お気に入り1000件突破、ありがとうございます。
私には最高のプレゼントです!
「おや桔梗様。こんなところで奇遇ですな」
早速ガゴゼ様にあってしまいました。しかも周りには誰もいません。
申し訳ありません。おじい様。おじい様に注意された約五分後には二人きりです。
いつもは小妖怪がうろうろしていて、完全に一人になることは、頼まない限りないのですが、今はガゴゼ様の部下が邪魔をしているのでしょう。
そこまでして、私に何か話があるのでしょうか。
そういえば、寄合の最中私の方をじっと見つめていましたね。
「御機嫌よう、ガゴゼ様。もう帰られたと思っておりましたが、お忘れ物でも?」
「……えぇ。そうですね。忘れもの……。大きな忘れ物をしていましてな。しかしまだとりにいくには早い」
「はぁ。そうですか……」
言っていることがよくわかりません。
……いえ、なんとなくですが、予想はつきます。
おそらく『忘れ物』とは『奴良組三代目の座』のことでしょう。
今日はそのための寄合でしたし、障子越しに聞いた会話では、ガゴゼ様は三代目になりたいようでしたし。
「今宵はいい夜ですな。月の光もない曇天の空だ。こんな日は子どもをさらいやすい」
「恐ろしい妖怪の見本のようなお方ですねガゴゼ様は」
曇天の夜をいい夜というガゴゼ様は、人間から恐れられる妖怪そのものです。
人間よりの私の思考では理解できません。
しかし――――
「――――ですが、私も曇天が好きかもしれません」
「ほう、それは――――」
「時々雲が切れて月の光が差す光景は、とても幻想的で美しいものですから」
そういう合間にも、雲が途切れて月明かりが差し込んだ。
あぁ、やはり綺麗です。
池が光を受けてキラキラしています。
「……わしはこれで失礼する」
いけない。うっとりと眺めすぎてガゴゼ様のことをすっかり忘れていました。
それが気に入らなかったのか、ガゴゼ様の声に少しイライラした様子があります。
「もう遅いですし、今夜は泊っていかれたらいかがですか?他の親分の方々も集まってお飲みになっているみたいですよ?」
私はお酒をだす手伝いをしようと思いましたが、さすがに夜遅いので雪女たちに止められてしまいました。
明日も学校がありますし、お言葉に甘えてしまいました。
プライドにかけて授業中は絶対に寝ませんが、眠気はないほうがいいに決まっています。
「ふん。それは人間の考え方よ。むしろ、わしら妖怪の時間はこれから。……それに、奴らとなれ合うつもりはないわ」
そういうとガゴゼ様は私に手を伸ばしてきました。
その手が私に触れそうになり――――――。
「何をしておられる、ガゴゼ殿」
「っ!?」
「首無」
首無がいつの間にかガゴゼ様の後ろにいました。
よく見れば、ガゴゼ様の首に首無の糸が絡みついています。
「ガゴゼ殿。いくら奴良組の幹部といえども、桔梗様は総大将のお孫様。安易に触れてようお方ではありません」
「っ、きさま」
「首無、放してください。お客様なのですから」
「……」
「首無」
もう一度呼びかけると、首無はしぶしぶ糸を解いてガゴゼ様を放し、私の傍に来ました。
少し切れて血の付いた糸をペロリと舐める姿が悪役っぽいです。
あぁ、不味そうに庭にぺっしないでください。
「ま、まったく。この屋敷の連中は躾がなっていない。二代目の連中はこれだから……。だから奴もあっけなく最後を――――」
「ガゴゼ様」
私は首無の前に出ました。
そうしないと、キレた首無がガゴゼ様に襲い掛かり、次の瞬間にはガゴゼ様の頭と体が離れてしまいそうでした。
「そろそろお屋敷を出なければならないのではないですか?夜が明けてしまいますよ?」
今は夜の十一時ぐらい。先ほどガゴゼ様が言った通り、妖怪の時間はこれからといっていいほどですが、これ以上首無を刺激しないためにも、正直早く帰ってほしいです。
言葉に込めた意味に気づいたのか、ガゴゼ様は首無を見て鼻で笑うと、背を向けました。
「いずれ、忘れ物は取りに来よう。……必ずな」
振り返らずにいったガゴゼ様は、やがて音もなく去っていきました。
「き~きょ~う~さ~ま~?」
ドスのきいた声が後ろからしました。
いけない。これは説教モードです。
普段はさわやかボイスなのですが、説教の時は本当に怖いのです。
特に、怒っているのに笑っている顔が。
このまま説教に突入すると長時間にわたります。そしたら睡眠時間がなくなってしまい、授業中に眠くなり――――。
……それはなんとしても避けなければ!
「と、ところで首無はどうしてここに?寄合に使った広間を片付けていたのではないの?」
話をそらしにかかった私に、首無は胡乱な目で見ていましたが、やがて深ーい溜息をつきました。
「片付けが終わったので、飲んでいる親分集にお酒の追加を持っていくところです。そこに、不用心にも二人で話している桔梗様を見つけたわけですが……」
しまった。話が戻ってしまいました。
「そもそも、毛倡妓たちは?一緒に仕事をしていたのではないのですか?そして黒田坊は?今日はあやつがあなたについているはずでしょう」
「け、毛倡妓たちは親分集のお酒とおつまみを出すのにてんてこ舞いで、黒田坊は親分集に絡まれてお酒を飲んでいるわ」
あ、首無の額に青筋が浮かびました。そして笑顔が黒い。とっても黒いです。
「黒田坊め……あとでしめる」
後半は聞こえませんでしたが、糸を取り出して何かをきゅっと締める動作がとても気になりました。が、あえて聞かないでおきましょう。
ごめんなさい。黒田坊。
「さ、もう遅いですし、お部屋までお送りします」
「はい」
※※※※※※※※※※
あらゆる病も傷も癒す力。
毒でさえも中和し、直してしまう神のような力。
それは一人の人間の女に与えられ、やがて力は女の子が受け継ぎ、さらに孫にも受け継がれた。
初代の片割れにはいつもその女がいて、戦って傷ついた初代を癒し、初代は闇の世界の頂点に立った。
力を受け継いだ二代目は、その身に治癒の力を宿し、傷ついてもすぐに治り、仲間も癒すことで組を強くした。
そして三代目。
双子の片割れである跡継ぎの男児は治癒の能力を持っていない、ただの人間。
しかし、片割れの女児は治癒の能力を受け継いでいる。
これはチャンスだ。
治癒の能力を手にすることができれば、わしは天下をとれる。
奴良組総大将の座だけではない。
闇の世界の王となれるのだ。
『時々雲が切れて月の光が差す光景は、とても幻想的で美しいものですから』
そういった瞬間、空を覆う雲の隙間から漏れた月の光が彼女を照らした。
長い茶色の髪が月明かりを受け、輝いて見える。
見入ったように庭を見つめるその姿が、過去の光景と重なり――――。
「ガゴゼ様。準備が整いました」
手下の声に、過去の情景が煙のように消えていった。
「……明日だ」
過去のことなど知らない。
わしは、総大将に……そして闇の世界の支配者となろう――。
せっかくのクリスマスだし、少し甘い話を書きたいなぁ、と思っていたらまさかのガゴゼが……。
おかしい。原作通り、いやなやつのまま終わらせるつもりだったのに……。
そして首無がおかん。
うちの首無は基本、おかんです。