酒場を後にした俺は、ベルを迎えにダンジョンに向かったのだが。
『来てくれて、ありがとうカズマ。…だけど僕は戻れない、強くなりたいんだ……!だから……邪魔しないで!』
と血塗れになりながらも、決死の覚悟を固めて強くなる為に戦い続けるベルに「危ないから帰るぞ」などと言えるはずもなく、結局そのままベルがぶっ倒れるまで側でずっと見守っていた。
「……ごめんね、カズマ」
俺におぶられたまま申し訳なさそうにベルがそう溢す。
…この感覚、懐かしいなあ……。
「気にすんなよ、仲間だろ?」
臭いセリフだが、ベルに対してはこれくらいが丁度いい気もする。
現に背中からは嬉しそうな気配が伝わってくる。
……若干照れ臭いが。
「にしても朝までぶっ通しとはなあ…随分と無茶をしたもんだ」
あの時のベルは鬼気迫るように、ひたすらモンスターを狩り続けていた。
『強くなる…!強くなる……!!強くなるんだ…………!!''証明''するんだっ!!!!英雄になるんだっ!!!!!』
血を流し、足が崩れても、決して諦めず戦い続けて進む彼の姿は、カズマにはとても眩しく映った。
その姿を知っている。夢の為に、''最強''を証明する為に、一つの魔法を極めた最強の魔法使い。
ネタ魔法だと馬鹿にされても、色んなパーティーに要らない子扱いされても、それでも命懸けで浪漫を追い求めた稀代の大馬鹿。
本当は心の何処かで無理かもしれないとか不安を抱えながら、それでも諦めずに自身の夢を謳い続けたアークウィザード。
泥臭くも毎日毎日ひたすら努力を続けた頭のおかしい爆裂娘。
誰もがそんなのは無理だと鼻で笑ってしまう様な馬鹿げた夢を本気で追いかけ、遂には叶えてしまった天才魔法使い。
ベルにはそれに近いものを感じた。
……そういう馬鹿は、嫌いじゃない。
ベルを気に入っているのもそれが理由なのかもしれない。
「こうでもしないと…アイズさんにもカズマにも追いつけないから……強くなんてなれないから……」
「いやアイズなんたらとやらはともかく俺は滅茶苦茶弱いぞ?」
「……そんな事ない、カズマは強いよ。……僕は君に、そしてアイズさんに置いていかれないように強くなりたいんだ、他の誰よりも速く。……もう、守られるばかりの弱い自分は、嫌なんだ……!」
「……そっか」
かつては頭のおかしい爆裂娘としか呼ばれなかったあいつも、今では魔王軍を下した稀代の大魔法使いと讃えられている。
……だったらベルも、きっとなれるさ。
今はまだ弱いかもしれない。でもひたむきに努力出来るコイツならきっといつかは── 。
「頑張れよ、ベル」
「!うん…僕頑張るから……!すぐにカズマに追いつくからね……!」
「…いやそれは一瞬で追い付けると思うけどなぁ……まっ、俺を超えるのは余裕だとしてもアイズに追い付くのは死ぬ気でやらなきゃ相当厳しいと思うぞ?都市最強派閥だしな」
「…うん、無謀だって言うのも高望みだって言うのも分かってるよ。……それでも僕は諦めたくない…強くなるよ、必ず……!」
……眩しいな、コイツは。
「……そっか、そうだよな。無茶でも無謀でも、やるしかないんだったらやるしかないよな、しょうがねえなあ!とか言いながらさ」
「……カズマも、あったの?そんなこと」
「あったあった、うんざりするくらいにな」
「…そっか、その度にカズマは何とかしてきたんだね……凄いなぁ……」
「俺だけの力ってわけじゃないけどな。…仲間のお陰だよ、あいつら意外と優秀だからなぁ……」
「…どんな人たちだったの?」
どんな人たち…か。
「頭のおかしい爆裂娘、脳筋ドMクルセイダーお嬢様、酔いどれ借金吸い寄せ女神……本当、どうしようもない奴らだよ」
暫く会ってないあいつらを思い出しながら、苦笑混じりに口から溢れる自然な評価。
「……もっと詳しく、聞かせて欲しいな」
……………………………。
「そうだなあ…当たりさえすれば神や悪魔すら殺せる威力を持つが、燃費やら何やらが悪すぎて誰も覚えないようなネタ魔法を極めて、最後には名実ともに世界最強の魔法使いになった爆裂娘だったり、剣は全く当たらないがその代わりに世界の何よりも硬くて頼りになるクルセイダーだったり、基本的にはどうしようもないほどクソバカで厄介事ばかり背負い込んでくるけど、回復や支援だったら誰にも負けない優秀なプリーストだったり……まあなんだかんだ凄い奴らだよ、俺の仲間は。……調子に乗るから本人たちには絶対言わないけどな!」
マウントとってくるのが目に見えてる。特にアクア、あいつは絶対クソ面倒臭い。
調子に乗ったあの馬鹿どもの姿が目に浮かぶ様だ。
