望まぬ知恵の王 ~冒険者に憧れた蟲がやがて魔城の主と呼ばれるまで~ 作:SIS
魔城に協力者として招かれたストライフとニコリ。
とはいえ、一冒険者である彼女と彼らをいきなり幹部待遇で魔城の運営に携わってもらう訳にはいかない。
しばらくはここでの生活に慣れてもらう事を優先として、彼らはVIP待遇で魔城の天守閣に滞在していた。
「ほら、起きるだ。ストライフ」
「んー……あともうちょっと……」
真っ白なベッドの上、枕に顔をうずめてごねるストライフに、ニコリは腰に手を当てて困り果てていた。
窓からは白い光がさんさんと差し込み、遠くまで広がる魔城の城壁が一望できる。その中に、天井の無い区画でのんびりと放牧している領民の姿が見えた。
こうしてみると、魔城は平和そのものである。城壁内の迷宮では今も冒険者たちが激闘を繰り広げているであろう事など想像もできない。
まあ、実際のところ、それは大いに手加減されているのだが……。
「いいがら、とっと起きるべ。そろそろ、朝飯んだが……むぅ?」
コンコン。
揉めている間に、泊っている部屋のドアがノックされる。ニコリはストライフを起こすのをあきらめて、ととと、と表戸に向かった。
「はいだらー」
鍵を開けて、外に顔を出す。
そこにはただ、配膳の台車だけがぽつねんと置かれていた。それを押してきたであろう人の姿はない。
台車の上には、籠に山盛りのパン。それを必要なだけ受け取って、ニコリは台車の下にしゃがみこんだ。
「いつもお疲れ様、ヌルスさん」
『キュキュ』
台車の土台。そこには複雑な機械仕掛けの構造部分があり、その内部に組み込まれた水槽の中で、ゆらゆらと触手が揺れていた。
ヌルスの分身を使った、オートメーション装置である。
迷宮である魔城内部では生命維持装置は必要ないのだが、あるのとないのでは大きく活動可能時間に差があるらしい。
触手はニコリにバイバイ、と手? を振ると、ギコギコと台車を動かして廊下の向こうにさっていく。向こう側が見えないほど長い長い廊下の向こうに消えていく台車の姿を見送って、ニコリはははー、と感嘆に声を上げた。
正直、魔城に来てから一番驚いたのがああいったオートメーション化された道具たちである。
一応全部がヌルスの分身らしいのだが、彼らは文句も言わずにとてもよく働く。時々構って遊んであげるととても喜ぶし、なんという事はない話題に静かに聞き入る所を見ると、なんというか正しく労働を謳歌している感じである。正直、ちょっと悪い気もする。
聞いたところだと、会議においての質疑応答を全部文字に書き起こしたり、膨大な計算を可能とする装置も触手たちが運営しているとの事で、なんだったら迷宮の管理運営もほぼ彼ら任せだという話だ。ただの触手ではなく全部がヌルスと同等のスペックを秘めている、という話を聞けば納得はするが、正直途方もない話である。
「……シャードビーストよりもコッヂのほうがおっかなくねべか?」
もし魔城の一件がなかったら、辺境伯は一体どうなっていたのだろうか。
そこら中に触手が徘徊する別の意味での人外魔境とかした辺境伯のあり得たかもしれない未来を想像して、ニコリはうーんと眉を顰めるのであった。
「ま、いっが。便利やし」
一人納得し、ニコリはパンを抱えて部屋に戻ると朝食の準備を始めた。
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