この素晴らしいダンジョンにカズマさんを!   作:ぽーぴー

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好き放題書いちゃいました。後悔はしていません。


この素晴らしい英雄達に喝采を!

ロリ神ファミリアに入団してから一週間。

 

この俺佐藤カズマは、冒険者登録を終え、初心者講習とは名ばかりの徹底的な詰め込み教育…いや拘束期間を乗り越え遂に── 。

 

「自由という名の翼を手に入れた……!!」

 

「こら!調子に乗らない!!」

 

「は、はは……良かったねカズマ」

 

ダンジョン探索の許可と講習終了のお知らせを得て有頂天になっている俺に、担当アドバイザーのエイナ・チュールさんが何か言っているが努めて無視する。

 

この一週間で学んだ。この人は、反撃すると怖いのだ。

 

言ってる事は大体正論の上、こっちを思って忠告してくれていることが分かるので、逆らうことも不可能。良心が痛む。

 

ただ粛々とお叱りを受ける事しか出来ないのだ。

 

その余りの恐ろしさに俺は心の中で、無駄に口煩くて世話好きなお人好し小姑ハーフエルフ、略して無駄乳ハーフエルフさんと敬意を込めて呼んでいる。

 

「カ〜ズ〜マ〜く〜ん〜?な〜に考えてるのかな〜?お姉さんにも教えて欲しいな〜?」

 

「ひうっ!?な、何でも有りません!何でも有りませんよエイナさん!!さあベル、早速行こうぜ!!俺たちのダンジョン攻略はこれからだ!!」

 

「えっ!?……うんっ」

 

「ま〜ち〜な〜さ〜い!!!!」  

 

そうして足早にその場を立ち去るカズマを見届ける二つの影。

 

片方は呆れ顔で、もう片方は苦笑いを浮かべながらも何処か楽しそうな顔でそれを見つめている。

 

「……それじゃエイナさん。僕たちはこれからダンジョンに潜ってきますね。色々ありがとうございました!」

 

素直にぺこりと頭を下げ感謝を伝えてくれる純粋無垢なベルに、口を開けば憎まれ口を叩いてくるあの男とは違うなぁと、ささくれだった気持ちが癒やされていくのを感じるエイナ。

 

「ふふ、良いのよ。私がやりたくてやった事なんだから。……まあカズマ君にとっては余計なお節介だったみたいだけど!」

 

その端正な顔を歪ませプイッとそっぽを向く彼女を見て、これは随分お怒りだと内心恐縮しながら宥める事に専念するベル。

 

「あ、はは…そんな事ないと思いますよ?エイナさんの詰め込み教育のお陰でモンスターとかダンジョンの事効率よく知れたって言ってましたし……あと文字も」

 

……家で『エイナさん優しくて美人だけど怖いんだよなー…ギルドの受付嬢って大体行き遅れるらしいけどあの人はどうなんだろうな?賭けてみようぜベル』『ボクのベル君に変な賭博教えるなーっ!!』『何だよヘスティア少しくらい良いだろ!?』『ダメだ!そもそも女性のそういったデリケートな部分を指して賭け事だなんて恥ずかしくないのかい!?恥を知りたまえ!!』『良い子ちゃんぶりやがって…因みにその人、多分ベルのこと狙ってるぞ』『行き遅れるに100ヴァリス!』『乗った!』『神様!?カズマ!?』みたいな会話があった事は秘密にする。

 

賢明だベル・クラネル。あなたは確かに今一人の男の命と主神の名誉を守った。

 

「はぁ…だと良いけど……まさかベル君の初めての仲間が''共通語''が読めない冒険者だとは思わなかったよ。……心配だなぁ」

 

「カズマはその…随分遠くの方から来たみたいなので……でも、一週間で読めるようにさせるなんて凄いですね!カズマもエイナさんも!!」

 

「うーん…最低限のことしか教えられなかったけどね。そう言ってくれるとありがたいかな。……カズマ君も頭は悪くないみたいだし、あの捻くれた性格がなければもっと楽だったんだけど!」

 

「あ、はは……」

 

一体何したんだカズマと爆発寸前のエイナさんを置いて早々に立ち去った友人兼家族が消えて行った方を思わず流し見するベル。

 

「…ふぅ……ごめんねベル君。私とした事が随分取り乱しちゃったみたい。……怖かった?」

 

「ええっ!?い、いえそんな事はっ!?」

 

「あはは、分かりやすいよ?ベル君」

 

「うっすいません……」

 

項垂れるベルを暫く微笑ましげな笑みを浮かべて眺めるエイナだったが、途端に真面目な表情を浮かべて。

 

「…ベル君、何時も私が言ってる事覚えてる?」

 

「?…あっ、はい!冒険者は冒険しちゃいけない、ですよね?」

 

「そう。…冒険者は冒険しちゃいけない、矛盾してる様だけど命を守るためには絶対遵守して欲しいの。……あの子、カズマ君に釣られて変なことしたら駄目だよ?例えば初ダンジョンで一階層より下に降りちゃうとか」

 

「……し、しないですよ…多分」

 

「ん?」

 

「絶対しません!?」

 

多分って言った時の顔があまりにも修羅で即座に否定と言葉が飛び出た。

 

…こ、怖い!エイナさん怖いっ!!美人で優しいエルフさんだけど怖い!!

 

「じゃ、じゃあ僕もそろそろ行きますね!いってきますエイナさん!!」

 

若干の恐怖とその場から逃げ去りたい気持ちが合わさり、先ほどの巻き戻しのような光景がその場に広がる。

 

白兎は一足先に逃げ去った仲間の元へと駆け出した。

 

「あっもうっ!……いってらっしゃい、二人とも」

 

それを見送る彼女の顔はまるで、手のかかる弟と子供を見送る母のようだったと、後に同僚(ミィシャ・フロット氏)は語った。

 

── ── ── ── ── ── ──

 

「カズマーっ!!!!」

 

完全にブチ切れている時のダクネスのような風格の担当アドバイザー様から逃げ出してダンジョン方面へ向かっていたカズマの耳に、最近仲間になった優しき少年の声が聞こえてくる。

 

「おっ、ベル。やっと来たか。随分遅かったじゃないか」

 