『やっと私達が優秀だって認めたのねカズマさん!ぷーくすくす!やっぱりセシリーの言った通りじゃない!カズマはツンデレ!ツンデレなのね?めぐみんやダクネスにも教えてあげないと!今日は宴会よ!あのカズマさんが私達を認めたんだもの!盛大にイジってあげないとね!』
……あの駄女神、借金増やしてないだろうな…………。
『ほう!世界最強の魔法使いですか!素晴らしい素晴らしい!何と甘美な響きなのでしょうか!!……さあカズマ、もう一度、もう一度言ってください!ほら、魔王城を前にした時の様に頼むぞ、世界最強の魔法使いと……!恥ずかしがらずに言ってください!あの格好いいセリフをまた聞かせてください!』
……あのロリっ娘、近所の子供に迷惑かけてないだろうな…………。
『か、硬くて頼りになるクルセイダーか…う、うむ……わ、悪くはないな……!な、なあカズマ…で、出来ればもう一度言ってくれないだろうか……!めぐみんの様に最硬のクルセイダーと……!』
……性癖以外は一番まともなあの変態、苦労してないだろうか………。
心配だなあ……。
そんな俺の思考が伝わったのか、ベルは。
「…そっか、カズマにとってその人達は凄く大事な存在なんだね」
少し寂しそうに、だけど嬉しそうにそう囁く。
…………。
『カズマ!今日はシュワシュワじゃんじゃん飲むわよ!ほら、今日は特別にこのアクア様が注いであげるからこっち来なさいな!』
『カズマ!そろそろいい加減私もシュワシュワが飲みたいです!世界最強の魔法使いたる我が、未だシュワシュワの一つも飲めないなど有ってはなりません!ダクネス、さあその器を私に寄越してください!』
『や、やはりめぐみんには少し早いのではないか……?なあ、カズマもそう思うだろう?』
………………………元気にしてるかな、あいつら。
「……まあ大事かどうかって言われると……大事なのかもな」
勿論今は、ベルもヘスティアも大事ではある。……照れ臭いから言わないが。
「……遠いなぁ…憧れも、目標も……強く、なりたいなぁ……!」
……強くなりたい……か…………。
「…分かるぞ、その気持ち」
「……え?」
「俺も高すぎる目標に対して強い力が欲しくなる気持ちはよく分かるって言ってるんだ」
「…カズマが?……どう言うことか、聞いてもいい?」
「……そんなに面白い話でもないんだけどな。…まああれだ、俺の気紛れで何処ぞの駄目女を故郷から引きずり落としちまってなあ…帰りたがっているそいつを元いた場所に帰してやる為には世界で一番恐ろしい存在を倒さなきゃならないときた。火力も耐久もチートも何も持ってない俺がな。……そん時初めて思ったよ、俺にも敵を簡単に倒せるような強い力があればなって」
チート能力なんて別段欲しくなかった俺が、初めてそれを欲した瞬間を思い出しながらベルに語り聞かせる。
「……カズマはその人を、帰してあげられたの?」
「……帰してあげられたよ、ちゃんとな」
やっと、あいつを
「…そっか、やっぱりカズマは強いよ。…僕の憧れの一つ、君みたいに何かを成し遂げられる人に……僕はなりたい」
「俺でも出来たんだ。ベルなら余裕だろ、この世界を救った英雄カズマさんが保証してやる」
「!うんっ…僕……がんば…………る……………か………………」
「…寝たか、まっ無理ないよなー……おやすみ、ベル」
俺は未来の英雄候補を背負いながら、ヘスティアの待つホームへと向かっていく。
──── ──── ──── ──── ──── ────
そろそろホームが近くなってきたなと思いながら、視線を前に向けるとそこには。
「はぁ…はぁ……!ベル君もカズマ君も何処に行ったんだ……!!ま、まさか何かあったんじゃ……!?ベルくーん!カズマくーん!!近くに居ないのかい!?」
大汗をかきながら俺とベルを探している女神様の姿が……。
…そう言えば、ヘスティアには朝までダンジョンに潜るとか一切報告してなかったな……。
そりゃ滅茶苦茶不安になるわ。俺はともかくベルが帰って来ないのは明らかに異常事態だもんな……。
心配をかけてしまった若干の気まずさを抑え込み、俺は未だこちらに気付いていない女神様に。
「おーいヘスティア!帰ったぞー!!」
右手を挙げ聞こえる様にそう叫んだ。
その声が届いたのか、ヘスティアは残像が見えそうなスピードでシュバっと顔を振り向かせた。
そして。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!カズマ君!ベル君!!無事でよがっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
大粒の涙を溢しながら突進してき……!
