望まぬ知恵の王 ~冒険者に憧れた蟲がやがて魔城の主と呼ばれるまで~   作:SIS

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第二百三十一話 お手並み拝見と行きましょう

 

 ひょんなことから、理想通りの仲間と巡り合ったアルテイシア達。

 

 しかし思想的には問題が無くても、実力的には果たしていかほどの者か。

 

 お昼を終えた後、一行は早速、超高難度コースで小手調べ、という事になった。

 

「という訳で、お二人の実力を見せてください。私達は二人でここを突破できましたので、最低限それぐらいの実力がなければお話になりません」

 

「アルテイシアはああいうけど、まあ瞬殺されないぐらいの力があれば十分よ。最悪、攻撃は彼女に全部まかせればいいので」

 

 やって来たのは一部屋目、アルビノミノタウロスが待ち構えている部屋だ。

 

 通路にまでは追いかけてこない、という特性を生かして、部屋の目前で作戦会議。ちょっとずるいが、ヌルスだって迷宮の仕様は最大限利用していたのだから問題ないだろう。

 

「……どう、ニコリ。やれる?」

 

「が、頑張りますね」

 

 明らかにただ物ではない、という雰囲気を放つ魔物を相手にしても、二人に気後れはない。それがただの無鉄砲ではなく、実力に基づく自信だと見て取ったシオンは、ふぅん、と意外そうに鼻を鳴らした。

 

 話によれば、かつては四人パーティーとはいえ7層までたどり着いたという話だ。少なくとも並みよりはやれる冒険者である事は間違いない。

 

「じゃ、お手並み拝見といくわ。危なくなったらちゃんと助けに入るから、まあ気軽にね」

 

「はい。いくぞ、ニコリ!」

 

「うん!」

 

 ストライフとニコリが、肩を並べて部屋に侵入する。途端に、奥の入口の前で陣取っていたミノタウロスが閉じていた瞼をかっと見開き、大斧を手に前へと歩み出てきた。

 

「いぐよ、ストライフ。『白い大河 踊るは雪の精霊 春を知らない寝坊助よ カッチンコチンを今ここに!』」

 

「はああ……『精霊外装』!」

 

 ニコリの詠唱によって発動した魔術に、ストライフの体が覆われる。身体を包み込んだ光が消え去った後には、そこには通常装備のハードレザーアーマーから、白く輝く氷の鎧に姿を変えた剣士の姿が現れた。

 

 目の前で起きた現象にシオンがびっくりして目を見開く。

 

 彼女はヌルスから色々話を聞いているので、魔術についても少しだけ明るい。故に、今起きた現象が魔術のようでそうではない事をすぐに理解したのだ。

 

「なにあれ?!」

 

「精霊外装……成程。ニコリさんは魔術師ではなく、シャーマンの類でしたか。恐らく、精霊魔術による強化ですね」

 

「精霊魔術ってエンシェントにしか使えないんじゃないの!?」

 

 その手の知識のないシオンが目を丸くする。対してアルテイシアは落ち着いたものだが、眼鏡の下の視線は爛々と知的好奇心に煌めいている。

 

「別にそんな事はありませんよ。エンシェントであるならば基本的に精霊との交感が可能、というだけで、人間であっても精霊と契約を結ぶことが出来れば使えます。ただ、人間は精霊と意思疎通できる者の数が多く無く、才能頼りの特殊技能になるという点が違います。魔術のように体系化されていないので、学んで使えるようになるものじゃないんですよ」

 

「な、なるほど。でもニコリは使ってるけど……」

 

「皆無という訳ではないんです。噂によれば、精霊術の才能を持つ術師を代々排出している里もあると聞きます。恐らく彼女はそこの出身なんでしょう」

 

 ついでに言えば、精霊術師が面倒事を避けるために魔術師を名乗っているのも珍しい話ではない。素人から見れば区別がつかない訳であるし(というか過去のヌルスは普通に勘違いしていた)。

 

 一方、当事者たちはアルテイシア達の会話も耳に入らない様子で、目の前の敵に全神経を集中させていた。強大な精霊の力を結晶させた外装を纏ってもなお、ビリビリと肌に響くような威圧感にストライフが息を呑む。

 

「こいつは……とんでもないな。精霊外装の力を借りても苦戦しそうだ」

 

