この事実を知らないものの、知れ渡った途端幻想郷は天下大乱の時代に逆戻りする」

 

幻想郷には戦争の概念がまだ幻想入りしていないためそこまで苛烈な物にはならないらしいが、多量の血は流れる事態に陥るとのことだ

 

「戦争で死人が出るのはいかん。あれだけはいかんのじゃ」

 

永く生きている鬼で、それも地獄在住なら様々な戦争を見てきただろう。イホリは残無の心中をお察しした

 

「そこでお前にはすでに悪魔を利用しつつある組織の芽を摘んできてほしい。おそらく背景に悪魔が絡んでいるであろう不逞の輩もピックアップしておいた」

 

残無はそう言ってイホリに和紙を渡した。そこには仕事内容が、場所や段取りに至るまで子細に書き込まれてあった。意外にもマメな人物なようだ

 

「まぁ部下に書かせたものだがな」

 

依頼された仕事は三つ

 

『混沌軍の悪魔退治』

危険度:大

 

『紅魔館なる西洋の館において、吸血鬼が自らを大魔王と名乗り、混沌軍を組織。複数の悪魔を従え、その中心には西洋の悪魔たちが集結している。どれも低lvではあるが、堕天使や夜魔といった危険な存在も潜んでおり、非常に高いリスクを伴う。即刻、討伐せよ』

 

『畜生界の平定』

危険度:極大

 

『畜生界の三大勢力、勁牙組、鬼傑組、剛欲同盟が、悪魔を新たな手駒として取り込み、ついに地上進出を目論んでいる。単独の組長が地上を支配するだけであれば、まだしも、三つの勢力が同時に暴れれば、それは紛れもなく戦争を意味する。事態を放置すれば、治安の崩壊は避けられぬ。命令として、即刻、鎮圧作戦を実行せよ』

 

『虫を崇める邪教再び』 

危険度:不明

 

『三尸虫なる異虫を神と崇め、その虫を体内に取り込むことで仙人の境地に至ると主張する、詳細不明な異教団体が、今や人里の間で密かに勢力を拡大中である。最近の異常な自殺や変死事件の急増は、このカルトによる関与の可能性が極めて高いと判断される。事態は一刻を争う。直ちにこの邪教を壊滅させ、民間における影響を根絶せよ』

 

地獄に住んでいるのになぜこんなに地上の様子に詳しいのだろうと思ったが、どうやら隠密に特異な部下が地上で情報を色々と集めているらしい

 

「それと鬼神長の件もだ。依頼を受けてくれるな?」

「わかりましたよ。できるかどうかはわかりますが、とりあえずやってみます。なのでそろそろこの地獄から出たいんですが、貴方の許可があれば出られるんですよね?」

「重畳重畳。おーい日狭美~?こいつを地獄の龍穴まで案内してやってくれ」

 

部下の女性が近くにいるのかと思ったが、だだっ広い地獄の荒野が遠く広がっているだけである

 

「聞こえるわけないじゃないですか」

「いや届いたな、あと一分もせずにここに来るだろう。やれやれ、あ奴一人で送り出すのにも13時間かかったいうのに呼べば何千里あろうと瞬時に戻るというのだから難儀な奴よの」

「えぇ…」

 

どんだけ異常人物なのだ、日狭美なる女性は。イホリが戦慄していると残無は袖から小さなアクセサリーを取り出し、彼に手渡した。残無の体温でほのかに暖かいそれは装飾柱のようなデザインで、明確な魔力が込められている

 

「それは回帰のピラーなる魔道具、最後に使用した龍穴まで戻ることができる。儂の能力で少し細工をしてあるから使用しても無くならん」

「ありがとうございます」

「日狭美には儂の領域近くにある龍穴まで案内せよと伝えておく、お前はその龍穴を登録しておくのだ。一度登録なら龍穴なら何度でも使うことができる。ピラーには通信機能も付けておいたから、用があれば呼ぶからな」

 

この日白残無なる人物は人鬼と名乗ったが、それはつまり人から鬼になった人修羅ということだ。純粋な鬼や閻魔、死神が幅を利かせる地獄において人由来の鬼がここまでのし上がれたのは偏に残無の実力と、その類まれなる知性であろう

 

隠岐奈は自身を幻想郷のフィクサーと名乗っていたが、フィクサーはこの鬼ではないだろうか、指示する、人を動かすことににおいてこれほど熟達したものはそういない。手練の鬼才であるのは事実だった

 

「残無様~♪」

 

遠くから紫色の女性がすさまじい速度で迫ってきている。鬼気迫るその迫力はまさに幽鬼のそれで、一瞬面くらったがワンピースの裾はしっかり嫋やかに押さえ、汗一つかいてないその姿はなぜか幽遠(ゆうえん)に見えた。彼女が日狭美なのだろう

 

「私感激しましたわ!遥か遠く離れた異郷にて残無様のことを思い、されど指示されたことはしっかりしなくてはと御叱りを受けるのもまた歓喜の至りで、喜びの中に苦しみを見出すことも悪くないのでございます。ですが、私、心の底から感じておりますのは、この一片の苦しみすらも、残無様のために捧げるべき誇り高きものだということに他ならないのでございます。それに、残無様のお言葉ひとつひとつが、私の心に深く沁み入り、無駄に過ごす時間など一瞬たりともないと教えてくださいます。その上で、御指示を全うしきれない私がまたどこかしら未熟であると、心底から恥じ入ることもございますが、それでもなお、でも振り返らない黄泉の道といいます、どこかで、どこかで必ずその期待に応えたいと願い、日々をまっすぐ歩んでおりますの。どうか、私にもう一度、足りぬところを教えていただけませんか、残無様。御手を差し伸べて、二人っきりで*できればお互いの肌がふれる距離私が一歩でも成長できるよう、見守り、導いてくださるようお願い申し上げます。それが、私にとって何よりの喜びとなることでしょう」

「.」

「却下じゃ。この者を、儂の領域近くの龍穴まで連れていけ」

「残無様。私というものがありながらまたほかの女に手出したんですの?博麗の巫女といいNTRやBSSもそれもまたたまらないですがあんまり放置されると、いや英雄色を好むともいいますし、高貴な残無様が選んだ女性…ん?」

火雷神様(ほのいかづちのかみ)?」

 

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