「はぁ…はぁ……カズマがエイナさん怒らせて逃げるからでしょ。……何したら一週間であそこまで怒らせられるのさ」

 

ほとほと疑問ですといった顔で問いかけてくるベル。

 

……何、か。

 

「特には思い当たらないな。……強いて言うなら疲れ果ててた時に小声でボソっと『小姑みたい……』って言ったことぐらいだな。……その後ぐらいから視線が怖くなりました」

 

「絶対それじゃん!?」

 

「……俺が悪いと思うか?」

 

「100君が悪いよ反省しなよ」

 

「……ベル、世の中に100なんてものは」

 

「屁理屈捏ねてないでちゃんと謝りなよ。……賭け事してた事言われたくなかったら」

 

「おまっ!?ふざけんなよベル!人を脅すなんて最低だぞ!!人間やって良いことと悪い事があるだろ!?その区別もつかないのか!?」

 

「君がそれ言うっ!?」

 

そんな馬鹿みたいな軽口を叩き合いながら進む彼らを見て、これからいつ死ぬとも知れないダンジョンに挑むと分かる人間はそうはいないだろう。

 

「…ところでカズマ、その弓矢って……」

 

「……スキルの関係で剣がただの鉄屑に成り下がったからな、ギルドで借りてきたんだ。……借用書付きで。

 俺はこれからは魔法弓兵って感じで行こうと思う」

 

ヴァーサタイル・エンターテイナーとか使えば芸達者になり、当たらない剣を当てる芸等も可能かも知れないが、正直そこまで剣に拘っているわけでもない。

 

元々殆ど使ってこなかったしな、剣。……格上相手には基本意味ないからなあ、当たんないし力も足りないからダメージも与えられないし。

 

だから別に剣が使えないからといって弱体化はしないんだよな、俺。

 

必殺技スティールだし。

 

「魔法弓兵かぁ…いいね!二つ名はマジックアーチャーとかになるのかな!?」

 

「やめてください」

 

「なんで!?」

 

二つ名とかマジ勘弁してください。そういうのは仲間の痛い子だけで十分なんです。

 

これ以上俺に痛い属性を付けないでください。

 

万感の祈りを込めて即拒否する。

 

「カッコいいと思うんだけどなぁ……!?」

 

喋りながら歩いていたベルが突然立ち止まり、徐に周囲をキョロキョロと見回し始めた。

 

……何やってるんだこいつ。

 

「……突然どうしたんだ?」

 

「い、いやその……なんか視線を感じたっていうか………視られてる?感覚が……」

 

……ああ。

 

「中二病か」

 

「違うよ!?……中二病ってなに?」

 

「痛い子たちの総称」

 

爆裂狂とか紅魔族とか紅魔族とか。

 

「酷くない!?僕中二病じゃないよ!?」

 

「……大体最初は『俺は今見られている……!』って思い込みから始まるらしいけどな」

 

「えっ!?……ち、違うよ僕のは思い込みじゃなくて本当に……!」

 

「はいはい見られてる見られてる」

 

「信じてよー!!」

 

新しく出来た仲間が痛い子(めぐみん)にならないように軽く遇らう。

 

中二はほっとくと辛くなって治るのだ。

 

……じ、実体験じゃないよ?

 

「あの………」

 

ベルとわたわたやっていると、突然後ろから声をかけられ振り返るとそこには……。

 

純色の髪をいい感じに纏めてお団子にしてある可愛げな美少女が。

 

……えっ可愛い。凄く可愛い。けど…何だ?この感じ。手を出したら全てが破滅しそうなこの感じ。

 

……何も知らずめぐみんやダクネスを仲間にしようとした時の感覚に似てる。

 

有体に言えば危機感知センサーが発動している!

 

初対面で失礼だがこの女の人あれだ、多分面倒くさいタイプの女だ。関わりたくない。

 

「!……えっと、僕たちに何かご用……ですか?」

 

嫌な予感がして口を開けずにいる俺に代わり、一早く立ち直ったベルが彼女に問いかける。

 

いいぞベル!やっぱりお前は最高だ!!

 

「あ…はい。すいません突然お声掛けして。……これ、落としましたよ?」

 

そうしてベルに差し出されたその手の平に乗っていたのは、紫紺の色をした結晶だった。

 

「え!?ま、魔石!?す、すいませんありがとうございます!!」

 

腰巾着を確認しながら慌てて目の前の女に感謝を伝えるベル。

 

…魔石ってあれだよな、モンスターの核みたいな……ん?待てよ?モンスターの核?……!!

 

ひ、閃いた!この作戦がハマれば……最早モンスターは敵じゃない。

 

問題は可能かどうかだが……多分、不可能ではないはずだ。

 

盲点だったぜ、重さも……大した事なさそうだしな。

 

ふふふ、これは来るんじゃないか?俺の時代が。

 

「じゃ、ありがとうございました!シルさん!!」

 

「!」

 

自分の世界に入っていた意識が、ベルの声によって浮上した。

 

…話、終わっちゃったみたいだな。

 

自己紹介も出来なかったんだが。

 

「はい。それじゃあ明日の夜、お待ちしておりますね。ベルさん」

 

……明日?明日の夜って何のことだ?……まあいいか。

 

「楽しみにしてます!行こ、カズマ」

 

「あ、ああ……」

 

「あっ待ってください。……カズマ、さん?で良いんですよね?少し、お話があるのですが……お時間、ありますか?」

 

そう言いながらニッコリ笑う彼女は笑顔のはずなのに何処か末恐ろしくて。

 

……えっ、何?怒ってる?なんで?

 

…本音は嫌だが、ここで断るのも角が立つよなあ……仕方ないか。

 

「別に構わないよ。……というわけだベル、先に行っててくれ。すぐ追いつく」

 

「え?わ、分かった……先に行ってるね」

 

………行ったか。行かないでほしかったんだが……。

 

目の前の少女は変わらずニッコリと笑っている。

 

……こ、怖いなぁ。

 

「…で、俺に話があるらしいけど……何だ?」

 

何を言われるのか身構えながら問う俺の疑問に目の前の人は答えることなく。

 

「──私、人間観察が好きなんです」

 

いきなりそんな……。

 

……ん?

 

「へ、へえそうなのか…それは……良い趣味、だな?」

 

「……ふふっ」

 

え?何?何だこれ?どう答えるのが正解だ?