「ちょ、ちょっと待て!今抱きつかれるとバランスが……!」
そんな制止が今の感無量号泣女神に対して間に合うはずもなく。
「カズマ君!ベルぐぅぅぅぅぅん!!!!!!!!!!」
「ぶはっ!?」
「あばっ!?」
勢いのまま押し倒された。気絶していたベル諸共。
…なんか変な声聞こえたけど大丈夫だよな?
「お、おいヘスティア落ち着け!ベルが大変なことになるだろ!?」
未だに俺とヘスティアの下敷きになっているベルを案じて、泣きじゃくっている女神を押し除けようとする。
「これが落ち着いていられるもんか!どれだけ心配したと思ってるんだ!……ってべ、ベル君が大変ってどういう事だい!?やっぱり何かあったのかい!?ベル君!ベル君っ!!」
慌てて立ち上がり、返り血やら何やらで大怪我した様に見えるベルに向かって叫ぶヘスティア。
それが切っ掛けになったかは分からないが、ベルは閉じられていた目を開けて。
「ん……かみ……さま…………?おはよう……ございます……」
「!ベ、ベル君!?大丈夫かい!?」
「…えっと……何がですか?」
「夜帰って来なかった事とか身体中に付着してる血の事とか今まで気絶していた事とかに決まってるだろう!?もう一度聞くよ、大丈夫なのかい!?」
そこまで言われて、漸く自身が置かれている状況を理解したベルは涙の跡が見える神様を安心させる様に抱き締めて。
「…はい、大丈夫です。……心配をかけて……ごめんなさい……」
噛み締める様にそう言った。
それを聞きヘスティアも安心したのか、強張っていた身体から力を抜き、優しく抱き返して。
「…全くだよ、ベル君は悪い子だ。……親にあんまり、心配をかけるもんじゃないぜ?」
頭を撫でながら、少しだけ揶揄う様な表情と声色でそう微笑んだ。
…絵になるなあこの二人。……それはそうと俺の事忘れてませんかねヘスティア様?いやまあいいですけど……。
「う…す、すいません………」
「無事だったのならそれでいいさ。……何があったのか聞いてもいいかい?」
「……その…夜から今までダンジョンに潜っていました……」
「はぁ!?な、何だってそんな危険な……!何考えてるんだいベル君!?しかもそんな軽装で……!」
自殺行為ともとれるそれに対してヘスティアは、訳が分からないと言った様子で少し怒った様にベルに詰め寄る。
そんなヘスティアに対しベルは一度目を瞑り、数瞬程沈黙したかと思いきや、再び瞼を上げ彼女の瞳をしっかりと見据え。
「神様……僕、強くなりたいんです」
覚悟を秘めた目で、宣言する様に訴えた。
ヘスティアは理解した。今のベル・クラネルの瞳に映っているのは自分などではなく、遥か高みにいる憧れそのものだと言う事を。
きっとそれは彼のスキルにも現れた
その覚悟を前に、ヘスティアはもう何も言えなかった。
「!……………そっか…うん、分かったよ……君がそうしたいのならもうボクは何も言わない。ただ一つだけ約束してくれ」
これから大成して、あっという間に大きくなっていくであろうまだ小さな大切な子供をギュッと抱き締めながら、一番大切な願いを彼に届ける。
「───ボクを、独りにしないでおくれ」
それだけ守ってくれればボクはもう何も言わないよ、ベル君。
その声と表情、身体の震えから自分が神様を不安にさせてしまった事を痛感したベルは、自らの主神に誓いを立てる。
「…絶対に神様を一人になんてさせません。今の僕が帰る場所は、神様が居るところですから」
