暗い――――真っ暗。
自分の身体も見えないほどの闇――――。
「目覚めたか。いや、目覚めたという表現は少しおかしいかの」
どちら様でしょう。
「ふむ。我は神である」
紙?
「神じゃ」
患者?
「神様」
ワン・サマー
「……お主、いい性格しとるの」
冗談です。
「平然と冗談を言うな」
申し訳ありません。
「まぁ、よい。それよりお主、死んだことを覚えておるか?」
はい。覚えています。
「……覚えているのにその落着き様」
ありがとうございます。
「褒めとらんわ」
ふふっ。
「覚えてるのなら話が早い。お主は死んだ」
はい。
「本来なら輪廻の環に乗ってもらうのじゃが、少し頼みがある」
それは困ります。
「何?」
安倍晴明さんと約束したのです。転生してあの方を倒すと。
「通常なら輪廻の環に入った時点で記憶がなくなる。が、我の頼みを聞いてくれたら記憶を残したまま転生し、なおかつ世界も救えるぞ?」
お話を聞かせてください。
「……決断が速いの」
ありがとうございます。
「……で、頼みというのはだな」
はい。
「『ぬらりひょんの孫』の世界に行って、安倍晴明を止めてほしいのじゃ」
はい。
「……驚かんのか」
先をどうぞ。
「う、うむ。……本来なら、安倍晴明は平行世界に干渉できるほど力を持ってはおらんかった。しかしある時、奴は出会ってしまったんじゃ」
誰とでしょう。
「異世界からきた人間に、じゃ」
それは……異世界トリップということでしょうか。
「……意外と俗世に詳しいの。お嬢様なのに」
元、ですよ。今はそれなりに知識はあります。
「そ、そうか。……で、異世界トリップ者、“旅人”とでも呼ぶかの――旅人は、元はお主の世界の住人じゃったのだが、悪魔の儀式をしおって異世界に、『ぬらりひょんの孫』の世界に飛んだのじゃ」
……そうですか。
「そのものは百物語組と手を組み、迅速に晴明を復活、さらに力をつけさせおった」
神様は何をなさっていたのですか?
「旅人が呼び出した悪魔が厄介なやつでの。何とか原作の記憶を消すことだけは成功したが、元の世界に戻すのも、原作に直すのもできなかった」
まぁ……。
「悪魔はなんとか倒したが、時すでに遅し。晴明は神を喰ってしまった」
神を食べるって……そんなことできるのですか?
「それほど力をつけたということじゃよ」
それで、別の世界にいけるようになったのですね。
「そうじゃ。我は救える命を救えなかった。これは世界が始まって以来の忌々しき事態」
それで、私は何をすればいいのでしょう。
「我の力のすべてを使い、『ぬらりひょんの孫』の世界の、晴明が復活する前に飛ばす。そして、旅人を倒してほしい」
イレギュラーにはイレギュラーを、ですね。
「そうじゃ。……お主しかおらんのじゃ。晴明と対峙して魂が無事だったやつはおらん。お主だけが傷つく前に我がすくい上げることができたのじゃ」
今までのことを整理すると……つまり、未来を変えるということですか?
「それであっておる」
未来が変わったら、今死んだ私や弟はどうなるのですか?
「晴明がお主の世界に行かない未来になるわけじゃから、時はそのまま進む。しかし、お主だけは、未来が変わっても何らかの形で死ぬことになるだろう。お主の魂……存在自体を向こうに移すことになるからの」
わかりました。
「お主には負担をかける。しかし、これ以上世界を壊させるわけにはいかんのじゃ!だから頼む。行ってくれ!!」
いいですよ。
「……即決じゃな」
ただし条件があります。
「ほう、何じゃ。言ってみよ」
弟を幸せにしてください。
「ん?」
もし未来が変わっても、私がいなければ弟は……。気になって、集中できません。なので、幸せに……誰よりも幸せになると分かっていれば、心残りなく行けます。
「うむ、分かった。それくらいなら簡単じゃ。お主亡き後、哀しむじゃろうが、お主の弟にとって最も幸せな人生を送れるよう、手配しよう」
ありがとう……ありがとうございます。
「もういいかな?」
はい。構いません。
「では頼む」
はい。
※※※※※※※※※※
こんな重大な事をあっさりと決めて行きおった……。呆れた娘じゃ。
じゃが、揺るぎのない真っ直ぐな瞳じゃった。
彼女ならやってくれる気がするのが、不思議じゃな。
さて、疲れたのう。
もう一つ仕事をしてから、眠るとしよう。
神が祈るのも変じゃが、彼女の幸せを願って――――。