記憶と護れる強さを求めて   作:時代に遅れている

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どうも銀魂の小説ばかり書いている作者です。
今回は昨日投稿された今汐の新衣装PVが可愛いすぎたので書きました。
漢字じゃない部分は変換がうまく出来てなかったりするのでそこはご了承ください。


第一話 出会いと記憶は反響する

 

俺の名は陰楓(いんふう)。それ以外の記憶は、全くといっていいほど失われている。

 

気がつくと俺は、どこか知らない場所で横になっていた。周囲には、黒髪の女性と赤髪の女性がいたようだ。彼女たちが俺を助けてくれたのだろう。礼を言おうとしたが、ふと隣を見るともう一人、俺と同じように横たわっていた男がいる。どうやらそいつも目を覚ましたらしい。

 

黒髪の女性:「……一人は目を覚ましたようですね。」

 

赤髪の女性がこちらに顔をのぞかせ、目を輝かせながら声を上げる。

赤髪の女性:「ホントだ!よかったー。もう少しで私の得意技、初級純尉必須応急処置スキル心肺蘇生法を使うところだったよ!」

 

……なんだその長ったらしいスキル名は。いくら大事な応急処置とはいえ、大袈裟すぎるだろう。

 

そんなやりとりをしているうちに、隣の男も目を覚ましたようだ。

黒髪の女性:「あっ、二人とも無事でよかったです。」

 

目を覚ました俺たちに、彼女たちは丁寧に話しかけてくる。だが俺も隣の男も状況が掴めていない。

 

俺はまず礼を言うことにした。

俺:「いや、ありがとう。助けてもらったみたいで。」

赤髪の女性:「いえいえ!それより、体の調子はどう?」

俺:「大丈夫だ。」

 

隣の男も落ち着いた様子で口を開く。

隣の男:「俺も問題ない。それより、あなたたちは?」

 

黒髪の女性が自己紹介を始める。

黒髪の女性:「私は秧秧(やんやん)。こちらは熾霞(しか)です。」

俺:「熾霞に秧秧、か……なるほど。」

 

――なるほど、なんて言ったものの、どちらも字面を見ただけじゃ絶対読めない名前だ。改めて自分の隣の男に目を向ける。彼はまだ何も語っていない。

 

俺も名乗るべきか。

俺:「俺は陰楓って言うんだけど……どうやら俺も記憶を失ってるみたいなんだ。」

 

秧秧が不安そうに眉をひそめる。

秧秧:「あなたも記憶がないんですね。それでここがどこなのかも、どうしてここにいるのかもわからない……と。」

 

隣の男もうなずく。

隣の男:「ああ。俺も何者かすら思い出せない。」

 

熾霞が驚いたように声を上げる。

熾霞:「そんな後遺症なんて、白芷(びゃくし)からも聞いたことないよ!」

 

白芷?誰だ、それ。彼女たちは何か事情を知っているようだが、俺も隣の男もついていけていない。

 

すると秧秧が急に顔を引き締め、真剣な表情でこう告げた。

秧秧:「不穏な風が流れています。この近くに“無音区”が現れます。急いでここを離れましょう!」

 

“無音区”?初耳だ。秧秧の言葉に圧されながらも俺は問いかける。

俺:「おい、ちょっと待て!“無音区”ってなんだよ。説明が雑すぎるぞ!」

 

隣の男も同調するように言葉を重ねる。

隣の男:「そうだ。無音区とは何なんだ?」

 

熾霞が驚きの声を上げる。

熾霞:「ええっ!?無音区のことも知らないの!?本当に記憶がないんだね……」

 

――悪気はないのだろうが、なんだか腹が立つ物言いだ。俺がムッとした表情を浮かべると、秧秧が熾霞をたしなめた。

秧秧:「熾霞!記憶を失っている人に失礼ですよ。」

 

そう言いながら、彼女は歩き出し、俺たちに説明を始めた。

 

秧秧:「この世界は“周波数”によってあらゆるものが形成されています。でも、その周波数が欠陥を起こすことがあるんです。その時発生するのが“残像”――化け物であり、私たち人類の敵です。」

 

俺はその話に耳を傾けながら考え込む。周波数?残像?初めて聞く話ばかりだ。秧秧はさらに続ける。

秧秧:「残像には強さがあります。“水風級”“巨浪級”“怒涛級”“津波級”と続きます。そして“無音区”とは、その強力な残像が集まる危険地帯のことなんです!」

 

なるほど、少しずつだが状況が見えてきた気がする。

 

熾霞が元気よく言った。

熾霞:「他に聞きたいことがあったら何でも聞いて!あたしと秧秧がバッチリ教えてあげるからさ!」

 

その言葉に俺は頷きながら、隣の漂白者に目を向ける。

俺:「ああ助かるよ。それより……お前も記憶がないんだってな。」

 

漂白者が小さく頷く。

漂白者:「ああ、そうだ。」

 

俺は少し考えてから、冗談交じりに提案した。

俺:「でもさ、いくら自分の名前も覚えてないって言っても、お前を呼ぶ時に困るんだよな。だからさ……なんか呼び名を考えようぜ。」

 

漂白者は怪訝そうな顔をした。

漂白者:「は?」

 

そんな彼の反応を無視して、熾霞がすぐに声を上げる。

熾霞:「いいね!それ!」

 

秧秧も少し考え込むような表情を浮かべ、口を開いた。

秧秧:「……漂白者。」

 

俺・熾霞・漂白者:「え?」

 

秧秧は、冷静な口調で続けた。

秧秧:「今州では、名のない旅人のことを“漂白者”と言うのです。ですから、記憶が戻るまでの間そう呼ぶのはどうでしょうか?」

 

その言葉を聞いて、俺は思わず心の中で叫んでしまった。

――漂白者……何それ!めっちゃカッコいいじゃん!!俺も名前を覚えてなけりゃ良かった……!(天の声:「コラッ!」)

 

漂白者は一瞬考えた後、静かに頷いた。

漂白者:「俺はそれで構わない。」

 

熾霞が満足そうに手を叩く。

熾霞:「よし!決まり!」

 

そのまま彼女はさらに続けた。

熾霞:「あとさ、あんたたち二人とも覚えてないから知らないだろうけど、共鳴者なんだね!」

 

俺と漂白者は顔を見合わせた。

俺:「共鳴者……?」

また知らない単語が出てきたな。

 

熾霞は笑顔で説明を始める。

熾霞:「簡単に言えば、特殊な力を持った人のことだよ。残像と立ち向かうことができる人たちのことを“共鳴者”って呼ぶんだ。」

 

