あんまり期待しないでください。
「………はい、わかりましたわ。では私、これから学校なので失礼します。ありがとうございますました。」
私、セシリア・オルコットは中学校二年生にしてオルコット家の当主ですわ。……………母は二年前不慮の事故で亡くなった。父は私が八才の時、母と私の前から行方をくらませた。……正直男尊女卑の時代だったころから実家発展に尽力した母親のことは尊敬していましたが、婿養子という立場の弱さから母親に対し卑屈になる父親は………
………なぜ母はあのような男性を選んだのだろう?ふとそのことを疑問に思い、母に訪ねた際には全く答えてくれなかった。
時の流れという物は思想の変化をもたらし、今思うと母に怒られた自分を優しく慰めてくれたのは父だった、オルコット家次期当主として泣かないようにしていた自分に対して父が言った『何があっても泣かないなんてヤツは俺は信用しない、泣きたい時には泣いてもいいんだ。』と言う言葉は今でも覚えている、きっと母も父の『優しさ』に惹かれたのだろう。今ならわかる気がする。
…………あら、スクールバスが来ましたわね。行きましょう。……おっと、この指輪も忘れずに………
私はオルコット家の当主の証である家紋の黒獅子があしらわれた指輪を指にはめ、家を出た。
スクールバス
「おはよう、セシリア。」
「ええ、おはようございます。」
クラスメートの友人の隣に座り、バスは発車した。
「今日はどのような授業ですかね?」
昨日遅くまで事務作業をしていた為、今日のカリキュラムを理解していなかった。
オルコット家の遺産を奪おうとする輩は非常に多い、母と父が残してくれた財産を奪われてたまるものか。この一心で必死に勉強し、今では名実ともにオルコット家の当主だ。
「うーん、今日は確か美術館見学と疑似的なIS操作の練習かな?」
──────IS、正式名称『インフィニット・ストラトス』と呼ばれるそれは宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。開発当初は注目されなかったが、日本を舞台とした『白騎士事件』によって従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡ることとなり、宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用が始まり、各国の抑止力の要がISに移っていった。
ISはその攻撃力、防御力、機動力は非常に高い究極の機動兵器で特に防御機能は突出して優れており、シールドエネルギーによるバリアーや「絶対防御」などによってあらゆる攻撃に対処できる。その為、操縦者が生命の危機にさらされることはほとんどない他、搭乗者の生体維持機能もあるとんでもない兵器だ。
最大の欠陥として原因は不明であるがISは女性にしか動かせず、それが原因でこの世界は女尊男卑の世の中になってしまった。オルコット家の遺産を奪おうとする輩にもこの女尊男卑の風潮に頭がやられてしまったバカな女が非常に多い。
ISに関する教育は女子の場合は適正検査を受けた時期にもよるが、早ければ小学生のうちから学習を始める。私は遺産を守る一つの手段としてISも学んでいる、適性が高かったのか来年選ばれるイギリスの代表候補の候補になれる可能性が高い。これで更に遺産を───母と父の努力を踏みにじられずに済む。
「ありがとうございますわ。では私は……………」
「あらあら、寝ちゃった……セシリアも頑張ってるんだね、お疲れ様…………。」
数時間後…………。
「セシリア、着いたわよ。」
はっ……ついつい眠ってしまった。どうやらこの目の前にある博物館が今日の研修の場所らしい、『イギリス国立美術館』、………様々な国からたくさんの目を惹かれる美術品が存在するが今回は『戦争・兵器の歴史』館の『IS』ブースをメインに見ることになる。正直ISの歴史などどうでもいい、抜け出して『美術』ブースに行こう。
私達はバスから降り、美術館に向かった。
美術館 ISブース
「これは……」
───私達は『白騎士事件』の映像を見て、あるものに気が付いた。…………この白騎士の動き方のクセ……体型……全てを総合して考えるとこの白騎士はISの世界大会『モンド・グロッソ』で優勝を果たしている織斑千冬氏であるという考え方がしっくりくる。……………でも一体何のために?どこの誰がミサイルを?