 

意味が分からない。俺に話があるんじゃないのか?

 

「それで私、色々な噂話を耳にするのですが……その中でも一つ、気になった事がございまして」

 

「……噂話?」

 

それは一体、と続けようした言葉を遮り、少女は続ける。

 

「──曰く、その男の名はサトウカズマであるらしい」

 

………………ん?

 

「──曰く、その男はあろう事か都市最強派閥であるフレイヤ・ファミリアに喧嘩を売った」

 

……………………………ん!?

 

「──曰く、その男は美の女神であるフレイヤ様に対して侮辱の限りを尽くした」

 

………………………………………………んん!?

 

美の女神……フレイヤ?何か、聞いた事……!?

 

『……おっ、そういえばこの塔には神様が住んでるんだっけな。最上階には誰が住んでるんだろうな』

 

『話逸らさないでくださいよ!?…一番上、ですか?……美の女神様が住んでるって噂は聞いた事が有りますけど……』

 

『美の女神!?美の女神だと!?……い、いや俺は騙されない。どうせアレだろ?見た目は良くても中身が残念な女神様ってオチだろ?俺はそんな見え見えの罠にハマるほど甘くはない』

 

『いやだってこんな馬鹿みたいに高い塔のてっぺんに住んでるんだぜ?絶対頭悪いと思う』

 

『昔から馬鹿と煙は何とやらってよく言うだろ?つまり、この都市で最も高いところに住んでる女神様は馬鹿って事だ』

 

……まさか。

 

「──曰く「待った!待ってくれ!いや待ってください!!」……何でしょうか?」

 

「ま、まさかとは思うんだが…そのフレイヤ様っていうのはあのバベルの塔ってやつの屋上に住んでるとされる女神様の事じゃないよな?」

 

「その女神様の事ですよ?」

 

「………えっ」

 

「知っていらっしゃるって事は……この噂は全て真実って事ですかね?カズマさん」

 

…………やばい。やばいやばいやばいやばい!?嘘だろ!?聞かれてたのか!?都市最強派閥!?洒落になってねーぞ!!

 

「し、真実っていうか…その……ですね」

 

「……違うんですか?」

 

「いえ本当です!私佐藤カズマはかの女神フレイヤ様を侮辱してしまいました!!」

 

笑っているのに笑っていないその笑顔に屈して即座に土下座を遂行する俺。

 

「……ふふっ、どうして私に謝るんですか?」

 

「い、いやその…関係者さん、ですよね?」

 

「……私はただの噂好きなウェイトレスさんですよ?」

 

絶対嘘だろ。

 

「ただの出来心だったんです。まさかあの美の女神フレイヤ様がこんな弱っちい男の悪口をそこまで気にしてるなんて思わなかったんです。許してください」

 

「……気にしてはおられないですよ?」

 

「えっ、でも」

 

「気にしてないんです」

 

「はい!気にしてはおられません!!すいませんでした!!」

 

こ、怖い……なんだこれチョー怖い!!

 

「……気をつけて下さいね?」

 

「………?」

 

「今回は見逃されましたが、あそこのファミリアは心酔者が多いですからね。……もしまた聞かれたら」

 

こう、なりますよ?と笑顔のまま親指で首を掻っ切る彼女は。

 

「ふふっ……なんて、ただのウェイトレスさんが言ってみます」

 

それはそれはもう、恐ろしかった。

 

── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

「──あっカズマやっと来た。何はな……どうしたの?」

 

「……フレイヤ様って美しいよな」

 

「………え?」

 

「フレイヤ様って美しいよな!」

 

「え?うん?ちょっ、待って!どうしたの突然!?」

 

「フレイヤ様教を広めようぜ!教祖は勿論お前、ベル・クラネルだ!!」

 

「待って!?本当に待って!?僕を謎の教団の教祖にしないで!?」

 

「フレイヤ様教その一!一日一回は必ずフレイヤ様を美しいと褒め称える!!さあ言えベル!!」

 

「えっ!?ぼ、僕はその……」

 

「何恥ずかしがってるんだ!?言うんだほら、フレイヤ様は美しい!!」

 

「な、何がカズマをそこまで駆り立てるのか分からないけど…ふ、フレイヤ様は美しい!!……こ、これでいいの?」

 

顔を真っ赤にしながらそう宣言するベルは大変可愛らしかった。

 

かの女神がそれを見ていたら口をニヤつかせるほどに。

 

実際今、ニヤついていた。

 

『ナイスよサトウカズマ!!』『フレイヤ様!?』

 

「良く言ったベル。……じゃ、ダンジョン行こうぜ」

 

「えぇ…本当になんなのこれ」

 

「気にするな。願掛けみたいなものだ」

 

そのまま暫く歩き。

 

「ところでカズマ、明日の夜シルさんのお店でご飯食べるって事になったけど大丈夫だよね?」

 

「………」

 

「カズマ?」

 

「あ、ああ…いいんじゃないか?うん」

 

「?」

 

あ、あの人シルさんっていうのか…あ、会いたくねえ……切実に会いたくない。怖い。めっちゃ怖い。

 

年齢の話になった時のウィズ並みに怖い。

 

いくら可愛くても怖い。

 

……貢ぐか。

 

「よしベルっ!外食するなら一杯稼がないとな!!俺に任せとけ!!」

 

「えっ!?任せとけって…大丈夫なの!?カズマはダンジョン初め……」

 

「俺に作戦がある。上手くいけばもうモンスターは俺たちの敵じゃない」

 

「!」

 

そう、作戦がある。秘策と言ってもいい。もし上手くいけばモンスターはただの金袋、歩くお金である。

 

「やってやるぜ!俺の本気を見せてやる!!」

 

「ま、待って!冒険者は冒険しちゃ──」

 

「冒険しない冒険者が英雄になんてなれるかよ!」

 

「……!!」

 

「行くぞベル!俺たちの時代を見せてやる!!」

 

「う、うんっ!よし、行こう!!」

 

ノリで適当に言った言葉が彼の心に火を付けたようだ。

 

── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

──ダンジョン(一階層) ──

 

「それで、作戦ってなんなの?」

 

「まあ待て、見てからのお楽しみ……っと」

 

