魔女を匿う代わりに、ヤらせてもらう事にした。 作:焚火ゆらゆら
町に戻ってみれば、やはり屋台はほとんどが閉まっていた。
俺たちはまだ開いていた屋台でお揃いの仮装衣装を二人分買って身を包み、それから残りの開いている屋台を歩きながら回って行った。
示し合わせる事もなく、俺たちはまるでそうすることが自然なように互いの手を繋いで歩き、アリアはもう片方の右手で棒を持ちながら小さな舌でちろっとフルーツ飴を控えめに舐めている。
「……れろ………ん…これ、甘いね」
「そういえば、この町に来てから食べたことなかったな」
と言うよりも、行事そのものに参加することが無かったから、イベント時にやる屋台の食べ物を殆ど食べたことがなかった。
「そうなの?おいしいよ、これ………食べてみる?」
食べるのを中断し、俺の方にアリアは差し出す。
一口どうぞ、という事らしい。
「いいのか?俺が口付けて」
「ふふ……今更なこと聞くんだね……気にしないよ」
「……じゃあ、遠慮なく」
そういって一口だけ齧ってみれば、果物の食感と口の中に甘さが広がり、俺が想像していた通りの味がした。
「……確かに美味しいな」
「でしょ?………れろ…」
そのまま俺に一口寄越した後に自分の口元に戻して、再びフルーツ飴を舐め始める。
薄暗い夜の中、街灯が照らす閑散とした街並みの風景は、どこか心を穏やかにさせた。不思議と、祭りの後のこういった雰囲気は昔から嫌いではなかった。間接的に人の温かさを感じているのだろう、と思う。
きっと俺は、直接的に人の幸福を目の当たりにすることには耐えられなくても、心の何処かではそれを求めていたのだ。ずっと。
「祭りが終わったあとの景色もいいものだね、エリクくん」
アリアも同じように感じていた様で、歩く途中で見かける屋台や片付けをしながら仲良さそうに話し込んでいる人々を眺めながら、穏やかな表情でそう言った。
流石に屋台で売っていた食べ物だけでは腹が満たせないのもあって、俺はアリアに俺が普段から通っている行きつけの店で夕食を取らないかと提案し、アリアの了承を得たことでそこに行くことになった。
開店は遅く、夕方ごろからひっそりと深夜帯まで空いている店で、客質の方も比較的治安がよく俺はその店が気に入っていた。
数年間に渡ってそこに通いつめているせいで店の店長や店員には顔を覚えられてしまったが、それでも通わなくなるなんてことはなく、俺はそのまま今に至るまで通い続けていた。
店の扉を開けた時に挨拶をかけてきてくれたのは、この店の看板娘だった。
愛想がよく誰にでも元気に声をかけてくれるその子は、客の中でも人気があった。
最近は見かけなくなっていたが、どうやら今日はシフトに入っていたらしい。
俺一人ではなく隣にいるアリアがいる事を確認して少し驚いた様子を見せたが、直ぐに人当たりのよい笑顔に戻り店の奥の席まで案内をしてくれた。
二人という事もあってカウンター席には座らずテーブルの席に座り、その後に俺はアリアに許可を取って二人分まとめてその娘にメニュー表にある品をいくつか注文した。
メモ書きに頼んだ品を書き終えた看板娘はそのまま店奥に向かうと思いきや、じっとこちらを見つめて興味津々と言った様子でこちらを観察していた。
業務的な対応以外でこういった様子を見せるのは珍しく、思わず聞いてしまう。
「なんかあったか?」
「いえいえ。こちらの可愛い女性の方とはどういう関係なのか気になりまして」
成る程、そういうことか。
十代で魔法学校に通っているような年齢だ。自分に恋人がいたとしても、他の人の色恋沙汰には変わらず気になる年頃なのだろう。
苦笑いを浮かべながらアリアの事をどう答えようか迷っていると、俺と目線があったアリアがいたずらを思いついた顔で俺の代わりにその娘に応えた。
