望まぬ知恵の王 ~冒険者に憧れた蟲がやがて魔城の主と呼ばれるまで~   作:SIS

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第二百三十二話 レッド・ドラゴン

 

 なんやかんやで結成された凸凹パーティーだったが、少なくとも、実力は確かと言えただろう。

 

 ボス戦事にメイン火力をニコリとアルテイシアで入れ替え、連続で魔術を使わないようにして攻略する。勿論、特定の魔術に偏らせないようにも注意する。

 

 結果、ボス戦の難易度は大幅に低下したといえよう。

 

「ハイプレッシャー・ライトニング!」

 

 アルテイシアが放つ超高圧電流の一撃が、立ちふさがる巨大な魔物を粉砕する。巨大な烏賊のような見た目の魔物は、黄金に輝く電撃に全身を真っ黒に焼き焦がされ、仁王立ちのままさらさらと灰になって消滅した。

 

 跡に、がらんと特大の魔力結晶が転がり落ちる。

 

 それを拾い上げると、アルテイシアは懐にしまった。

 

「よし。これで4匹目」

 

「順調ねー。手応えの方は、どう?」

 

「問題ありませんね。属性を切り替える事で、耐性もほとんど上がっていないようです。これぐらいなら、まだまだワンパンの範囲ですね」

 

 指をウネウネさせて調子を確かめつつ、アルテイシア。

 

 一方で、ずっと前衛を務めているストライフはそろそろ休憩が必要そうだ。肩で息をしている彼に、ニコリが甲斐甲斐しく水筒を差し出す。

 

「ストライフ、ほら、飲んで」

 

「あ、ありがとう……」

 

「まだちょーっと実力不足かもね、ストライフは。ま、それもなんとかなるでしょ。パワーレベリングにもほどがあるって所だし」

 

 戦士たるもの、訓練もそうだがやはり実戦も大事だ。ここぞ、という瞬間での駆け引きの攻防、何を選ぶべきか瞬間的に判断する上での確度は、やはり潜り抜けた修羅場の数がモノを言う。

 

 勿論、手札を増やす、という意味で訓練もとても大事だ。両方あってこそ、本当の強さとよべるのである。そういう意味では、ストライフは少し、まだ経験が不足していると言える。

 

 まあ勿論ストライフが弱いのではなく、シオンとアルテイシアが異常なだけなのだが。特にシオン。執行者二匹に加えヴァルザークとも交戦経験がある彼女の経験値は、そんじょそこらの冒険者では及ばない。

 

「しょ、しょうじん、します……はい」

 

「ふふ、ま、これからに期待! ですね。とりあえずちょっと休憩にしましょうか」

 

 魔物の居なくなった小部屋に、敷物をしいてランチタイム。

 

 魔術で火を起こした焚火を取り囲んで、携帯食を温める。

 

「しっかし、これどのぐらい続くのかしらねえ」

 

「流石に100も200もないとは思いますが……まだ10部屋もいってないから、なんとも言えませんね」

 

 一瞬でリラックスモードに切り替えて、ぽやぽやと会話を楽しむアルテイシアとシオン。一方、ストライフとニコリの二人はまだちょっとぎこちない。

 

 それでも携帯糧食をお湯で溶き、即席シチューを口にすると、二人も強張りが溶けてリラックスできたようだった。

 

「ふぅ……あったがぐで、んまぇ」

 

「結構おいしいですね、これ。ギルドで売ってるのとは違うな」

 

「あのお店、冒険者向きの糧食も売ってるのよ。これが割とまあ、品質がよくてね」

 

 携帯食糧は渋みがあったりえぐみがあったりして食べづらい事が多いが、あの食堂で買いこんだそれはまったりまろやかで口当たりがいい。品質のいい野菜をたくさん使っているからかな、とアルテイシアは見込んでいる。

 

 正直、あんなに閑古鳥が鳴いているのが不思議なお店だ。そのうち他の冒険者も見つけて、人でごった返す事になるのだろうが、それは嫌だなあ、というのが正直な感想である。

 

 カップの中のシチューをスプーンでかき回すアルテイシア。と、早くも自分の分を食べ終えたらしいニコリがじっと自分の事を見ている事に気が付く。

 