敵感知スキルに反応有り。これは……。

 

「……ゴブリン、か?」

 

「!敵感知スキルってやつ?」

 

「ああ、三体来る。……まっ、下がってな」

 

「……ほ、本当に大丈夫?」

 

不安そうに問いかけて来るベルに大丈夫だと返し、戦闘体制に入る。

 

…俺の考え通りならモンスターは敵にならない。だが、もし失敗したとしても相手はゴブリン。

 

負ける事はないだろう。ベルも居るし。

 

「……来たな」

 

そう溢す俺の先には──。

 

「「「ギャッギャッギャッ!!!!!」」」

 

感知通り三体のゴブリンが居た。

 

「ほ、本当に三体だ……!カズマ!!」

 

「任せろ!行くぜ、『クリエイト・ウォーター』!『フリーズ』!!!」

 

転移前の二倍くらいの魔力を持っていかれながら、瞬間凍結コンボを決める。

 

足元に広がった水が凍りつき、ゴブリン達は身動きが取れなくなった。

 

「「「ギャッギャッ!?!?」」」

 

そしてここから、ここからだ。これが決まるかでモンスターが敵になるかどうかが決まる!

 

行くぜ俺の必殺技!そして来い俺の時代!!

 

決めろ!

 

「『スティール』!!」

 

発動した瞬間、握りしめた手の中に''二つ''重みが加わる。

 

確認するとそこには紫紺の結晶、魔石が存在していた。

 

それはつまり──。

 

「ギャッ!?」

 

命の核となる魔石が目の前の男に抜き取られた事を意味する。

 

当然核を抜き取られた二体のゴブリンがその体を維持出来る訳もなく、残された体は塵となって消滅した。

 

それを驚愕しながら見つめる残された一体のゴブリン。

 

「か、カズマ!?これは……!?」

 

ベルの中ではそのスキルは主神の下着を奪う程度の効果しか発揮しない、言ってしまえば攻撃力ゼロのスキルだった。

 

それが今、モンスター達を一撃で消滅させたのだ。その衝撃は計り知れない。

 

「…ふ、ふふ……はーはっはっはっは!!計画、計画通りだ!!やっぱりな!!」

 

仮説がハマり思わず笑いが飛び出すカズマ。……悪い顔をしている。

 

「お前らはゴーレムと同じ!核が物であるなら抜き取れる!!ふはは、来たぞ!俺の時代が!!」

 

ゴーレム系モンスターに対してスティールは禁忌。少なくともカズマの世界ではそうだった。

 

理由はただ一つ。仮に核を抜き取れても重すぎて手が押し潰されるからだ。

 

実際一度手を潰されているカズマは二度とモンスターにスティールは使わないと決めている。

 

だが、この世界のモンスターはどうか?魔石、と呼ばれる石を核にして生きているモンスター達。

 

それを砕かれれば即死する命の核。抜き取られれば消滅する魂の結晶。

 

『あ…はい。すいません突然お声掛けして。……これ、落としましたよ?』

 

あの時カズマは気付いた。……この石は、冒険者ではない女の子が手にとれるほど''軽い''ことに。

 

ならば──。

 

「ギャッ…ギャッ!!」

 

追い詰められている事をようやく自覚したゴブリンが、必死に氷の拘束から抜け出そうともがき始めるが。

 

「無駄だ、諦めな。……『スティール』」

 

もう遅い。

 

再びのスキル行使により、残った一体の魔石も抜き取られる。

 

完全勝利である。

 

「ふっ…大した事なかったぜ」

 

何故か最初のスティールが一体ではなく、二体を対象に発動されたことに疑問を覚えるが、そういえばスキル効果で窃盗スキルの効果上がってたなと思い直し握りしめた魔石から。

 

「取り敢えず試してみるか。……『ドレインタッチ』」

 

リッチーのスキルで力と魔力を吸い取る。

 

「…おっ、おお……心臓部分だからか結構抜き取れるな……ゴブリンなのに」

 

失われた魔力、この世界では精神力(マインド)が想像以上に回復している事に少し驚く。

 

だが魔石が核、命の源であるならばエネルギーが充実していてもおかしくはないだろう。 

 

「……よし、どうだベ「凄い!!」る……」

 

どうだベル凄いだろ俺の本気はと自慢してチヤホヤされようとする前に、目をキラキラさせながら

詰め寄って来るベル。

 

「凄い!凄いよカズマ!!スティールって魔石まで奪えるんだね!!」

 

興奮したように捲し立てる彼は憧れを見るような、とにかくとっても楽しそうだった。

 

「お、おお…まあな!どうだす「カズマのスティールって神様の下着以外も盗めるんだね!」……お、おいやめろ人聞きの悪いこと言うな!下着泥棒とかに勘違いされちゃうだろ!?」

 

重大な名誉毀損を前に慌てて訂正するカズマだったが、今の興奮冷めやらないベルには届いていない。

 

……まあ、いいか。

 

「よっしベル!このスキルがあれば俺たちは無敵だ!精神力も魔石から抜き取れば問題ないしな!!無双しようぜ!!」

 

「うん!行こう!!」

 

彼等はそのまま走り出した──!!

 

『クリエイトウォーター!フリーズ!!スティールスティールスティール!!……ドレインタッチ』

 

『『『『『ギャッギャッギャッギャッ!?!?!?』』』』』

 

『ふははは!ベル、あの凍ってるやつをやっちまえ!!レベリングだ!!』

 

『…い、良いのかなこれ……』

 

『ここで見逃せば他の冒険者達がやられるかもしれないぞ?』

 

『!…そうだよね、よしっ!はっ!!』

 

『『ギャッギャッッッッ!?!?………』』

 

『よーし倒したな?じゃ、どんどん行こうぜ!』

 

『分かったよ!もう迷わない!!』

 

『それでこそ冒険者だ!ふはははは!!』

 

彼等はそのまま──。

 

『スティールスティールスティールスティール!!』

 

『はっ、やっ!ていっ!』 

 

『『『『『ギャーッッッ!?!?!?!?』』』』』

 

二階層を突破し。

 

『クリエイトウォーター!フリーズ!!ドレインタッチ!!』

 

『せいっ!!』

 

『『『『『…………ッ!!!?!?』』』』』

 