秧秧がその説明に付け加えるように言った。

秧秧:「漂白者さんの手の甲に、時晴さんの右肩に音痕(おんこん)がありますよね?それに、お二人とも瓢箪を持っています。見た目は少し違いますが、どちらも共鳴者の特徴なんです。」

 

俺は自分の右肩に手を当てながら瓢箪を見た。

――へぇ、あの痣と瓢箪がそんなすごいもんだったのか。

 

熾霞はさらに話を続ける。

熾霞:「しかもね、共鳴者の中には“無音区”が形成されることをなんとなく感知できる人がいるんだよ。秧秧なんか、風から情報を読み取る力を持ってるから、それで無音区を感じ取ったりするんだ。」

 

そう言って熾霞は秧秧に視線を向ける。彼女は控えめに頷いた。

秧秧:「はい、風の流れや匂いなどから“無音区”の兆しを察知できるんです。」

 

――なるほど、そういう能力もあるのか。感心しながら聞いていると、熾霞が肩をすくめながら苦笑した。

熾霞:「ま、あたしには何もわからないんだけどね。へへ。」

 

――いや、お前はわからないんかい!

 

熾霞は話を続ける。

熾霞:「でも、共鳴者じゃない人はよっぽどのことがない限り、外をうろついたりしないからね~。ここらへんで見かけた人はほとんど共鳴者だよ。」

 

俺たちがその話に聞き入っていると、熾霞が急にピタリと動きを止め、辺りを見回した。

熾霞:「でもね、今は静かで平和だけど……急に危ない残像が出てくるかもしれないから気を付けて!」

 

その言葉に緊張が走る。俺も漂白者も辺りを警戒し始めたが――。

 

熾霞:「って、言ったそばから――!?」

 

遠くから響く異様な気配。鼓動が一瞬高鳴る。

俺:「おい、何か来るのか!?」

 

秧秧が小さく息を呑む。

秧秧:「……残像です。」

 

――どうやら、平和な時間はここで終わりらしい。

 

 

周囲が一瞬、張り詰めたような静けさに包まれた。熾霞が険しい表情で辺りを見渡し、秧秧が風を読むように目を閉じる。

 

熾霞:「来るよ。」

 

その言葉の直後、影がうごめくように視界の端で何かが揺れた。霧のような形を持たない化け物――それが“残像”なのだろう。今まで感じたことのない、胸を締めつけるような威圧感があった。

 

熾霞が一歩前に出ると、秧秧もすぐさま並び立った。

秧秧:「陰楓さん、漂白者さん、ここで待っていてください!私たちがなんとかします!」

 

熾霞が声を張り上げる。

熾霞:「そうそう!あんたたちは怪我でもしたら大変なんだから――!」

 

だが、俺はそこで止まるつもりはなかった。腰に手を伸ばし、見慣れない剣――瓢箪を掴む。手に取ると、不思議と馴染む感覚があった。漂白者も同じように彼の瓢筆を手に取っていた。

 

俺:「いや、黙って見てるつもりはない。俺も戦う。」

 

漂白者:「俺もだ。」

 

熾霞が驚いたように振り返る。

熾霞:「はあ!?ちょっと待ちなって、あんたたち剣なんて使えるの?」

 

答える間もなく、残像が唸り声を上げて襲いかかってきた。俺は剣を構え、自然と身体が動き出すのを感じた。

 

俺:「……使えるかどうか、試してみるだけだ。」

 

そう言いながら、俺は剣を振るった。

 

剣が踊る。

最初の一撃――残像の触手のような攻撃を横薙ぎに捌いた。火花が散るような音が響く。漂白者も背中合わせに動き出し、彼の剣が同じように残像を切り裂く。

 

漂白者:「……悪くないな。」

 

俺も剣の感触を確かめながら声を返す。

俺:「お前もな。」

 

残像が次々と形を変えながら襲い来る。俺は剣を構え、動きに合わせて身体を旋回させた。直感だけを頼りに剣を振るう――だが、それで十分だった。

 

俺:「――そこだ!」

 

鋭い斬撃を放つと、残像の一体が霧散する。漂白者も間髪入れずに突きを繰り出し、正確にもう一体を仕留めた。

 

熾霞が呆然とした顔で叫ぶ。

熾霞:「え、ええ!?なんでそんなに動けるのよ!」

 

秧秧も驚きの表情を浮かべながら、それでも冷静に状況を見極めているようだった。

秧秧:「二人とも……やはりただの記憶喪失者ではありませんね。」

 

俺たちはそんな声を気に留める余裕もなく、次々と襲い来る残像に集中した。

 

漂白者:「……まだ終わりじゃない。」

 

俺:「分かってるさ。」

 

互いに背中を預け、息を合わせて剣を振るう。俺の剣は弧を描き、漂白者の剣は直線的に敵を貫く。その動きはまるで呼吸のように自然だった。

 

最後の一体を切り伏せた時、静寂が戻った。残像は完全に霧散し、あたりには何も残っていなかった。俺たちは肩で息をしながら剣を納める。

 

熾霞が駆け寄ってくる。

熾霞:「あんたたち……ほんとに記憶ないの?この動き、普通じゃないよ!」

 

俺は瓢筆を見下ろしながら息を整えた。

俺:「さあな……けど、こうして剣を握ると、自然と動けるんだ。多分……昔やってたんだろうな。」

 

漂白者も無言で剣を見つめている。その眼差しは、自分自身に問いかけているように見えた。

 

秧秧が少し緊張を緩めた顔で言う。

秧秧:「二人とも、本当に助かりました。でも……まだ安全とは言えません。早くこの場を離れましょう。」

 

俺は頷きながら、まだ鈍く熱を持つ剣の柄を握りしめた。

 

――戦いの感覚が、記憶の欠片として残っている気がした。

しばらく歩いていると、視界に巨大な龍の彫刻が現れた。

その彫像は、まるでこの土地を見下ろし守護しているかのように堂々と立っている。荘厳な雰囲気に圧倒され、俺はしばらくその場に立ち尽くした。

 

すると突然、視界が歪み、別の光景が目の前に広がった。

 

――そこは残像に囲まれた戦場だった。

血の匂いが鼻をつき、うめき声が耳を打つ中、俺は血まみれの女の子を抱きしめていた。彼女の顔は涙と血でぐしゃぐしゃだったが、どこか懐かしい感覚が胸を締めつけた。

 

「なぜ……俺は……?」

 

次の瞬間、目の前に龍が現れた。

それは巨大で、黒い鱗に覆われた姿。目は輝き、威厳を放っている。俺は声も出せず、その龍の姿をただ見上げていた。

 

――そして光に包まれ、気がつくと元の場所に戻っていた。

 