─────まあそんなことはどうでもいい。映像も終わったことだしさっさと抜け出して美術館に向かおう。
私は美術館に向かった。
美術館
「ふむふむ………これがGreat Bed of Ware………ウェアの大ベッド………素晴らしいですわ……おや?」
私は美術館の数々の芸術品に目を奪われていた。特に素晴らしかったものはイギリスの国称『獅子と一角獣』のタペストリーの本物であった。あの脈動感溢れる素晴らしい絵は私の中では越える物がないレベルでの完成度である。
……そんなことを考えていると横には『立ち入り禁止』と書かれた標識と、その奥に続く道があった。
…………本当はいけないことなのだが、この奥には恐らく素晴らしい作品が存在するのだろう。ここに来た記念として是非見て帰りたい。
私は考えるより先に、その柵を渡っていた。
しばらく歩くと広い場所に出た。ただ真っ暗であり何も見えない。
「暗いですわね……。!!!」
突如照明が明るくなり、その部屋の美術品が見えるようになった。
壁一面に張り出された六つのタペストリー、………確かフランスの『貴婦人と一角獣』だったはずだ。
六つのタペストリーはそれぞれ若い貴婦人がユニコーンとともにいる場面が描かれ、ほかに獅子や猿もともに描かれているものもある。背景は複雑な花や植物が一面にあしらわれた模様が描かれ、赤い地に草花やウサギ・鳥などの小動物が一面に広がって小宇宙を形作っている。
………本来はそのはずだがこのタペストリーでは一角獣の部分が見事に抜け落ちている、これが一体何を意味するのか………、っ!
「な…何ですの!?私!ここを知っていますわ!この絵を見たことがある!」
頭の中に映像が駆け巡る。誰かとこのタペストリーを見ている記憶だ。
何故か大昔、この絵を見た記憶がある、誰かと………
「お気に召したかな?」
しまった。絵に夢中になりすぎて人が来ることを全く考えてなかった。
向こうの階段から初老の紳士が降りてきて、こちらに歩いてきた。………このおじさま、心なしか懐かしい感じがしますわね、まあ気のせいでしょう。
「申し訳ありませんわ。どうしてもあの立ち入り禁止の奥に何があるのか気になって………」
「いえ、世の中の女性がISISと騒ぐ中純粋に美術品に興味を持っていただいたことは非常に嬉しいことです。あなたのお名前は?」
おじさまは勝手に入った私を咎めずむしろ優しく接してくれた。この美術館の館長さんであろうか?
「セシリア・オルコットですわ。」
「!!!!!」
おじさまは酷く驚いた顔をしていた。一体何故だろう?
「どうしましたの?それよりそちらのお名前は?」
「あ…ああ、私はアラン・エイムズだ、ここの館長をやっている。それよりもそろそろ戻らないといけないのではないか?」
「あっ!」
私は慌てて時計を確認すると集合まで残り5分であった。ここからなら徒歩で10分はかかる。間違いなく間に合わない。
「どうやら時間がないようですね。車を出してあげましょうか?」
「え!?いいんですか!?」
「ええ、早速行きましょう。」
私はおじさまに連れられて、車に乗り、ISブースへと向かった。
ISブース
「どこ行ってたんだオルコット!」
やはり戻ると教師が怒っていた、この教師はIS至上主義の女性であまりいいイメージを持てない。そんな時おじさまが前に出てきた。
「どうもそちらの生徒を勝手にお連れして申し訳ございませんでした。私は当美術館の館長をしております、アラン・エイムズです。よろしくお願いします。」
「あなたが………!男の癖に………!」
やはりIS至上主義の女は頭がおかしい、自分がISに乗るわけでもないのに威張り散らしている。……おじさまはこれに対してどう返すのでしょう?