「なあに? 食べ足りないですか?」

 

「あ、いいえ、違うんだ。その……アルテーシアさんとシオニズさんは、二人でどごまで潜られだのだが?」

 

「だからシオンでいいっていってるでしょ。まあいいけど」

 

 どうやら、先人の探索状況が気になったらしい。ちなみにシオニズはシオンの偽名である。

 

「私達もそう先まで進めた訳ではないです。この次の五部屋目で、魔術の連続使用回数にひっかかって撤退しました」

 

「え……じゃ、じゃあ二人だげでこごまでこっちゃんだが? 凄いなあ……」

 

「まあ、火力は足りてましたからね。それでも耐性上昇がエグくてですねえ。回数制限にひっかからなくても、その次ぐらいで打ち止めだったと思います。ごり押し防止とはいえ、制限が厳しくて大変ですよ、この迷宮」

 

 やれやれ、と首を横に振るアルテイシアに、シオンはため息をついて同意した。

 

「ええ、ホントにね。あ、ちなみに次の部屋のボスは、変わってなかったらドラゴンよ」

 

「どらごん!? ドラゴンって……あのドラゴン!?」

 

「どのドラゴンかしらないけど、そのドラゴンよ。何、急にやる気出したわね」

 

 ばっと起ちあがるストライフに、シオンは元気ねー、と冷めた視線を向ける。一方のストライフは、こうしてはいられない、といそいそとカップ等の道具を片付け始めた。

 

「だってドラゴンですよドラゴン! ドラゴンスレイヤーは騎士の誉れ! くぅー、燃えてきた!」

 

「とはいっても魔物よ? あくまでそれっぽい魔物に過ぎないわ」

 

「いいんですって、大体本物のドラゴンなんて聞いた事ないし! 御伽噺に聞く英雄だって、倒したのは代替迷宮の魔物じゃないですか! 一緒一緒!」

 

 魔物と生物の境界線で頭を悩ませたヌルスならば憤慨するような発言だが、あいにくそこまで拘りのある人間はここにはいなかった。特に、もはや人間なのか魔物なのか半神なのか曖昧になってきているアルテイシアは、それもそうですね、と頷いてすら居る。

 

「ふむ。そう考えると、魔力結晶じゃなくて牙とか爪とかドロップしてほしいですね。何かに使えそう」

 

「そういやドラゴンの爪から鍛えた剣がドラゴンスレイヤーって呼ばれてるんだっけ。なんでドラゴンから取れた爪がドラゴンに効く訳?」

 

「ふふふ、それはですねえ。ドラゴンは生物の頂点、並び立つ者があるとすればそれは同じドラゴンのみ! ドラゴンの天敵は同じドラゴン! 故に龍の爪は同じ龍の鱗を貫く、そういう訳なのです!」

 

 やたらと詳しいストライフの説明に、ふんふんと頷くアルテイシア。

 

 一方、ニコリは苦笑いしつつ焚火のあとかたずけを始め、シオンがそれを手伝った。

 

「あ、すいません。その、ストライフ、ああなったら話が長えがら……」

 

「いいわよ別に。アルテイシアも話好きだから楽しんでるみたいだし。まあ、変な知識入れて妙な事思いつかなければいいんだけど」

 

「ほんとにすいません……」

 

 結局、そのままストライフとアルテイシアのドラゴン議論は、休憩時間そのものと同じぐらい続いた。こころゆくまで話し込んで気持ち艶々した二人を先頭に、シオンとニコリはちょっとゲンナリしながら後に続いたのだった。

 

 

 

 しかし。

 

 おふざけしていられたのも、次の部屋に入るまでの事。

 

 踏み入った途端、周囲に満ちるプレッシャーに、四人は揃って息を呑んだ。

 

「……変わってなかったか」

 

「やはり、これまでの相手とは一味違うようですね」

 

 一行の目の前、部屋の中央に陣取る赤龍。転寝するように手足と尾を丸めていたそれが、ゆっくりと翼を広げて四肢を踏ん張り、戦闘態勢に移行する。

 

 黄色い瞳が不遜な侵入者を見据え、牙の間から炎の如き吐息が零れる。

 

 その圧倒的な威圧感に怯むどころか、ストライフは目を輝かせて前に出て、ニコリはびくびくしながらもその背中に続いた。

 

