この素晴らしいダンジョンにカズマさんを!   作:ぽーぴー

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知的でクールなリューさんはこの世界には居ません。
あっ、カズマさんは今回かなりクズマさんしてます
あと支援魔法の仕様は大体アニメ版です。原作と違って重ねがけできます

あとステイタスですが、スキル部分が読めないだけでアビリティの数値の方はヘスティア様にも読めるという事でお願いします。ガバってすいません


このポンコツエルフと決闘を!

── 豊穣の女主人──

 

「……ここ、か?」

 

「う、うん。…多分ここだと思うけど……」

 

俺たちは今、ベルが誘われたという飲食店に来ている。

 

……ヘスティアさんはどうしたって?ああ、あの女神様は……。

 

『か、カズマ君……器用俊敏魔力のアビリティが凄いことになってるんだけど……何したんだい?それにかなり上位のエクセリアだって……』

『……ミノタウロスの両目を狙撃!で刺し潰して助けてくれた超強そうな冒険者さん二人をおちょくった挙句全力で逃走しただけだよ』

『いやほんとに何やってるんだいキミぃ!?ここまで嘘であってくれと願ったのは初めてだよ!』

 

『……………………は?』

『?どうしたんですか神様?……も、もしかして遂に僕にもスキルが!?』

『…あ、あーその……うん!今日もスキルは出てないぜ!!ドンマイベル君!!』

『そ、そうですか……』

『と、ところでベル君話は変わるけど……こ、恋とかしてるかい?』

『こ、恋ぃぃぃ!?えっそのあのっ!……あ、アイズ・ヴァレンシュタインさんに……その……てへへ』

『ごふっ!?』

『神様!?』

『ふ、ふへへへへ……ベル君が恋……ベルくんがこい……ベルクンガコイ………』

『……か、神様!明日僕たち外食するんですけど一緒にどうですか!?奢りますよ!!』

『コイオブザベルクン……が、外食だって?そりゃなんでまた』

『えっとその…シルさんって女の人に誘っていただいて……』

『……ああそうかいそうかい……ふふふふふ』

『えっあの神様?』

『結構だよ!ボクは明日はバイトの打ち上げがあるからね!!』

『あっそうなんですか……』

『そうだとも!おっともうバイトの時間だ!じゃあ行って来るぜ二人とも!!』

『は、はい!いってらっしゃい神様!』

『いってらー』

『ふんっ、精々楽しんでくるんだね!………ベル君の浮気者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!』

『え、ええぇぇえええぇえぇぇぇぇぇぇえ!?!?!?!??』

 

的な事がありましてこの場には居ないです。……なんかお土産でも買って帰ってやるか、不憫すぎる……!

 

「そういやベル、金ってどれくらい持ってるんだ?昨日の稼ぎってそんな良くないだろ?吸い取りすぎて魔石結構割れたし」

 

「………………95000ヴァリスです」

 

「……すまん、なんだって?」

 

「…稼ぎ、95000ヴァリスだそうです……」

 

青ざめながらプルプルと震えるベルがポケットから持ち出したのは、パンパンに膨らんでいるヴァリス袋だった。

 

「95000…何かの間違いでは?」

 

「ぼ、僕もそう思ってたんだけど…ほら、ドロップアイテムとか滅茶苦茶たくさん出たでしょ?その中にレアドロップとかも混じってたらしくて……あ、あとカズマがスティールで抜き取った魔石の状態が物凄くよかったらしくて……諸々合わせると95000ヴァリスに…なりました……」

 

なるほど…要はあれか、幸運値の暴力か。……感謝します!エリス様!!

 

「じゃあ二人で分けて47500ずつだな。……おお、一気に小金持ちになった気分だ」

 

俺のヴァリス袋にベルの持ってたやつをサササっと入れて……うん?サササで均等に分けられるかって?

 

問題ない。俺の幸運値なら適当にやっても大体それぐらいの結果は出せる。

 

幸運で生き残ってきた男舐めんな!かつて俺は『ハイエナマスターカズマさん』、『運だけの男カズマさん』と呼ばれたほどの男……。

 

「…あ、あのカズマ……二人で等分って……い、いいの?今回僕迷惑しかかけてない気がするんだけど……」

 

「お前で迷惑だったらあいつらは最早災害なんだが……まっ、気にすんなよ、俺たちは仲間なんだろ?対等に行こうぜ」

 

「!……う、うんっ、ありがとう!!」

 

パァッと目を輝かせるベルを見て、「あいつらにもこの素直さの一欠片でもあればなあ……」と思う俺なのだった。

 