「が、頑張って、ストライフ! おらも支援すっから!」

 

「ああ、頼りにしている!」

 

 相方と呼吸を合わせ、ストライフは前に出た。こういう相手に受け身になっては駄目だ。相手は人間を遥かに超える力をもったモンスター、先手ぐらいはこちらが取らないと勝負にならない。

 

『ゴアアアア!』

 

 それに対して、アルビノミノタウロスは一歩も引かずに打って出た。魔法金属の大斧と、氷の精霊力で強化された剣が真正面からぶつかり合う。

 

 虹色の火花が散り、砕けた氷の破片が冷気を放出する。忽ち激突地点を中心に急激に低下する気温が、白く濁った渦を巻いた。

 

「ちぃ……っ、せやあ!」

 

『ゴアアア!』

 

 一撃交えてやはり力勝負では不利と見たストライフが、力任せにつばぜり合いを解除すると素早く切り込んだ。それをアルビノミノタウロスは大きく跳躍して回避し、ストライフを飛び越えると彼の背後に着地。巨体からは想像もつかない身軽さでストライフに切りかかる。

 

「くっ!」

 

 横なぎに振るわれる刃を跳躍して回避するストライフ。直撃すれば真っ二つどころか木っ端みじんに粉砕されかねない大斧が足下を通過していくのに肝を冷やすのも束の間、跳躍した彼はアルビノミノタウロスが大斧を振った勢いを殺さずそのまま肩からタックルをぶちかまそうとしている事に気が付いた。

 

「しま……」

 

 空中では身動きが取れない。万事休す。

 

 迫りくる、筋肉の塊。されど間一髪で、空中に咲いた六華の結晶がストライフの前に展開され、アルビノミノタウロスの一撃を受け止めた。

 

 結晶はその一撃で砕かれるが、おかげで威力の大半は吸収された。砕け散る破片に突き飛ばされるようにして吹っ飛ぶストライフ。

 

「ストライフ! しっかりして! ……きゃ!?」

 

『グゴゴゴ!』

 

 壁までふっとんだ相方を気にするニコリだが、アルビノミノタウロスがその前に立ちはだかる。術師を先に排除するべき、と判断したのか、地響きをたてて真っすぐニコリに迫ってくる。

 

 顔色を変えて、ニコリが必死に迎撃を行う。

 

「こ、こっちに来ねえで……! “青い大気 精霊の火打石 カチンと弾けて 炎は木々を焼く”!」

 

 咄嗟にニコリが放つのは青く燃える広域火炎魔術。広がる炎の壁が、アルビノミノタウロスの前に立ちはだかる。

 

 尋常の相手であれば飛び込めば丸焼き必須。

 

 しかしアルビノミノタウロスは尋常の存在ではない。躊躇わず炎に飛び込み、大斧を振るって吹き散らす。そして迎撃をものともせずに接近したニコリを叩き潰そうと、その視線が術師の姿を探した。

 

『?!』

 

 しかし、そこに彼女の姿はない。燃え盛る青い炎が障害となって、逃亡する彼女を覆い隠してしまったのだ。魔物は魔力を視る故に普通の炎であれば目くらましにもならないが、これは精霊術で生み出された魔力の炎。魔物の感覚をもってしても見通すのは困難だ。

 

『グガアアア!』

 

 小娘め、どこに行った! 雄たけびを上げてやたらめったらと大斧を振り回すアルビノミノタウロス。と、その足元を覆う炎の海が、突如弾けるように膨れ上がった。

 

「お前の相手は、俺だろう!」

 

『ガアア!?』

 

 炎を盾に接近したストライフが、氷の大剣を一閃させる。左腕を切り裂かれつつもミノタウロスは残った片手で大斧を振り回して反撃した。咄嗟に受け止めたストライフの体が、再び弾かれて宙に舞う。

 

「なんの!」

 

 だが今度は空中で身を翻して反転、壁に足をつけて衝撃を受け流す。

 

 そのまま壁から跳躍して飛び掛かってくる彼に、アルビノミノタウロスは再び正面から叩き落そうと大斧を振り上げた。

 

 否。正確には振り上げようとしたその動きは、半ばで凍り付くようにして硬直した。

 

『グ、ガ!?』

 

