望まぬ知恵の王 ~冒険者に憧れた蟲がやがて魔城の主と呼ばれるまで~   作:SIS

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第四十一話 アルテイシアと仲間たち その4

 

 

 2層の転移陣出口。事実上の安全地帯のその場所で、四人は陣形と戦術の再打合わせをしていた。1層でしなかったのは、流石に目立つのと、あと1層で物拾いしているような連中に話を盗み聞きされても不愉快であるからだ。

 

「これまでは、魔力索敵で魔物を先に発見、先制攻撃で駆逐する、という戦術でした。ですが、それが万能ではないと分かった今、私達も近接戦をする必要がでてきた訳です」

 

「不本意だけどね。それで、学園きっての秀才さんは、一体何を用意してきた訳?」

 

「ふふふ。よくぞ聞いてくれました」

 

 眼鏡の位置を調整し(伊達だが)、アルテイシアはふふんと笑って杖を取り出した。

 

 学院で採用されている杖は、女子供でも持てるような短いものだ。羽ペンより少し長いくらいだろうか? 高密度に圧縮された厳選された木材を使い、触媒は先端にボルト式で固定する。炎、雷、冷気、ありとあらゆる触媒利用時の副作用が術者に及ばない安全距離を確保した上で取り回し優先で最適化された、エジニアス式魔術理論現代最新の産物である。

 

 だが真に恐るべきは、それを使いこなす術者の方である。

 

 アルテイシアは杖をまるでレイピアのように、地面と水平に突き出すように構えて呪文を詠唱した。

 

「アストラル……セイバー!」

 

 エジニアス式の特徴である起動コードの詠唱と共に、杖の先端から青白い光の線が放射される。射出される事なく、杖の先から1m半ほどの距離まで継続的に照射され続けるそれは、まるで光の剣のようにも見える。

 

 初めて見る魔術に、三人の同級生はざわ……と驚愕を露にした。

 

「すっげ。……でもそれどんな魔術なんだ?」

 

「ふふん。エルリック、そこらへんの石を私に向けて投げてくれます?」

 

「え? ああ、いいけど……」

 

 アルテイシアに言われて、エルリックは少し躊躇ってから拳より少し小さい石を手に取った。万が一アルテイシアに当たっても問題ない石のサイズを選んだのだが、アルテイシアからするとちょっと難易度が高そうだった。もう少し、普通に大きい石でよかったのだが……まあ、エルリックはああ見えて粗暴とは程遠い。無理を言わずこれで良しとする。

 

「じゃ、じゃあ投げるけど……いいのか?」

 

「はい」

 

「それじゃ……ほらっ!」

 

 ぽい、とアンダースローで投石するエルリック。あくまでもアルテイシアをケガさせないように、という配慮に溢れたゆっくり投擲に、知らずアルテイシアの口元に苦笑が浮かぶ。

 

「そこまで気を使わなくても、いいんですけどね?」

 

 ヒュイン、と光の太刀筋が走った。

 

 手首のスナップだけで杖が振られ、それに応じて杖先から照射されていた光の剣が目にもとまらぬ速度で振りぬかれる。あ、と見学者が茫然とみる前で、投げられた石は空中で細かい賽の目の様に切り刻まれ、そのままパラパラと散っていった。

 

 それを見てアルテイシアがひゅん、と強く杖を振ると、蝋燭の火が消えるように光の刃も消滅する。

 

 ややあって、学友たちの拍手が小部屋に響き渡った。

 

「すっげ……すっげ、すっげ! 何それ!? 何属性!?」

 

「弩……いや、魔弾? それを圧縮した上で停滞させて、近接魔術に……いや、滞留か? ちょ、ちょっと、頼む、後で魔術式見せてほしい!」

 

「下手な剣より全然切れ味いいんじゃない、何それ!? 私にも使える?!」

 

 仲間たちの賞賛に、胸を逸らして勝ち誇るアルテイシア。気持ち鼻が伸びているようにすら見える。

 

 新魔術の初披露がどうやら盛況に終わったらしいと見た彼女は、機嫌よさそうに魔術の説明を始めた。

 

「今のは私の新魔術、アストラルセイバー! です。見ての通り、攻撃魔術を近接戦闘に使えるようにしたもので、術式は特許とるまでは秘密です! 属性は今の所、私の得意とする光素(ハードライト)のみですが、将来的には他の属性に対応させるつもりです!」

 

 アストラルセイバー。それこそが、今回の探索にあたってアルテイシアが用意した切り札である。これならば、後衛要員である魔術師であっても、前線で戦闘が可能だ。いや、それ以上の成果を出せるはずだと、アルテイシアは踏んでいる。剣の形をしているが、その実体は触れる物全てを切り裂く断層のようなものだ。剣のように受ける事ができない代わり、相手の攻撃を上から真っ二つにする事が出来る。

 

「ていうかまさか、前回の探索から今日まででの短期間で術式開発したのかよ、マジか!?」

 

「さっすが学院における創立以来の天才、だなんて呼ばれることがあるわね」

 

「うふふふ、そうでしょうそうでしょう!」

 

 友人たちの賞賛に有頂天のアルテイシア。が、そこでロションが、ニヤニヤ笑いながらぐさりと釘を刺しに行った。

 

「へえ……なるほど。それなら、またハイドポッドに丸呑みにされても、中から切り裂いて脱出できる。考えたね」

 

「う゛っ。そ、それは、そうですが……」

 

 術式を教えないといった事に対する仕返しか、触れられたくない所に触れられてアルテイシアは言い淀んだ。確かに、それを考えなかった訳ではないというか、あの状況でハイドポッドを切り刻む為に考えた魔術ではあるのだったが……。

 

「ヲホンッ。まあ、それといくつか問題もあります。優良誤認する訳にはいきませんから、はっきり言っておきますね、そのあたり」

 

「あ、問題あるんだ。そりゃあね」

 

 エルリックの悪気の無い一言に、ぴくっと眉がつり上がるアルテイシア。「彼には悪気が無いんですから……悪気は……」と自分に言い聞かせ、気を取り直して説明を続ける。

 

「まず、燃費ですね。高出力な分、触媒の劣化やスクロールの消耗も激しいです。制御もちょっと難しいですね。かといって、威力不足では近接戦用魔術の意味がありませんから、ここは難しい所です」

 

「やっぱそうか。圧縮していたとはいえすげー威力だったもんな」

 

「次に使い勝手です。言うなれば質量のない刃物なので、取扱注意、です。扱いを間違えると、仲間どころか自分を真っ二つにします。刃と違って、刃の立て方とか関係なく、触れたらスパリですから。スッパリ」

 

 そういって杖をぷん、と降って何気ない仕草で自分の首が飛ぶ、というのを示すアルテイシア。それを見て想像したのか、エルリックは青い顔で自分の首を抑えた。

 

「残念。それだと私にはちょっと使いこなせそうにないわ」

 

「正直、改良するまでお勧めできませんね。下手な上級魔術の詠唱より神経使います。まあ、そういう訳ですので、今日は私が前に出ます。私ならば背後から皆に魔術を撃たれても、魔力の流れを感知して回避できますからフレンドリーファイアの心配はありませんし」

 

「おお、言うね」

 

 冷やかすようなエルリックの言葉に、アルテイシアは眼鏡の位置を直しながら、自信に満ちた声で答えた。

 

「私。天才ですから!」

 

 

 

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