「……あっ!ベルさんっ、カズマさん!待ってましたよ!!いらっしゃいませ!!」

 

しみじみと今も問題を起こしているだろう仲間達にベルの爪の垢を煎じて飲ませたいと切に願う俺の耳に、恐怖の象徴シル・フローヴァさんの声が……。

 

「シルさん!良かった…やっぱここだったんですね!!」

 

「あら…もしかして迷っちゃってました?」

 

「は、はいお恥ずかしながら……なのでシルさんを見て安心しました!」

 

「…うふふ、なら良かったです!……ええと、カズマさんも来てくれたんですね?嬉しいです!!」

 

嬉しいと笑っていながらもその目は笑っているようないないような……とにかくとても恐ろしかった。

 

「……残念だったなシルさん。俺はもうただの佐藤カズマじゃない」

 

「……えっと、どういう事ですか?」

 

本当にわからないと言ったように、首を傾げるシルさんに向けて俺はもう言ってやった。

 

「俺はこちらに在らせられるフレイヤ様教団教祖様、ベル・クラネル様のお付きにして第一の団員、佐藤カズマだ!!」

 

「ちょっカズマ!?」

 

「……フレイヤ様教団?なんですかそれは?」

 

「美の女神フレイヤ様を崇め奉る宗教団体だ。…そらベル、言ってやれ!俺たちの教義その一を!!」

 

「ええ!?今ここで言うの!?嘘でしょ!?ていうかあれって一日一回……」

 

「ベル!お前それでも男か!?愛って言うのは何回伝えても良いものなんだ!!お前も男なら……伝える事を躊躇うな!!」

 

「!!……うんごめんカズマ、僕が間違ってたよ」

 

「……気にするなベル、誰にでも間違いはあるもんさ」

 

「あ、あの……お二人とも?一体何を……」

 

心底困惑した表情で不安そうに佇むシル・フローヴァさん。

 

……ベル、見せてやれ!(恐らく)件の女神様の関係者様であろうこの人に俺たちの愛をな!!

 

そして赦しを乞え!無罪判決を勝ち取るんだ!!

 

アクアが言ってた。神っていうのは信者を無碍には扱わないと。

 

俺たちは美の女神フレイヤ様を崇め奉りたいフレイヤ様教の信者達だ。それはつまりフレイヤ様の信者というわけで……。

 

この戦い、俺たちの勝利だ。

 

「っ……フレイヤ様は美しい!!!!」

 

「!!」

 

ベルの宣言に目をくわっと見開くシルさん。

 

……えっこわっ!?ま、待って何か間違えたか俺!?

 

今度こそ終わりを迎えるかもしれない自身の生に、密かに震えていると何やら手に柔らかい感触が……ってん?

 

……なんでそんなに良い笑顔で俺の右手を握ってるんですかねシル様は。

 

状況を説明しよう。シルさんは徐に俺の右手を持ち上げ、それはそれはもう良い笑顔で握っていた。

 

そして。

 

「カズマさん、私あなたのこと誤解してました。……今日は一杯、奢らせてくださいね?」

 

涙ながらにそんな事を……。

 

「えっ、いやうん……ありが、とう?」

 

「はい!さっ、ベルさんもお早く!良い席とってますから!!」

 

「あっ、はいシルさん!!」

 

……な、何やらよく分からないが一つだけ確かな事がある。

 

それは。

 

「(い、生き残った……!生き残ったぞ!!さすが俺!今から乾杯だな!!)」

 

死の運命を乗り越えた、という事である。

 

……あとシルさんの手めっちゃ柔らかいですね、尊敬します。

 

── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

「さあどうぞこちらに!!さあさあ!!」

 

そうしてシルさんが案内してくれたのは、厨房内がバッチリ見えるカウンター席のようなところだった。

 

…それにしてもシルさん、テンション高いですね。

 

俺たちが言われるがままに席に着くと、やたら強そうな女将さんが出てきて。

 

「おお、アンタたちがシルが言ってた冒険者どもかい?随分可愛い顔してるじゃないか!はっはっは!!」

 

「いやあそれほどでも……どうしたベル?」

 

「か、可愛い…可愛い……」

 

「なんでも二人とも私達に悲鳴をあげさせるほどの大食漢だそうじゃないか!特に緑のアンタ!!」

 

「……えっ俺?」

 

「そうだよ!ドラゴンもびっくりな食欲だそうだねえ?楽しみにしてるよ!!じゃんじゃん金を落としていってくれ!!」

 

ドラゴンもびっくりな食欲!?嘘だろ!?……と言いたいところだが俺は空気の読める男、ここで否定したりはしない。

 

……ていうか否定とかシルさん怖いから出来ません。

 

「ちょっ、シルさん!?」

 

「………てへっ♪」

 

「いやてへっじゃなくて……!」

 

てへっ♪じゃねえよ可愛いな!っといかん、このままではベルが彼女の機嫌を損ねてしまう可能性も……!