「お言葉ですが現にあなたはISに乗るんですか?専用機はどこですか?だいたいこの時代に女だからと言う理由で威張り散らし、ISの素晴らしい映像を見せる、ふざけないで下さい、いくらISが素晴らしいものだからといって美術館に展示する程のものですか?クソ食らえですね、ここには元々100年単位の芸術品がたくさんあったんです。それをこんな生まれて五年程度の機械にブースを取られて………正直芸術品が可哀想です。国からの勅令がなければとっくに取り壊してますよ、こんなクソブース。」
おじさまは見事な言葉を教員に返した。100%正論でまくし立てられた教員は言葉を返せず、一部の女尊男卑主義の女子生徒も明らかにイライラしていた。そもそもISなどという芸術性の欠片もないものにこの美術館の一部を貸し出すことが間違っているのだ。
「っ!男のくせに!覚えてなさい!ほら!さっさと行くわよ!」
教員はイライラしながらバスに走っていった。それに続くように彼女を尊敬している生徒も追いかけ、バスに走っていった。
「さてと、私達も行こうか、セシリア。それより館長さん!さっきの反論凄く心に染みました!ありがとうございます!」
友人がおじさまにお礼を言っていた、彼女は男の人と付き合っていたが女尊男卑主義の母親のせいで別れさせられた過去を持ち、それ以降は離婚した父親と共に生活している。彼女曰く『ISはかっこよくて素敵だがISに乗れない癖に威張る母親のような女は大嫌い』とのことらしい。彼女からすればおじさまは現代の女に自分の言いたいことを全て代弁してくれたかっこいい男性なのだ。
「ええ、またプライベートで来て下さい、私自らが案内しましょう。」
「ありがとうございますわ。では、ごきげんよう。」「さようならー。」
私と友人はおじさまと別れ、バスに向かった。
「……………成長したな、セシリア………」
館長はセシリアが去った後、涙を流していた。
数分後、アリーナにて私達はIS『ラファール・リヴァイブ』を纏い、疑似訓練を行っていた。殆どの方が初めてであったが私は代表候補となるためISには乗ったことが複数回あるため操作には全く困っていない。………それにしてもやっぱりISを纏い大空を自由に駆け回るのは楽しい、これこそ人類の夢だろう。これで宇宙を駆け巡ることができたら完璧なのに………
「セシリアー、歩き方のコツ教えて~。」
「はいはい、まずは一歩ずつ、自分の手足が伸びたような感覚で………」
横では友人が困っていた、初めは歩くことすら困難で、それだけで一週間はかかる。飛行するのはなおのことだ、そのような難しいものを授業の一環として、それも二時間だけなんて正直狂っている。私がそのようなことを思いながら指導していると休憩時間に入った。
「あちゃー、セシリアが良かったらもう少し見てくれない?」
「ええ、構いませんわよ。」
チラリと休憩場所の方角を見ると、見事に男女平等派と女尊男卑派の人間で分かれていた。勿論私と友人は男女平等派の方々と仲良くしている。女尊男卑派の女達からは陰口を言われているが所詮は負け犬の遠吠え……無視している。
「そーいえばセシリア知ってる?黒いラファールの噂。」
「………ええ、少しだけですが。」
黒いラファール─────確かイギリスのアリーナが閉まった深夜に稼働しているらしいISらしい……ただ噂の範疇を出ていない。
私と友人が談笑している、この時に事件は起こった。
ドカァァァァン!!!
「な、何!?何ですの!?」
突如大きな地響きがなり、アリーナの上から崩落した天井が落ちてきた。
「あっ………」
上から落下してきた天井は丁度休憩場所の真上に落下し、大勢のクラスメートの命を簡単に奪い、生き残ったのは私と友人と、教師のみであった。
「み、皆さん……………」
私はその言葉しか言えなかった。それ以外の言葉は思い浮かばなかった。私の目でこの光景を見ていても頭が理解することはできなかったのだ。………一体何故このようなことになったのですか?何故?私達が何か悪いことをしましたか?ねぇ?神様?
「……………エイダ…ベッキー…シェリル…クララ………みんな…」
「……………」
「どこ行ったのよオオオオオ!」
「落ち着いてください!」
「嫌ァァァァァァ!!」
私はやっと頭で理解した、死んだのだ、こうもあっさり。
「ふふ……ふふふふふふ………」
笑い声の方を見ると教師が笑っていた。気でも狂ったのだろうか?
「何故笑ってますの?」
「あはは、すまない、余りにもうまくいったものでな。」
───────え?うまくいった?余りにも?…………まさか……
「あなたがこの事故を起こしましたの!?」
「ええ、そうよ。厳密にはIS委員会イギリス支部がね。」
「何で………」
「さっきあなたとそこの女が言っていた『黒いラファール』の回収の為よ、この美術館かアリーナのどこかにそれがあるの」
「なんでそんなものの為にこれだけの人が死なないといけないのですか!?皆明日の予定だってあったのですよ!来週の予定だってありました!あんなの……人の死に方じゃありませんわ! 」
「まだガキなあなたにはわからないでしょうね、そのISには世界を変える力があるわ。この女尊男卑の風潮をより盤石にするために必要なの。」
─────狂っている、こいつは狂っている。
「………今頃他の者達があの美術館の内部を捜索しているでしょうね。」
「なっ!?」
私の頭の中におじさまの顔が浮かんだ、本当は今すぐ救援に向かいたい。
だが友人を置いていけば間違いなくこの女に殺されるだろう。………ならばとる作戦は一つだ。
「逃げて!!この女は私が食い止めますわ!」
「え?………うん!」
よかった、我に帰っていたようだ。私も友人の死体を見て今でも胃の中のものを吐き出しそうであるが今私が折れたら私だけではなく友人も殺されてしまう。
「あらあら、たかが14のガキが私に楯突くの?」
─────慢心した!今だ!