三階層を突破し。

 

『花鳥風月!フリーズ!!』

 

『はぁぁぁぁぁっ!!!!!』

 

『『『『『……………………』』』』』

 

『『『『『『『『ギャッギャッギャッ!!!!』』』』』』』』

 

『!?カズマ!たくさん来たよ!!』

 

『馬鹿なやつ…って多っ!?おいベルこっち来い!!』

 

『えっ!?分かった!!』

 

『……潜伏』

 

『!?』

 

『『『『『『『ギャッギャッギャッ!!………?』』』』』』

 

『はっ、馬鹿どもが!喰らえ!不意打ちクリエイトウォーター!フリーズ!!』

 

『『『『『『ギャッギャッギャッギャッ!?!?!?』』』』』』

 

四階層を突破し。

 

遂には──。

 

「……ふぅ、魔力は問題ないとはいえ流石に疲れたな」

 

「あはは、そうだね。……少し休憩する?」

 

「いや、深夜族の俺からしたらこの程度休むまでもないな」

 

「そうなんだ…僕もまだまだ全然平気だよ!!」

 

「そっかそっか!それは良いな!!」

 

「うん!」

 

「「ははははははは!!!!!」」

 

五階層に到達していた。

 

「いやーしかしここまでスティールが無双するとは思わなかったな、かつてないほど活躍してるんだが」

 

「そうなの?…ってつい五階層まで来ちゃったけど大丈夫かな……」

 

「大丈夫だろ、モンスターは敵じゃないって分かっただろ?」

 

「そう…だよね!大丈夫だよね!!僕もそろそろ降りたいなって思ってたから丁度いいや!!」

 

ダンジョン内とは思えないほどに和やかに進んでいく二人。

 

それもそのはず。ここに至るまで一切の苦戦がなかったのだ。

 

凍らせ動きを奪い、スティールで即死させる。不意打ちも敵感知スキルにより不可能。

 

敵が多い場合も逃走して潜伏で潜み、不意打ちっとウォーターでどうとでもなる。

 

まあつまり簡単に言うと。

 

「楽勝すぎてビビってるぜ。モンスターに集られるってあったからどうなるかと思えば……そこまででもなかったな」

 

「あはは確かに。ドロップアイテムも凄く落ちるし今日最高に運がいい日なのかも!流石超幸運持ちのカズマさん!!女神様の加護持ちは格が違うね!!」

 

「運だけは滅茶苦茶良いからな!任せろ!!」

 

「任せた!!」

 

──彼等はひじょーに調子に乗っていた。

 

『……………モッ』

 

「?……今何か聞こえなかった?」

 

「は?何かって…何も聞こえないぞ?敵感知にも……ん?『千里眼』……!?」

 

『………………ーッ!』

 

調子に乗った人間達の顛末は一つしかない。

 

「……おい、ベル逃げるぞ」

 

「……え?」

 

「…牛の身体を持つ人型モンスター……」

 

「?……!?そ、それって!?」

 

『……モォォォォォォォォッ!!!!!』

 

それを乗り越えられるか否かは。

 

「……来るぞ!」 

 

『……モォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!』

 

その人間達の''運命''にかかっている。

 

「ミ、ミ、ミ……ッ」

 

『ヴゥモォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!』

 

「「ミノタウロスだっー!?!?!?!?」」

 

逃走劇、開始ッ!!

 

── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

「やばいやばいやばいやばい!?なんでミノタウロスがこんなところに居るんだ!?もっと下の方在住じゃないのか!?」

 

その余りの迫力の恐ろしさに脇目もふらず逃げ出したカズマとベル。

 

「し、知らないよ!普通こんな事は起こらないはずなんだけど……なんで!?」

 

『ヴゥモォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!』

 

「「ひいぃぃぃぃぃっっ!?!??」」

 

俊敏性を全力発揮して逃げ続けるベルと、スキル『逃走』を使用して逃げ回るカズマ。

 

「カカカカカズマ!カズマ!!スティールは!?スティールならなんとかなるんじゃない!?」

 

「そそそそうだな!俺とした事が焦って忘れてたぜ!!」

 

『ブモォォォォオォォォォオ!!!!!!!』

 

ただひたすらに迫り来る巨大なモンスター、ミノタウロス。

 

それに対しカズマは必殺の一手を放つ──!

 

「くらいやがれっ!『スティール』!!」

 

走りながらも繰り出したその一撃は……!

 

『ヴゥモォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!?」

 

「効いてない!?嘘だろ!?」

 

全くといって良いほど効いていなかった。

 

「な、なんで!?今までのモンスターにはちゃんと効いてたのに……!」

 

ベルの焦りが伝染して増幅する。

 

スティールが効かない、理由。

 

そんなものに心当たりなど──あった。

 

「…なあベル。あのミノタウロスってモンスター、レベルとかってあるのか?」

 

「な、なに突然!?」

 

「いいから答えてくれ!!」

 

「っ…モンスターに正確なレベルはないけどミノタウロスの推奨レベルは2ぐらいだった気がするよ!!」

 

「やっぱりか!くそっ」

 

レベル差によりスキルが効かなくなる。それはカズマもかつて味わった事があった。

 

「(ベルディアの時と同じだ……!少なくとも弱ってないと格上相手に即死攻撃は無理か……!!)」

 

『ヴゥッ!!………モォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!』

 

「っ!?は、早くなった!?」

 

「……!!ベル!あっちだ!!隠れるぞ!!」

 

「!!……わ、分かった!!」

 

千里眼により見通した先に狭い通路を確認。

 

そこに至るまでの時間稼ぎ──可能。

 

「『クリエイト・アース』!からの『ウィンド・ブレス』!!」

 

『ブモッ!?モォォォォォォォォォォォォォォ!?!?!?』

 

お得意の魔法コンボで目潰し、突如視界を失いその場で暴れ回る暴れ牛。

 

それを尻目に。

 

「行くぞ、ベル!!」

 

「………っ」

 

彼等は全力疾走で駆け出した──!!