 

…仕方ない、ここは先手必勝!セレブだけに許されたあの技で行かせて貰おうか……!

 

ドンっ!!

 

俺は女将の目の前に、47500ヴァリスが入った金袋を叩きつけた。

 

突然のその行動に、女将だけでなくシルさんやベルも怪訝そうにこちらを見つめる中、俺は堂々と。

 

「47500ヴァリス入ってる。それで美味い酒と食い物を。……余ったやつは他のお客さんに回してくれていい。注文は以上だ」

 

静寂が走る。ベルもシルさんも女将さんも、その頭の悪い注文に身動き一つ取れなくなってるらしい。

 

……て言うかちょっと待て、なんか店中静まってないか?あれ、俺また何かやっちゃいました?てか聞かれてたの?いつから?

 

やらかした可能性を考え、若干冷や汗が止まらなくなっていた俺だったが、それも。

 

「「「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」

 

他の客の野太い声に……てかうるさっ!?待ってこれ出禁にされるんじゃ……!

 

「随分気前がいいじゃねえか!最高だぜアンちゃん!!」

「今日は金欠だからあんま飲めねえと思ってたんだがなあ!ありがとよ坊主!!」

「名前を聞かせてくれや!俺たちの救世主のよ!!」

 

お、おお…なんかこれ気持ちいいな……もう出禁にされてもいいか……やりたい放題やってやるぜ!

 

「そんな騒ぐなよお前ら!他のお客さんに迷惑だろ!?俺の名前は佐藤カズマ!駆け出し冒険者の佐藤カズマだ!!この酒と飯は俺たちの素晴らしき出会いへの祝福だ!!好きに飲み食いしてくれ!!俺の金が足りる限りはなっ」

 

「「「カッズッマ!カッズッマッ!!カッズッマッ!!!!」」」

 

…あ、あの……調子に乗ったことは謝るのでそろそろ静まってもらっていいですか……視界の端でプルプル震えてる女将さんが怖いんですが……。

 

そして女将さんはバッと顔をあげ、手を思いっきり振り上げ……。

 

「(あっ死んだこれ)」

 

そのまま俺に叩き付け── 。

 

「あっはっはっはっは!!!!アンタ最高だねえ!!こんな面白い冒険者は初めてだよ!!本来ならうちの店で騒ぎを起こす輩なんざ追い出して当然なんだが…アンタは特別だよ!楽しんでいってくんな!!!!」

 

── ることはなく、俺の肩をバシバシと叩きながら楽しそうに大笑いして厨房の方へ入っていった。

 

「……カズマさん凄いですよ!ミアお母さんに気に入られるだなんて!!」

 

「お、おお…そうか?まっ、俺の有り余る勇者オーラが人を惹きつけるのは否定しないが!」

 

「はい!凄いです!!」

 

「はっはっは!そう褒めるな褒めるな!!シルさんにも何か奢ってあげようじゃないか!」

 

「良いんですか?いただきます!!」

 

なんかやたらと持ち上げてくれるシルさんに気分を良くしていると、ベルが小声で。

 

「良いのカズマ?こんなお金の使い方して……勿体無いんじゃ」

 

そんな無粋な事を……。

 

…いやうん、当然か。我がファミリアはかなりの極貧ファミリア。お金の使い方にはかなり敏感なのだから。

 

……どうしよう、シルさんが怖かったからお金一杯使っちゃいましたとか格好悪すぎて言いたくない。

 

よしここは……!

