魔女を匿う代わりに、ヤらせてもらう事にした。 作:焚き火ゆらゆら
「さっきぶりだね、エリクくん。必要なものだと思ったから、忘れ物を届けにきたよ?」
「え、あ、ありがと………それで、間違ってなければだが、お前、で合ってるんだよな?」
「うん、私だよ」
取り敢えず手を差し伸べて、アリアが立ち上がるのを手伝う。
立ち上がった彼女はパッパと手で膝下を払ってから、はいと剣を俺に差し出してきた。
渡された愛剣を受け取ってからもう一度アリアの顔をみる。
服はどうしたのかと思えば、どうやら俺の服を借りたみたいだった。
さっきまでとはまるで別人の姿。
本来の姿と比べると、比較的目立たない印象を覚える。
恐らく変身魔法、なのだろう。だが魔力の痕跡が微塵も感じられない。
俺が感知できないほどの高度な次元で魔法を行使している、ということだろうか。
ふと、アリアが手を伸ばして俺の頬に触れて、ひんやりとした指の感触が伝わる。
「…どうしたの?迷子みたいな顔してる」
「……大したことじゃない。それよりも、そんなことしてるとここじゃ目立つ」
そっと手をとって頬から放す。
妙に頬からひんやりとした手の感触が離れていくのを名残惜しく感じるのは、きっと俺が女々しいからだろう。
「相変わらずの照れ屋さん、だね」
「違う」
俺が否定すると、手を口元に寄せてまたクスクスとアリアは笑う。
ふと、横にあるものが気になったのか目線をそちらに向ける。その先にあるのは、ずっと張り出されている討伐依頼の紙だった。
最難関
討伐難易度SSS
そこには、それぞれの有名な魔女の情報が並んで張り出されている。
倒された魔女には顔に二本の線で大きくバツ印が描かれていた。
「魔女って人気だね」
「まぁ、殆どの全人類から敵視されてる点を除けば注目されてる存在ではあるな」
「やっぱり倒せたらいっぱいお金がもらえるんだね」
「そうだな。ついでに地位と名誉がついてくるぞ」
「エリクくんは、魔女をやっつけようと思わないの?」
「……そんな命を棒に振るような真似、わざわざしない。それに、そういうのは資格がある奴だけがするもんなんだよ。例えば勇者とかな」
「どうしてエリクくんがしちゃいけないの?魔女を倒せば、エリクくんも勇者だよ?」
「違うね、勇者になれる奴は最初からハッキリ決まってる。勇者の剣から選ばれた奴だけが勇者として認められるんだよ…………」
それから言葉にせずに、目線だけでお前にならわかるだろとアリアに伝える。
魔族の天敵、勇者の剣。
魔物からすれば最も憎み、壊したい程に恐れ慄く存在。
人類からすれば勝利の象徴であり、希望のシンボルでもある存在。
勇者はそれに選ばれてこそ、勇者たり得る。
「そっか……」
俺がそう言うと、アリアは寂しそうに笑い返すだけで、それ以上は特に何かを言うことはなかった。
ふと、気になって辺りを見渡す。
殆が俺たちの事を気にせず各々好きなようにやっているが、受付にいたさっきの嬢が、こちらを感情が読めない表情で見ていたのに気付く。
俺に目を向けるのと同時に受付嬢はさっと視線を外し、何でもないような素振りで手元にある書類に目線を移した
「………………あんまり長居してもいいことないし、さっさとここを出るぞ」
俺は無言でアリアの身体を掴んで無理矢理方向転換をさせ、
それから背中を押し、俺たちは冒険者ギルドを後にした。
街は、今日も人々の楽しそうな声で溢れている。
数日間に渡って魔王討伐を祝うこの祭も、今日で最後だ。
隣をみればアリアはそんな人々の幸せそうな姿を見て、まるで自分もその中に含まれているかのように嬉しそうに笑っていた。
「ずいぶん嬉しそうな顔をするんだな」
「うん。だって、幸せな人を見ると私も嬉しくて、あったかい気持ちになれるから」