秧秧が心配そうな顔で声をかけてきた。

秧秧:「どうしましたか?どこか具合でも……?もしかして、さっきの戦いで……?」

 

俺は大きく息を吐き、答える。

俺:「いや、違う……ただ、なんだか妙な光景を見たんだ。龍と対面したと思ったら、気がついたらここに戻ってきてた。」

 

漂白者も険しい表情で頷く。

漂白者:「お前もか……俺も似たようなものだ。龍と対峙したような感覚があった。」

 

俺たちの言葉を聞き、秧秧は驚いたように声を上げる。

秧秧:「えっ……歳主について何か思い出したのですか?」

 

俺:「歳主?それはなんだ?」

 

漂白者も龍の彫像を見上げながら呟く。

漂白者:「この彫像……ただの装飾品ではないのか?」

 

秧秧は首を振り、説明を始めた。

秧秧:「これは今州の“歳主”の彫像です。歳主は、理に存在する“一庭六州”にそれぞれ1人ずついて、それぞれ異なる外見をしています。」

 

彼女の視線は龍の彫像に向けられている。

秧秧:「今州の歳主は“角”と呼ばれる存在です。その姿は龍そのもの……まさにこの彫像のような姿をしています。」

 

漂白者が静かに口を開く。

漂白者:「角以外にも歳主がいるのか?」

 

俺も気になり、さらに問いかける。

俺:「他の歳主はどんな見た目をしてるんだ?」

 

秧秧は少し考えるように間を取り、話し始めた。

秧秧:「歳主は文明と歴史のある場所に存在するんです。例えば、こうりゅうは長い歴史と豊かな文明を誇る土地です。最も多くの歳主がいる場所でもあります。」

 

秧秧:「また、こうりゅうの各地域をそれぞれ統治する歳主たちは、元々は一つの存在だった、という記録も残っています。」

 

俺は思わず驚きの声を漏らす。

俺:「一つの存在……?それが分かれて今は複数の歳主になったってことか?」

 

秧秧:「そう考えられていますね。ただし、こうりゅうを除けば歳主の数は圧倒的に少ないんです。」

 

漂白者が彫像を指さしながら言う。

漂白者:「ほとんどが龍の姿なのか?」

 

秧秧:「はい。ただ、地域によっては龍以外の姿をしている歳主もいます。言葉で説明しづらい形をしている歳主もいるんですよ。」

 

俺は思わず叫んだ。

俺:「でも俺の前に現れたのは、これと同じで龍そのものだったぞ!」

 

漂白者も同意するように頷く。

漂白者:「俺も同様だ。」

 

秧秧は驚き、目を見開く。

秧秧:「えっ、歳主が目の前に……?」

 

彼女はそのまま眉をひそめ、考え込むように言葉を続けた。

秧秧:「歳主の姿を目にすることなんて……滅多にありません。それこそ、就任式などの特別な儀式の場ぐらいでしか。」

 

秧秧:「それなのに、歳主が近くに現れるなんて……まさか漂白者さんは歳主の“共鳴者”……?」

 

その言葉に漂白者が反応する。

漂白者:「共鳴者……だと?」

 

秧秧はさらに続ける。

秧秧:「ですが、今の今州歳主“角”の共鳴者である最高執政官は“令尹様”のはずです。それなのに……」

 

俺たちは黙り込み、再び龍の彫像を見上げた。

熾霞:「うわ!やばい!これって巨浪級の残像だよね!?」

 

彼女の言葉と同時に、巨大な波のような影がこちらに迫ってきた。周囲の空気が一気に重くなり、威圧感が肌にまとわりつく。

 

秧秧が咄嗟に声を上げる。

秧秧:「熾霞を助けましょう!漂泊者さん、陰楓さん!」

 

俺と漂泊者は剣を構え、秧秧の隣に立った。秧秧の声には緊張が滲んでいるが、俺たちを信頼しているのが分かった。

秧秧:「漂泊者さん、気を付けて!」

 

俺は一瞬驚きながらも声を上げた。

俺:「俺はどうなんだよ!?」

 

彼女は焦ったように振り返り、小さく笑みを浮かべる。

秧秧:「もちろん、陰楓さんも気を付けてください!」

 

巨浪級の残像が咆哮を上げた。熾霞が咄嗟に回避しながら叫ぶ。

熾霞:「ヤンヤン、後ろ!」

 

秧秧は冷静に指示を受け流しつつ、俺たちに振り向くことなく声を張り上げた。

秧秧:「二人とも、連携を意識してください!残像を分断して削りましょう!」

 

俺と漂泊者は目配せだけで通じ合い、剣を同時に振るった。

 

剣を滑らせて放つ一撃が、残像の触手のような一部を断ち切る。漂泊者は俺の動きに合わせ、さらに素早く別の残像へと剣を突き立てた。俺たちの剣技は、初めて共闘するとは思えないほど自然に噛み合っていた。

 

熾霞:「いやあ、今のは危なかったね……ってか、あんたたち、私たちと初めての共闘なのに息ピッタリだったじゃん!」

 

熾霞は驚きとともに笑顔を浮かべた。

 

俺たちは戦闘を終え、息を整えながら剣を納める。秧秧も無傷のまま立っていて、俺たちを安堵の表情で見ていた。

 

熾霞が秧秧に向き直る。

熾霞:「それにさ、さっきの秧秧の戦う姿……まるで、我が子を守るお母さんみたいだったよ!」

 

その言葉に秧秧は目を丸くし、頬を赤らめた。熾霞はすぐに咳払いをして真顔を作る。

熾霞:「コホン!いや、毅然と漂泊者を守るその姿、カッコよかったよ!それに残像を倒す手際の良さ……いやあ、私ですら何が起きたのかわからなかったよ!」

 

漂泊者がふと鋭い目を向ける。

漂泊者:「……何だ?」

 

俺は彼を見て、にやりと笑う。

俺:「お前……死刑な。」

 

漂泊者が首をかしげる。

漂泊者:「なぜ?」

 

俺は肩をすくめながら冗談交じりに言った。

俺:「自分の顔を鏡で見てきたらどうだ?」

 

漂泊者は冷静な表情を崩さず、真っ直ぐに返す。

漂泊者:「俺とお前そんなに違いがあるのか?」

 

――その一言に、俺もさすがに吹き出しそうになった。

 

秧秧がそのやり取りに呆れたような声を上げる。

秧秧:「……熾霞。」

 

熾霞:「えへへ……あ、そうそう!白芷(びゃくし)といえば、もうすぐ待ち合わせ場所に着くよ!」

 