必ず帰ってくると。絶対に一人になんてさせないと。
「…ああ、それを聞いて安心したよ……ベル君?」
ここまで来て流石に限界が来たのか、うつらうつらと頭をフラフラさせてヘスティアにもたれかかるベル。
「かみ…さま……ご、ごめんなさい……なんか………すごくねむくて………」
「ああ…そうかい、大丈夫だよ。ゆっくり休みたまえ」
「は……い………かずまも………ごめん…………おねがい」
「任せろ、おんぶは慣れてるからな……っと」
そのまま気絶した様に眠ったベルを俺は背負い上げる。
…軽いなぁ……けどあっという間にデカくなっていくんだろうな、コイツは。
「じゃあヘスティア、帰ろうぜ」
「……カズマ君、ベル君は強くなれると思うかい?」
妙な事を口走る女神、その顔は少しばかりの不安を混ぜた表情をしている。
本当は彼女も分かっている筈だ、ベル・クラネルが強くなれることなんて。
ただやはり確信が欲しいのだろう。
だったら俺は言葉にしてやるだけだ。
「余裕だろ、だってベルだぞ?その内アイズなんたらすら軽くおちょくれるぐらい強くなるさ」
「…そう……かな………」
まだ不安そうな顔をしてやがるヘスティアに俺は言ってやった。
「ベルならなれるよ。後の世に稀代の大英雄として名を残せるような……そんな英雄に」
その瞬間を俺が見届けられるか、それとも元の世界に帰っているかは分からないけど、ベルが英雄になれるのは確信している。
だってこいつは、俺が大好きなあの
「それともなんだ?ヘスティアはベルの事信じてないのか?薄情な神様ですね!」
そこに一切の嘘がないこと、そして彼が本当にベル・クラネルを信じている事に安心したのか、ヘスティアは先程まで不安そうに翳っていた顔を破顔させて思いっきり笑った。
「あっははっ!言うじゃないかカズマ君!ボクがベル君を信じていないかだって!?そんなわけないじゃないか!ベル君は英雄になれる!絶対になれるともっ!!ベル君を世界で一番信頼しているボクが保証するともさっ!!……その時いの一番に祝福の言葉を送るのはボクだからね?こればっかりはカズマ君にだって譲ってやれないよ!何せベル君は、ボクの初めての
「はいはい頑張れ頑張れ」
「真面目に聞けぇ!…全く、本当に君ってやつは……手のかかる子供だよ」
何時もの空気に戻ったのを体感したヘスティアは、気持ちを切り替えて何気に心配していた事をカズマに尋ねる。
「……ところでカズマ君、酒場で問題は起こしてないだろうね?」
…………………………………………………。
「……お、起こしてないですよ?」
「はいダウトぉ!!全く、カズマ君は全く!!今度は一体何やらかしたんだい!?怒らないから言ってみたまえ!」
「……従業員のエルフさんの下着を剥ぎ取った挙句、レベル5の冒険者と決闘して瞬殺しました」
「本当に何やってるんだい君ぃ!?えっ、それって大丈夫なのかい!?ファミリア間のいざこざは抗争にもなりうるってヘファイストスが言ってたんだけど……!」
「えっ、そうなのか?……まあそこに関しては心配要らないと思うぞ?何せそこの主神様とはやたら気が合って泥酔するまで一緒に飲んだ仲だしな。……団長さんとも色々分かり合えたし、結構楽しく飲み食いしてたぞ」
フィンさん…これからもあの魔法ジャンキーの相手は大変だろうけど……頑張れよ!陰ながら応援してます!
