望まぬ知恵の王 ~冒険者に憧れた蟲がやがて魔城の主と呼ばれるまで~   作:SIS

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第二百三十話 多少の縁も重なれば

 

 

 

 結論から言うと。

 

 仲間探しは難航した。

 

 

 

「今日で三日。まだ収穫は無しね」

 

「えうう……」

 

 夕刻手前。迷宮を出て、町への帰路につく二人の冒険者の姿があった。

 

 アルテイシアとシオンである。しょんぼりと意気消沈した様子のアルテイシアに、シオンは困った困った、と肩を竦めた。

 

「分かっていたけど、なかなかうまくはいかないわねー」

 

「はい……」

 

 あれから二人は予定通り、仲間探しに明け暮れた。

 

 ギルドで募集を出し、迷宮の入口などで積極的に声をかけたりもした。

 

 中には一緒に高難度コースに潜った相手も居る。

 

 出来る限りの範囲でやれる事はやったが、しかし結果は残念ながら形にはなっていない。

 

「この間の槍使いと魔術師のコンビはなかなかいい線言ってたんだけどね。実力は十分だったけど、『割に合わない』って言われちゃあねえ」

 

「うーん……。全員が全員、実力不足という訳ではないのは吉報だったんですが……やはり高難度コースの相手が強すぎるのが問題ですね……」

 

 つまりはそういう事である。

 

 確かに、冒険者の中には高難度コースに通じる者もいた。

 

 だがそれと、高難度コースで採算が取れるか、というのは全く別の問題である。

 

 実力者といえど、冒険者である以上その目的は名誉とお金である事が多い。そんな彼らから見て、高難度コースのラスボスラッシュがどう見えるか。

 

 相場でいえば100万の仕事を、報酬10万でやる実力者は居ない、そういう事である。いくら大粒の魔力結晶を落とすと言っても、リスクとリターンが釣り合っていない。

 

 なんとしても迅速に迷宮を突破したい事情のある二人とちがって、それが無い一般の冒険者が、そんな自殺行為紛いの戦いに協力してくれるはずも無く。

 

 そういう訳で、端的に言うと二人の仲間集めは暗礁に乗り上げていた。

 

「ああ……どこかにいないでしょうか。武者修行目的で強敵と戦う事そのものが目的で、見返りは別にどうでもいい、みたいなバトルジャンキー……」

 

「居ない事もないとは思うけど、そういう人って私達の要求する人材と合致しないと思うわよ。魔術師ってそういう馬鹿でも務まるの?」

 

「務まりません……ファッキン……」

 

 よっぽど参っているのは口汚い言葉まで口にするアルテイシアに、シオンはため息をついて頭を抱えた。

 

 ……まあ実際の所、ヌルスってそういうタイプと見れなくもないよね、とシオンは思ったが、藪蛇なので黙っておく。

 

 いや別に、自分から危険に突っ込んでいくわけではないが、向こうから来る分には割と意気揚々とヤバイ魔術を披露しにかかる傾向があった。オメガ・マギアスなんかが特にそうだ。

 

 うんうん唸っていたアルテイシアが、何か良い事を思いついた、と言わんばかりに手を叩く。

 

「ああいえ、考え方を変えれば……魔術の実験相手を求めているような、ちょっとマッド入ってる人なら高難度コースの魔物は良い感じの実験素材かも……?」

 

「そういうヤバイのは一匹で十分。却下」

 

「ですよね……え? あれ? 一匹いるって誰の事です? 私?」

 

 面倒くさいのでシオンはアルテイシアの疑問には応えず、黙って早足で道を急いだ。アルテイシアは不満そうな顔をしているが、流石に心当たりがあったのか、黙ってその後に続く。

 

 そこで、きゅうぅ、と小さな腹の音が響いた。

 

 はっとして自分のお腹を押さえたシオンが、首を傾げて振り返る。

 

 そこでは同じようにお腹に手を当てたアルテイシアが、心なしか顔を赤くしていた。

 

「……戻ったらお昼にしましょうか」

 

「はい……いやあの、その、別に私が食いしん坊とかそういうのではなくてですね? 魔術を使うとお腹がすくというか、常人と肉体構造が違ってですね?」

 

「はいはいわかったわかった」

 

 そっけないシオンの態度に、全然わかってないですぅー、とアルテイシアは涙目になりながら、何度も何度も魔城迷宮を振り返りながら、並んで街に戻っていった。

 

「今の聞こえてないですよねヌルスさんに……」

 

