四歳になりました。
少しずつですが、妖怪の血も体に馴染んできたようで、外に出る回数が増えました。
なんと、少し走ることもできます。
…………本当に少しですが。
ですが、確実に外にいる時間が増えました。
そのおかげで、今日はリクオと、お世話係の雪女、青田坊、黒田坊、それにお目付け役の烏天狗と共にピクニックにでかけています。
「さ、着きましたぜ。リクオ様、桔梗様」
「うわーっ、きれいなところだね!」
「そうね。ありがとう、青田坊」
青田坊は抱えていた私をそっと柔らかい芝生の上におろしました。
情けないことに、屋敷からこの丘まで歩いてくればそれだけで体力を使ってしまうので、ここまで青田坊に抱えてきてもらいました。
リクオは私と出かけられることが嬉しいのか、はしゃいだ様子であっちこっち走り回ってはぐれそうになっていましたが、そのたびに烏天狗が連れ戻してきました。さすが、三児の父だけあって、子どもの扱いが手馴れています。
転生して初めての遠出です。
屋敷の近くにあるこの丘は妖怪の領域らしく、人の姿は見えません。そして、大抵の妖怪も夜行性ですので、お昼時のこの時間は誰の姿も見えません。
「さ、リクオ様、桔梗様。若菜様が作ってくださったお弁当がありますよ。さっそくいただきましょう!」
「うん!」
青田坊と黒田坊が敷いた敷物の上に、雪女はお弁当を広げました。
「こりゃうまそうだ」
「うむ。さすが若菜殿」
うん。本当にすごいです。
五段の重箱ぎっしりに敷き詰められた煌びやかな料理の数々。
こんな豪勢な料理は、前世でお嬢様だったころ以来です。
生まれ変わってからは、消化のいい健康食ばかりだったので……。
まぁ、こんなに豪勢な食事が毎日出ても、胃が受け付けないのでいいですが、今日は特別です。
「はい、リクオ様、桔梗様」
「ありがとう、ゆきおんな」
「ありがとうございます」
料理を取り分けてくれた雪女にお礼を言うと、雪女は嬉しそうに笑いました。
「おい、雪女、俺達のは?」
「あんたたちは自分で取りなさいよ」
「へいへい、そうかい。じゃ、遠慮なく」
「ちょっ……青田坊!あんたとりすぎ!リクオ様と桔梗様が食べる分がなくなるじゃない!」
「ふむ。美味だ」
「黒田坊も!エビフライばっかり食べないでよ!」
賑やかな食事に、思わず頬が緩んでしまいます。
近頃体調がよくなったおかげで、みんなと食事ができるようになりました。
リクオは屋敷の妖怪たちと大部屋で食べていますが、私は体調がすぐれないことが多く、部屋で母若菜と食べていたのです。
前世のときのパーティとも違いますし、父と母が亡くなってからは、弟と二人きりの食事でした。
なので、こんなに賑やかな食事は本当に新鮮です。
大部屋でみんなと初めて食事を食べたときは、興奮しすぎて熱をだしてしまい、みんなに心配をかけてしまったことを覚えています。
ふと、リクオを見ると、芋を箸で刺して食べている様子が見えました。
「リクオ、刺し箸は行儀が悪いですよ」
「さしばし?」
「そう。寄せ箸、刺し箸、迷い箸は相手にともて不快な思いをさせてしまうんですよ。それに、箸の持ち方はそうではなく、こうですよ」
リクオに正しい持ち方を見せるも、リクオは難しそうな顔をして箸の握りを直そうとしています。
四歳児にはまだ難しいでしょうか……。いや、こういったことは小さなころから積み重ねていかないと、大人になったとき恥ずかしい思いをするのはリクオ自身ですからね。
前世の私もお嬢様なだけあって、今くらいのころからマナー教育は受けていました。
子供心には少々つらい時もありましたが、そのおかげで成長したときに恥をかかずにすんでいるのです。
要は、子供の時の教育を辛いと思うか楽しいと思うかは、教え方にもよるのでしょうね。
なおも四苦八苦しているリクオに、丁寧に教えていると、雪女が楽しそうに笑いました。
「ふふ。桔梗様はまるでお姉さんですね」
その言葉に、横にいたリクオがピクリと反応したのに気付きました。
「あぁ、桔梗様は本当にしっかりなさっている。まだ齢四つであるのにも関わらずな」
「おまけに、子どもらしからぬ気品も感じられる」
「たまに年齢ごまかしてるんじゃないかと思うぜ」
あ、青田坊……なかなか鋭いですね。
私は曖昧な笑みを浮かべてやり過ごそうと思いましたが、思えばこういった行動が子どもらしくないのかもしれないですね。
「……っ、ぼくのほうが、おにいちゃんだもん!」
「えっ、リクオ様!?」
リクオは突然そう叫ぶと、箸を放り出して駆け出してしまいました。
私は一瞬、その背に前世の弟の姿が重なりました。
人を次々に殺す妖怪に向かっていく弟の姿が――――。
「えっ、桔梗様!?」
雪女や他のみなさんの驚く声が後ろから聞こえます。
どうやら私はリクオの姿を追って駆け出していたようです。