熾霞は少し慌てながら、話を切り替えた。

熾霞:「えっと、白芷っていうのは治療の共鳴能力を使える人でさ。谷底であんたを見つけた時、私たちと一緒にいたんだよ。簡単な応急処置をしてくれたのも白芷だしね。」

 

秧秧がふと、俺たちを振り返りながら続ける。

秧秧:「あの時の漂泊者さんは、まるで溺れているかのような呼吸の異常がありました。でも、口や鼻には異常はなく、衣服も綺麗なままで……不思議な状態でした。」

 

熾霞が笑いながら秧秧を指差す。

熾霞:「これも秧秧が感知してくれたんだよ。あの時の秧秧、頬を赤くしながらずっと“ごめんなさい、ごめんなさい”って――」

 

――その瞬間、俺は衝動に駆られた。

俺:「今、殺す!」

 

漂白者に向かって手を伸ばし、首を絞めようとする。漂泊者がすぐに俺を押さえ込む。

漂泊者:「やめろ!」

 

俺は力強く言い放った。

俺:「モテる自分を恨め!」

 

秧秧が慌てて割り込む。

秧秧:「し、熾霞!」

 

熾霞は笑いながら後ずさる。

熾霞:「あ、信号塔はもうすぐだよ!」

 

俺たちはその言葉に乗せられるように、歩き出した。騒がしいやり取りの中に、不思議と安心感が漂っていた。

熾霞:「信号塔に着いたら登録しておくと便利だぞ。それに、半径5メートル以内なら信号塔が敵の攻撃を防いでくれるから、安全な場所でもあるんだ。」

 

熾霞が指さす方向に立つ信号塔は、鋭角的なデザインが施されており、何とも異質な存在感を放っている。俺はその機械的な塔を見上げながら、感心したように頷いた。

 

秧秧:「漂泊者さん、デバイスを貸してもらえますか?」

 

漂白者「ああ、ありがとう。」

 

俺「………」

 

秧秧「あっもちろん陰楓さんのデバイスも……」

 

俺:「ハイハイ、どうせ俺はついでですよーだ!」

 

秧秧が俺のデバイスに手を伸ばそうとしたところで、漂泊者が淡々と口を挟む。

漂泊者:「おい、失礼だぞ。」

 

俺は思わず感情を爆発させた。

俺:「うるせぇぇ!モテるお前に俺の気持ちが分かるか!」

 

秧秧は苦笑しながら、俺たちのやりとりを遮るように淡々と作業を進める。

秧秧:「これで大丈夫です。機種とバージョンが違っても、データの送信などの基本機能が使えるようになりましたよ。」

 

信号塔が小さな音を立てて起動し、周囲に淡い光が広がった。俺は改めてその機能に驚きの声を漏らした。

俺:「へぇ、何でも出来るんだな、この瓢箪。」

 

漂泊者は呆れたように俺を見て呟く。

漂泊者:「こいつさっきまでの不貞腐れた態度はどうしたんだ……。」

 

秧秧が漂泊者に説明を続ける。

秧秧:「漂泊者さんのデバイスにもパラシュートモジュールが搭載されているみたいですね。後で使い方を教えます。」

 

俺は悔しそうに唸った。

俺:「グヌヌ……」

 

漂泊者が呆れ顔で答える。

漂泊者:「もういいよ……いちいち反応するな、めんどくさい。」

 

熾霞が笑いながら歩き出し、俺たちを促した。

熾霞:「谷口を出て、もう少し歩けば今州城に着くよ!城内はどこよりも安全な場所なんだ。なんてったって、天工が造った防御施設は難攻不落。中枢信号塔が城全体を覆うように保護シールドを張ってるからね。」

 

漂泊者がその壮大な城の姿を見上げ、感嘆の声を漏らす。

漂泊者:「壮観だな……。」

 

俺も同じように見上げながら同意する。

俺:「本当だ、広大な大地にあんな城があるなんて……すごいな。」

 

熾霞:「えへへ、そうでしょう?」

 

秧秧がその話に付け加える。

秧秧:「今州は石崩れの高地と北落野原に面していて、関所と要塞の役割を持つ場所です。そのため、こうりゅうの要衝と呼ばれています。」

 

しばらく歩くと、熾霞が立ち止まり、周囲を見回す。

熾霞:「白芷、ここで待ち合わせするって約束したのに……来ないな……。」

 

秧秧がその言葉に反応し、目を閉じて周囲の気配を探るような仕草を見せた。

秧秧:「……無音区がここに発生します。」

 

熾霞:「えっ、無音区……?」

 

熾霞は焦りの色を隠せず、立ち上がった。

熾霞:「……いつの間に……?来た時はまだなかったよね!?」

 

秧秧は首を横に振る。

秧秧:「ここへ来た時には感知できませんでした……。」

 

熾霞が驚きと動揺を露わに声を荒げる。

熾霞:「ええ!?早いにもほどがあるって!無音区には追跡機能でも付いてるのか?まるであたしたちの後を追ってきたみたいじゃん……!」

 

秧秧の表情が険しくなる。

漂白者があたりを見回しながら声を上げた。

漂白者:「誰かいないか?」

 

その声に反応するように、熾霞が遠くを指さして叫ぶ。

熾霞:「あれって白芷じゃん!」

 

彼女は声を張り上げて名前を呼び始めた。

熾霞:「白芷ー!白芷ー!」

 

秧秧が遠くにいる白芷の姿を見つけるが、ため息をついて言った。

秧秧:「……遠すぎて声が届きません。」

 

俺もその光景を見ながら、周囲の異様な雰囲気が気になっていた。先ほど発生したばかりという“無音区”の中だということを思い出し、秧秧に問いかける。

俺:「なあ、この無音区って危険じゃなかったのか?」

 

秧秧が冷静に説明を始める。

秧秧:「形成されたばかりの無音区は、一定時間“潜伏期”に入るので、比較的安全ではあります。」

 

俺:「つまり、この無音区はまだ“安全”ってことか?」

 

秧秧は少し眉をひそめながら首を傾げた。

秧秧:「まあ、そうなんですけど……一概にそうとも言えなくて。潜伏期の持続時間は無音区の形成時間に依存するんです。」

 

俺は彼女の言葉に疑問を感じながらも続きを待った。

 

秧秧:「無音区の形成時間が短ければ短いほど、潜伏期が長くなります。そして、潜伏期が長い無音区からは、より強力な残像が生まれるんです。」

 

漂白者が秧秧の言葉を受け、低い声で尋ねた。

漂白者:「強い残像が一気に出てくる可能性は?」

 

熾霞が軽い調子で冗談めいた声を上げた。

熾霞:「ヒーローショーのシナリオなら、あり得るかも!」

 

