奥歯が死ぬほどガタガタします。
何で一日にこう何度も顔面をぶっ飛ばされなきゃならんのだ、理不尽すぎませんかね?……いや俺が悪いけど、どう考えても俺が悪いんですけどね。
本当はヒール辺りで軽く治療したいんだが、あの頭のおかしいマジックエルフさんの目の前で新たな魔法を使用する事はそれ即ち死を意味する。
どうせまた「な、何だそれは!?ず、ずるい!ずるいぞ!そ、そうだ!私を殴れ!そしてその治癒魔法を私にも……!」とか言い出すに決まってる。マジで面倒くさい何だこの残念ハイエルフ様は。
…てかエルフの王族だってんならもうちょっとこうお淑やかにしてろよ!
何でめぐみんとダクネスを足して二で割らなかったみたいなバーサーカーが誕生してるんだ!チェンジ!チェンジで!!
俺は世界の理不尽と直面しながら、今のこの状況を軽く整理する。
俺をぶっ叩いて吹き飛ばしたリューさんはシルさんの元に戻ってこちらを涙目で睨み付けている。……いやほんと、すいません。
残念ハイエルフ様は山吹色の可愛らしいエルフさんに連れられ、隅っこの方、リュー達のところに座らされている。お説教でもされてるんだろうか?まともなエルフがいて助かったぜ。……いやリューも滅茶苦茶まともだったんだけどね、ポンコツなだけで。
そしてそんな俺を見て、爆笑している絶壁女が一人…女だよな?声的に。
ひーっ!あっはっはっは!おもろー!じゃねえんだよこの断崖絶壁クソ女がっ!こいつの胸はパッド入りって噂を広めてやろうか……。
視線を横に向けると、未だ床に突っ伏して夢の世界を満喫しているベート・ローガさんが一人。
この狼冷静に一番の勝ち組じゃねえか、グースカ眠りやがって。
ふざけんな!俺を助けろ負けたんだから!強いんだろ!?
更に色々複雑な顔をしておろおろしている脳筋金髪女が一人。……相変わらず服装エロいですね、ありがとうございます。ちょっと元気になりました。
一番奥の席には心底申し訳なさそうな顔をして頭を抱えている金髪少年が一人。
……うん、立ち位置的にこの人が団長か何かなんだろうな、心中お察しします。仲間が頭おかしいと色々大変ですよね。分かる、マジ分かる。
万感の共感を込めた視線を彼に向けていると目が合った。
彼の視線はまるで(うちの仲間が本当にすまない…いや本当にすまない……!)とこちらに訴えかけているかのように疲れ果てた物のように感じた。
その余りにも身に覚えのありすぎる表情に俺は思わず分かる、と神妙に頷いた。
「(……分かってくれるのかい?)」
「(……分かるさ)」
俺達は通じ合った、頭のおかしい仲間を持つ事に対する圧倒的苦労を。
示し合わせたわけでもなく、気付いたら俺達は共に立ち上がり熱い握手を交わしていた。
「あんたも大変だな、仲間の頭がぶっ壊れてると」
一応小声でそう伝える。
「本当に申し訳ない…ただ余りその類の事を言う事はお勧めしないよ、気持ちは分かるけどね。…彼女はほら、あんなでも一応エルフ族にとっては神にも等しい王族だからね……」
あれが神とか世も末…いやそんな事言ったら日本担当の女神が飲んだくれ駄女神な時点で色々終わってるな……。
「「はぁ……」」
お互いの溜め息がシンクロする。
「僕の名前はフィン・ディムナ。これでもロキ・ファミリアの団長をやっていてね。……サトウカズマ、もし良ければ今から話をしないかい?ベートの件、リヴェリアの件、そしてミノタウロスの件。我々には君に対して謝罪する事が山程ある。…状況把握も含めて、互いに情報を共有しておきたい。……どうだろうか?」
あっやっぱり名前はもうバレてるんですね。…まあリューが思いっきり言ってたからなあ……仕方ないか。
本名がモロバレした事に若干思うところはあるが、こいつの提案自体は中々悪くない。…ミノタウロスの一件って事はやっぱアレってそういう事なんだろうか?……安心しろベル、お前の勇姿は俺がちゃんと伝えておいてやるよ!あの金髪脳筋ゴリセイバーさんからの好感度は鰻登りになること間違いなしだ!
何だかんだでベルにそれなりの感謝をしている俺は、恋のキューピットカズマさんになることに決めた。……別に俺が色んな魔法やスキルを駆使してミノタウロスとかを翻弄してた事をあの残念ハイエルフさんに知られたくないわけじゃないよ?ただベルの勇姿を後世に語り継ぎたいだけだからな?……本当だよ?
