魔女を匿う代わりに、ヤらせてもらう事にした。   作:焚き火ゆらゆら

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ギルドで受付

ギルドの扉を開けて、中に入ってみれば、騒々しいほどに賑やかだった。

一部の特別な人間を除いて平凡な人間であっても冒険者である事の利点の一つには、やはり自由である事がある。

それを証明するかの様に、朝から楽しそうに、徹夜明けらしい他の仲間たちと酒を飲んでいる奴らがいた。

彼らのことを凡人の言うのは見下した物言いだし、実際に冒険者を始めた手のころは彼らを、俺は内心で見下していた。

だが今になっては、現実を知った上で出来る事で今を全力で楽しんでいる彼らの方が、身の丈に合わない無謀な夢を抱いていた俺なんかよりもずっと賢明だったのだと、強く思う。

 

気にせずに掲示板の前まで歩いて向かい、今回受けようとする依頼の中に何があるのかを眺めて探す。

と言っても、いつも大体同じ依頼を探して受けている。

多分、もう一つ上のランクの依頼を受けてもいい頃合いなのだろう。

冒険者を続けて数年。

ルーキー上がりの中堅、第四等級冒険者。

それが俺の現在の立ち位置だった。

 

自分の等級を上げたいなら、今よりも少し上の難易度の依頼を幾つかこなす必要がある。

そうすればより報酬が高い、条件がいい依頼が受けられる。

だが、自分の冒険者としての実力と、伸び代にそろそろ見切りをつけていることからも、リスクをとる意味を感じられずにいた。

確かに自分の可能性、才能に限界を感じるのにはまだ少し早いのかもしれない。しかし、夢を追いかけるにしては余りにも俺は年を取りすぎていた。

やはり今回も同じ定期的に森の奥に湧いて出てくる魔物の討伐の依頼が書かれた紙を手に取り、カウンターにいる受付嬢の元へ向かった。

一瞬、足が止まる。

今回受付にいたのは、俺が前から見知っている人物だった。

凛とした佇まいに、涼し気な印象を抱かせる目元、長いまつ毛、肩まで伸びた綺麗な亜麻色の髪。

 

受付嬢になる女性は全員、それが雇われる為に必要な条件かどうなのかは分からないが容姿に優れている。

中でも彼女はほかの受付嬢と比べて比較的に冒険者に対してそっけない態度を取ることでも有名だったが、受付嬢の中では人気があり、それでも他の冒険者の中で気を惹こうと声掛けをする者は多くいた。

 

「依頼の受付を頼む」

 

特に会話することもなく、事務的に処理が進む。

数年前も同じようにそっけない対応だったが、今とは違い、昔は偶にだが世間話をするぐらいの間柄ではあった。

雑談の中で俺が出す話題で時たま見せる彼女の控えめな笑みが好きで、そんな様子を見せる彼女を見て、当時の俺は他の冒険者たちとは違うという優越感を感じていたのだと、今になって認めることが出来た。

 

あるオフの日のこと。

ゆったりと過ごしたいと思い、ラフな格好で町へ出かけて落ち着いた店の中で一人でコーヒーをすすっていた時の事だった。ふと、目線を店の窓の外、反対側にある洒落た雑貨屋がある方へ向けてみると、受付の時とは違う私服、イメージがガラッと変わる可愛さを最大限引き出した格好の姿で、そこに彼女がいた。

一瞬で気分が高揚したのを、今でもよく覚えている。

だが、その時の俺はすぐにそのことを後悔する事になる。

雑貨屋の前に立っていたのが、彼女だけではなく、男も隣にいたからだ。

見知った顔だった。というよりもその男が有名だったから一方的にこっちが知っていただけ、というのが正確な所。

第二等級冒険者。余分な肉付きのない高い背丈。

顔が良く、剣の腕も折り紙付きで腕が立つ実力者のその男は、数ある高難易度のクエストや迷宮攻略を達成して名を馳せた人物だった。

彼女は彼のがっしりとした腕に抱き着いて、俺が今まで見たこともなかった表情を浮かべて、それからさっと背伸びをして男に口づけをしてから、幸せそうにそのまま一緒に店の中に入っていた。

