蒼と紅の炎   作:荒波を征く湯気

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第8話 奮うことのできる力

「シーナ!」

「トレーナーさん!!」

 

 

 次の瞬間、視界が大きく揺れて軽い衝撃が響く。

 

 地下バ道へ戻ってきたヴィルシーナが、勢いよく胸に飛び込んできたのだ。

 細身の体から伝わる心臓の鼓動や荒い息遣いが、まだレースの余韻を残している。

 微かに湿った背中と髪をその手に感じれば、そのすべてが、全力で戦ってきた証だと分かる。

 

 

「やりました、私……、やりましたぁ……」

「ああ、よくやった。おめでとう」

 

 

 周囲には多くの関係者やスタッフがいたが、そんな視線などまるで気にならないほど嬉しさを見せてくる。

 それほどまでに感情が溢れ、抑えきれないんだろう。

 

 この世界において3冠は、単なる称号じゃない。

 それは、積み重ねた勝利と、その先にある絶対的な力の証明。

 歴史の中でも数人しか得ることのない地位の一つだ。

 幾度となく相手を蹂躙し、その牙を持って全てをねじ伏せてきた者だけが名を刻んできたオルフェーヴルは、まさしくそんな存在だった。

 

 

 だが彼女は、その牙に噛み砕かれることなく、圧倒的な力を前に屈することなく。

 オルフェーヴルを打ち破り、頂へと登り詰めた。

 

 それは紛れもない事実――彼女が成し遂げた偉業だ。

 

 

「ん……♪」

 

 

 シーナはオレの胸に顔を埋める。

 彼女の柔らかな髪にそっと手を当て、優しく撫でてやる。

 高鳴る鼓動が肌越しに伝わってきて、その胸の奥にあるものが、勝利の歓喜だけではないことが見て取れる。

 

 ジェンティルと同等の強さを誇る王者に、G1という最高峰の舞台で勝利する。

 それがどれほどの意味を持つのか、考えれば考えるほど、その喜びはひとしおだろう。

 

 

「私、ついに領域(ゾーン)に行けたんです! あの世界に、届いたんです!」

「っ! そうか、やったな!!」

「はい、オグリさんに言われたことが直線に入った瞬間に気づいて、学園に入るときに、シュヴァルとヴィブロスに約束したことを思い出したんです。そしたら私、そこに行けて……!」

 

 

 彼女は興奮のまま、早口で自分の感覚や考えていたことを語る。

 詳しくは分からないが、オグリキャップの言っていたことの意味が彼女の中で形になったのだろう。

 

 あの最終直線で見せた爆発的な加速。

 まるでジェンティルドンナを彷彿とさせるような、次元の違う走りにシーナは辿り着いたのだ。

 自分が走る理由というものを、もう一度思い出して。

 

 

「……、シュヴァルとヴィブロス、姉妹3人の想いが通じ合ったんだな」

「はい!!」

 

 

 彼女の瞳が輝く。

 頬を紅潮させて、火照った体がわずかに震えている。

 今にも涙が溢れそうな目で、オレを見上げている。

 

 シーナは込み上げる嬉しさに堪らないのか、足をウズウズさせていた。

 そんな様子にオレも頬が緩み、自然と笑みが浮かぶ。

 

 シーナは諦めなかった。

 挑み続け、考え続け、戦い続けてきた。

 そして今、その努力が報われたのだ。

 

 

「おねえちゃぁああああ~~~~ん!!」

「ぐへぇ!?」

 

 

 そんな叫びと共に背中に衝撃が走って、また視界が揺れる。

 

 

「お姉ちゃん! 凄いよ凄いよ! 凄いよぉおお~~!」

 

 

 ヴィブロスはオレごとシーナに抱きつき、ぎゅうううううっっと、抱きしめてくる! 痛い!