 

「良いんだよベル。冒険者ってのは付き合いが大事な職業だからな」

 

「えっ、そうなの?」

 

「ああ。…ここである程度の恩を売っておくことによって、後々なんかあった時助けてもらえる可能性が少しでも上がるんだったらこんな出費、痛くも痒くもないだろ?」

 

「!……やっぱカズマは凄いね。僕よりずっと色々なこと考えて……尊敬するよ!」

 

心が痛いです。違うんですよベルさん、僕ただおたくの横に居る女の人が怖いだけなんです。

 

だからそんなキラキラした視線を俺に向けないでください。お願いします。

 

「と、ところでシルさんは仕事いいのか?ウェイトレスなんだろ?」

 

「大丈夫です!ベルさん達とお話しするためにお仕事頑張りましたから!!」

 

「へ、へー…それは光栄だな!なあベル!?」

 

「えっ!?そ、そうだね!凄く嬉しいですよシルさん!!」

 

「まあっ…!うふふ、今日は一杯お話ししましょうね?幸いにも食べ物と飲み物はたくさん有りますし……カズマさんのお陰ですね!」

 

「は、はは…そうだな……」

 

幸いにも…か……。この人、ベルと出来るだけ長く話したくて俺たちが大食漢だなんて嘘を吐いたんじゃないだろうか?

 

今の滅茶苦茶楽しそうな姿を見てるとそんな考えが浮かんでくる。

 

…し、強かだなあ……。

 

「昨日はダンジョンに行かれたんですよね?どうでしたか?」

 

「!カズマが凄かったです!あのミノタウロスにも一歩も引かずに挑んでました!!」

 

「!……そうなんですか?それは凄いですね!私はあまりモンスターのことは詳しく分からないんですけど……ミノタウロスって結構強いモンスターなんですよね?」

 

「はい!とんでもなく強くて恐ろしいモンスターです!!あっ、他にもモンスター達を一撃で倒したりしてました!!」

 

「……一撃で!?それは…凄いですね!魔法とかですか?」

 

「いえ!必殺スキルのスティールですよスティール!!カズマの十八番です!!」

 

「すてぃー………る?どんなスキルなんですか?」

 

情報漏洩がやばいんだが。

 

「神様の下着を剥ぎ取るスキルです!」

 

「………え?」

 

情報漏洩がやばいんだが!!

 

「ち、違うぞ!?違うからな!?そんなスキルじゃないから!てかおいベル!お前その言い方はないんじゃないか!?合ってるけど!確かに合ってるんだけどさぁ!!」

 

シルさんのちょっと引いた視線が辛いんですけど!!チョー辛いんですけど!!

 

「あっごめんカズマ!ちょっとテンション上がってて……でも僕スティールがどんなスキルなのか未だによく分かってなくて……」

 

「だからってあの説明はないだろ!?」

 

「ご、ごめんっ!?」

 

「……では、どんなスキルなんですか?私、気になります!」

 

徐にシルさんがそんな事を言ってくる。

 

どんなスキル…どんなスキルか……幸運値に応じてランダムに相手の物を盗み取るスキルなんだが……この世界に幸運値なんてないしなあ……さて、どう言ったものか。

 

……アイツらだったらどう説明するかちょっと考えてみた。

 

『カズマのスティール?ああ…あれはカズマの欲望が具現化したスキルなのです。相手が年下だろうが年上だろうがリッチーだろうが関係なく、確定で下着を剥ぎ取る職業・変態の専用スキルなのですよ。その手腕で泣かせた女性は数知れず、公衆の面前で俺のスティールが炸裂……』

 

思わず頭をガンっと机に叩きつける。

 

「「!?」」

 

はい却下だ却下!あのロリッ娘は駄目だ!言い方が最悪すぎる!!

 

次だ次!!

 

『か、カズマのスティールだと!?ああっ、あれは素晴……さ、最低最悪なスキルだな!うん!!し、しかし…人々を最悪から守るのも騎士の勤め!い、嫌だが…断じて受けたくはないが……!私はクルセイダー!守るべきものを背にして後ろには下がれない!!さ、さあカズマ!撃ってみるがいい!!誰にも手出しはさせ……!」

 

はいアウト!あいつもアウト!!何なら俺よりアウト!!

 

「か、カズマ?」

「カズマさん?」

 

次だ次!!

 

『カズマのスティール?ぷーくすくす!そんなの見たら分かるじゃない!あれはね?カズマさんの人間性が最も表れてる専用スキルなの!きっとカズマさんの前世は偉大なる下着泥棒だったのね!今世もそんなに変わってないけど!ぷーくすくす!』

 

「誰が下着泥棒だこの駄女神!?」

 

「「!?」」

 

おっと、声に出てしまっていたようだ。

 

「はぁ…もう良いよ、取り敢えず俺がベルに使ってみるから効果は勝手に想像してくれー」

 

右手をベルの方に向けてスキルを唱えようと構える。

 

この場合とれるのは…財布か装備かの二択か?