私は決心しラファールのサブマシンガンをばらまきながら女に接近した。女は抵抗したが所詮はそしてシールドを抜かし、女の顔に傷を付けた。
「はぁ…はぁ…どうですか?クソガキに顔を汚された気分は!?」
────私はとりあえず女を煽った。この手の女はヒステリックなので間違いなく私にヘイトが向く、その隙に友人に逃げてもらおう。
「このクソガキがぁぁぁぁぁ!よくも私の顔に傷を付けやがって!殺す!絶対に殺してやる!」
ほら、怒った、後はこいつを美術館までおびき寄せ、おじさまを救援しつつ、戦線を離脱しよう。
「ほらほら!こっちですわよ!」
「逃げんじゃねぇぇぇ!」
よかった、完全にヘイトがこちらに向いている。
私は美術館に向かってISで飛び立った。
美術館
「はぁ…はぁ…」
私はなんとかあの女を撒くことができた。だがこの美術館には敵ISがあの女含め八機、もたもたしているとおじさまごとあの世行きだ。とりあえずあのタペストリーの下に向かおう。ここに来る道中にあの女からダメージを受け、シールドエネルギーも残りわずかだ。慎重に行かないと。
立ち入り禁止の場所。
「おじさま!どこにいるのですか!?」
「こっちだ……」
最後の『私のたった一つの願い』のタペストリーが裏返り、その中から手招きされた。私はそのタペストリーの裏の隠し通路を通り、おじさまの下へ向かった。
「ここは……!、おじさま!大丈夫なのですか!?」
隠し通路を抜けるとそこには部屋があった、とてもシンプルな部屋で、机が一つとベッドが一つ、そしてIS───────黒いラファールが存在した。明るくなって気づいたことはおじさまの腹部が赤く染まっていることだった。
「セシリア……私はもう長くない……だからお前にこの美術館の権利とこの『バンシィ』を受け取ってほしい………さぁ……こちらに手を……」
私はおじさまに手を取られ、その黒いラファールに触れた、するとそれは私の手を認証し、私を駆り手として認めた。
「これでもう、こいつはお前の言うことしか聞かん……。詳しい事はオルコット家の父親の部屋……机の下の隠し階段の下に…………。
………すまない、セシリア。お前には何も知らずに生きていてほしかった………だが運命は悲惨なものでお前をオルコット家の呪縛に巻き込んでしまった………」
────まさか……おじさまの本当の名前は………、これがただしければあの時感じた懐かしさも全て納得が行く。
「恨むだろうな……お前の母さんも……。そしてお前も……だが行け。恐れるな。自分の中の可能性を信じて、力を尽くせば……道は自ずと拓ける」
「そんな……いまさら勝手ですわ……。」
「赦してほしい……お前とはもっと……もっと…………」
パァン!パァン!
────え?
私が気付いた時にはおじさまの身体に銃弾が打ち込まれていた。
「早く纏え………私が時間を稼ぐ……」
おじさまは腹にダイナマイトを抱えISに突撃した。
「お父様!!」
──────そしてダイナマイトは爆発し、辺りを爆煙か渦巻いた。
「お母様……お父様……私は戦いますわ……!オルコット家当主として、女尊男卑の風潮を終わらせますわ!」
セシリアの瞳がサファイアのような青色から、血のような赤色に変わった。
そして爆煙が晴れる頃にはISの初期設定が完了していた。目の前には教師を偽っていた女がいた。
「アハハハッ!あっけない死に方するねぇ!男はやっぱりクズなのよ!」
その女はお父様の死体を足蹴にした。それを見私たの中でプツンと何かが切れた。
NT-D
頭の中にその言葉が現れ、同時に大量の負のイメージが湧き出した。
…………ロ………セ……………
………メノマエノオンナ……ココニイルスベテノアイエスパイロットヲ………
コ………ロ……………セ……………!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
セシリアの乗っていたバンシィは全身の装甲が展開され体格も一回り拡張、ブレードアンテナがV字型に割れ、露出している内部装甲からは眩い金色の光が発せられた。
「黒……獅子……」
次回はセシリア無双回です。………いつ投稿するかわかりませんが……
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