 

 

「お姉ちゃん、日本一だよぉ!」

「……っ、ふふ、ありがとう。見に来てくれてたのね?」

「もちろんだよ! いっぱい応援してたんだから!」

「ええ、ちゃんとあなたたちの声、届いてたわ」

 

 

 感情が爆発しているヴィブロスに、シーナがオレの脇から顔を見せて応えている。

 二人のウマ娘の間に入る邪魔者みたいになっているので、抜け出すタイミングを見計らう。

 そこで、オレはもう一つの影に気づいた。

 

 

「あの、姉さん……。トレーナーさん……」

 

 

 声のした方を振り返ると、シュヴァルグランが立っていた。

 彼女は帽子を目深く被り、居心地が悪いようにおずおずと瞳を半分見せてくる。

 

 

「あ、あの、前に、酷い事言ってごめんなさい……おめでとう、ございます」

「シュヴァル……」

 

 

 シーナがそう呟くと、シュヴァルはまたも小さく縮こまって帽子で顔を隠した。

 オレは二人の間からスルっと抜け出し近寄ると、彼女がビクッと肩を震わせる。

 そんな優しくも恥ずかしがりのウマ娘に、オレは優しく呟く。

 

 

「気にしなくていい。それより、君の姉さんは本当に凄いウマ娘だ……」

「トレーナーさん……! はい、姉さんは凄いです!」

 

 

 シーナと同じように。

 彼女の目からも、嬉し涙が零れるのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「オル」

「姉上……」

 

 

 青き女王の陣営が喜びに打ち震えている最中、ゆったりとした足つきで戻ってきた王者に、ドリームジャーニーが声をかける。

 

 

「素晴らしい走りだったよ。でも、今回はシてやられたね」

「……姉上、余の振る舞いは、王たるものとしてふさわしいものだっただろうか」

 

 

 オルフェーヴルは瞳を閉じ、思案するように呟く。

 姉であるジャーニーは、妹の乱れた服を直しつつその迷いに答える。

 

  

「もちろんさ、レースにおいては現日本最強の王たる力を発揮していた。それを、覚醒した女王が真っ向から競り勝った。王として立ちはだかった最高の走りだったよ」

 

 

 オルフェーヴルの目がゆっくりと開かれる。

 

 

「で、あるか。では”これまで”の余は、どうだっただろうか」

 

 

 彼女の瞳はどこか遠くを見つめ、わずかに伏せがちだった。

 唇は強く結ばれてはいないが、かすかに力が抜けている。

 頬に落ちる影が、悩みを映し出しているようにも見えた。

 

 

「……、何か思うところがあるのなら、私も共に行くよ。オルが彼女に、そうしたように、私はいつでもオルの傍にいるのだから」

 

 

 姉であるジャーニーの言葉に、王者はわずかに目を見開く。

 

 

「姉上には、やはり敵わぬな」

「何を言っているんだい、私はオルについていくと決めているんだ。何をしようとも、何があろうとも、どんな時だって私は、オルの味方だっただろう?」

「……そうだな。そうであった」

 

 

 彼女は再び瞳を閉じて腕を組む。

 王たる堂々とした姿勢を取り戻し、力強く目を開く。

 その双眸たるや、瞳の奥に再び燃えるように、王の輝きを宿す。

 

 

「感謝する姉上」

 

 

 そう告げて、自らの勝負服を翻す。

 その後ろ姿を見送りつつ、ドリームジャーニーは彼女に横並んで歩きだすのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「それではトレーナーさん、ウイニングライブの準備に行ってきますね。ゆっくり休んでください」

「ああ、そうさせてもらうよ。行ってらっしゃい」

 

 

 喜びを分かち合ったのも束の間。

 ヴィルシーナがウイニングライブの衣装に着替えに行ったので、オレはレース場の最上階で缶コーヒーを飲んでいた。

 ここの自動販売機にしか売っていないエスプレッソが美味しいので、わざわざ買いにきてしまったのだ。

 

 

(ともあれ、第一関門は突破したけれど……やることは山積みだ)

 

 

 思考は重い。

 原因は分かっている。

 本当に自分は必要なのだろうか。

 そんな考えが頭をよぎっているからだ。

 

 

(だけど、シーナが覚醒したのは、オグリの言葉と姉妹との約束のおかげ。トレーニングだって、あのウマ娘たちを引っ張ってきてくれた先輩の手腕だ。オレはただ、4か月の間にトレーニング計画を立てただけで何かの役に立った気がしない)

 

 

 エスプレッソの缶からひんやりとした感触が指先に伝わる。

 飲み干すと濃い苦味が口に残り、その味わいが不安を一瞬だけ上書きしてくれる。

 しかし寄せては返す波のように、悩みはふつふつと湧いてくる。

 