 

── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

「はぁ…はぁ……な、なんとか生き残ったな……」

 

「ふぅ…ふぅ……そ、そうだね」

 

一瞬の目潰しによる時間稼ぎでギリギリ通路に忍び込み隠れる事に成功した二人。

 

「俺から手を離すなよ。……潜伏が解けるからな」

 

「わ、分かっ『ヴゥモォォォォォォォォォォォォォォ!!!!』……ッ!?」

 

「俺たちを探してるみたいだな。…まっ、見つからないだろうが」

 

潜伏スキルは鼻の良い初心者殺しでさえもある程度は誤魔化せる。

 

大して索敵能力が高そうにもないミノタウロスでは潜んだ彼等は見つけられないだろう。

 

実際、ミノタウロスは見当違いの方を探している。

 

「しっかしレベル差があるとモンスターにスキルが効かないのは予想外だったぜ。……どうすっかなー」

 

「……か、カズマはさ」

 

「……ん?どうした?」

 

「…こ、怖くないの?この状況が」

 

「いや怖いよ?めっちゃ怖い」

 

「え……で、でも」

 

「……まあでも正直慣れてるっていうか…相手が格下だったって事がないからな。いつも通りって感じだ」

 

「……!」

 

そう溢すカズマは気負ってるわけでも格好つけてるわけでもなく、本当にいつもと変わらない日常を感じさせる態度だった。

 

現に今も千里眼を使い『あのミノタウロス馬鹿すぎだろ、俺らが逃げたのと反対方向行ってるぞ』と笑いながら見ている。

 

それを見てベルは──。

 

「(……カッコ……いい……!!)」

 

こんな状況でもブレないその姿に、男としての憧れのような感情が芽生えていた。

 

もっと話を聞いてみたい、初めて会った時に話してくれた英雄譚、あれはもしかして──。

 

「ねえカズ「うわぁぁぁぁぁっ!?な、何でここにミノタウロスが居るんだよ!?」……っ!?」

 

突然聞こえてきたその悲鳴に思わず身を乗り出す。

 

しかしそれをカズマが止める。

 

「…おい、滅多な事考えるなよ?お前がお人好しなのは分かってるが、俺たちが行っても何も出来ないからな?」

 

──分かってる。そんな事は分かっている。カズマは正しい、僕たち…いや僕が行ったところで何も出来ない。

 

さっきのような無様を晒すのがオチだ。……だけど。

 

「ひぃぃぃぃ!?み、ミノタウロスだ!ミノタウロスだ!!逃げろ!逃げろぉ!!」

 

「な、なんでだよ!なんでいるんだよぉ!!」

 

「だ、誰か!誰かぁ!誰でもいい!!」

 

『ヴゥモォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!』

 

──助けてくれ!!

 

震えは、もう止まっていた。

 

「……ごめんカズマ、先に逃げて。カズマ一人だったらダンジョンから逃げられるでしょ?」

 

「は?……お、おい!」

 

馬鹿なことをしている。今から僕は殺されに行く。誰かの代わりに殺されに行く。

 

馬鹿だ、本当に馬鹿だ。──それを理解していても尚、身体は声の方へ走り出していた。

 

どんなに怖くても、どんなに恐ろしくても……誰かの助けてくれって言葉を無視する事なんて僕には出来ない!!

 

 

「あ、あいつ…だあぁぁぁぁくそっ、しょうがねえなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

──遠くの方から、叫び声が聞こえてきたような気がした。

 

── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

『ブモォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!』

 

「…は、はは……ふざけんなよ……ふざけんなよ……!」

 

「こんな…の……無理だろ……」

 

「殺される…殺される……」

 

広がっていたのは、地獄だった。

 

誰一人死んではいない。だが、その場にいる冒険者達は一人も動く事ができなかった。

 

圧倒的な格上相手から与えられる死の恐怖、それに耐えられるものなど滅多に存在しない。

 

……もし存在するとしたら、それは──。

 

『ヴゥモォォォォォォォォ「待て!ミノタウロス!!」ォォォォォォ!!!!????』

 

必殺の一撃を振り下ろそうとしたミノタウロスの背を、白き兎が切り裂いた。

 

「はぁ…はぁ……くっ!」

 

……否、彼の装備では切り裂く事は出来ず逆に武器の方がへし折れてしまっている。

 

でも問題ない、こんな結果は予想通りだ。

 

少なくとも注意を惹きつける事には成功したのだから。

 

『ヴゥゥゥゥゥ………!!』

 

ほら、大丈夫。……奴は餌なんかに不意打ちされて怒ってる。

 

「逃げてください!僕がこいつを惹きつけますから!!早く!!!!」

 

「お、お前っ…お前はどうすんだよ!?」

 

「僕はいいです!平気です!!こんなやつなんかに負けませんから!!さあ早く!!」

 

震えそうになる身体と心を必死に押さえつけながらそう叫ぶ。

 

怖い怖い怖い怖い怖い!!逃げ出したい!!!!………だけど!!!!

 

「お前の餌は僕だ!牛野郎!!」

 

『ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!」

 

ここで誰かを見捨てて逃げ出す自分になる方がもっと怖い。

 

……英雄に…なりたい。物語に出て来るような英雄になって、困ってる人皆んなを助けられるような、そんな英雄に。

 

だから、僕は。

 

「こっちだ!!」

 

『ヴゥゥゥゥゥッ……モォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!』

 

──こんな所で死ぬわけには、いかないんだ!!

 

────もし、圧倒的な格上から与えられる死の恐怖に耐え、尚且つ動けるような人間が居るとすればそれは──。

 

「はぁ…!はぁっ………!!そんなものかミノタウロス!僕の方が早いぞ!!」

 

『モォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!!!!!』

 

──それは一握りの、英雄と呼ばれる存在の素質を持った人間だけだろう。

 

── ── ── ── ── ──

 

走る、走る、走る、走る、走る走る走る走るっ!!!!

 

肺が破れそう、足が崩れそう、今すぐ倒れてしまいたい。

 

そんな浅ましい欲望が溢れてきて止まらない。

 

「はぁ……はあっ………!!」

 

…あの人達は逃げられたかな。カズマは逃げられたかな。

 

「はっ………くっ……………!!」

 

……僕は、少しは英雄らしくなれてたかな。

 

「…は、はは………くそっ!」

 

行き止まり。がむしゃらに逃げて、僕はとうとう逃げ場を失った。

 

『フゥー、フゥーッ………!!!!』

 

後ろから迫って来る濃厚な死の気配、ああそうか、ここが僕の──。

 

「っ……諦め、られるか!!」

 

そうだ、こんなところが僕の墓場だなんて認めない。認めたくない!!