「ああ、それは勿論「ちょーい待ってくれんか?」かま……ん?」
話し合いに応じる意思を示そうとする俺を、あの爆笑絶壁女が止めに入った。
「話し合いするのはウチも賛成なんやけどな?その前に色々聞きたいことがあんねん。ええやろ?フィン」
「ロキ…それは後からじゃ駄目なのかい?」
「ああ駄目や。こんなおもろ……大番狂わせやってのけた男の素性や、皆も気になるやろ?」
「それは……」
「私は知りたいぞ!ミツルギ…いやサトウカズマ!」
「リヴェリア様!?落ち着いて自重して下さい!!」
ちょっと不味いかもしれない。本当に不味いかもしれない。
団長より偉いってことはこの壁女もしかして女神か!?
素性って事は……異世界出身ってバレたら色々詰むんだが!拘束とかされないよな!?……もしされそうになったら俺の全てを賭けてこの都市から脱出しよう。
「なあカズマ、どうや?」
ニヤニヤしながらそう尋ねてくるが、拒否権は恐らくない。
……くっそ、この女神性格悪いな!
良い感じに誤魔化すしかないか…大丈夫だ、俺はかつて嘘発見器による尋問を乗り越えた男……いや最後にやらかしたけど……!今回は大丈夫な筈だ!王都を震撼させた銀髪盗賊団の助手の力見せてやるぜ!
お頭!力を貸してください!!
「別に構わないぞ。何が聞きたいんだ?」
「まあそんな身構えんなや。ちょっとした世間話みたいなもんやで?」
いや絶対嘘だろ、俺はそんな見え見えの罠にかかるほど馬鹿じゃない。
気を引き締めて余計な事を口走らないように全力を尽くす。
「かったいなー…まっ、ええわ。なあカズマ、あんた何で冒険者になったんや?」
……………えっ。
「……それだけ?」
「だから言ったやん。ちょっとした世間話って。……あんたみたいなのが冒険者になった理由、ウチめっちゃ気になんねん。教えてや」
…なるほど。それだけならまあ……出来るだけ綺麗な理由を並べた方が心証いいよな?これからの為にも。
「モンスター達に苦しめられている人々を助けるために、モンスターを「ぶふっ!?」……おい」
「あ、あかんっ、あかんて!やっぱめっちゃおもろいやんジブン!そんなスラスラ嘘吐くか普通!?あっはっはっはっはー!!ひーっ!!」
何で嘘ってバレたんだ!?てか笑いすぎだろこいつ!
「べ、別に嘘はついてな……」
「あーっはっは……カズマ、知らんのか?神は人の子が嘘吐いとるか見抜けるんやで?」
「何だそのチート!?卑怯だろ!」
ヘスティアのやつそんな事一言も言ってなかったじゃねえか!
つまりなんだ?あいつは俺が仲間以上恋人未満の黒髪美少女が居るって言った時も俺を慕ってくれるロイヤル王女様が居るって言った時も嘘判定が欠片も出てなかったから『うん…そうだね……』って哀れみの視線を向けてたって言うのか!?
ちょっと悲しすぎるんだが!
「そんでホントのとこはどうなんや?んー?」
もう分かった。コイツあれだ、俺の素性を探るとか建前でただ遊んでるだけだ。この絶壁女神が……いつか目にもの見せてやる……!
……もういっそ答えなくてもいいんじゃとか思ったが、決闘とはいえベートぶっ飛ばしてるしダンジョン内で金髪さんに魔法行使した事も事実だしなあ……いや絶対俺悪くないけど、力のある権力者ってかなり面倒臭いんだよな……アルダープとかアルダープとかアルダープとか。
……仕方ないか。
「……冒険者ってなんか格好良さそうだし、楽して大金稼いで、美少女にチヤホヤされたいなと思ったからなりました」
「ぶはっ、マジか?マジでか!?そんな理由で冒険者になるやつなんておるんか!?命懸けの職業やで!?ひーっ!!」
「私がチヤホヤしてやるから魔法を……!」
「リヴェリア様!?ステイ、ステイです!」
「サトウカズマ…いえ寧ろあなたらしいと言いますか……納得は出来ますね」
何か色々外野がうるさいがもう知るか!後あの残念ハイエルフを抑えてる有能エルフさん、マジありがとうございます!
「あー、おもろ…そんで冒険者になる前は何しとったんや?」
「……きょ、教育機関で学生をしていました」
「んぐっ…嘘はいかんでー?」
くそがっ!
