幼少編?ガゴゼ編?とうとう次話で終結です。
五カ月。長かったです。
理由を知りたい方は活動報告で。
どうしようもない理由なので、見ずに次行っちゃってください。
生まれた時から見る夢があります。
それは、得体のしれない何か……大きな力の塊のようなものが、私を喰おうとする夢。
夢を見るたびに私の身体は喰われていって、それに比例するように私の身体は弱くなりました。
その大きな力が何なのか。
あの夜、大切なものを守れなかったとき、はじめて気づきました。
あれは、私の中の妖怪の血。
妖怪の本能そのもの。
あの夜、私の中の妖怪の血が大きな光に包まれ、その光と溶けていく夢をみました。
おそらく、私の中の祖母や母の人間の血が、妖怪の血と溶け合ったのでしょう。
事実、あの夜から私の体調は回復に向かい、普通に学校へ行けるくらいになったのですから。
だけど、少しだけ思ってしまいます。
もっと早く、妖怪の血が溶け込めば。
もっと早く治癒能力が開花すれば。
大切なものを守りきることができたのに。
※※※※※※※※※※※
「ん……」
あれ、私はどうなったのでしょうか。
なんだか、体の節々が痛いです。
風邪を引いたときの痛さと違って、どこかにぶつけた時の痛さのようです。
リクオと別れ、バスの中で清継くんと島くんとお・は・な・しをしていたのを覚えています。
そしてそのあと……。
そこからの記憶があいまいです。
とにかく、現状を確認しなければなりません。
目を開けてみましたが、真っ暗です。
ですが、すぐに目が慣れてきました。
夜目がきくのは妖怪の血のおかげでしょう。
「っ……!?」
驚きました。
周りが見えてくると、大変なことになっていました。
どうやらここはトンネルの中で、落石があり、バスが閉じ込められてしまったようです。
「みんな!大丈夫!?」
「う、うぅん」
「いたたたたた」
「あれぇ、ここは……」
私の声に、みんなが起きだしました。
その様子にほっとします。
暗闇に怯えていますが、見た限り大きなケガはないようです。
「みんな、今はあまり動かない方がいいと思います。助けが来るのを待っていましょう」
本当はバスを離れた方がいいのでしょう。もし、ガソリンが漏れだして爆発でもしたら危険ですから。
しかし、臭いからガソリンが漏れた様子はありませんし、暗闇の中でむやみやたらと瓦礫のなかを動くのはケガのもとです。
「キーちゃん、大変!運転手さんが!」
「!?」
カナちゃんの声に振り向くと、運転手さんが頭から血を流して倒れていました。
「さっきからゆすっても起きないの。ねぇ、死んじゃったの?」
カナちゃんが泣きそうな顔をして私をすがるように見ました。
私は倒れている運転手を診ると、苦しそうですが、ちゃんと息をしていました。
「……大丈夫ですよ。頭から血を流していますが、気を失っているだけのようです」
カナちゃんや、聞き耳を立てていた子もほっとしたようです。
……たしかに、気を失っているだけですが、このままではいけません。
どっちみち、早く病院に連れていって治療をしなければ、少し危険かもしれません。
私の治癒能力で直すことはできますが、今ここで使えば光が漏れて目立ってしまう。
ですが、命には代えられません。
「あれ?外にだれかいるぞ?」
島君の声に、窓の外に目を向けます。
助けに来た大人たちかと思いましたが、それにしては変な格好です。
「若と姫様はどこだ」
その声に聞き覚えがあり、ぞっとしました。
いけません。おじい様が忠告していたことはこのことだったのです。
『ガゴゼに気をつけよ』
ガゴゼは三代目を狙っていました。
しかし、それにはリクオが邪魔で仕方ありません。双子の私も邪魔に思っていることでしょう。
屋敷では他の妖怪たちがいて手が出せませんが、屋敷を離れた学校ならば、妖怪たちの庇護は及ばず、狙い時と思ったのでしょう。
「あのバスにいるのは間違いない。とにかく、ここにいる子供は全員皆殺しだ。……若もろともな」
その声に、みんなが怯えています。