「すっげ、相手にとって不足なし……!」

 

「が、頑張ります!」

 

「頼もしい事。じゃ、これまで通りにやるわよ!」

 

 赤竜がその首をもたげ、遥か高みからちっぽけな人間達を見下ろし、笑うように牙を剝く。

 

「っ、咆哮来ますよ!」

 

 挙動を見て取ったアルテイシアが警告を飛ばすが、その言葉の意味を理解するよりも早く、ドラゴンの咆哮が大気を激震させた。

 

「……っ!?」

 

「い、きが……っ」

 

 その雄たけびをまともに聞いた人間三人が、胸を押さえて動きを止める。

 

 龍の咆哮は、ただの大声ではない。バインドボイス、あるいはドラゴンズロアと呼ばれているそれは大音量もさながら、生物が本能的に恐れ敬う恐怖を伴う。

 

 誰であれ、高い所に立てば落下の恐怖を心のどこかに抱くだろう。巨大な獣を前にすれば、命の危険を感じるだろう。それらの恐怖を、生物の心に刻み込まれた恐れを強制的に引き出されれば、どんな勇士も、頭のおかしい命知らずも等しく足を止める。

 

 これを乗り越える事が出来るのは、恐怖すらも飼い慣らした歴戦の勇士か、もしくは。

 

 恐怖すら解体する、理性の怪物のみである。

 

「やかましいですよ」

 

 軽い一声と共に腕を振るのは白き魔術師。その腕の軌跡上に展開される、いくつもの光の鏃。高速回転するそれらを、一斉に彼女は解き放った。

 

「アストラル・アローレイン!」

 

 20を超える光の一斉射撃。一撃一撃が、分厚い城壁を撃ちぬくだけの貫通力を持った閃光が一斉にドラゴンに降り注ぐ。

 

 それを、ドラゴンは身動ぎせずに真正面から受ける。

 

 直後、その赤い鱗が、虹色のスパークと共に、降り注いだ光の矢を四方八方にはじき散らした。跳弾した閃光が壁や床に穴を穿ち、破壊音と共に消失する。

 

 一瞬にして凸凹になり、灰色の煙が立ち上る中、ドラゴンがのっそりと動いた。身を震わせ、煩わしいとばかりに煙を吹き散らすその体には傷一つない。伝承通りの、恐るべき魔術耐性。

 

 ちっ、とアルテイシアが苛々と舌打ちした。

 

「あれで傷一つありませんか。伊達にドラゴンを模してはいない、という事ですかね。……ま、それはそれでヌルスさんすごーい! という事で!」

 

「あんたどっちの味方よ」

 

 一転してニコニコと嬉しそうに想い人を褒めたたえる彼女に、ようやく気を取り直したシオンが力なくつっこみを入れる。

 

「そりゃあヌルスさんに決まってるじゃないですか。と、冗談はさておいて。おふた方も、大丈夫です?」

 

「あ、ああ。すまない、気圧された」

 

「ま、まだ胸がドキドキします……!」

 

 バインドボイスに縛られていた二人も、常と変わらぬアルテイシアに引っ張られるようにして調子を取り戻す。ストライフが剣を抜いて前に出て、ニコリがそのサポートにつく。

 

 剣を抜いて構える冒険者達を、ドラゴンは変わらず睥睨したまま動かない。

 

 その王者の余裕を、しかしアルテイシアは嘲笑った。

 

「余裕綽々ですか、いいですね。ちょっと私も本気出したくなってきましたよ……ニコリさん! 奴の鱗は魔術をほぼ通さないと考えていいです、貫通は狙わないで! 圧力を加える形で攻撃してください!」

 

「わ、わかりました! “空の旅人 積もりて山を埋め その歩みは屋根から地面へつらつらと とんがりずんがり伸びていけ!”」

 

 ニコリの詠唱によって巨大な氷柱が作り出され、ドラゴンに射出される。

 

 それをドラゴンが振りかぶった前肢が砕き……その下を、ストライフが駆けていく。

 

 振りぬかれた刃が、赤竜の鱗を切りつけ、僅かな傷を刻み込んだ。

 

 

 

◆◆

 

 

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