 

(本当にオレは、シーナにとって必要な存在なんだろうか……)

 

 

 彼女の成長を支えたのは、オグリやレジェンドウマ娘たちの力であって、オレはただそれをサポートするだけだった。

 確かにシーナは、オレを逆スカウトするとき、オレの力が必要だと言ってくれた。

 ジェンティルドンナを倒すため、彼女が考え抜いた答えなんだと思う。

 

 でも、実際のところ、オレが彼女の役に立てている感覚はなかった。

 ジェンティルを育成してきたから、彼女との差を肌で感じることはできるが、結局、それを埋める手立てはシーナが突破口を自分で開くまで見つからなかった。

 

 彼女は必要としてくれているが、傍から見ればオレは本当に必要なんだろうか。

 己の存在が、ますます小さく感じる。

 ジェンティルや彼女の父も、それを見越して契約破棄に至ったのも当然の帰結だ。

 

 

(クラリス先輩なら、きっとシーナのそういったメンタル面も含めて考えて、きちんと答えを見つけ出したのかもしれない)

 

 

 3年間、共に戦ってきた中で不甲斐ない姿を見せてしまったり、トレーニングも満足いくものじゃなかったりしたのだろう。

 その度に、ジェンティルドンナに叱られて、教えられて、彼女の成長に食らいつくので精一杯だった。

 

 

(オレが担当したジェンティルは、彼女自身がずっと強かった。彼女自身が、ずっと成長していっただけだ)

 

 

 トレーニング計画もそうだ。

 彼女が120%満足できるように何度も修正し、それでもなお彼女が疑問を持った場合は論文などの根拠を示しつつ議論を積み重ねていった。

 ジェンティルがしぶしぶ納得してくれた時もあったが、オレの案を元にジェンティルが案を出してきて、それを採用したことは何度だってある。

 

 

 でもきっと優秀なトレーナーなら、彼女をも唸らせる計画を立てることができるんだろう。

 当然、オレなんか比べ物にならないほどちっぽけな存在だ。

 今頃は彼女も、世界的なトレーナーの下でメキメキと力をつけているに違いない。

 

 

 (シーナだって、ジェンティルの後追いでも2着に入る実力があって、多くのウマ娘たちの力で境地へ辿り着いた実力がある。オレは二人の、何の役に立っていたというんだ)

 

 

 思い返して、ハァとため息を吐く。

 考えても仕方がない。

 スケジュールを見ながら、凱旋門賞で領域(ゾーン)に入れるよう、シーナを強くしなければ……。

 

 でも本当にそんなことが、オレにできるだろうか。

 心の中に巣食うそんな不安が広がっていく。

 振り払うように缶をゴミ箱に投げ入れようとすれば、ふと背後から足音が聞こえた。

 反射的に振り返ると、軌道がブレた缶はそのままゴミ箱の縁に当たり、甲高い音を立てて床に落ちる。

 

 

「おや、久しぶりだね」

 

 

 そこに立っていたのは――シンボリルドルフ。

 正月早々に、領域について聞きに行って以来のだろうか。

 彼女はオレの投げた缶を拾い上げ、特に気にすることもなくゴミ箱に捨てる。

 

 

「ヴィルシーナ君の大阪杯の制覇は見事だったよ。おめでとう」

「あ、えっと……ありがとう」

「うん? 彼女が勝ったというのに、浮かない顔をしているね。はは、それもそうか。ここからが世界に挑むスタートラインだと思っているんだろうね。勝利に酔いしれることなく、今から先を見据えているのは素晴らしい」

「……はは」

 

 

 彼女の祝福と賛辞の言葉に対して、上手く返すことができない。

 ルドルフは、学園の生徒であるにも拘わらず、全てを見通すような洞察力を持っている。

 一言でも返せば、オレが悩んでいることを見抜かれてしまいそうで怖いくらいに。

 

 

「ふむ、そういうわけでもなさそうだね?」

 

 

 一瞬でバレた。

 

 