「………変なやつ」
「………ふふっ。エリクくんは、嬉しくないの?」
そう問いかけられてから俺は返答に窮する。
嬉しい。
普通の人間は、魔王が倒されて平和になったことを嬉しく思うのだろう。
だが、
「全く、嬉しくないな」
「どうして?」
「幸せそうな顔をしてるやつを見ると、心底イラいてくる。幸せそうな誰かがいればいるほど、どうしようもなく自分のダメさが浮き彫りになるような気がする」
普通は逆じゃないのだろうか。
人間が人間の尊さについて語り、魔女が人間の醜さについて語る。
これじゃ、どっちが本当の人間かわかったもんでもないなと、俺は道行く人をぼーっと眺めながら他人事のようにそう思った。
「このお祭りはいつまで続くのかな?」
「今日の日付が変わるまでだな」
「…………じゃあ、エリクくんが戻ったら、一緒にお店を回ろうよ」
唐突にアリアが俺の手を握って、もう片方の手で街の風景を指差しながら、俺にそう提案してきた。
「……ちょっとしか回れないぞ」
「それでもいいよ。エリクくんはどう?だめ?」
「……わかったよ、今日の夕方な」
「うん………ふふっ……よかった。ありがとう、ね」
「…………あと、先にこれからお前の服買いに行くぞ」
「用事は大丈夫?」
「終わったら行くから、別にいい。討伐の方も慣れてるからすぐに終わるし」
「そっか……じゃあ、さっそくいこ」
それから俺たちは服屋に行った。
手は、そのまま繋いだままだった。
女性向けの服屋に着いた後、俺たちは店のなかに入ってから順に服を見ていき、アリアの前に服をかざして似合う服を選んでいく。
「これはどう」
「……いいんじゃないか?」
「むぅ……エリクくんの意見が聞きたいの、言ったでしょ?……エリクくんからみて、どう?かわいい?」
「………かわいい、と思う…」
「ふふふ……ありがとう。じゃあ、これ選んじゃお」
そんなまるで恋人のようなやりとりを何回か繰り返した。
途中、アリアは手に持った服を見ながら、ぽつぽつと話し始める。
「さっきの、エリクくんが誰かの笑顔を見て元気になれないっていうのね、そんな事ないと私、思うんだ」
「………何でだ」
「だって私が笑うとエリクくん、とっても優しい顔して私のことみてるよ?」
気付いてなかった?とアリアは言った。
思わず顔に手で触れる。
俺はそんな顔をしていたのか。そんな顔ができる人間だったのか。
「……そりゃ、」
言葉の続きが上手く紡げない。
言えない俺をアリアは特に何か言うことなくそれを見てただただ微笑むだけだった。
それから思ったよりもスムーズにことが進み、気に入った服を偶々見つけるのが早かったので想定したよりも早く服を選び終えることができた。
会計を済ませてからそのままアリアに渡し店を出ると、今度こそアリアと別れを告げる。
品揃えのいい店だった。
一つ一つの商品をおそらく店の店主は自ら吟味しそこに置いてあるのだろう。
アリアが居なければ自分の住むまちにこのような店がある事を俺は知らないまま過ごす所だった。
「また夕方ごろにね」
「ああ」
「約束だよ」
「わかってるよ」
「………エリクくん、耳……ちょっと貸して?」
「………?いいけど」
少し屈むと、アリアは背伸びをして両手で口を覆って、俺の耳元でこういった。
「家に帰ったら、今日もいっぱいしようね」
思わずばっと顔を背け距離を取り、耳を片手で塞いだ。
「ふふふ……また照れてる。可愛い、エリクくん」
「…………」
こっちが構えないことをいいことに揶揄われている。
どうにも俺はアリアにずっと弄ばれてる気がしてならない。
これが魔女なのだろうか。
「だから、ね」
目元を伏せながら言葉を続けると、それからアリアは俺を上目遣いで見上げ、優しい笑顔でこう言った。
「ちゃんと、帰ってきてね」