望まぬ知恵の王 ~冒険者に憧れた蟲がやがて魔城の主と呼ばれるまで~   作:SIS

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特別編『魔王城の新人幹部』

 

 

 魔王城、大会議室。

 

 部屋の端が霞むほど広大な会議室には、それに見合った長大な机が存在する。まるで地平線まで続く交易路を思わせる青い長机……しかしそこにつくのは僅か数名の大幹部のみ。

 

 シオン、アトラス、テオス、そして辺境伯領時代から仕えてくれている何人かの重鎮。

 

 それらの上座には、蠢くピンク色の触手の塊が鎮座している。

 

 魔王ヌルス。魔城を支配する魔王である。

 

『それでは、本日の会議を始める。議題は、魔王城の運営状態について』

 

「(なでなで)」

 

「え、えと、はい……」

 

 厳かな声でヌルスが会議の開始を告げるが、参加する部下の様子はちょっと戸惑い気味である。テオスなどは露骨に首をかしげていた。

 

『まず、食料についてだ。自給率は今の所どうなっている?』

 

「(なでなで)」

 

「その、食料についてですが、各町村での栽培が軌道にのってきましたが、それでも凡そ自給率は6割ほど。依然として、外部からの食糧輸入は必須であり、その為の外貨獲得はかかせないと思われます。ええと、それについての対策である、冒険者の宿場への引き入れについては順調でして、交易費用の3割ほどをそちらから調達できています……」

 

 書類を読み上げて報告する幹部だが、その目がしばし泳ぐ。彼は手元の書類とヌルスの座る上座の間で、視線をいったりきたりさせていた。

 

『よろしい。市民の皆には我慢をさせてしまうが、食料の優先度は出来るだけ冒険者の方に回してくれ。彼らが迷宮内での経済活動の肝になる。魔力結晶や鉱物資源はいくらでもなんとかなるが、食料だけは厳しいからな。ギルドとの取引はどうなっている?』

 

「(さすさす)」

 

「えーと……クリーグからの報告によると、魔力結晶はともかく、金属資源については高値で買い取ってくれるらしい、との事。特に例の黒い特殊合金、魔力を超圧縮して生成した例のアレについては“ブラックミスリル”と称する事になりました。あちらさんの関心度が高く、今後優先的に卸してほしいそうです」

 

 ブラックミスリルはオメガ・マギアスの主装甲にも使われている特殊合金だ。魔力を大量に含んだ迷宮の金属的外殻として精製される物質であり、本来ならば術式によって維持しなければ霞のように消えてしまうもの。

 

 しかしアルテイシアの参入と、彼女の金属魔術の知見が加わったことにより、微量ではあるが迷宮環境外でも存在を維持できる品質のものが生産可能になったのである。

 

 魔術師であれば簡単に成形可能でありながら、実質的にほぼ不壊の超常物質ともあれば、その用途は多岐にわたる。ギルドが欲しがるのも納得の逸品である。

 

『了解した。ただ、普通の金属と違い過負荷をかけて形状が崩壊すると消滅するという事はよくよく言い含めておいてくれ。あれは物質としては金属よりも氷に近いものだ。詐欺だと訴えられたら困る』

 

「(もみもみ)」

 

「りょ、了解しました……」

 

 そんな感じでやり取りが続いていく。

 

 あくまで真面目腐って会議を続けるヌルスに対し、しかし部下の空気は微妙極まりない。

 

 ついには我慢しかねたのか、シオンがすっくと席を立った。

 

「ごめん、流石にもう限界、突っ込むわ」

 

『?』

 

「……ヌルス、あとアルテイシア!! 会議の時ぐらいイチャイチャすんのやめなさい!!」

 

 そうである。

 

 ヌルスの座る玉座……本来ならばヌルス一匹が収まるその席に、もう一人の姿がある。

 

 銀色の混じった金髪の少女、アルテイシア。

 

 彼女が席に座り、その膝の上に小さくなったヌルスを乗せて、会議の間ずっと撫でまわしている。ちっちゃくなった縫い包みみたいなヌルスが、黙ってなでなでさすさすされながらも厳めしい態度と声で会議を淡々と進めるせいで、誰もつっこんではいけないみたいな空気が展開されていたのである。

 

 まさに混沌であった。

 

 そこにつっこみを入れたシオンを、誰もが尊敬のまなざしでみる。

 

 流石だ姉(アネ)さん、と心の声が聞こえてきそうだった。

 

「誰が姉さんよ」

 

『何所の誰と話してるんだシオン?』

 

「何でもないわ。それよりほら、アルテイシア! 会議に参加するつもりがないならヌルスおろして帰りなさい!!」

 

「えー、やです」

 

 あっさりとシオンの命令を拒絶するアルテイシア。

 

 そして何ごともなかったようにナデナデを再開する。

 

「いいから、会議室の空気が微妙になってるのわかってるでしょ! あとそこ、微妙にえっちい感じに指と触手を絡めるな、教育に悪い!!」

 

「えー」

 

「えー、じゃない! 全くもう!! アトラスも苦笑いしてないで注意しなさい、ホントはあんたの仕事でしょうが!!」

 

 結局、ここでも苦労人のシオンなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






◆◆作者からのお知らせ◆◆

 カクヨムにて新作ダークファンタジー『パラサイト少女、下僕を増やし万の軍勢で蹂躙する(予定)』を連載しております。

 『望まぬ知恵の王』と違い主人公は善人ではなく、魔物の本能に忠実な奴です。ご興味あれば是非よろしくお願いします。
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