 

「か、カズマさん…つまり今からベルさんのその……し、下着を剥ぎ取ると言う事ですか?」

 

「ぶふっ!?」

 

「シルさん!?」

 

やたらもじもじしながらそう尋ねてくるシルさんの姿は中々に破壊力があった。

 

「ち、ちげーよ!?財布か装備!盗るのは財布か装備だから!!」

 

慌ててそう返す俺にシルさんは「なーんだ」とちょっと残念そうに……。

 

うん、見なかったことにしよう。

 

「そんじゃ行くぞ?『スティー「お待たせしました、お二人とも」ル』……え?」

 

俺のスキル発動と同時に、薄緑色の髪をしたやたら綺麗なエルフさんが俺とベルの間に割り込んできた。

 

どうやら料理を運んできてくださったようだ。

 

……そして、俺の手の中には少し生暖かい布地の感触が。

 

……ご、ごめんなさい。

 

「あの…これ返します」

 

あまりの申し訳なさに、目を逸らしながら''それ''を返す。

 

「え?なっ!?」

 

''それ''を見たエルフさんはそれはそれはもう驚かれて。

 

「きゃ、きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?!?!?!?!?!!?」

 

甲高い悲鳴を上げながら俺の頬をぶっ叩いてきた── !!

 

── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

奥歯がガタガタします。

 

「シル!離しなさい!!この卑劣男を殺せない!!」

 

「待ってリュー!?この人お客さん!!お客さんだから!!!!」

 

…いや分かるよ?確かに俺が悪かったさ、それは間違いない。……でもぶっちゃけ事故じゃん?防ぎようがなかったじゃん?

 

え?事故でも女性の下着を剥ぎ取る方が悪いって?……その通りですね分かります。

 

でもなあ…あんな吹っ飛ぶほど強く叩かなくても良かったんじゃないですか?言い訳くらい聞いてくれてもよかったんじゃないですか?

 

下手したら死んでたんですけど。

 

ガタンッと痛みを紛らわせる為に飲んでいた度数強めの火酒を机に叩きつけて、酔い始めてきた頭で目の前のエルフに口を開く。

 

「……卑劣男とは言ってくれるな」

 

「……何?」

 

少しの嘲を混ぜた言葉に面白いほど反応してくるエルフさん。

 

そんなに睨んでも無駄ですよ?こっちには酒(ドワーフの火酒)があるんだからなあ!!

 

この酒凄い!一瞬で出来上がっちゃったよ!コスパ最高だな!!

 

「ちょっ、カズマさん煽らないでください!?立場分かってます!?ベルさんも止めてください!!」

「あぁ…はは……まあカズマはいつもこんな感じなんで……止めても無駄ですよ。あっ、これ美味しいですね!」

「ベルさん!?」

 

俺は酔った頭のまま思った事を次々とぶちまけていった。

 

「故意じゃないにも関わらず、一言も弁明を聞かず即ビンタって恥ずかしくないんですか?誇りはないんですか?」

 

「な、なんだと!?」

 

「……リュー?」

 

「大体今回の件は俺も悪かったんだろうが、ぶっちゃけ事故だろ?情状酌量の余地もないんですか?そこに正義はあるんですか?」

 

「なっ!?き、貴様!よくもまあいけしゃあしゃあとそんなことが言えるな!?」

 

ちょ、大声出さないでください頭に響く。

 

「暴力エルフさんちょっと静かに……!」

 

「ぼ、暴力エルフ!?わ、私にはリュー・リオンと言う名前があるのですが!!元高レベル冒険者でしっぷもがっ!?」

「リュー!?声おっきいよ大丈夫!?」

 

……何イチャついてるんだコイツら?まあいいか。

 

「……じゃあその元なんたらのリューさんよ、俺と一つ勝負をしないか?」

 

「しょ、勝負……だと?」

 

おっ、乗ってきた。

 

「そうだ。勝者は敗者になんでも一つ言う事を聞かせられる。俺が負けたら土下座でもサンドバッグでもなんでもしてやるよ」

 

「………そ、その様な勝負を私が受けるとでも?」

 

「別に受けなくてもいいぞ?そうなったら俺の中でのお前の印象は一生、下着を剥ぎ取られた挙句暴力を振るって言い負かされたポンコツ暴力エルフから抜け出せなくなるわけだが」

 

「ぽ、ポンコツ!?暴力……エルフ!?」

「リュー?おーいリュー?」

 

何だこのエルフ煽り耐性ゼロか?随分と扱いやすいじゃないか。

 

「ふふふ、さあどうだリュー!?もしお前にエルフ族としての誇りやら正義があるんだったら俺と勝負して貰おうか!負けたら相手の言う事をなんでも一つ聞くこと!!どうだ!?」