俺はその言葉に肩をすくめて返した。

俺:「現実なら、あり得てほしくねぇな……。」

漂白者が先に進むように促しながら言う。

漂白者:「とにかく、降りよう。」

 

俺は足を止め、無音区の不穏な空気を感じながら呟いた。

俺:「……やっぱり、この無音区は避けられないか……。」

 

漂白者が苛立ったように振り返る。

漂白者:「こんな時に何言ってんだよ。」

 

秧秧が落ち着いた声で状況を整理しながら言った。

秧秧:「はい……それに、パラシュートの滑空距離では無音区の範囲を超えられません。まずは、白芷のもとへ急ぎましょう。」

 

彼女はデバイスを操作しながら俺たちを見渡した。

秧秧:「デバイスの滑空機能を使いましょう。漂泊者さん、時晴さん、私に任せてください。」

 

俺たちはパラシュートを展開し、無音区の中に滑空しながら降りていく。地面に降り立つと、熾霞が再び白芷の名前を叫んだ。

熾霞:「白芷!白芷ー!」

 

白芷の姿が見えると、熾霞は急いで駆け寄る。

熾霞:「白芷、ここ無音区だよ!なんでこんなところに……?」

 

白芷は俺たちを見つけると、ほっとしたように息を吐いた。だが、彼女の手元から突然、白い龍のような、ナメクジのような生き物が現れた。それは俺たちの周りをくるくると回り始める。

 

白芷:「大丈夫、みたいね……よかった……。」

 

熾霞が元気に声を上げた。

熾霞:「もう!めっちゃ元気だよ!さっきも巨浪級の残像をやっつけたし!いやあ、ホントに元気だね、へへっ!」

 

秧秧も落ち着いた様子で言う。

秧秧:「はい、特に問題はなさそうです。」

 

俺は首をかしげながら尋ねた。

俺:「テレパシーでもやってるのか?」

 

漂白者が即座に否定する。

漂白者:「そんなわけないだろ。」

 

秧秧が静かに補足する。

秧秧:「ただ、白芷さんはあなたのことを心配してくれているんです。さっきまで倒れていたあなたを、むやみに連れまわすべきではありませんよね。」

 

漂白者が腕を組みながら言う。

漂白者:「見ての通り、平気だ。」

 

俺も不満げに口を開いた。

俺:「俺だって平気――」

 

だが、急に体が重くなり、立ち眩みのような感覚に襲われた。

 

白芷:「……おしゃべりするなら場所を変えましょう。」

 

その言葉に従い、俺たちは無音区を離れようとした。だが――その瞬間、地面から鋭い棘のようなものが生え、無音区の雰囲気が一変した。

 

熾霞、白芷、秧秧の三人が突然、頭を抱えて苦しみ出す。

熾霞:「……あ、頭が……!」

秧秧:「……これ……何か……!」

 

俺と漂白者はその様子に気を取られていたが、不意に背後から気配を感じた。

 

俺:「――っ!」

 

咄嗟のことで反応が間に合わず、俺の背後から敵が殴りかかってくる。だが、その一撃を漂白者が剣で受け止めた。

 

漂白者:「……!」

 

衝撃で俺たちの足元が揺れ、三人――熾霞、白芷、秧秧は敵の作り出した結界の外に放り出される。

 

気がつくと、俺と漂白者だけが結界の中に取り残されていた。

 

目の前に立ちはだかるのは――異様な雰囲気を纏った“無冠者”。

 

俺は剣を構えながら、漂白者と目を合わせる。

 

俺:「どうやら……俺たち二人だけでやるしかなさそうだな。」

 

漂白者が小さく頷き、剣を構え直した。

漂白者:「そのつもりでいた。」

 

敵がゆっくりと動き出す。無音区の中、決死の戦いが始まろうとしていた――。

 

無冠者との激突――始まり

 

無冠者は全身を覆う硬い白い鎧から、凶悪な威圧感を放っていた。動きは重厚でありながら素早く、俺たちを見据えたまま一歩ずつ迫ってくる。

 

俺:「おい……こいつ、やばそうだぞ。」

 

漂白者:「怯むな。相手の動きを見るんだ。」

 

無冠者は無言のまま一瞬で距離を詰め、その巨体からは想像もつかない速さで拳を振り下ろしてきた。

 

俺:「速いッ!」

 

俺は慌てて回避しながらも、地面に拳が叩き込まれる衝撃で足を取られそうになる。漂白者は冷静に剣を振り上げ、無冠者の次の一撃をパリィする。

 

漂白者:「動きは速いが、攻撃は直線的だ。」

 

俺:「お前、冷静すぎだろ!」

 

漂白者の剣が無冠者の拳を弾き、その隙を狙って俺も剣を振り下ろした。だが、硬い鎧が俺の剣を跳ね返し、衝撃が手に響く。

 

俺:「硬すぎる……どこを狙えばいいんだ!」

 

漂白者は剣を構え直しながら冷静に指示を飛ばす。

漂白者:「関節を狙え。鎧の隙間を見つけるんだ。」

 

無冠者は次々と体術による攻撃を繰り出してくる。跳び蹴り、肘打ち、膝蹴り――その動きは鎧をまとっているとは思えないほど俊敏だ。

 

俺:「くそっ!追いつけない!」

 

漂白者が無冠者の拳を剣で受け流し、間髪入れずに足払いを狙う。無冠者がわずかにバランスを崩した瞬間、俺は剣を逆手に振り上げ、その膝の隙間を狙った。

 

俺:「――ここだ!」

 

剣先が鎧の隙間をかすめ、無冠者が低く唸り声を上げる。しかし、ダメージは軽微だったようで、すぐに態勢を立て直す。

 

漂白者:「少しずつ削るしかないな。無理に一撃で仕留めようとするな。」

 

無冠者の攻撃を受け流し、何とか応戦していると、突然その動きが変わった。

 

空中戦――槍を持つ無冠者

 

無冠者は突然巨大な槍を黒煙と共に召喚し手に持つと、ゆっくりと宙に浮かび上がった。その姿はまさに悪夢のようで、地上にいる俺たちを睥睨しているようだった。

 

俺:「おい、なんだよそれ……空も飛べるのかよ!」

 

漂白者:「警戒しろ。地上戦以上に厄介だ。」

 

上空から無冠者が槍を振り下ろしてくる。その一撃は地面を抉り、大きな衝撃波が俺たちを襲う。

 

俺:「ぐっ……こんなの、避けるしかないじゃないか!」

 

漂白者は冷静に距離を取りつつ、隙を探しているようだった。

 

漂白者:「奴は飛び回りながらこちらを狙っている。動きを読め。」

 