「さしづめ、ヴィルシーナ君がなぜ勝利できたのか分からなかったが、おそらく彼女の話を聞いて腑に落ちた。しかし自分の力が本当に役立っているのか悩んでいる、といったところかな? 間違っていたら申し訳ない」

「……いや、合ってます」

 

 

 なんで分かるんだろう。

 

 

「顔に書いてあったよ。というのは半分冗談だが、君の境遇を鑑みれば、オルフェーヴル君を倒した偉業を達成してなお不安な顔をしている理由は、凱旋門賞を見据えてか、もしくはトレーナーとしての自分の力を疑っている、そのどちらかだと思ってね」

「恥ずかしいな……でもその通りだ」

「はは、心の中を覗かれたような気がしているだろうね。すまない。この立場にいると、相手が何を望んでいるのか、何を考えているのかを常に観察するよう心掛けているから分かるんだ。ただの経験だよ」

 

 

 そう言いながら、ルドルフは近くのベンチに座り、オレにも座るよう促してくる。

 1メートル弱ほど間隔を空けて座ると、彼女は表情を少し緩めて静かに話し始める。

 

 

「私たちも見ていたが、あの加速は間違いなく領域(ゾーン)への到達だ。ウマ娘本人だけが知覚できる世界でもある。だからトレーナーの諸兄らには申し訳ないが、それをコントロールすることも発現させることも、ウマ娘自身にしかできない」

「トレーナーの力が及ばない場所、なんだよな……」

「そうだね。君が正月に話していた佐岳メイさんの話のとおり、ウマ娘の身も心も整って1つにまとまった結果でもある」

 

 

 レース場から歓声が響く。

 第12レースが始まり、1番人気のウマ娘が大きく出遅れたことで、観客にどよめきが広がっている。

 そのざわめきが妙に遠く感じられ、オレの心をますます重くする。

 

 

「それならなおのこと、オレの力なんていらなかったんじゃないかなって思うんだ……。前にオグリキャップに助言してもらったのもあって、レース中にシーナが妹たちとの約束を思い出したらしくてね。そこから、領域に行けたって言ってた」

「ふむ、なるほど。それが彼女のトリガーだったのか。実はさきほど、私もオグリキャップと会っていてね。助言をしたという話は聞いていたよ」

「え、オグリが来てたのか!?」

「ああ、ヴィルシーナ君の勝利を見届けたあと、またグルメ巡りに行ってしまったが……。ふふ、おみやげのたこ焼き煎餅が美味しかったらしい」

 

 

 その辺りは相変わらずだが、まさかわざわざ見に来てくれていたとは。

 学園に帰ったらちゃんとお礼を言わないと……。

 

 

「ああ、話の腰を折ってすまない。続けてくれるかな」

 

 

 ルドルフにそう促され、オレは彼女が話を聞いてくれる安心感を得ながら言葉を紡いでいく。

 

 

「シーナの前の担当であるクラリス先輩は、たくさんのウマ娘を担当していてさ。それでもちゃんと結果を出しているんだ。だからもし時間も余裕もあれば、シーナをもっと早く導いてやっていたんじゃないかって」

 

 

 クラリス先輩が、凱旋門賞に挑む時間も余裕もないから、オレが代打として引き継いだようなものだ。

 もし彼女にその余裕があれば、きっとオレなんかよりシーナを覚醒させるのも早かっただろう。

 ルドルフは少し驚いたように眉を上げたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。

 

 

「ふむ、たらればを言えばキリがないとは思うし、全ては結果が示すものだと私は思うが……、私もトレーナーではないからね。偉そうなことは言えないな」

「ルドルフにこんなことを言ってごめん。トレーナーならもっとしっかりしないといけないのに」

「いいや、構わないさ。私も多くのウマ娘を見る傍ら、多くのトレーナーを見てきた。だから、君があの日に受けたショックは計り知れないだろうと思っている。結果を出しているにも拘わらず、その功績を認められなかったようなものだからね」

 

 

 皇帝と呼ばれ、3冠バでもあるルドルフだが、学園の生徒でもある彼女に励まされているトレーナーなんてオレくらいのものだろう。

 しかしトレセン学園におけるウマ娘の代表であるような彼女だからこそ、その言葉に少し心が救われる。

 

 