「いやいや決闘からの瞬殺で何で一緒に飲むことになるんだい!?えっ、て言うか…その主神って一体誰なんだい?和解したフリして裏切ったりとかしないかい?神にも色々いるからね……心配だよ」
「何でと言われても普通に流れで。……主神様に関してはまあ大丈夫だろ。だって『なんか困った事とかあったら何時でも言ってな?ウチの神名に懸けて助けたるからな!』とか言ってたし」
「神名に懸けてとか気に入られすぎじゃないかい!?し、しかもその口調……も、もしかして相手は……!」
「可哀想な胸をした壁神様だよ」
「やっぱりロキだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」
辺り一面に鳴り響く様な轟音が一人の女神から激しく飛び散る。
…壁神様で察されるあいつ可哀想すぎだろ……今度からは出来るだけこの弄りは控えよう……。
「うるさいぞヘスティア、近所迷惑だ」
「ボクが悪いのかい!?だってロキだぜ!?あの暇を見つければ神々に戦争ふっかける危険神物ロキだぜ!?それが子供に手を出されて黙ってるわけないだろう!?まして神名に懸けて助けになるだなんて……!いや嘘じゃないのは分かってるんだけどね!?とても信じられないよ!」
「えっ、マジか…あいつそんな危ない奴だったのか……まあいいけど」
「軽いねっ!?うわぁマジかぁ…ロキかぁ……き、君の主神がボクだってバレないようにしてくれよ?何故か知らないけどやたら敵視されてるからね……カズマ君も嫌われちゃうかもしれないし……ね?」
…………………………。
「もう言ったよ」
「手遅れだった!?……えっ、じゃあロキは君がボクの眷属だと知った上で友好的だったのかい!?」
「全然普通だったぞ。よりによってあのドチビかい!とかは言ってたけどな。それ以外は何も」
その返しにヘスティアはとても信じられないと言ったような目をこちらに向けてきた。
「……そ、それだけかい?」
「それだけだぞ?…………………あっ」
「いや待ってくれ!そのあっ、凄く怖いんだけど!?他にも何か言ってたのかい!?」
慌てて掴みかかってくるヘスティアをベルの為に何とか躱しながら、ふと思い出したあの女神の慟哭を吐き出す様に伝える。
「ちょ、ちょっと落ち着け!別に悪い意味じゃない!ただ『胸も心もどデカいドチビには勝てへんのや!』とかも言ってたなって思い出しただけだ!」
「……ろ、ロキがそんなこと言ってたのかい?」
「泣きながら言ってたよ、俺が散々壁神様呼ばわりしたお陰かな」
「やめてあげてくれよ!?流石にボクも同情するぞそれは!?」
「仕方ないだろ、あいつが先に喧嘩売ってきたんだから。ロキの胸はパッド入りって噂をオラリオ中に流す計画を実行しなかっただけ優しい方だろ」
「天界送還レベルの大イジメじゃないかい!?絶対やるんじゃないぞ!?いいか、絶対だぞ!?」
「おっ、それはフリですかヘスティア様」
「違わいっ!ああもう…神々すら振り回す君には感嘆を通り越して呆れ果ててしまうよ……ロキもきっとそんなカズマ君に当てられてしまったんだろうね」
「そう褒められると照れるな」
「褒めてないやいっ!」
プリプリと憤慨する女神様はそれはもう可愛らしかった。
身体全体で怒りを露わにしているものだから、当然その大いなる双丘も揺れる揺れる。
…ロキ、お前じゃこいつには勝てねえよ……パッド入れても太刀打ちできませんよ……。
どうしようもない世の不条理に心底同情した俺は、ひっそりとかの女神様に黙祷を捧げながら、抗争がどうたらと不安がっているヘスティアを安心させる為に口を開く。
「まっ、そう言うわけだからファミリア間の抗争とかは心配しなくていいぞ、寧ろロキ・ファミリアに命令出来る権利まで得てるからな。魔法で釣れるハイエルフ様もいるし。団長様に限っては貸し借り関係なく何でも言ってくれとも言ってたしなー」
「……もうボクは何も言わないよ……とにかくロキ達が可哀想な目にあったって事だけは分かった……君は本当に規格外だね、カズマ君。彼等は確か、この都市最強の二大派閥の一つなんだろう?……一応聞いとくけど、フレイヤ・ファミリアの方には何もしていないだろうね?」
「…………………」
「…う、嘘だろ?嘘だと言ってくれ!!まだ君がこの世界に来て一週間足らずしか経ってないんだぞ!?何でそんな短期間で次々と最強クラスの存在とエンカウントしているんだい!?」
「い、いや落ち着け!フレイヤ・ファミリアとは別にエンカウントしていない!ただベルをフレイヤ様教の教祖に仕立て上げてご機嫌取りをしただけだ!!」
「本当に何やってるんだいキミぃ!?ただでさえ異世界出身の君の存在が露見したら色々大変な事になるのに目立ちすぎだろう!!」
「し、仕方ないだろ!?あいつらに分散されてた厄介事吸引センサーが全部俺に集約されちゃったんだから!!有り得ない頻度でクソイベントが次々起こるのは俺のせいじゃない!上手くいかないのは俺が悪いんじゃなくてそうならない世間が悪い!!結論俺は全く悪くない!!」
「何開き直ってるんだいカズマ君っ!?しかもなんだその理論はっ!?駄目人間の思考そのものじゃないかい!」
「俺の世界ではこの考えを国教にするべきだって世界中に吹聴してる宗教団体が生息してるぞ」
「おかしい!君の世界は頭がおかしい!!」
分かる。凄く分かる、俺も最初はマジでそう思ってたからなあ……懐かしいぜ。
何で野菜が動くんだよとか魚が畑で獲れるわけないだろとか……ああくそっ!思い返すとなんかムカついてきたぞ!!