無冠者は空中から次々と槍を突き出し、俺たちの動きを封じてくる。攻撃の範囲が広く、完全に回避するのが難しい。

 

俺:「くそっ……どうすればいいんだ!」

 

漂白者がふと俺の方に視線を向けた。そして不意に、俺の手を掴んで口を開く。

 

漂白者「俺に一つ案がある」

 

俺「何だよそれ」

 

漂白者:「俺がお前を投げる。」

 

俺:「はあ!?正気かよ!」

 

漂白者:「いいからやるんだ。お前なら届く。」

 

漂白者は俺の手を強く握り、そのまま空中に向けて投げ飛ばした。俺は剣を握りしめながら無冠者に突進する。

 

俺:「うおおおおおっ!」

 

空中で無冠者に向かって剣を振り下ろすが、槍で受け止められた。

 

無冠者:「……!」

 

再び槍が突き出され、俺は反応が遅れて腹部をかすめられる。鋭い痛みが走り、さらに槍が迫ってくる。

 

俺:「……しまっ――!」

 

その時だった。

 

 

謎の声:「お前さんはここでくたばる玉か?」

 

俺の右肩の音痕が淡く光り、そこから低く重い声が響いた。突然、俺の視界が歪み、無冠者の動きがスローモーションに見え始める。

 

俺(心の声):「……なんだ……?よく分からねえがこのチャンス逃すわけにゃいかねぇ!!……」

 

迫る槍をかわし、その隙を突いて剣を逆手に振り抜いた。その刃は無冠者の胸部の隙間を正確に捉え、深々と突き刺さる。

 

俺:「これで終わりだ――!!」

 

無冠者の鎧に大きな亀裂が走り、その身体は光に包まれながら崩れ落ちていった。

 

決着後

 

地上に降り立った俺は、肩で息をしながら漂白者の方を見る。

漂白者:「……やるじゃないか。」

 

俺:「ああ、何とかな。」

 

無冠者が崩れ落ちた跡には、黄色い抜け殻のようなものが残されていた。熾霞たちが結界の外から駆け寄ってくる。

 

戦いを終えて、俺は肩で息をしながらその場に膝をついた。漂白者も剣を収め、無言でこちらに歩み寄ってくる。息を整える間もなく、熾霞と秧秧が駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か?怪我は?」熾霞が顔を覗き込んでくる。

 

俺は首を横に振った。怪我はないが、身体中が鉛のように重い。漂白者も簡潔に答える。

「怪我はない。」

 

熾霞が肩を撫で下ろしながら笑った。

「いやあ、めっちゃ焦ったよ!あのバリア、頑張って壊そうとしたんだけど、ビクともしなくてさぁ……ホント焦ったってば!」

 

秧秧が抜け殻のようになった無冠者の残骸をじっと見つめ、ぽつりと呟いた。

「……あれほどの残像を軽々倒せる漂泊者さんって……。」

 

その言葉に思わずムッとして、俺は口を開いた。

「俺もいたんだけど……。」

 

漂白者が横目で俺を見て微笑む。

「いや、陰楓と一緒だったから勝てた。……だろ?」

 

一瞬、俺は驚いた。けれど、すぐにニヤリと笑って返す。

「……フッ。俺もお前の機転の効いた作戦がなかったら勝てなかった。ありがとな。」

 

秧秧は周囲を見渡しながら首を傾げた。

「雲谷はそれほど危険な場所ではないはずなのですが……。」

 

熾霞が視線を遠くの残骸に向け、声を上げた。

「そんなことより、これ見て!」

 

俺も漂白者もその方向を見る。抜け殻のように見えるそれに、漂白者が訝しげな声を漏らす。

「残像が……何か残した?」

 

俺も目を凝らしたが、ただの残骸にしか見えない。

「何だ、ただの抜け殻じゃないのか?」

 

秧秧がその残骸に触れ、観察しながら説明を始めた。

「これは……『残響』ですね。」

 

熾霞が声を弾ませる。

「おお、さっすが!あんたツイてるね!」

 

「残響?」俺が聞き返すと、秧秧がさらに続ける。

「漂泊者さん、陰楓さん、『残響』と『音骸』について覚えていますか?」

 

漂白者が少し考えるようにして答えた。

「まぁ……なんとなく。」

 

俺は肩をすくめる。

「一応な。周波数とかが欠陥を起こした時にアイツら(残像)が生まれる、って話だったか?」

 

秧秧は頷き、さらに説明を加えた。

「そうです。万物は波数で構成され、音には必ず響きが残る……これが『残響』です。」

 

彼女は瓢箪を取り出し、俺たちのものを指さして続ける。

「『残響』はデバイス、つまり瓢箪のデータドックを使えば回収することができます。」

 

熾霞が俺たちの瓢箪を指しながら得意げに笑う。

「デバイスってのは共鳴者たちが持ってるあの瓢箪のことな!で、その技術は世界一ィィィィ!」

 

俺はその言葉に思わずツッコみそうになった。

――何か聞いたことあるセリフだな……何だっけ?

(天の声:「ジョジョ二部のシュト◯ハイムの『我がドイツの医学薬学は世界一ィィィィーーーッ!』が元ネタだよ。」)

便利だな、天の声……ってかジョジョとシュトロハ◯ムって誰?。

 

熾霞(シカ):「でも、残像を倒したら必ず残響が手に入るってわけじゃないんだ。えっと、これはデータドックのレベルが関係してて・..・・・」

 

何だよ全然世界一ィィィィ!!っていう割に凄くないじゃん……

 

 

そんな俺の様子を漂白者が見ていたのだろう。彼は黙って俺の頭を軽く叩いた。

「イッ……何すんだよ!」

 

「お前の顔に『全然世界一ィィィィって割には大したことないじゃん』って書いてあったからな。」

 

何コイツ……俺の頭の中読めんのか?怖いんですけど……。

 

秧秧が笑いながら話を戻した。

「データドックのレベルが高いほど、残響を入手できる確率が上がります。そして、残響を手に入れれば『音骸』という心強い味方を作ることができますよ。」

 

俺は興味を引かれながら、漂白者に視線を向けた。

「で、俺たちのデバイスレベルでこれ、回収できるのか?」

 

漂白者が瓢箪をかざしてみたが、何も起こらない。

 

「どうやら俺らの瓢箪のレベルは0みたいだ。」

 

「回収できないとどうなるんだ?」

 

秧秧はその質問に苦笑しながら答える。

「何事もなかったかのように消えるだけです。別に蘇ったり人を襲ったりはしないので、安心してください。」

 

俺は残念そうにため息をつく。

「せっかく倒したのに……何だ、それ。」

 

漂白者は冷静に言った。

「蘇らないことを喜べ。それだけで十分だろ。」

 