「わたしはエリクくんのお嫁さん、だよ」
想定外の答えが返ったのか、一瞬だけ思考が停止し身を固くしたその子は控えめに黄色い声をあげて口元を手で覆いながら大袈裟なリアクションをとった。
そのまま後ずさるようにしながら店の奥へと入って行き、同僚と何やら楽しげにして話しかけていた。
「俺はいいんだが、いいのか…?その、話して」
「誰かにエリクくんと夫婦の仲になったって言えるのが凄く嬉しくて。だからつい言っちゃった」
幸せそうにアリアはそう言った。
まぁ、本人がいいならいいだろう。
注文の品が届きそのまま食べ始めるが、
ふとアリアが食事するためのフォークやスプーンを使えるかが頭に浮かんだ。だからアリアの方をみてみると、俺の予想と反して苦戦するどころか器用に扱っていて、上品に食事をしていた。
余りにも仕草が様になっていたのでみていると、ふとこちらの視線に気がついたアリアが食べていた手を止めてこちらを見る。
「ん?どうしたの」
「いや………綺麗に食べるんだなって」
「そう?ふふっありがとう」
食事を終えた時に、頼んではいなかったデザートの品が二人分届いていたので尋ねたら、どうやら店長からのサービスということらしかった。店員に礼をいい、それからカウンターの奥にいる店長のほうに頭を向けると、こちらに気がついた店長は気にするなと言った様子で軽く手をあげて応えてくれる。
深く話すような間柄ではなかったが、こうして祝ってくれることに感謝をしながら、俺たちはデザートを食べることにした。
「エリクくんの食べてるデザートも美味しそうだねぇ」
「甘い物好きなんだな」
「うん、好き」
「一口いるか?」
「いいの?じゃあ、ちょうだい」
そう言ってあっと口を開けるアリア。食べさせてと言うことらしかった。
デザートをフォークで分けてから一口サイズを刺して、そのままアリアの口に運ぶ。
「あむ……ん、おいしい」
そう言うアリアはとても幸せそうだ
「じゃあ次はエリクくん。口、開けて?」
「俺は別にいい」
「だーめ。私の方もおいしいよ?」
俺と同じように自分の分のデザートをフォークで刺してこちらに向ける。
「はい、どーぞ」
「………」
若干の恥ずかしさを覚えながらも、大人しくしアリアから差し出されたデザートを受け入れる。確かに上品な甘さと、程よいすっぱさがあり美味しかった。
そうこうしていると、店の奥にいる店員がこちらを見て盛り上がっていた。
「ふふふ……」
アリアはどうやら見せつけることができて満足らしい。
俺は恥ずかしいぞ…あんまり目立つのもよくないし、とそれらしい言い訳を立ててみる。
食事を終えて、アリアに先に店を出て外で待っているように伝えて、自分は会計を済ませようとすると、金を受け取った店長が俺に話しかけてきた。
「結婚おめでとさん」
「ありがとう御座います、料理美味しかったです」
「おう。…にしても、なかなか良さそうな娘じゃねえか、坊主」
「そうですね…俺には勿体ないような気もする娘だと思いますが」
アリアの方をみれば、こちらに気が付き手を振ってくる。
「まぁそう自分を卑下しなさんなや。大事なのは相手をどれだけ想いやれるかだからよ。言っとくがこれからだぞ?大変なのは」
「ははは……」
笑いながら俺の肩を叩く店長。あの、実はそこ一回切られたんすよ…まぁもう直ったから痛くもなんともないんですけど。
気を抜きながら愛想笑いを浮かべ、会話がそれだけで終わったと思い立ち去ろうとすると、続きがあったようで、俺が動き出す前にその前に店長は続けて次のようなことを言った。
「てことは、坊主はもう冒険者は引退するのか?」
