五歳になりました。
私はたいぶ妖怪の血が体に馴染んできて、半日は外に出られるくらいになりました。
……のですが。
「けほっ、けほっ……はぁ、はぁ」
絶賛風邪をひいている最中でございます。
「桔梗様、お可哀想……」
「変わってあげることができれば……」
心配してくれている妖達の声が聞こえますが、返事を返す余裕がありません。
ここ最近はこんなにひどくなる風邪はひいていなかったのですが、油断するものではありませんね。ちょっと夜の風を長くあびただけでこれです。
「桔梗、大丈夫?」
リクオの声が聞こえ、熱で揺らぐ視界の中視線を向けると、心配顔のリクオが私をのぞき込んでいました。
今日は花見に出かける約束をしていたのですが、これでは行けそうにありません。
私はそれに返事を返したかったですが、生憎激しい咳に変わってしまいました。
「桔梗!」
「リクオ、騒ぐんじゃない」
襖の開く音がし、父鯉伴が入ってきました。後ろには母若菜が桶をもって立っています。
「リクオ、大丈夫よ。少し休めばまた元気になるから、今はゆっくり休ませてあげましょう」
「そうだぞ。ここは任せてお前は部屋にいろ」
リクオは渋い顔をして私と鯉伴たちを交互に見ていたが、若菜がいつもの笑顔でニコッと笑うと、「うん……」と頷きました。
「桔梗、待っててね。風邪に効く薬草を教わったんだ。すぐに採ってくるよ!」
というと、お世話係が止めるのも聞かずに走って行ってしまいました。
本当に元気で優しい子です。
「まったく、あいつは……。しょうがない。付き合ってやるか」
苦笑しながら鯉伴は頭をかき、熱であえぐ私の方を優しい眼差しで見ました。
「綺麗な花を採ってきてやる」
そう言うと、そっと額を撫でてリクオの後を追いました。
その姿に、一瞬前世の父の姿がかぶりました。
こんな風に優しく頭を撫でてもらったのは、本当に数回でしたが、家族みんな一緒だったころの大切な思い出としてちゃんと記憶に残っています。
しかし、この世界に生まれて五年。前世の記憶は、強い印象を残したもの以外は薄れつつあります。
今も、前世の父と母、それに弟のことは鮮明に思い出せますが、関係の薄かった親戚や昔の友達の顔は思い出そうとしても思い出せません。
「……っ、ごほっ、ごほっ」
「あらあら、咳がひどくなってきているわね。ほら、お薬飲んで、少し休みなさい」
母若菜が促すままに薬を飲み一呼吸すると、眠くなってきました。
「大丈夫ですよ。眠るまでそばにいてあげますから」
その若菜の優しい声に誘われるよう、私の意識は遠のいていきました。
頭の隅に、少し引っかかるものを覚えながら――――。
※※※※※※※※※※
ぼくは今、屋敷から少し離れた神社にきている。
目的はもちろん、桔梗が元気になる薬草を探すためだ!
この神社には、たくさんの花や草があって、一年中お花見が楽しめる所らしい。
そのことを聞いたのは最近で、桔梗といっしょに行こうね、と約束してたけど、桔梗がカゼひいちゃったからまたこんど。
いまは桔梗のカゼをなおすことが第一なんだから!
「リクオ、あんまり遠くへ行くなよ」
「はーい!」
桔梗が元気になる薬草はどこだろう?
たしか少し前に鴆くんときたときはこのあたりにあったはずなんだけど……。
「ねぇ」
「?」
振り向くと、真っ黒な女の子が立っていた。
後ろで父さんが息をのむ音がした。
風が吹いて、きれいに咲いていた山吹の花びらがいっぱい空に舞った。
「一緒に遊びましょう?」
「え、ムリ」
ぼくの答えに、女の子はすごく驚いたみたい。
父さんも、うしろでなぜか転んでいた。何もないところでなんで転んだんだろう?
「えっ、ど、どうして?」
「だって桔梗のお薬探すんだもん!」
「桔梗?」
「ぼくの妹だよ!からだが弱いからすぐにカゼひいちゃうんだ。だから、ぼくが元気になる薬草をもっていってあげるの!」
「そう……なら、一緒に探してもいい?」
「それならいいよ!」
みんなで探した方が早く見つかるしね!
「じゃぁ、行こう!」
女の子の手をつかんで、薬草のある場所にむかった。
「うーんないなぁ」
ずっと探してるけど、なかなか見つからない。おかしいなぁ。絶対にあるはずなんだけど……。
「もっとあっちかな」
はやく桔梗に薬草をもっていってあげなきゃ!
「キャー―――ッ!!」
「!?」
どこからか女の子の叫び声が聞こえた。
あ、いつのまにか父さんと離れちゃってる!遠くにいくなっていわれてたのに!
あわててもどると、一緒に遊ぼうっていってきた女の子が立っていた。
手にはすごく古い、ボロボロの刀があった。
ポタ……。
「?」
その刀の先から何かおちた。
たどると、女の子のすぐそばに、誰かが寝ていた。
「……父さん?」
父さんの周りは赤くなっていて、女の子が持っている刀から落ちた色とおんなじだった。
ドクンッ
体の真ん中らへんが、大きくはねた気がした――――。