俺はその冷静さに苛立ちながら反論した。

「だからお前は何で俺の考えが読めるんだよ!」

 

漂白者は薄く笑い、さらっと答える。

「隠しきれてないからだ。」

 

「うるせぇ!」

 

熾霞がそんなやり取りを聞いてケラケラと笑いながら場を和ませた。

「まあまあ、ご飯はよく噛んで食べろって言うしさ!弱い敵の残像を回収していけば、いつかこんなのもいけるようになるって!」

 

俺は瓢箪を見つめながら、少し考え込む。

「……強いのが欲しいなぁ。」

 

熾霞が急に思い出したように指を指す。

「あっ、たしかこの辺に小さい『アッツ』がいるんだよ!あれ、可愛いんだ!後で一緒に捕まえに行こ!」

 

白芷が周囲を見渡し、厳しい表情で口を開いた。

「……この異常現象は、各所に報告する必要がありそうね。」

 

白芷が冷静に口を開いた。

「とにかくここを離れましょう。」

 

俺たちは頷き、無音区を離れようとした。だが、漂白者の姿が見当たらない。歩みが遅いのかと思って振り返った俺は、その場に立ち尽くしてしまった。

 

「おい!お前、大丈夫……か?」

 

俺の声は途中で途切れた。目の前の光景に、言葉が喉に詰まる。漂白者の音痕が眩い光を放ち、手から物凄いオーラが渦を巻いていた。その光とオーラは、無冠者の抜け殻――残響を吸収していく。

 

「こ……この力は一体……?」熾霞が驚きの声を上げる。

 

漂白者が光の中に立つ姿は、威圧感すら漂わせていた。熾霞がさらに続ける。

「あ、あんた……まだそんな技を隠し持ってたのか!こんな共鳴能力、見たこともないよ!え、もしかしてまだ他にもすごい力持ってるんじゃない?残像丸呑みとか、音骸炭焼とか!」

 

……何だその美味しくなさそうな料理名は。いや、そもそも音骸の料理なんて誰も食わないだろう。

 

漂白者は吸収を終えると、音痕の光が消え、静かに俺たちの方を向いた。

「俺もよく分からない陰楓、お前もさっきの戦いで似たようなことがあったな。何か予兆とかはなかったか?」

 

「おい、お前。さっきの力を使う前、何か声が聞こえたか?」俺は漂白者に問いかけた。

 

漂白者は少し考え込んでから、あっさりと答える。

「声?ああ、『お腹すいた。お腹すいた』って聞こえた。」

 

……なんだそりゃ?お腹すいただけであんだけの力を出せるって、どんだけヤバい奴なんだよ。

 

白芷がふと口を開いた。

「そう言えば、あなたも戦闘時に音痕が光って、アレに勝ったわよね。」

 

「ああ、そうだが?」

 

「見た感じ、漂白者は残響の吸収。陰楓は時間と空間が一時的に歪んでいた。それに力の使用前に声が聞こえたなんて……」

 

白芷の言葉に、俺たち二人が普通の共鳴者ではないことが浮き彫りになってくる。

 

「気分はどうですか?何かおかしなところはありませんか?」秧秧が漂白者に尋ねる。

 

「お体は?具合は?吸収した残響の影響は?」秧秧は立て続けに質問を投げかけ、俺に向き直った。

「陰楓さん、漂泊者さんを華研究院に連れて行って、共鳴医療課で診察を――」

 

「見てもらおうぜ。」俺が漂白者にそう促すと、彼は無表情で首を横に振った。

「いや、大丈夫。」

 

つまらない奴だなぁ……。

 

白芷が何かを考えるように黙り込む。秧秧がその様子に気づいて声をかけた。

「白芷?」

 

白芷は少し思案し、やがて口を開いた。

「身体が音骸を吸収する……特異な例ではあるけれど、全く例がないというわけじゃない。それに時間を操る能力は……『角』の……」

 

秧秧がすかさず話を引き取る。

「『紀世通鑑』こうりゅうの冒頭にこんな言葉があります。」

 

彼女は一度目を閉じ、ゆっくりと朗読を始めた。

「『斯の世に降りし天人、乾坤を指掌に宿し、その身に音骸を納める。一気凝化、生まれし盤古、天地を覆い、経緯相応を以て、四方を照らす。面して理史は始まり、初めて庭州を分かつ……』」

 

俺はその言葉に頭を抱える。

「……なんて?」

 

漂白者も無表情のまま言葉を続ける。

「どういう意味か教えてくれないか?俺もコイツも理解できていないんだ。」

 

……だから、何でこういう時に普通に話せないんだよ。もういい。そういう奴だと思うようにする。

 

熾霞が意気揚々と説明を始めた。

「要するに、むかーしむかし、まだデバイスが存在していない時代にすごいお方がいて――最も強い残像を吸収して、音骸に変換し、その力を利用してこの世界を再構築した。それからこうりゅうの歴史が始まった……ってとこかな。」

 

「なるほど。」俺は素直に感心した。

 

漂白者も短く感想を漏らす。

「熾霞は物知りだな。」

 

熾霞は嬉しそうに飛び跳ねた。

「やったぁ、褒められた!……って喜びたいところだけど、この話、実は子供の頃にずっと読み聞かされてたものなんだ……。原文は秧秧みたいに暗記できないけど、大体の話なら覚えてるよ。」

 

彼女は最後に付け加えた。

「本当かどうかはさておいて、これ、すっごい昔の話だよ。今州なんて概念もまだなかったんじゃない?」

 

その時、熾霞が漂白者を指さして不意に笑った。

「もしかして漂泊者、あたしたちのご先祖様だったりして!」

 

「……とんでもねぇお爺ちゃん!」思わず心の中でツッコむ俺。

 

漂白者はため息をつき、静かに答えた。

「勝手にお爺ちゃん扱いするのをやめてくれないか?」

 

「はいすいませーん♪」俺は軽く手を挙げておどけてみせた。

 

秧秧が俺たちを見つめ、真剣な口調で言った。

「それに時晴さんの時間の能力は今州の歳主『角』の力に近い気がします。空間の歪みはよく分かりませんが……お二人とも、凄い方と繋がりがある可能性が出てきましたね。」

 

白芷が小さく首を振り、冷静に言った。

「まだデータサンプルと研究分析が足りない。結論を出すには至らないということ……。」

 

その時、白芷が何かを受信したように顔を上げる。

「漂泊者。陰楓。」

 

「ん?」俺たちは思わず顔を見合わせた。

 

秧秧がデバイスを確認しながら呟く。

「これは……辺庭から今州全域への映像メッセージですね。」

 