 

自分のやった事を棚に上げ、大笑いするカズマは誰がどう見ても悪人だった。

 

だがそれを指摘するような人間はここには居ず。

 

そこに居たのは。

 

「いいでしょう受けて立ちましょう!!ただし気をつける事ですね!!私は何時もやりすぎてしまう!!」

「リュー!?」

 

どう考えても受けなくて良い勝負を受託してしまった煽り耐性ゼロのポンコツエルフさんだった。

 

「よし言ったな!?勝負の内容は俺がまたお前からパンツを奪えるかだ!奪えなかったらお前の勝ち!奪えたら俺の勝ち!単純だろ!?」

 

「実に単純素晴らしい!貴様の腕が二度と機能しない様にへし折ってやる!!」

 

「やってみろ!泣いて謝っても勝負はやめないからな!!」

 

「上等だ!!貴様の性根を更生させてくれる!!」

 

真面目でクールだと思っていた同僚が割とポンである事に気づいたシルは、もう勝手にどうぞとそちらを放っておく事に決めた。

 

「ベルさん、これ美味しいですよ!」

「えっ本当ですか?じゃあこれお願いしてもいいですか?」

「はーい、注文一つ入りまーす!」

「あいよ!良い食べっぷりだねアンタら!!」

「あっ女将さん…その、向こうは放っといても良いんですか?凄く騒いでますけど……」

「構わないさ!随分金を落としてくれたからねえ!!それに……」

「?」

「あんな顔のあいつ、滅多に見れるもんじゃないからね……面白いもん見せてくれた礼だよ!」

 

 

「勝負は俺がスタートと言ってからだ!いいな!?」

 

「構いませんが!?」

 

「じゃあ早速……『ブレッシング』『ブレッシング』『ブレッシング』!!!!」

 

カズマの作戦は一つ、幸運値を爆上げして初撃を確実に躱す事。

 

それさえ出来れば……この勝負に負けはない。

 

「!?」

 

「さあ来い!………スタート!!」

 

今の魔法について言及される前にとっとと勝負を始めてしまう。

 

……頼むから発動してくれよ。

 

「!はあっ!!」

 

──リュー・リオンの木刀による一閃。

 

それは── 。

 

「(なっ!?躱された!?)」

 

幸運値によってランダムで発動するスキル『緊急回避』によって回避された。

 

そして。

 

「『スティール』!!」

 

まさか躱されるとは夢にも思っておらず、一瞬硬直したリューに向かってカズマが下着剥ぎ取りスキル(スティール)を炸裂!

 

結果……。

 

彼の手にはリュー・リオンさんの下着が収められていた!

 

つまりこの勝負── !!

 

「はい俺の勝「ぱ、パンツを返せえぇぇぇぇえぇぇえええええ!!!!!!!!!」ぶはっ!?」

 

人が木刀で引っ叩かれる音が店内に響き渡った── !!

 

── ── ── ── ── ── ── ── ──

 

奥歯がガタガタします。

 

「…おい、なんか言うことあるだろお前」

 

あまりに強すぎる衝撃で酔いはとっくに醒めていた。

 

素面の今だからこそ分かる。悪いのはどう考えても俺だ。

 

だがここで引いて土下座をかますのはあまりにも情けない。て言うか気まずい。

 

引けない戦いがそこにあった。

 

「わ、私は悪くない!どう考えてもサトウカズマ!貴様が悪い!!自業自得だ!!」

 

………なんか、ダクネスを虐めたくなるめぐみんの気持ちが今少しだけ分かった気がする。

 

………………ちょ、ちょっとだけ。

 

「ほーんそう言うこと言うのか……手加減してやろうと思ったけどもうなしだ!!どんな要求をしてやろうかな!?」

 

「なっ!?」

 

「おいおい忘れたとは言わせないぞ?敗者は勝者の願いをなんでも一つ聞くんだったよな?さあて何にしようかな……限りなく露出した服装で外を出歩かせるのとかいいかもしれないな!?」

 

「っ………うぅ…ぐすっ……」

 

………えっ。

 

「「うわぁ……」」

 

おっと二人とも、ゴミを見る目ですね。

 

「ちょ、待って違う!違うから!!ちょっと脅かしてやろうって思っただけだから!!本当にやらないから!!」

 

「ぐすっ…わ、私に何を要求すると言うのですか……この外道」

 

「泣きやんでください視線が痛いんです!もうそれがお願いでいいから!!俺が悪かったよ!!