「……毎日家に引き篭もって、自堕落な生活を送っていました。これで満足ですか?ニートですよニート!ヒキニートってやつです!!」
俺はもう一度答え直し、壁女の方をジッと見る。
先ほどまでゲラゲラと爆笑していたクソ女神も若干気まずそうにして。
「そ、そうか…そうか……な、なんか悪いこと聞いてしもうたな……」
「せめて笑ってくださいよ……」
「…正直すまんかった」
畜生、この
「ま、まあ気を取り直そや!せやな…あ、アイズたんの事とかどう思っとるんや!?ダンジョン内で色々あったって聞いたで!?」
「……頭が残念な脳筋ゴリセイバーって思いました」
「アイズたんに対する感想がそれか!?嘘やろ!?」
「(脳筋か…いやしかしこれはそう育てたリヴェリアにも非があるのでは?緻密な魔法操作の特訓も欠かしてはいなかったが……魔法を纏わせ物理で殴らせてたりもしていたしな……何度も思うが、彼女は本当にエルフなのか?)」
「(!?の、脳筋ゴリセイバー!?……脳筋……だ、だからあの子も怖がって逃げちゃったのかな……)」
「あ、アイズさんに何て事言うんですか!?失礼にもほどがありますよ!粛清してやります!」
「落ち着けレフィーヤ。みっともないぞ」
「(心底不敬なのは分かってますけど…リヴェリア様だけには言われたくありません……)」
「(脳筋ゴリセイバー…も、もしや私も脳筋エルフと思われているのでは?暴力エルフとも呼ばれましたし……い、いえ別に気にすることではないですが……いやしかし)」
様々な思いが錯綜する中、懲りずに神ロキはサトウカズマに質問タイムを敢行する。
ぶっちゃけ面白がってるだけである。
「じゃ、じゃあベートについてはどうや?どう思っとるん?」
「……キャンキャンキャンキャン喚きやがって、発情期かよって思ってました。二つ名が付くとしたら発情犬(エロスティック・ドッグ)だろうなあって」
「「「「ぶふっ!?」」」」
「(だ、駄目だ…!笑うなフィン・ディムナ……!仲間が侮辱されて笑うなど勇者の名折れ……!寧ろそれは言い過ぎだと止めるのが僕の役目だ……!し、しかし今回ベートが彼にやらかした諸々を考えると……彼のこれは正当な報復と考える事も出来る……!!だが耐えろ!団長である僕が笑ってしまうと示しがつかない……!)」
「さ、最悪の二つ名やなぁ…神会でんな事ほざく神がおったらしばき回しとるんやけど、今回に限ってはベートも結構やらかしとるからなあ……くくっ、暫くこれでからかえるんちゃうか?」
「エロスティック・ドッグ……良いわね」
「ねー!今度からベートの事そう呼ぼうよ!あたしたちの事もバカゾネスとかよんでるしっ」
「(えろ?ってなんだろう……今度リヴェリアに聞いてみようかな……)」
自分で招いといて何だが、ベートさん可哀想すぎるだろ……でも嘘吐けなかったからしょうがないよな、うん。俺は全く悪くない。
「よっしゃカズマ!最後の質問や!……ぶっちゃけこの酒場におる女の中で誰が一番タイプなん?美少女にチヤホヤされたくて冒険者になったんやろ?聞かせてーや」
何て質問しやがるこの壁神!?どう答えても角が立つだろうが!ふざけやがって!!
「私がタイプであるなら懇願すれば魔法を行使してもらえる可能性が増えるな……」
「リヴェリア様…ハイエルフとしてその発言は流石に……」
「………………………(お、落ち着け…私には関係のないことだ……!)」
「…リュー?大丈夫?」
神ロキの悪ノリによって投げかけられたノンデリクエスチョンによって、隅っこエリアで約一名謎にそわそわしているエルフが生まれた。
サトウカズマはこのクソッタレなダル絡みにどう答えようかと一瞬頭を抱えそうになったが、冷静に考えるとこの酒場内でまともな女はただ一人しか居ないことに思い至った。
シルさんは謎に怖いし、脳筋は金髪だし、エロい格好した褐色の子達は関わりないし、頭のおかしいマジックエルフに関しては論外だ。
となると……。
「……いや、普通にリューだろ」
「!?!?!?!?!?!?!?…………」
「リュー!?」
「短髪が好みなのか…であるならば私も……」
「そう言う問題じゃないと思いますよリヴェリア様!(正直消去法な気が……あ、アイズさんは別ですけど!)」
キャパオーバーにより気絶してしまったエルフさん。
リュー・リオンさんは純情であり、こう言った事に対する耐性は一切なかった故、それも仕方ない。
「ほー!ええ趣味しとるやないかい!……しっかしあんたホンマおもろいなぁ……どや?ウチのファミリアに興味とかないか?入れてやってもええで?」
いきなりの勧誘に少し面食らうが、ヘスティアと比べるとこの女神はちょっと……。
「…いやあの……男神と見分けのつかない壁神様はちょっと……」
「!?」
まだ飲み会は続きますよー