 

もっと生きていたい。神様やカズマと一緒に居たい。可愛い女の子とだって出会いたい。

 

夢を叶えたい。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない……!!

 

何より、なにより僕は……!

 

「僕は…僕はっ……!!」

 

──英雄になりたい!!

 

死の恐怖に直面しても尚、その願いは変わらなかった。

 

子供の頃から憧れていたその存在に切望して叫ぶ。

 

そんな僕を嘲笑うかのように、ミノタウロスはこちらに向かって歩いて来る。

 

……武器は、ない。折れたナイフしかない。

 

……でも、それがどうした!

 

「やってやる……!僕の憧れた英雄だったら、死の淵で諦めたりなんかしない!!」

 

改めて敵を見る。……大きい、デカい、強い、怖い……勝てない。

 

弱気な考えを追い出すように頭を振り、僕は折れた武器を構えて。

 

「うわあああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

 

『ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!』

 

思いっきり、ミノタウロスの元へ突っ込もうとした時。

 

「『狙撃』」

 

「………え?」

 

ガチャンッと何かがミノタウロスの背に弾かれ落ちる音が聞こえて思わず足を止める。

 

それはミノタウロスも同じで、音がした方向を振り返り。

 

そこには──。

 

「もういっちょ『狙撃』!」

 

──カズマが居た。そして彼が放った矢が。

 

『ヴゥモッ!?モォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!』

 

ミノタウロスの眼球を寸分違わず撃ち抜いた────!!!!

 

── ── ── ── ── ── ──

 

「あ……え………?」

 

くっそ何やってんだあいつ!?折角の逃げるチャンスだぞ!?呆然としてる暇ないだろ!!

 

「おいベル!早くこっちに来い!!そいつがお前を見失ってるうちに!!」

 

焦りながら未だ突っ立ってるベルに呼びかける。

 

「あ……う、うんっ!!」

 

漸く状況を理解したようで、こちらに向かって走り抜けて来るのが目に入った。

 

『ッヴゥモォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!』

 

それを止めようと牛公が動き出すが。

 

「させるかよ!『狙撃』!!」

 

『モッ!?モォォォォォォォォォォォォォォ!?!?!?!?』

 

まだ残っている左目に弓矢を狙撃。

 

俺の弓は、幸運で外れない。

 

「カズマ!!」

 

「っ……よしっ!『クリエイト・ウォーター』!『フリーズ』!!!!』

 

八割近くの精神力を込めて、ミノタウロスの下半身を割とガッチガチに固める。

 

『モォォォォォォォォォ!?!?!?!?』

 

「はぁ…はぁ……逃げるぞ!ベル!!もうあいつは両目が見えちゃいない!!他の冒険者だって逃げられる!!今のうちにギルドに行って強い冒険者様に倒してもらおうぜ!!」

 

他力本願様様だ。

 

「あ…う、うん……か、カズマその」

 

「悪いけど話は後だ!走るぞ!!」

 

まだ何か言いたげなベルの手を引き走る。

 

「……カズマは、怒ってないの?僕が勝手なことして……あの」

 

「怒ってる、だあ?今そんなこと聞くか!?」

 

「だっ、だって!!」

 

「──仲間が勝手な行動するのは慣れてる!その時足りない部分をフォローするのが俺の役割だ!!だから別に怒ってねーよ!!」

 

「!!!!」

 

そう当たり前のように言うカズマを見てベルは思った。

 

ああ…敵わないなぁ……と。

 

『ッッッヴモォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!』

 

叫び声と同時に氷が砕け落ちる音が響き渡る。

 

…ま、不味い……非常に不味い。

 

「うっそだろあいつ!?どんな馬鹿力だよ!でもあの牛野郎の目は……!!」

 

思わず飛び出す悪態を尻目に──激しい音がこちらに向かって迫ってくる。

 

「!?なんで分かるんだおかしいだろ!!あのチート野郎!!!!」

 

『モォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!』

 

ミノタウロスは限界を超えて、既にもう後ろの方まで来ていた。

 

「だぁぁぁぁくそがっ!こうなったら一か八かのドレインタッチで……!」

 

あまりにもしつこいその有様に、勝つか死ぬかの賭けに出ようとしたその時。

 

『ヴぉ?……オッ!?オォォォォォォォォォォォォォォォォ── ── ── ──!!!???』

 

突如、ミノタウロスがバラバラに切り裂かれて爆散、辺りに飛び散る大量の血飛沫が飛びかかってくる。

 

「…………は?」

 

「……………え?」

 

突然のその急展開に揃って間抜けな声を出してしまった俺たちは決して悪くないだろう。

 

そしてその先には。

 

「………大丈夫ですか?」

 

金髪の女騎士がいた。……金髪の女騎士がいた。

 

……助かった、のか?

 

「あの……大丈夫、ですか?」

 

何も答えない俺たちに痺れを切らしたのか、再び安否の確認をして来る騎士さん。

 

ああこれ、助かっ「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!!?????」……え?

 

……ベルが突然逃げ出したんだが。何やってんだ?あいつ。

 

ほら、助けてくれた騎士さんも困ってるじゃないか。

 

……仕方ない、ここは俺がなんとかしておくか。

 

……金髪の女騎士か、余り良い印象ないなあ。

 

「あー、その助かったよ。ありがとな」

 

「…………逃げられた」

 

聞いてねえよこの人、なんだそんなにベルの事が気になるのか?

 

「おーい聞いてますかー?」

 

「…………怖かった、のかな?」

 

駄目だコイツ全く話聞かねえ。……もういい帰ろう、話通じないんだったらお礼言っても無駄だ。

 

「まあ助けてくれてありがとな。……それじゃ」

 

「!……待って」

 

服を、掴まれる。

 

……なんだろう、なんで掴まれるんだろうか?

 

もしかしてフラグでも建ったのだろうか?