俺はその激情に駆られるままヘスティアに。
「まだまだこんな物じゃないぞあのふざけた世界はっ!何故か秋刀魚は畑で取れるし、キャベツは食べられたくないからだとか意味分からん理由で空飛び始めるしなっ!!その上やたら強いくせに人をおちょくるのが生き甲斐の大悪魔だったり、働けば働くほど負債を抱える残念リッチーだったり、自分が仕えてる王女様に欲情する変態騎士が居たりと……本当、碌でもない世界だよあの世界は!!」
「!……そうかい。それは本当に碌でもないふざけた世界だね、カズマ君」
「そうなんだよ分かってくれるか!?更には一日一発が限界の超火力魔法しか愛せないだのでそれ以外使わないとか言い出す頭のおかしい魔法使いとか、雄オークが全滅した事によるショックでぶっ倒れる性癖が終わってる変態女騎士とか、宴会芸しか取り柄のない飲んだくれ借金女神とか、それを崇拝する狂信者集団が居たりとかで、マジで頭おかしいからなあの世界はっ!!」
「……………………はは、それは大変だったね、カズマ君」
「本当だよ!たくっ、少しは自重しろってんだあの馬鹿ども」
ヘスティアは気付いていてあえて言わなかった。ふざけた世界だと、心底うんざりだと文句を叫び続けるカズマの表情がとても楽しそうだった事に。
「(やっぱり君は…その世界が……いや、仲間達が大好きなんだね……ははっ、寂しくなるなぁ……でも、彼には彼の世界が、帰る場所がある。……ベル君にも、いつかちゃんと言っておかないとね……凄く、悲しむんだろうなぁ……全く、罪な子だ)」
いつか来たる惜別の日に思いを馳せながらも、ほんの少しだけ、この自称最弱の冒険者が出来るだけ長くこの世界に居てくれるといいなと思ってしまうヘスティアなのだった。
「ところで話は変わるけど…酒場の冒険者はどうやって倒したんだい?」
「どうって…魔法で眠らせただけだぞ?」
「……その冒険者って、レベル5なんだよね?」
「ああ、飲んでる時にロキがそう言ってたな」
「……なるほど……はぁ……マジかぁ……」
急に頭を抱えて蹲るヘスティア様。
……どうしたんだこいつ?
