どうもカズマです。なんやかんやあって異世界に渡ってきた現在駆け出し冒険者、佐藤カズマです。
そんな私ですが今、中々の大ピンチに陥っております。
と言うのも……。
「ハッハッハッハッ!!やっと見つけたぜクソ野郎!!女の陰に隠れてコソコソしてやがったとはなぁ!?いいご身分じゃねえか、あぁ!?」
「うちの店で騒ぐんじゃないよ!」
「いっでっ!?」
酒場の中心におられるこの都市最強クラスの冒険者さんから血走った視線を一身に受けているのです。
…さて、どうしようか。流石にこの衆目の中殺されるって事はないだろうが……あの狼野郎の沸点がめぐみん並みに低い可能性があるんだよなあ…あのタイプは気が高ぶると理性も倫理もほったらかして欲望の限りを尽くしてくるからな……うん、詰んでるわこれ。
……可能性があるとしたらアイツ以外はさして俺に恨みを持ってないってとこか…助けてくれませんかね、マジで。
……いや待てよ?冷静に俺悪くないのでは?金髪にドレインしたのはアレだったかもしれんが……半分くらいしか吸ってないし、あの強さだったらあの階層でやられる事もないだろうし……あれ、なんかムカついてきたんだが。
都市最強派閥、ロキ・ファミリアか…お金いっぱい持ってるんだろうなあ……。
…………あの狼野郎、乗せやすそうだなあ……。
………………………………。
大声で喚き散らした事により女将さんにフルボッコにされてる狼さんの元へ馳せ参じようと立ち上がる。
そんな俺にベル達が。
「か、カズマ…大丈夫?僕も一緒に……」
「か、カズマさん……」
「サトウカズマ……何でしたら私がミア母さんに言って……」
と不安そうに尋ねてくる。
いやなんでそんな死地に赴くみたいな感じになってるんですか?俺死なないよ?心配してくれるのは嬉しいが。
てかベルに関してはあの金髪のこと好きなんだろ?……お、俺と行ったら印象下がりそうだ……。
……さ、流石にこれで印象ダウンは可哀想すぎる気が……よし、一人で行こう。
「気にするなベル。自分の不始末ぐらい自分でつけられるさ、まっ見てな」
「か、カズマさん…!お元気で……」
「か、カズマ……くっ、僕は……!」
「サトウカズマ…無事に終わったのならその……す、少しくらいはまた一緒に飲んでもいいですよ」
「おい次々と死亡フラグ建てんのやめろっ!?い、行ってくるっ」
乱立するフラグにどこぞの駄女神を思い出し若干ナイーブになったが気を取り直す。
……最悪狼野郎を簀巻きにしてこの場から逃げ出せばいいだけの話だ。
楽に行こうぜ。
「俺をお呼びか?狼くん。いい大人が騒いでみっともないぞ?」
開口一番煽りを入れた。
すると予想通りこいつは一瞬でスイッチが入り。
「ああっ!?てめっ、舐めてんじゃねえぞ!!」
面白いぐらいにブチギレてくれた。
…もしかしてこいつめぐみんより沸点低いんじゃないかとちょっと引きながら次の言葉を紡ぐ。
「そうキャンキャン喚くなよ、発情期か?」
「「ぶふっ!?」」
「笑ってんじゃねえぞバカゾネスどもっ!!てめえもふざけてんのか!?」
軽いジャブのつもりで吐いたんだが…結構効果覿面だな。
……てかこの狼もしかして人望ないのでは?誰一人怒ってないし、笑われてるし。
俺としてはやりやすくて助かるが。
「別にふざけてないぞ?寧ろふざけてるのはお前だろ?狼くん」
「てっ…めっ……!!」
顔に青筋を走らせながらピキピキと爆発寸前の狼。
……沸点低すぎませんかね。
「そんなにイラつくなら俺と勝負でもするか?勝ったら相手に何でも命令できる権利を手に入れる。……どうだ?」
「…勝負?勝負だと?ハッ、馬鹿かてめえは?俺とお前で勝負になるとでも思ってんのか?」
「思ってるから言ってるんだよ?あれ、まさかそんな事も分からなかったのか?ごめんな」
「…………ッ」
ここまで煽れば…もう大丈夫だろ、相手は確実に乗ってくる。
だってこいつめぐみんより堪え性ないし。
「…上等だ、上等じゃねえか!ぶっ飛ばしてやるよクソ野郎がぁ!!」
いきなりこちらに殴りかかってきそうな狼を内心慌てながら静止する。
「まあ待て。まだどう言う形式で勝負するか決めてないだろ?」
「勝負の形式だぁ!?ンなもん必要ねえだろうがよ!!」
ルール決めないと俺が死ぬだろうが!貧弱冒険者舐めんな!!
