ぬらりひょんの孫~双子の妹に転生しました~   作:唯野歩風呂

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第11話

 

 

 

 

 ドクンッ

 

 

 心臓が跳ねて目が覚めました。

 同時に思い出しました。

 ずっとあった引っかかるもの。

 それは山吹の花を見た時からでした。

 山吹、幼少時代、そしてこの感覚――――。

 

 おそらく今日は父鯉伴が――――。

 

 「っ――――。行かなきゃ」

 

 今周りには誰もいません。

 水の入った桶がないことから、母若菜はぬるくなった水を変えに行っているのでしょう。

 

 これはチャンスです。

 少し眠って体力が戻ってきているし、リクオがいるところまで時間はかからないでしょう。

 

 後から思い返してみれば、このとき誰かに助けを求めた方が早くたどり着くことができたのでしょうが、このときの私は熱で朦朧としていたのと、胸の奥で感じる強い思いに突き動かされるまま裸足で走り出していました。

 

 突き動かされるまま走っていると、誰かの姿が見えてきました。

 視界がぼやけてよく見えませんが、あれはリクオだと確信できます。

 そして、その足元に横たわっているのは――――。

 

 「っ!?」

 

 父鯉伴です。

 鯉伴の周りには血だまりができていて、人間だったら出血多量で死んでいるでしょう。

 しかし――――。

 

 「……ぁ……」

 

 微かですが、まだ息があります。

 妖怪の血が半分流れているおかげで、普通の人間より生命力が強いのでしょう。

 

 「お父様!」

 

 駆け寄って傷口を見ると、刀傷でした。

 貫通していて、今も傷口から血が流れ出ています。

 

 傷口をふさがなければ死んでしまう――――。

 

 「っ傷を……」

 

 着物の袖を破いて傷口に当てたかったのですが、うまくちぎることができず、仕方なしに直接手で傷口を抑えました。

 

 「き、きょう……」

 

 リクオが呟くのが聞こえます。

 視線を向けると、ふらふらと近寄ってきました。

 

 「とうさん……しんじゃうの?」

 

 ドクリ、と自分の心臓が跳ねる音を聞きました。

 この言葉には聞き覚えがあります。

 そう。それは前世で――――。

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 『お父さん、しんじゃうの?』

 

 弟が隣に立つお母様の服の裾を引いて問いかけました。

 お母様は一瞬泣きそうな顔をしましたが、すぐに優しい笑みになって弟の頭を撫でました。

 しかし何も言わず、目の前の『手術中』の赤いランプを見上げました。

 

 やがてランプが消え、手術着を着た医者が出てきました。

 その顔はとても手術が成功したという顔ではなく――――。

 

 『手は尽くしましたが……』

 『…………そうですか』

 

 お母様は優しい笑顔を浮かべ、深々と医者に頭を下げました。

 

 しかし手をつないでいた私にはわかりました。

 痛いくらい握られた手が、震えていたことに――――。

 

 私は痛みに耐えているしかできませんでした。

 ただ苦しんでいるお父様を見ていることしかできませんでした。

 そして、最愛の人を亡くしたお母様を慰める言葉も出ませんでした。

 

 何もできなかった。

 

 何も、しなかった――――――。

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 「そんなのは嫌です」

 

 昔も今も、私は子ども。

 何もできないに等しい。

 しかし、今は違います。

 私は生まれ変わったのです。

 

 『ぬらりひょんの孫』の世界に。

 

 治癒の力を持った、『珱姫の孫』に――――。

 

 

 手のひらが熱くなっていきます。

 そしてうっすらと光を帯びてきました。

 

 「くっ」

 

 体力が徐々に奪われていくのがわかります。頭の中に鐘が鳴り響いているように頭痛がします。しかし、やめません。

 それにもっと力を籠めないと血が止まりません。

 

 もっと、もっと力を――――。

 

 「やめ、ろ……」

 

 はっと、視線を向けました。

 鯉伴はうっすらと片目をあけ、こちらを見ていました。

 

 「おまえの、体力じゃ、傷は治らねぇ。……ぎゃくに、死ん、じまう」

 「そ、んな……」

 「無理、するな……。俺、は、お前たち、が、生きて、いればいい」

 

 鯉伴は頬を緩め、優しく笑いました。

 

 「お前たちと、家族に、なれて……。幸せだ――――」

 

 

 その時、また心臓が大きく跳ねました。

 そして感じます。熱い思いが。

 

 この熱い感情はリクオの――――いえ。リクオだけではありません。

 私にも、この感情に覚えがあります。

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 『お母様……』

 『近くに、きて……』

 

 健康的でふっくらとしていたお母様は、今は見る影もなく、ゲッソリとやつれここ数日ベッドに寝込んでいた。

 しかし、浮かべた優しい笑みは、今も昔も変わっていなかった。

 

 『どうして……』

 『ん?』

 『どうしてお母様は、こんな状態でも笑みを浮かべていられるのですか?お父様が亡くなった時も……』

 

 ずっと疑問でした。周りから、社会から責められ続け、そして最愛の人を亡くしてもなお、笑顔でいられた理由が。

 死の淵に立たされてもなお、笑顔であることの理由が。

 

 『確かに、苦しかったし、悲しかった。今でも、悲しいことを、思い出しては、泣く、ことも、あるわ。……けど、すぐに浮かぶ、の』

 『浮かぶ?』

 『あなたたちの、顔が』

 『!?』

 『あなた達、が、生まれたとき、幼稚園、小学校、に、入学、したとき。いろんな、思い出の中に、あの人がいた。……そして、これから、卒業して、社会人、になって、恋をして、結婚、して――――そんなこと、思い浮かべたとき、あなた達の、顔は、絶対に、笑顔』

 

 お母様は力のない手で、膝の上に置かれた私の手に触れました。

 

 『どんなに辛いこと、が、あっても、それは、ずっと、ではない。絶対に、幸せは、やってくる。私には、その幸せが、両隣に、いた、だけ。……だから、あの人を、失っても、笑っていられたの』

 

 膝の上に置かれた手が、私の頬に伸ばされました。

 頬に触れた手は、骨ばっていて、とても冷たかった。

 

 『あなた達と、家族になれて……幸せよ』

 

 だから、生きて幸せになってね――――。

 

 その言葉を遺して、お母様は眠るように息を引き取りました。

 

 あぁ、お母様。私にもしゃべらせてくださいよ。

 とても、言いたいことがあったのに、言えなくなってしまったじゃないですか。

 言ったら、お母様は困るのでしょうけど。

 けど、もしもう一度目を開けて、もう一度私の話を聞いてくださるのなら、言わせてください――――。

 

 

 

 

 ※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 「ふざけんな!!」

 

 私はすごく怒っているのですよ。

 

 

 

 

 

 

 

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