夜目がきかない分、妖怪の姿ははっきりと見えていないみたいですが、よくないものがあるということはわかるのでしょう。
ガゴゼの狙いは私とリクオ。
私が出て止まるのならいいのですが、ガゴゼは子どもを殺すことにためらいを覚えません。
いったい、どうすれば……。
私はまた、大切なものを守れず、何もすることもできず、死ぬのでしょうか……。
いやです。そんなことは絶対に。
だから……
リクオ――――――
――――――『桔梗』
声が、聞こえた気がしました。
……いえ、気のせいではないのでしょう。
なぜならば――――――。
「子供を殺して大物面か?俺を抹殺し、三代目を我が物にしようとした。……ガゴゼ。てめぇ、ちいせぇ妖怪だぜ」
こうして助けにきてくれました。
※※※※※※※※※※
「バスってまさか、桔梗やカナちゃんが乗ってる?」
テレビには、いつもバスで通るトンネルの入り口が崩れている映像が映っていた。
「リクオ様、桔梗様は?」
「一緒じゃねぇんですかい?」
「う、うん。桔梗は……桔梗は……バスに……」
ぼくの言葉に、みんなが息をのむ音が聞こえる。
「もしかしてあのバスに!?」
「なんてこと!?」
はやく、はやく助けなきゃ。
「助けにいかなきゃ!桔梗も、カナちゃんたちも!青!黒!みんな!」
「「へ、へい」」
「待ちなされ」
なんだよ!はやく助けなきゃいけないのに!
「人間を助けるなど言語道断」
「な、なんで」
「奴良組の代紋。それは『畏』!妖怪とは人に『畏』を抱かせるもの。それを人助けなど……笑止!」
「なっ、あそこには桔梗もいるんだぞ!」
「姫様は助け出しましょう。しかし、その他の人間に助ける義理はない!」
つまり、家族である桔梗は助けるけど、ただの人間であるカナちゃんたちは見捨てるということ。そんなの……。
「我々は奴良組の総本山。それを、人の気まぐれで百鬼を率いられてたまるか!」
人の気まぐれ――――。
この“人”はぼくのこと……。
「ちぃとばかし言い過ぎでねぇですかい。あぁ!?」
「きさま、わしが誰だかわかっているのか」
「あぁ、わかっていますよ。相談役の木魚達磨様」
「これ、青!」
「青、やめて!」
「やめろ青田坊!」
みんなが喧嘩している。
そんな時間ないのに。
こうしている間にも、桔梗がどんどん弱っていくのに。
どうしてだろう。前にも、こんな気分になった気がする。
桔梗は弱くて、無理をしてすぐ熱をだして、本当に弱くて。
ぼくが守ってあげなくちゃきっとすぐに死んじゃう。
なのに、ぼくは今ここに立ってるだけ。
喧嘩も止められず、一人じゃきっと助けるどころか、瓦礫一つ動かせない。
ねぇ桔梗。桔梗ならこんなとき、どうする?
わからないよ……。
『悩んで当り前よ』
数時間前の桔梗がぼくの両手をやさしく握り、額を合わせてくる。
ぼくが不安なとき、桔梗が不安なとき、内緒話するとき、いつのまにかそうするようになった。
ねぇ、桔梗。桔梗はどうすればいいと思う?
『私は、大切な人たちが笑っていてくれればそれでいい』
桔梗はぼくの目をいつも真っ直ぐ見つめてくる。
顔つきはあまり似ていないけれど、同じ髪色に同じ瞳を持つ、たった一人の双子の妹。
『大切な人が幸せに笑っていられるなら、人間でいるし、人間だってやめられる』
「やめねぇか!!」
全身が熱い。
「時間がねぇんだよ」
桔梗が待ってんだ。
「んんっ!」
「若……」
「なにこれ、こんな若、初めて」
「なぁみんな」
俺のたった一人の妹が。
「若の姿が!?」
「俺が人間だからダメだというのなら、妖怪ならお前らを率いていいんだな」
俺も同じだ、桔梗。
桔梗や、大切な人が笑ってくれるなら――――
「人間なんてやめてやる!!」
あぁ、血が熱い。
「それが妖怪の血です。リクオ様」
「リクオ様はわしらを率いていいんです。あなたは総大将の血を四分の一もついでいるのですから」
『なんでもできるのよ。だって私たちは――――人間であり、妖怪でもあるんだから』
あぁ。今の俺ならなんでもできる。
待ってろ、桔梗。
今助けに行くぜ!