「いや、アンタの腹の音なんてヌルスは聞きなれてるでしょ。ヴィヴィアンだった時はしょっちゅう、グゥグゥ唸らせてたわよ」

 

「え゛????」

 

 

 

◆◆

 

 

 

 アルテイシアの尊厳を守るべく、食堂に急ぐ二人。

 

 しかし、そういう時ほど、思わぬ出会いがあるものである。

 

 ギルド支部の前を通り抜け、最寄の食堂の大行列を尻目に先を急ぐ二人は、ふと見知らぬ二人組の冒険者らしき姿に目を止めた。

 

「あら。新しい人かしら」

 

「みたいですね」

 

 ここ最近、仲間集めをしていた二人は、一通りの冒険者に顔を合わせている。その記憶にないという事は、恐らくつい先日かそこらでこの街にやってきたのだろう。

 

 事実、人でごった返す食堂の行列から距離を空けて困り果てている様子からは、まだ街に慣れていない様子がありありと伺える。

 

 ここで食べるつもりならもっと早く来ないとねー、と微笑ましい気持ちで二人を見ていたシオンは、しかし、「ん?」と小さく仮面の下で眉をひそめた。

 

「いや、あれ? なんかどっかで、見た事ある顔のような……」

 

「おや? シオンさんシオンさん、こっちに向かってきますよ、あの二人」

 

 見つめるという事は見つめ返されるという事だ。茶髪の剣士とフードの小柄な魔術師の二人組が、とててて、と真っすぐアルテイシア達に駆け寄ってくる。

 

 用件の想像は容易い。この状況なら決まりきっている。

 

「すいません! あの、この街で潜ってる冒険者の方ですか? その、俺達、ここの事よく知らなくて完全に出遅れちゃいまして……。よかったら、ご飯食べられる所、教えてもらえないでしょうか」

 

「どうがよろしくお願いします」

 

 ハキハキと喋る剣士に、訛りのきつい方言で喋る女の子。

 

 なんかどこかで覚えがあるなあ、と記憶を辿るシオンに対し、まったく覚えのないアルテイシアはにこにこと微笑み返した。

 

 なんせ気持ちはとても分かる。同類相哀れむという奴である。

 

「いいですよー。私達もこれからご飯だったので、よろしければ一緒にどうぞ。美味しいお店をご紹介します」

 

「やった、ありがとうございま……? ……え、あれ??」

 

「どうしました?」

 

 アルテイシアの気安い返事にガッツポーズをした少年剣士が、フードの下に隠した彼女の目と視線を合わせた途端、ぴたりとかたまった。

 

 目を丸くしたまま、「え? でも……え?」と何やら困惑している。見れば隣の小柄な魔術師も、口元に手をあてて分かりやすく困惑するポーズだ。

 

「「……ヌル……ヴィヴィアンさん?」」

 

「えっ? なんでそこでヌルスさんの名前が?」

 

 思わぬ名前が出てきて、互いに首を傾げるアルテイシアと二人組。

 

 その背後で、シオンはようやく記憶が合致して、ぽん、と手を叩く。

 

「あー、そっか。あれだ。エトヴァゼルの迷宮にいた……ええと、確か“チャレンジ&スラッシュ”!」

 

 そう。

 

 ストライフ・アーデン。

 

 ニコリ・ミニシア。

 

 その二人の少年少女は、かつてアルテイシアの肉体に宿ったばかりのヌルスが交流を持ち、結果としてアトラス達にその生存を知らせるきっかけとなった冒険者達であった。

 

 

 

「いやあ、すいません。まさか人違いだとは……」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 お昼下がりの食堂。僅か数人しか客の居ない静かな店内で、アルテイシアとストライフ達はテーブルを共にしていた。

 

 表向きは、まだ街慣れしていない同業へのおせっかい。

 

 その本心は、どこまで彼らが裏事情を知っているのかの再確認だ。

 

「まあでも、言われてみたら顔つきは似てるだけで、振舞いとか雰囲気は全然別物ですね」

 

「だがら。魔力の色もひとづも違うし……世の中には自分さ似だ人が三人いるって本当なのがも」

 

 顔を見合わせて照れ隠しのように苦笑する二人。そこに、表情を作っている所作はない、とシオンは見て取った。

 

「それにしても、こんな所でまた顔を合わせるなんてね。元気なようで何より」

 

「いえいえ。しかし申し訳ない、こちらはそちらの事を覚えていなくて……」

 

「気にしないで。エトヴァゼルに居た頃は仮面してなかったから」

 