「いや必要だろ、だって俺レベル1だぞ?駆け出し冒険者だよ?……えっ、それともあなた様は雑魚中の雑魚を一方的に甚振って勝負に勝つつもりだったんですか?うわ引くわー……格下甚振って悦に浸りたいだけだったんならそう言えよな!」
「一々癇に障る言い方しやがってクソ野郎が……!!」
「それでどうする?''格下''の冒険者の土俵に乗って戦うのが怖いって言うなら降りてもいいぞ」
ここまで言われてルール無用で殴りかかってくるほどこいつのプライドは低くないと見てるんだが……どうだ?
「ッ……いいぜ、そこまで言うなら乗ってやるよ。……''格下''のてめえの土俵になぁ!!」
ビンゴ!これであとは俺のスキルの仕様、対人戦に限りレベル差や耐性を無視して攻撃可能が上手く働けば……俺は都市最強の財布を手に入れる事が出来る。
「流石格上の冒険者様は違うな。……ところで名前は?」
「煽ってんじゃねえぞ格下がっ!……ベートだ、ベート・ローガだクソ野郎が!……おい、こっちも名乗ったんだからそっちも名乗りやがれ!」
「んっ!?あ、ああ……」
な、名前…名前かぁ……もし敗れた場合全力で逃走するつもりなので余り名乗りたくはない……いやこの酒場の奴らに聞けば分かるだろうけど……奢ってやったし見逃してくれないかなあ……よし。
「俺の名前はミツルギ、ミツルギキョウヤだ。覚えておけ」
「あの人あれだけカッコつけといて偽名使い出しましたよベルさん!?」
「嘘でしょカズマ……」
「やはり下衆だったのですねサトウカズマ……いえサトウゲスマ……!」
「(面白いやっちゃなー…あんな真顔で偽名使うか普通?……あ、あかん笑ってしまいそうなるわ)」
盗聴スキルで捉えた後ろがうるさいな!?い、いや気にしないでおこう……。
それより悪いなミツルギ!またお前の名前借りさせてもらうぜ!!帰ったらエールでも奢るよ!!
「ハッ!いいぜミツルギ!「ミツルギダッ!」それで肝心の勝負内容はどうすんだ?」
「簡単な事だよ、俺とベートで交互に攻撃して先に意識を失った方が負けってルール。あっ、勿論先攻は俺な」
後攻だと余裕で負けるどころか死ぬ。普通に死ぬ。
「てめえの力で俺を気絶させられるとでも思ってんのか?思い上がりも甚だしいなオイ!ミツルギィ「ミツルギダッ!」!!!!」
「やってみなきゃ分かんないだろ?それでどうだ?俺が先攻でいいよな?」
「構わねえ。……命だけは奪わないでおいてやんよミツルギ「ミツルギダッ!」キョウヤ!!」
「よし、じゃあ行くぞ?……スタート」
あれほど騒がしかった酒場が俺たちの決戦を見守る為、静寂に包まれる。
…今更だが良かったんだろうか?女将さんに怒られたりしない?