 

くっそ調子に乗るんじゃなかった!

 

そして静かに泣くリューの後ろから修羅が現れて。

 

「うちの娘泣かせてんじゃないよ!このすっとこどっこい!!」

 

強烈な拳骨が頭の上から降り注いだ── !!

 

── ── ── ── ── ── ── ──

 

頭がガンガンします。

 

「ふふふ…いい気味ですねサトウカズマ」

 

俺の隣から心底馬鹿にしたかのような声が聞こえてくる。

 

そちらに視線を向けると、そこにはさっきのリューエルフさんが座っていた。

 

……なんでだよ。

 

「……何でまだ居るのお前?仕事戻れよ」

 

「あなたのような危険人物の近くにシルを一人にはしておけない。許可もとってあります」

 

許可?その言葉に女将さんの方を見るといい笑顔でグッドサインが……。

 

「……泣いてたくせに偉そうだな」

 

「!?な、泣いてなどいない!適当な事を言うな!!」

 

「いや泣いてただろ……隣に座るんだったらお前も飲めよ」

 

「……私を酔わせて何をするつもりですか外道」

 

こ、こいつ………!!

 

「何だリューさんは酒も飲めないのか、つまんねえな……はぁ」

 

「なっ!?……いいだろう、その挑戦受けてたってやる!これを飲めばいいんですね!?ふんっ」

 

面白いほどに挑発に乗ったリューさんがでかいジョッキに入った酒を一気に喉に流し込んだ。

 

「っておいそれドワーフの……」

 

「っぶはあぁぁぁぁっ!?な、何だこれは!?の、喉が焼けるような……!」

 

コイツもしかしたら相当な馬鹿なんじゃないだろうかと思いながら布巾を差し出す。

 

「それチビチビ飲む用のくっそ強い酒だぞ。あとは俺が飲んでやるからお前はそこら辺の弱いやつを……」

 

「わ、私に情けなど無用だサトウカズマ!こ、こんなもの……!えいっ」

 

うわぁ…少なくとも40度は超えているであろうそれを水みたいにゴクゴク流し込んでるそいつを見て俺は割と引いていた。

 

「んくっ…んくっ……!?んぐっ!?………っっっっぷはっ……はぁ……はぁ……!!くっ」

 

…な、なんかエロいな……。

 

目尻から涙を溢しながら一所懸命酒を飲んでいる隣のエルフさんは結構センシティブだった。

 

そして残りを全て飲み干し……!

 

「んっ……んくっ…………ぷはああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!………あふぅ」

 

ふらつきながら机に突っ伏すリューさん。

 

ええ…何しに来たのこの子……馬鹿なの?

 

「おいシルさん、こいつ何とか……」

 

「ベルさんこれどうぞ?はい、あーん♪」

「ええ!?ちょ、ちょっと待ってくださいシルさん!?それは流石に……!」

「…‥要らないんですか?」

「うっ……じゃ、じゃあいただきます。……あ、あーん」

「ふふふ、どうぞ?はい、あーん♪」

 

……何だろう、何だろうこの格差。

 

片や怖いけど普通に物凄く可愛い美少女とあーんとかイチャついてるベル・クラネル。

 

片や……。

 

「んぅ…なにをやっているサトウカズマァ……もっとのまなきゃだめじゃないですかぁ……んくっ…ぷはっ」

 

一人で勝手にどんどん飲んで潰れ始めている美少女エルフさん。

 

……ベルが羨ましくてしょうがないんだが。

 

「それ以上飲むなあとで辛くなっても知らないぞ」

 

「嫌です飲みます……んくっ…んくっ………ふはぁ」

 

絶対二日酔いで死ぬタイプだな……明日の仕事大丈夫かこのポンコツエルフ……アウトだろうなあ。

 

「……私はかつてアストレアファミリアに所属していた一人のエルフでした」

 

なんか語り出したぞこいつ。

 

「しかし…しかし私は……!自身の正義を見つけられず……うぅ……ぐすっ」

 

情緒不安定すぎませんかねこの人!?

 

「ま、まあ落ち着けよほら水でも飲んでさ」

 

「水など要りません!私の話を聞いているのですかサトウカズマ!!」

 

「聞いてる聞いてる聞いてるから水を飲め」

 

「聞いているのなら黙って聞きなさい!私の話を聞けっ!!」

 

「わ、分かった悪かったよ!最後まで聞いてやるから話せ!!」

 

め、めんどくせえ!絡み酒するタイプかよこの女!!