 見れば、周囲を覆い尽くしていた青い炎の海、それが一瞬にして氷塊へと変じていた。凍り付いた湖に取り残された渡り鳥のように、ミノタウロスは下半身と大斧が凍り付き身動きを封じられている。

 

 さらに、飛び掛かってくるストライフの氷の鎧も、いつの間にか青く燃え盛る炎に姿を変え、人間の非力な跳躍に勢いを与えていた。打って変わって燃え盛る炎が、身動きのとれぬアルビノミノタウロスに繰り出される。

 

「氷炎剣・横一文字切り!!」

 

 斬。

 

 峰からは炎を噴出し、刃は鋭く冷たい氷に覆われた刃の一撃が、太く逞しいミノタウロスの首を切り飛ばす。

 

 空中に跳ね上がった頭が、地に落ちるよりも先に朽ちて灰になる。残された体も、ぐらりと傾いで床に倒れ込む頃には既に消滅し、からん、と極大の魔力結晶を床に転がした。

 

「ふぅ……!」

 

「やりましたね、ストライフ!」

 

 一仕事終えて額の汗を拭う彼に、氷に隠れていたニコリが駆け寄り、互いにハイタッチをする。

 

「ああ。ニコリのおかげだ!」

 

「えへへ……」

 

 強敵を撃破した達成感に浸る二人だったが、そこで鳴り響く拍手の音に、はっと我に返った。

 

 手を叩きながら近づいてくるのはアルテイシア。彼女はニコニコしながら、二人の健闘を褒めたたえた。

 

「お見事です、お二人とも。容易く……とはいかないものの、あの魔物を見事仕留めてみせましたね。実力的には申し分ないです! こちらとしても心強い!」

 

「え、えど。あはは、そう言って貰えるど有難え」

 

「まあでもあんまりイチャイチャ見せつけないでくださいねぶっとばしますよ?」

 

 と、一転しておでこに青筋を浮かべる彼女に、ひぃい、とストライフとニコリは二人抱き合って竦み上がった。

 

 不機嫌オーラを隠そうともしないアルテイシアの横で、はあ、とシオンがため息をつく。

 

「ごめんね。アルテイシア、最近ちょっとストレスため込んでるから……まあ、猫にシャーされたとでも思って、わすれて。ね?」

 

「は、はい……」

 

「ま、実力充分、というのは私も同意見。これからよろしくね」

 

 シオンが笑顔で手を差し出し、ストライフとニコリは顔を見合わせると、その手を握り返した。

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

「ああ! ヌルスさんに会うまで、よろしく!」

 

 そうしてここに、一つの冒険者パーティーが結成、となったのである。

 

 こうして、アルテイシア達の魔城攻略は、本格的に開始されたのであった。

 

 それはともかくとして。

 

「さて、次は私が実力を見せる番ですね。シオンさん、手を出さないでくださいよ」

 

「え、ええ、別にいいけど……何する気?」

 

「何、一応パーティーのリーダーとして、威厳を見せつけておかないといけないな、と思いまして」

 

 そういってにっこり笑うアルテイシアだが、その蟀谷が不機嫌そうにピクピクしているのをシオンは敏感に見て取った。視線をスライドさせると、二人寄り添っているストライフとニコリの姿が視界に入る。

 

 二人はバレてないつもりなのか、外套の下で指を絡ませて握り合っている。所謂恋人繋ぎ、という奴だ。

 

 なるほど。シオンは納得して小さく頷くと、念のために一応一言、釘をさしておく。

 

「ほどほどにね?」

 

「ええ、勿論」

 

 

 

◆◆

 

 

 

「ダブル・アストラル・シュレッダー!! しになさぁい!」

 

 前後から襲い掛かる光の斬殺陣。魔物は細切れになった。

 

 目の前で繰り広げられた惨殺ショーに、ストライフとニコリが震え上がる。

 

「「ひぃいいい!?」」

 

「……だからほどほどにね、と言ったのにねぇ」

 

 確かに、自分達が苦戦して倒した魔物を一瞬でバラバラにしてしまうのは、まあ実力を示すに十分な演出ではあるが、それはそれとして明らかに別の意図があったのは明白である。

 

 哀れストレス解消のはけ口として、容赦なく惨殺された魔物にそっとシオンは両手を合わせた。

 

 やっぱり、色恋沙汰はパーティー崩壊の一番の理由なのである。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

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