 

…いやそれはないだろ、仮に建ってたとしてもベルの方だろうし。

 

「あー…なんですか?」

 

「………なんだろう?」

 

あかん、この人あかんわ。アイツらと同じ匂いがする。見てくれ良いけど中身残念な感じの美少女の匂いが。

 

……うん、逃げよう面倒くさい。感謝って長続きしないよな。

 

……いや、美人だよ?金髪の女騎士。物凄く美人だ。

 

ベルが顔真っ赤にして逃げ出すのも分かるくらいにはな。

 

俺も異世界で初めて出会うのがこの人だったらベルと同じ反応をしてたかもしれない。

 

それ程の美少女。

 

本来であれば是非ともお近づきになりたいレベルの美少女。

 

美人だし、服装エロいし。

 

でもなぁ……。

 

「……?」

 

首を傾げながら此方を眺めている彼女は良い人なのだろう。多分中身残念だけど

 

そう、彼女は何も悪くない。悪くないのだが……。

 

「……あ、あの?」

 

…………俺の目の前に居るのは金髪の女騎士である。そう、金髪の女騎士なのだ。

 

佐藤カズマにとって金髪の女騎士とは……。

 

『おおっ!カズマ見てくれ!!このモンスターは素晴らしいぞ!!何でも、服だけを重点的に溶かし尽くし女性に辱めを与える最低最悪のモンスターらしいのだ!!そんな巨悪を許してはおけん!コイツは女の敵だ!!だ、だからこの依頼を受けよう!!無垢なる人々のために!!なっ!!』

 

人々の為とか言いながら自分の欲望に忠実なドMのマゾネストお嬢様だったり。

 

『ああっ!アイリス様!!今日もお美しい!!最近は可愛いさに更に拍車がかかってしまわれて……!はぁ…はぁ……!』

 

自身が仕えている王女様に興奮する変態だったりと、まあ碌な奴が居ない。

 

佐藤カズマにとって金髪の女騎士=ド変態なのだ。

 

だからこそ、目の前の女性が金髪の女騎士であるという時点で割と身構えてしまったのに、ちゃんと中身も残念そうなのだ。

 

…ぶっちゃけ関わりたくない。

 

助けて貰っといて何だがマジで関わりたくない。

 

ただでさえ異世界転移で途方に暮れてるのにこれ以上の厄介事は流石にごめんだ。

 

「(…良し、逃げるか)」

 

決断は早かった。

 

「い、いやー助かったよありがとう!じゃ、俺は仲間を迎えに行かなきゃなんでこれで」

 

ガシッ。

 

「……あ、あのー?服、離してくれませんかね」

 

「……待って、思い出した。……聞きたい事………あるの」

 

聞きたいこと?……ごめんなさい無理です。もう帰りたいんです。疲れたんです。

 

「い、急いでるんでまた後で……」

 

「……分かった」

 

「(よっしゃ離しやがったな今の内だ!!)」

 

ガシッ。

 

「……おい、あんまりしつこいと俺にも考えがあるぞ?」

 

「!……ご、ごめんなさい……」

 

…意外と気弱なのか?な、なんかそう怯えられると罪悪感が……い、いやいや!馬鹿な考えはよせ!!

 

自分を信じろ佐藤カズマ!金髪の女騎士はあれだ、関わると碌な事にならない変態種族なんだ!!

 

俺は悪くない。そう、絶対俺は悪くない。

 

誰にも文句は言わせない。

 

「分かってくれたなら良いよ。じゃ、今度こそこれで……」

 

ガシッ。

 

………………………。

 

「おいてめえさっきからしつこいぞ!離せつってんだろアホ女!!」

 

「ま、待って!聞きたい事があるの!!」

 

「後で聞くよ!助けて貰った事にも感謝してる!!だけど今は帰らせてくれ!!疲れたんだ!!」

 

そうして俺は服の裾を掴んでくる女の手を無理矢理引きはが……引き剥がせねえ!?

 

「くそっ!お前も力に全振りした脳筋ゴリラか!!金髪の女騎士って極振りしてないと気が済まないのか!?」

 

「の、脳筋ゴリラ!?……と、取り消して!」

 

「知るか!とにかくはなっ…だぁぁぁくそっ!『ドレインタッチ』!!」

 

「!?な、なにこれ…力が……!?」

 

「(よし今だ!)」

 

全力のドレインタッチにより、力が緩んだ一瞬の隙をみて逃げ出そうとしたその瞬間。

 

──『緊急回避』が発動した。

 

「てめぇアイズに何やってやがる!!」

 

「…あっあぶっ、あっぶねえ……!」

 

幸運にも緊急回避が発動してなかったらまた首チョンパする所だったぞ……!

 

どういうつもりだこの狼野郎……!

 

……いや、俺もめぐみんとかアイリスが良く分からん男に組み伏せられてたら同じことするな。うん。

 

「オイクソ野郎。何か言い残す事はあるか?」 「べ、ベートさん……!待って……!!」

 

凄く怖いです。はい。

 

……目潰しして逃げよう。あの金髪の方はダクネス並みの体力だったからどうせすぐ復活するだろうし。

 

逃げるチャンスは今しかない!

 

「……『クリエイトアース』」

 

「あぁ?」

 

小声でそう呟く俺を怪訝そうな声で睨み付ける狼野郎。

 

…今だ!

 

「『ウインドブレス』!」

 

「ばっ!?くそっ、てめっ」

 

ふはははは!馬鹿め!!油断したな!!!!

 

更にダメ押しだ!!!!

 

「『クリエイトウォーター』!そして『フリーズ』!」

 

「ぐっ!?足元を……!」

 

一瞬の油断が勝負を分けるんだぜ狼くん!!舐め腐ってくれて助かった!!!!

 

「あばよっ、狼野郎!!今度会ったら酒でも奢ってやるよ!だから許して下さいごめんなさい!!金髪の騎士さんも助けてくれて有り難うございました!!!!じゃあな!!!!」

 

逃走スキルを発動して全力で逃げる。

 

後ろからは「待ちやがれェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!」って怒号が響き渡ってるけど知るか!

 

あんな強そうなやつ怒らせて待つ訳ないだろ!

 

「二度と会いませんように……」

 

俺の願いが叶うかどうか……その答えは近日中に知ることとなった。




申し訳ありません。完全に時系列間違えてました。酒場に行くのはこの次の日でした。色々セリフを微修正させていただきます。
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