後で謝ろうと決意を胸に、俺は右手をベートの顔前に差し出し。
ただ一言。
「『スリープ』」
と唱えた。
すると……。
「!?な、なんっ…………っ…………………………」
強制睡眠魔法に耐え切れず、ベート・ローガは意識を失い夢の世界へ旅立った。
立っていられなくなったベートが、地に伏せ倒れる音がやけに大きく聞こえる。
周囲で見守っていた人間には何が起きたか分からなかった。いや、理解出来なかった。
それは当然、最も近くでこの戦いを見ていたロキ・ファミリアにとっても同じこと。
寧ろ、彼らの方が衝撃は大きかったのかもしれない。彼らはベートの強さを他の者よりよく知っている。
ベート・ローガはレベル5の第一級冒険者、何が間違っても駆け出し冒険者に敗れるなど有り得ない。
だが今ここに、その常識は覆された。
誰もがこの勝負、間違いなくベート・ローガが勝つだろうと確信していた。レベル差とはそれ程までに大きい。
唯一ロキ・ファミリアの団長だけが、もしかしたら……と感じながら勝負を見守っていた。
ミツルギキョウヤ…恐らく偽名だが、彼が勝負を持ちかけた際の表情、そして自信からして何かしらの勝つ算段があるのかもしれないと彼だけが見破っていた。止めなかったのもそれが理由だ。いざとなったら自身が割り込む事も考えて。
……ファミリアを預かる団長としては失格だったのかもしれない、ただ彼は、フィン・ディムナは見てみたかったのだ。
レベル1の身でミノタウロスを相手取り、アイズやベートを無力化する冒険者の実力を。
そして───それは予想以上の物だった。勝負にすらなっていない、本当にただの一瞬で第一級冒険者がレベル1の駆け出し冒険者に敗れたのだ。
完敗、その言葉がこの結果に最も相応しい。
「(何者なんだ…彼は……)」
酒場の誰もが注目する中、渦中の人物は気の抜けたように。
「これで俺の勝ち……って事でいいよな?見たかリュー!シル!ベル!!この俺サト……ゴホンッ、ミツルギキョウヤの実力を!!」
「……え、ええ……ただの下衆…ではなかったようですね。サトウ……み、ミツルギキョウヤさん」
「す、凄いですよカズッ……キョ、キョウヤさん!!」
「……本当に………凄いや…………………」
サトウ…カズ………なるほど、それが彼の本当の名前か。
フィンは彼にミノタウロスの件やベートの事について謝礼を送ろうと立ち上がろうとするが、隣でガタッと勢いよく席を立つ音が聞こえ。
「(あっ不味い)リ、リヴェリア少し待っ……!」
リヴェリア・リヨス・アールヴ。彼女は非常に冷静で聡明な女性だ。
しかし彼女は魔導士、極めて優秀な魔導士である。
彼女は気付いていた、先ほどベートを気絶させたのが''魔法''である事に。
未知の魔法、超短文詠唱…そして明らかに"異質"なそれを見て、いや魅せられて彼女は。
「ミ、ミツルギキョウヤ!い、今のはなんだ!?魔法か!?魔法だよな!?魔法なんだろ!?く、詳しく!詳しく聞かせてくれると嬉しいのだが!!」
サトウカズマの肩を掴み、思いっきり揺さぶっていた。
「ちょ、まっ、誰だ!?て、てか顔ちかっ……!」
フィン・ディムナは頭を抱えていた。そして思い出した。
そう言えば静寂に対してもかなり面倒臭い事になっていたなと。
『撃って来い!魅せてみろ静寂!!』
『相変わらず喧しい女だ…行き遅れるぞ』
『ふっ…経験者は語ると言うやつか?』
『……
『ぐはっ!?くっ…やはりその魔法は……素晴らしい……!』
『何故煽ったリヴェリア!?』
『フィン…止めてくれるな……!私の趣……探究心を!』
『今それどころじゃないの分かってるかい!?』
遠い目をしながらかつての日々を思い出す。
……よく生きてたな。
「是非教えてくれ!ミツルギキョウヤ!!」
魔法狂いのハイエルフ様の詰問が今、始まる!
リヴェリアさんは魔法狂いになりました。苦情は受け付けます。
次回、彼を見てベル・クラネルは何を思うのか