その後は、俺はぼーっとカップの中に入ったコーヒーを冷めた後も見つめ、店員に退店するよう言われて席を立つまでそうしていた。

 

 

後から知った事なのだが。

俺と同じように(本質的なところで全く同じではないのだが)、受付の時に何回か会話をしている間に男に惹かれてから、彼女の方から交際の旨を伝えて付き合い始めたらしい。

なるほど、彼女に声掛けをする者がやけに減ったなと思ったのは、彼らはすでにそれを知っていたからだ。

人間関係に疎い俺は、それを今の今まで知る由もなかったということだった。

結局、俺の感じていた特別感や優越感もただの思い込みにすぎなかった。

いや、もしかしたら彼女は俺のことを仲のいい友人として見ていてくれていたのかもしれない。

それも、全く話もしなくなった今となっては、わかる事もないが。

 

だが、今回は受け取った嬢が何やら静止して何か言いたげにこちらを見ている。

「失礼ですが冒険者様……丸腰のままこの依頼をお受けになるつもりですか?」

言われて気付く。

いつも腰に携帯している愛剣がない。

……家に忘れてきてしまったのだ。

「ああいや…………忘れてきただけだ。あとで取りに帰る」

「そうですか。ではこのまま受理させて頂きますね。本日も行ってらっしゃいませ」

珍しく定型文以外で言葉を発した彼女に、俺は深読みをする。それもなるべく自分の都合のいいように。

もしかしたら以前のようにまた軽く話せる間柄にもなれるかもしれない。そういう思考が浮かんだせいで、俺は冷静さを失って間抜けなことを彼女に聞く。

「もしかして、心配してくれてたのか?」

「………………はぁ」

 

そして、俺の甘すぎる期待は見事に外れる。

俺が問い掛けると、彼女は酷くめんどくさそうな態度を示して軽くため息を吐いた。

それから、これ以上勘違いをする余地もない線引きをはっきり示すかのような、冷ややかな目でこちらを見つめ直し、彼女は言う。

 

「偶に、最初から依頼をこなす気もないのに受けようとする方がいるんですよ。事後処理が増えるのも面倒ですし、わざわざそんな方たちの手伝いをこちらがする義理もないので、その確認をとっただけです」

最後に、もし実行に移すならこちらが関与しない所でやってください、という言葉が続いている気がした。

 

「そ、そうか。それは……悪かったな」

「いえ。ではお気を付けて」

「……………」

 

偶に、と言うが、おそらく彼女の辟易とした態度から鑑みてそういう事は日常茶飯事で珍しくもなんでもないのだろう。そして、そのよくある事の中に俺が含まれていた可能性を疑った。

もう、何もかも、遅すぎたのだ。

多分彼女がここまで言うのは、俺を信頼しているからなのではなく、激高したりして無謀なことはしたりしないだろうと踏まれているからだ。

事実、俺はそれを聞いた後に適当に返事をし、特に彼女に何かを吐き捨てることもなく黙って踵を返す。

もう彼女の人生の中で俺は友人ですら無く、ただの景色の一部でしかないのだという事実は、俺に十分すぎるほどのショックを与えた。

内心には動揺が走って、床を見つめながら出口までよろよろと歩く。

そのせいで、昨日と同じように人とぶつかってしまった。

入り口付近でぶつかり。ドンッと身体に軽く衝撃が走って相手が尻餅をついて倒れる。

 

「わ、悪い」

 

目の前の相手は女だった。

勢いで被っていたフードがめくり上がって顔が曝け出される。

ローブの下にはサイズに合っていないブカブカの服装。

深い緑色の髪に、そばかすが入った整った顔立ち、小柄で華奢な体躯、両手で大事そうに鞘にしまわれた剣を持っていた。

 

………ん?

もう一度彼女が抱えている剣を見てみる。

それは、見間違いでなければ俺の愛剣だった。

それが意味することはつまり。

慌ててもう一度緑髪の女をみる。

向こうもこっちの顔を見ていたようで、その少女はこちらを嬉しそうな笑みを浮かべながら見上げていた。




自分で書いてて辛くなってきた……
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