 

「……私はかつてアストレアファミリアに所属していた一人のエルフでした」

 

「……ほーん、で?」

 

「しかし…しかし私はっ……うぅ」

 

「……へー、で?」

 

酔っ払いの話をまともに聞く気がない俺は適当に相槌を返す。

 

それが気に入らないのか、リューはこちらを睨みつけ。

 

「……ちゃんと聞いてますか?」

 

そんな事を……。

 

「聞いてる聞いてる……で?」

 

「…聞いてないようですね。ではまた初めから……私はかつて」

 

「お前これ無限ループするやつだろ!?いい加減にしろ!!」

 

「ま、待って!待ってください!!い、今揺らされると……!うぷっ」

 

「!?お、おいやめろよ!?店の中で吐くなよ!?頼むから!!」

 

そうなったらいよいよガチ出禁に……!

 

慌ててリューの背中を優しくさすってやる。

 

吐くなよ…!お願いだから吐くなよ!!

 

「ふ、ふふふ…意外と優しいのですねサトウカズマ……しかし私はもう長くない……あとは頼みました」

 

「諦めんな!お前はもっと頑張れるやつだ!!おいシル袋!袋くれ!!若しくはこいつをトイレに連れて行け!!」

 

「えっ!?ど、どうしたんですかカズマさん!?」

 

俺はリューの背中をさすりながら。

 

「見たら分かるだろ!?このバカがアホみたいに強い酒一気してリバース寸前なんだ!!なんとかしてくれ!!」

 

「わ、私は馬鹿では……うぐっ」

 

「バカは黙ってろ!!」

 

そんな俺たちのやり取りを何処か信じられないような目で見てくるシル。

 

……なんだ?

 

「カズマさん…リューに触っ「うぷっ!?」…て……」

 

「!?おいもう限界だぞコイツ!?シルさん早く助けてくださいお願いします!!」

 

「!は、はい任せてください!!ほらリュー?一緒にトイレに……ね?」

 

「っっっっっっ」

 

最早喋る余裕もないのか肩を貸すシルに項垂れながら限界エルフはトイレへと旅立っていった ── 。

 

── ── ── ── ── ── ── ──

 

「……………………」

 

全てを出し尽くしたのか、隣の席で死んでいるリューさん。

 

……だから飲むなっていったのに。

 

「……水飲むか?」

 

「…お、お願いします……背中もさすってもらってよろしいでしょうか……」

 

「ああうん…良いよ」

 

「ありがとうございます……」

 

なんだろうなあ…弱ってる美人エルフに頼られるって書くと結構いいシチュエーションなのに、実際は色気もクソもない酔っ払いの介抱だからなあ……神様、俺の異世界生活にもっと色気をください。

 

自身の異世界暮らしに色気がカケラもないことを嘆こうとしたその瞬間、この店に大量のお客さんが入ってくる音が聞こえた。

 

「ミア母ちゃーん!来たでー」

 

音の方に視線を向けると、そこには……!?

 

「…あの……何故私の後ろに隠れるのですか?」

 

「い、いいだろ少しくらい!?ちょっとじっとしててくれ!!」

 

「いえ…その……い、今腰に抱きつかれるとっ……は、吐き気が……!うぷっ」

 

「!?が、頑張れリュー!お前は出来る子だ!!」

 

リューの腰に抱きついて姿勢をできるだけ低くし潜伏を発動しながら俺は彼らに向けて読唇術スキルを発動する。

 

「クソがっ!あの野郎一体どこに逃げやがった……!」

 

「はは、見つからないんなら仕方ないさ。……それにしても、未だに信じられないな。ベートやアイズを一瞬で無力化した挙句逃走した駆け出し冒険者が居ただなんて」

 

「……本当に居るのか?そんな奴が」

 

「………居た」

 

「見つけたらタダじゃおかねえ……!コケにしやがって………!!」

 

や、やばいやばいやばいやばい!?俺の読唇術スキルが奴らの会話をハッキリと伝えてきやがる!?

 

なんでだ!?何でこんなエンカウントするんだ!?

 

俺の幸運値が高いって話はどこいったんだ!?

 

「さ、サトウカズマ…ち、力がつよっ………うぷっ!?」

 

コイツはコイツで大変だしな!?だぁぁぁくそっ、どうすればいいんだ!?

 

「っっっっっっっっっっ」

 

「お、おい頑張れ!頼む頑張ってくれ!!お前がダウンすると潜伏スキルが……!!」

 

リューが大変なことになるか俺が大変なことになるか、地獄の二択が今、始まる!!

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