「……カズマ君、正直に言うと君はもういつでもランクアップが可能な状態だ。初めてダンジョン探索を終えた時点でかなりのエクセリアが貯まっていたからね、その上レベル5の冒険者を倒したときたら……もう十分すぎるほどに条件は満たしている。魔法を用いて格上を打ち倒したんだ、魔力のアビリティが一気に超上昇していても全然不思議じゃない。……ステイタスが一つでもDに達していたらランクアップは可能らしいからね(ヘファイストスがそう言ってたし……)」
「ランクアップだ?おいおい、まだまだ駆け出しの冒険者に何言ってるんだお前?」
「駆け出し詐欺すぎるんだよ君は…冒険者になって一週間でランクアップだなんて前代未聞どころじゃないぞ……どれだけの神がちょっかいを出してくるか……うぐっ、考えるだけで胃が……!」
ヘスティアが腹を抑えながらこれからの事に不安を抱えているが、その不安は杞憂だと言うことを教えてやる。
「別にランクアップなんてしなくてもいいぞ。面倒だしあんま意味ないだろうし」
「!?」
ぶっちゃけ二つ名とか妬み嫉みで絡まれるのがクソ面倒くさい。チヤホヤされるのも最初だけだろうし。
それにどうせ俺のステータスなんてすぐカンストして伸びなくなるだろうからレベルアップしたところでなあ…格上相手には搦手で倒せばいいだけの話だしな。
特に冒険者に対しては格下だと言うことが有効に働く、舐めてもらえると助かるし。
……考えれば考えるほど、ランクアップに欠片も魅力を感じないな。
搦手でどうにもならないようなモンスターだってベルと組めば余裕で倒せるだろ。
「い、いいのかい?ボクとしては正直凄く助かるんだけど……ランクアップを果たせば強くもなれるだろうし……元の世界へ帰る為には早く強くなりたいんじゃ……」
「俺がランクアップしたところで高が知れてるだろうしなぁ…それに、ダンジョン探索に関しては考えもある」
「か、考え?それって……」
「ベルが十分すぎるほど強くなったら、ロキ・ファミリアへの命令権を使って一緒にダンジョンに潜るんだよ。……その時レベルが低い方が戦いに駆りだされずに守ってもらえるだろ?だから俺は最弱でいたい」
「最後のがなければ素直におおっ!策士だねっ!てなったのに君ってやつは……全く、本当に変わった子だカズマ君は。ランクアップしたくない冒険者なんてこの広い下界を探しても君だけだろうね」
「そんな褒めるなよ、照れる」
「褒めてないんだけどなぁ……まっ、君がいいならそれでいいさ」
肩をすくめてそう溢すヘスティアに俺は改めて決意表明を。
「これからも駆け出し冒険者として頑張っていきますねヘスティア様!」
「さっきも言ったけど君ほど駆け出し詐欺の言葉が似合う子もいないと思うよ…いや、これからはベル君もそうなっていく可能性も……うぐぅ…ほ、他の神々にちょっかいかけられないようにしないとだなぁ……ロキも協力してくれないかな……大変だなぁ……」
再び腹をさすり始めた我らが主神に対して俺は一言。
「がんば」
「君も少しは自重しておくれよ!?」
「……出来る限り頑張るよ」
「はいダウトだぁ!!カズマ君の出来る限り頑張るは出来(ないかもしれないし寧ろその可能性の方が高いけどまあ少しだけ気合いを入れて出来)る限り頑張るよって意味だろう!?言葉の裏に秘めすぎだよ!」
「はは、受ける」
「真面目に聞けぇ!!…はぁ、全く……本当に大変な子供だ、君は」
疲れ果てながらも何処か楽しそうに肩を竦め溜め息を溢すヘスティア。
「…ベル君は苦労するだろうね、何せ君に追いつかなきゃいけないんだから」
「お前もベルも俺を過大評価しすぎじゃないか?最弱職ですよ最弱職、コボルトに囲まれただけでお陀仏するんだよ?てかしたし」
「!?嘘…じゃないだって!?えっ、君一回死んでるのかい!?」
あっ、しまった!
「よしヘスティア!とっととホームに帰ってダラダラしようぜ!なんだかんだ俺もベルもくっそ疲れてるからな!」
「お、おい待ってくれ!詳しく!詳しく……!に、逃げるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
逃走スキル、発動させて貰いますねヘスティア様!!
「ま、待って…待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ──
──ホーム──
「じゃあ神様、ステイタスの更新をお願いします」
「うん、任せておくれ!………!?こ、これは……!?」
ヘスティアの目に映るベル・クラネルのステイタス。そのアビリティの伸びもかなりのものだが、それ以上に──。
「(新しいスキルが発現している!?)」
そこには──。
ベル・クラネル
Lv.1
力: H 120→G 221
耐久: I 42→H 101
器用:H 139→G 232
敏捷:G 225→F 313
魔力:I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【
・早熟する。
・懸想が続く限り効果持続。
・懸想の丈により効果向上。
【
・英雄存在への切望によってチャージ開始。
・チャージ量に応じて全アビリティ上昇。
・限界突破(リミット・オーバー)により更にアビリティが飛躍、昇華。
・極集中(ウル・ポイント)、全開放(フル・バースト)可。
・効果は想いの丈により増減する。
ベル君のステイタス更新場面に関してはちゃんと書くのでご安心を。
……ベル君の強さはいくら盛ってもいいって誰かが言ってました。オリジナルスキルに対しての苦情は受け付けます。
でもリスク有りのパワーアップって格好いいと思うんです。鐘の音を鳴り響かせながら限界を超えて戦うベル君を想像したら超格好いいと思ったのでやっちゃいました