望まぬ知恵の王 ~冒険者に憧れた蟲がやがて魔城の主と呼ばれるまで~ 作:SIS
ウルル・クルシュカはヴァーシス領辺境伯に仕える密偵である。いわゆる治安維持要員だ。
普段は喫茶店の不愛想な店員として努めつつ、客の話に耳を傾けている。
そこから得た情報は、彼女の活動の助けとなる。
大きなものだと極秘の犯罪者集団の足取りから、小さなものは迷子の猫の拾い主まで。他愛もない市民の言葉の端々に、しかし真実の切れ端はのるものなのだ。
そんなある日、ウルルは次期当主じきじきに、ある人物と引き合わされた。
「彼女がヴィヴィアン・ル・カイン。これから辺境伯お付きの魔術師として、様々な問題に対応してもらう事になる。今日はその顔合わせの為につれてきた」
「ヴィヴィアンだ。よろしく頼む」
「おぃっすー、です」
つい最近、試練を終えて辺境伯領に戻ってきたばかりの御曹司。その彼がひきつれているのは、銀髪の美少女だった。
彫刻家の掘った像のような、メリハリのあるスタイル。ゆったりしたローブで隠しているが、ふとした動きで浮かび上がるそれは街行く人を振り返らせるだろう。
何よりも、先端に向かうにつれ金色のグラデーションがかかる不思議な銀髪と、赤紫の蠱惑的な瞳。顔のつくりは愛嬌があるが、そこに浮かんでいるのは人形のような無表情。
作り物のような美少女、というのが、ウルルの第一印象だった。
「あっしはウルルっす。この喫茶店を拠点にスパイの真似事みたいな事してるっす」
「スパイ! ほほう、ウルルどのは秘密の人員なのか!」
「え、ええ、そうっすね。影に生き影に死す、まあ、そんな感じっす」
実際のところはそこまでアングラではない。辺境伯お抱えで大げさな秘密基地を与えられてはいるが、基本的には平和な街だ。
それにしても人形のよう、という印象はさっそく撤回すべきだろう。しゃべり始めるとなんか面白いぞこの子、とウルルはヴィヴィアンへの評価をあらためた。
「ヴィヴィアンも、何かあった時は彼女に頼るといい。何かおかしなトラブルの気配を感じたら、ここを利用してくれ」
「了解した」
「それで、ヴィヴィアンさん、でしたっけ? てっきりアトラス様のお手付きだと思ってたんですけど、どれぐらいできるんです?」
時期領主が見眼麗しい少女を連れてきたとあれば、普通はそう考えるのがむしろ当然だ。
が、どうにも話を聞く限り、二人はそういう関係ではないらしい。
「ああ、いや、彼女をそういう目で見るのは、ちょっと無理かな……?」
「?」
「……ウルル。ちょっと地下室まで来てくれないかな、見てほしいものがある」
数分後。
「……うにゃああああああああああああああああっ!!!?」
誰もいない喫茶店に、地の底から轟く素っ頓狂な悲鳴が響いたとか、響かなかったとか。