きっと、悪意などはなくただ何の気なしに聞いたことだったのだろう。
夢を追って冒険者になった奴の大半は、どっかで自分の限界と折り合いをつけて職を探すのは、普通のことだからだ。
それに素敵な嫁をみつけて冒険者を引退して普通の生活に戻る、なんてのは幸運なケースに入るだろう。
だがその一言は、俺の心に深く突き刺さり、胸が沈むのには十分な言葉だった。
以前の俺だったら今よりももっと傷付いていたかもしれないな、と俺は思った。
俺はそれを悟られないようにさっき以上に愛想笑いを浮かべて、答える。
「どう……なんでしょうね。もう身の振り方を考えないといけない歳なのは自覚があるんですけど、まだ迷っていて」
そう言うと、店長は肯定するでも否定するでもなく、軽く笑い掛けてきた。
「そうか……まぁ、また食べに来なさいや、美味い料理はいつでも提供してやるからよ」
「はい、ありがとうございます」
今度こそ俺は店員達に礼をいい頭を下げてから、店を後にした。
そこで待っていたアリアは俺に近づくなり、手を向けてくる。
「ん、帰ろ」
手を握れ、ということらしい。
俺はそれに応え、歩きながらアリアの手を重ねて握ると、アリアは指を動かして俺の指と絡めるように繋いできた。
「こっちのほうがしっかり繋がれるね」
「…そうだな」
「さっきはお店の人と何話してたの?」
「可愛くて素敵な嫁貰えて良かったなって話をしてたよ」
「そうなんだ」
「ああ」
嬉しそうな反応が返ってくるかと思いきや、目線は前に向けたまま、珍しく無表情のまま俺に聞いてくる。
「……今さら聞くのは、ずるいことってわかってるけどね」
「ん?」
「エリクくんはさ、私のことをお嫁さんにして…ほんとによかった?」
「なんだそりゃ。よくなかったら、こうして恋人繋ぎとか何かしたりしないだろ」
「こいびとつなぎ?」
「今俺とアリアがしている手の繋ぎ方の名称だよ。主にラブラブなカップルがしているな」
「らぶらぶ……私たちも、そう?」
「少なくとも、俺はそう思ってるよ。さっきの食べさせあったりするのとかも、ほんとに嫌だと思ったら俺はやらないよ」
「そっか………そうだよね」
「ああ、そうだ」
「……私もエリクくんが大好きだよ」
「それはもう知ってるよ」
「そっか。………らぶらぶ……ふふ」
ご機嫌な様子を示すように、繋いだ手を上下に大きく振るアリア。
人気が少なくなり、自宅が近くなったところでアリアは雰囲気をガラッと変えて、男を刺激させるには十分すぎるほどの妖艶な表情を浮かべて、俺に声を掛ける。
「ねぇ、エリクくん」
「ん、なんだ?」
「今日、最後分かれる時にわたしがなんて言ってたか……覚えてる?」
あんな事言われて、男なら忘れることのほうが難しいだろう。
「……覚えてるよ」
「眠るの我慢して、もう少しだけ頑張れそう?」
「…………ああ」
「あ……ふふっ……ここはまだ元気だねぇ」
「これは疲れてるからだよ。疲れてると、自然にこうなる」
「ほんとかなぁ、エリクくんすけべぇだからなぁ」
「……先に風呂済ませるぞ、汗が気になる」
「なら一緒に入ろうよ。お背中流してあげる」
「……中で俺に襲われても文句言うなよ」
「いいよ?あ、でも。のぼせちゃうのだけ気をつけようね」
そう言いながら自宅の扉に手を掛け、中に入った瞬間から始めてしまったのは、此処だけの話だ。
後から気づいたことだったのだが。
どうやら人間は死線を経験した日の夜は子孫を残そうと必死に身体が頑張るらしく、疲れ以上に興奮が上回り、眠気は何処に行ったのやら精根尽き果てるまで俺は気の済むまでアリアと体を重ねた。
結果的に俺たちが行為を終えてから眠りについた後、次に目覚めたのは日が沈んだ夜の頃だった。