 表向き、シオンは死んだ事になっている。認識阻害の仮面をつけたまま話す彼女だが、おかげでストライフ達は特に違和感を覚えていないようだ。有難い話ではあるが、仮面が効きすぎてちょっと怖いシオンである。

 

「それより、貴方達四人パーティーじゃなかったかしら。あとの二人は?」

 

「あー。あの二人はその、冒険者引退しちゃいまして。今は二人で、ほそぼそと冒険者を続けてます」

 

「そう……」

 

 つまりは今、この二人はフリーに近い状態、という事か。頷くシオンに、アルテイシアがちらり、と目くばせをする。

 

 人格面は勿論、実力の方も、なんだかんだでエトヴァゼルの7層まで降りていた事からも申し分はない。

 

 ちょうど前衛の剣士と魔術師。必要としていた人材にどんぴしゃりだ。

 

 ただ、どういう事情で魔城迷宮に訪れたか、それだけが気になる。

 

 それとなく、世間話を装いながら、シオンは二人に探りを入れた。

 

「それで、今話題の魔城迷宮に、って事ね。なるほど。目的は何かしら、単純に冒険? それとも、国への売り込み? 何にせよ、確かに魔城迷宮にはいくらでも立身出世の種は転がっているわ」

 

「あー。そういうのも魅力なん、です、けど……どっちかというと、僕らは魔城を自分の目で見たかったというか……」

 

「? 観光目的って事?」

 

 シオンの端的な質問に、ストライフは苦笑いしつつ首を振る。

 

「その……僕ら、エトヴァゼルに居た頃に、ある魔術師に危ない所を助けられたんです。その、ヌルスさん、って言うんですけど……エトヴァゼルじゃ有名な人で、魔術師なのに全身鎧っていう変わったスタイルで、見返りもなくピンチの冒険者を助けて回る、お人よしというか奇特な方でして……」

 

「ふんふん?」

 

「それでその、さっき間違えたヴィヴィアン、という方は、そのヌルスさんの中身? 正体? っぽい方なんですけど。とにかくその、僕らはそのヴィヴィアンさんに返しきれない恩があって……その、要はヴィヴィアンさんは凄く良い人なんです。ほんとうに!」

 

 語りに熱が入るあまり、少し腰を浮かせるストライフ。そんな彼に、アルテイシアは満面の笑みで、にこにこ、と頷いている。シオンは半目で相方をけん制しつつ、話の続きを促した。

 

「ふーん。確かに私もエトヴァゼルに出入りしていたから、その話は知っているけど。でもそのヌルス、って言う名前、魔城を作り出した魔王と同じ名前ね。同一人物なのかしら? それとも偶然? 珍しい名前だけど……」

 

「そ、それは分かんないですけど、聞いた話だと魔王ヌルスも全身鎧の魔術師らしくて……同一人物の可能性が凄く高くて。そ、それで俺達、居てもたってもいられなくなって……!」

 

「ヌルスさんが、あんなたくさんの人を殺すような事、するはずがないんです! それが事実でも、何かきっと事情があるはず! 私達、せめてそれだけは確認したくて……!」

 

 目を丸くするアルテイシア達に、ストライフ達は席から立ち上がり、頭を下げた。

 

「お願いです! 俺達は、ヌルスさんの本当の事を知りたい! どうか、パーティーを組んでもらえないでしょうか!」

 

「お願いします!」

 

 若者らしく、勢いまかせで情頼りの交渉ともいえないお願い。

 

 全く、私達が魔王ヌルスに恨みを持つ者だったらどうするのかしら、とシオンは半ばあきれながら、隣でさっきから沈黙しているアルテイシアに視線を向けた。

 

「………………(満面の笑み)」

 

 太陽のような輝く笑み。自分達以外にもヌルスの事情を案ずる者がいた事、彼が助けた命がその事をちゃんと恩義に思っている事、そういった事で酷くご満悦のようである。

 

 決まりね、とシオンは小さく頷いた。

 

「いいわ。願ってもない、こちらも仲間を探していたの」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「ええ。後でギルドにいってパーティー申請をしましょう。でも、その前に」

 

 シオンがちらり、と視線を逸らす。それにつられてストライフ達が横を見ると、席のすぐ隣に、店主が料理をお盆に乗せて佇んでいた。

 

 どうやら、話がヒートアップしていたので割り込み損ねたらしい。

 

「先にお昼にしましょう。続きは食べてから、ね」

 

「は、はい……」

 

 いつ頃から待たせていたのか。ストライフ達は申し訳なさと恥ずかしさに席に縮こまった。

 

 

 

 

 

 

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