「少なくとも、領域に入れるウマ娘は決して多くはない。G1勝利をしている中でもさらに上澄みの一握りだ。きっかけは様々だが、ヴィルシーナ君は確かにその扉を開けた。しかし、その扉の前に押し上げたのは、紛れもなく君の力なのではないだろうか」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、クラリス先輩が、たくさんのウマ娘を連れてきてくれたのもあるんだ」

「もちろん君一人の力ではないだろう。しかしそれも含めて、"君が奮うことのできる力"なのではないかなと思うよ。それこそジェンティルドンナ君なら、何と言うだろうね。足りない部分を補うために奔走し、きちんと調整した。だからこそ、ヴィルシーナ君はその扉を開けることができた。領域に入ったことのある私から言わせれば、その約束もきっかけの一つに過ぎないとは思うがね」

 

 

 第12レースの決着は、11番人気のウマ娘が1着を取っていた。

 彼女の勝利に沸き立つレース場。

 巨大スクリーンには、ウマ娘がゴールを駆け抜けた直後の姿が映し出されており、その表情には嬉しさと驚きが入り混じっていた。

 

 そこへ一人の女性が駆け寄ってくる。

 おそらく、担当トレーナーだろう。

 彼女は勢いのままそのウマ娘を抱きしめると、一緒にぴょんぴょんと跳ねて喜びを全身で表現していた。

 

 

「担当トレーナーというのは、私たちウマ娘にとって、レースという孤独な戦いの中で唯一、一緒に戦ってくれる味方だ。もちろん、トレーニングにおいては確かに協力してくれる仲間はいるだろう。しかしながら、レース本番においては誰の力も借りることはできない。むしろ今まで積み重ねてきた自分の力を、ライバルたちに見せつけて競い合う場所だ。つまり、みんな己を信じて戦うしかない」

 

 

 スクリーン越しに見える二人の姿に、観客たちも自然と拍手を送っている。

 ルドルフはふっと目を細め、続ける。

 

 

「そんな中で、たった一人でも自分と共に戦ってくれる味方が近くにいたらどうだろう。ファンや仲間の声援というのは時に力になるが、しかしそれ以上に、トレーナーという存在はウマ娘にとって最大の支えであり、大きな力となっている。きっとヴィルシーナ君は、多くの力の中でも君と言う存在が大きくなっていたからこそ、きっかけを経て、あの世界に到達した。結果だけを見れば、そう解釈することも可能ではないだろうか」

「シーナにとっての、オレの存在……」

「うむ、スクリーンに映っているあの二人も、これまで多くの努力を重ねてきてようやく勝利を掴んだ者たちだ。まさにあの喜び様は一心同体。彼女たちの間にしかない関係性が見て取れる」

 

 

 一心同体。

 その言葉が頭の中で反響する。

 

 

「そっか……ウマ娘にとってトレーナーは、そういう存在なんだ」

 

 

 機械のように、ただトレーニング計画を立てるだけじゃない。

 ファンのように、ただ応援するだけでもない。

 一緒に戦ってくれて、一緒に笑ってくれて、一緒に泣いてくれて、一緒に喜んでくれる。

 それが、ウマ娘から見えているトレーナーの姿……。

 

 思えば、さっきのオレもシーナの勝利自体は嬉しかったものの、なぜ勝てたのか、自分の力が本当に必要だったかどうかばかり考えていた。

 シーナも少し不安げになった一瞬があった。

 だから、疲れているのだろうと思って"ゆっくり休んでください"と言ってくれたのかもしれない。

 

 

「トレーニングをサポートするだけじゃない。トレーナーの役割は、もっと他にたくさんあるんだ……」

 

 

 そう呟くと、ルドルフはオレの顔を見て、ふわりと微笑む。

 なんだか胸が少しだけ軽くなったような気がして、オレも彼女の瞳を見つめた。

 

 

「ありがとう、シンボリルドルフ。自分のやるべきことが見えてきたよ」

「ふふ、いい顔になったね。君が優しい人で良かったよ」

 

 

 どういう意味だろうと首をかしげるが、ルドルフはそれ以上何も言わない。

 レース場に反響する歓声を聞きながら、オレは喉奥に残ったエスプレッソの苦みをゴクリと飲み込むと、スッキリした味わいが口の中に広がったのだった。

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