デバイスの映像が投影され、大勢の人々に向けた女性の映像が映し出された。彼女は冷静で端正な顔立ちをしており、整った姿勢で言葉を紡ぎ始めた。

 

今汐(コンシ):「今州の皆さん、お忙しいところ失礼します。今州の今令尹(れいいん)、今汐です。」

 

俺はその姿に思わず目を凝らした。

――この女性……年は違うが、さっき俺が「角」と出会った時に見た、あの傷ついていた子にそっくりだ。

 

何かを言おうとしたが、漂白者が俺の様子に気づいた。

「どうした?」

 

俺は一瞬躊躇して、首を振る。

「いや、何も……。」

 

映像の中の今汐は微笑みを浮かべながら、静かに話を続けた。

 

今汐:「月追祭が近づいており、今州にも各地から客人が訪れています。この素晴らしい祭日、民の期待に応え、人々が楽しく過ごせるよう心から願うばかりです。」

 

彼女の言葉には一切の揺らぎがなかった。声は穏やかだが、芯のある響きがあった。

 

今汐:「古来から今州は残像潮を退ける前線拠点としての役を担ってきた険しい土地……後退も失敗も許されない――そんな戦争の重責を果たしてきました。」

 

俺はその言葉に胸の奥がざわつくのを感じた。今州という土地がどれほど厳しい歴史を持つのか、少しだけ垣間見えた気がした。

 

今汐:「ですが、今州を支えてきた民のおかげで、このような繁栄と平和を築くことができました。皆さんの存在が、世界に輝く今州を作り上げたのです。」

 

彼女の言葉が、これを見ている誰かを力づけているのだろう。その言葉のひとつひとつに、重みがあった。

 

今汐:「我々は常に恐れに届せぬ意志と、温かく誠実な態度を抱いてきました。それは、これまでも、これからも変わることはありません。」

 

その一言に、映像を見つめる俺たちも思わず背筋を伸ばした。

 

今汐が少し息を整え、少しだけ柔らかい表情になった。

今汐:「そこで、皆さんに一つお願いしたいことがあります。」

 

彼女の言葉は急に真剣味を帯び、俺は思わず画面に見入った。

 

今汐:「ここを訪れる者の中に、余と今州、そしてこうりゅうにとって非常に重要な客人がいるのです。」

 

……重要な客人?

 

今汐:「……この時を長く待ち望んでいました。」

 

彼女は穏やかに話しながら、しかしどこか緊張感を漂わせている。

 

今汐:「あなた方お二人は、目覚めたこの世界にきっと混乱していることでしょう。周囲で起きている奇怪な現象にも、すでにお気づきになられているかと思います。」

 

俺たち二人を見ているかのようなその言葉に、全身が緊張するのを感じた。

 

今汐:「ですので、もし今州境内に留まるおつもりでしたら、今州城内の辺庭でお会いできないでしょうか?」

 

 

俺は何も言わず、彼女の次の言葉を待った。

 

今汐:「あなた方の疑問すべてにお答えすることは叶いません。しかし、諸々の助力をあなたに提供させていただくことはできます。」

 

彼女の言葉には嘘がないように思えた。

 

今汐:「もちろん、これは要請ではなく、単なるお願い――いかなる道を進まれようとも、それはあなた自身の選択でございます。」

 

彼女は最後に優しい微笑みを浮かべた。

今汐:「従って、今州の皆さま。お願いします。その客人と出会うことがあれば便宜を図り、精一杯もてなしてください。」

 

映像が静かに消え、場に一瞬の静寂が訪れる。熾霞が真っ先に口を開いた。

 

「何と言うか……なんか壮大な話になってきたね……。」

 

白芷が真剣な顔で続ける。

「令尹様が言っていた客人は……。」

 

秧秧が小さく息を呑みながら頷いた。

「……漂泊者さんと陰楓さんですね。」

俺は目の前で展開されている状況に圧倒されつつ、口を開いた。

「確かに、俺たち……。」

 

漂白者が腕を組みながら首を横に振る。

「いや……まだ結論を出すのは早い。」

 

その言葉に、熾霞が不満そうに声を上げた。

「いやいや、あれだけのことしておいて“結論を出すのはまだ早い”って、慎重すぎるでしょ!」

 

熾霞は少し興奮気味に続ける。

「私なんて……これが、しゅせ……いや、漂泊者の実力なのか!って思ったもん!」

 

「え?」俺が思わず聞き返すと、漂白者も珍しく首をかしげた。

「なんて?」

 

熾霞は得意げに胸を張る。

「これが首席の実力だ!」

 

俺はその言葉にポカンとしてしまったが、漂白者が冷静に質問する。

「それは……なんの話だ?」

 

「有名なヒーローショーの名ゼリフだよ!」熾霞が笑顔で答えた。

「まだ完結してなくて、もう4年くらい続いてるんだけどね。首席指揮官とその小隊が活躍する話で、マジで燃えるのよなぁ!」

 

秧秧が少し興味を持ったように聞いてきた。

「漂泊者さん、陰楓さん、このヒーローショーを見たことはありますか?」

 

「いや、そうじゃなくて!」俺は話題がそれそうになるのを慌てて止めた。

 

秧秧が軽く笑いながら漂白者に尋ねた。

「漂泊者さんは、どうしますか?」

 

漂白者は少しの間黙って考えたが、静かに頷いた。

「分かった。行こう。」

 

その言葉に秧秧は安心したように言葉を続けた。

「谷にいた時、漂泊者さんと陰風さんは今州歳主の彫像を見て、歳主の記憶の話をしましたよね。」

 

漂白者が小さく頷くと、秧秧が真剣な表情で話を続ける。

「その記憶が本当の出来事なのかは分かりませんが……令様からの通達が事実なら、漂泊者さんと時晴さんの経歴は今州と深い関係があるはずです。」

 

秧秧の言葉に少し沈黙が漂ったが、彼女は優しく笑みを浮かべて付け加えた。

「ですが、令尹様の客人かどうかに関わらず、漂泊者さんは私たちの大切な……。」

 

 

末代まで呪ってやるぞ……漂白者

 

その言葉に、熾霞が声を張り上げた。

「友達、だよね!もちろん時晴も!」

 

――許す!(天の声:ちょろい奴め)

 

熾霞は笑顔を浮かべながら続ける。

「だって、一緒にすっごい大変な目にあったんだもんね!こんな短時間であんな量の残像見たことないし、最後にはすごい大物もいたし……まあ、ほとんど漂泊者と時晴が倒してくれたけど、へへっ。」

 

その軽い調子に少し笑いがこぼれる。熾霞は手を叩いて締めくくるように声を上げた。

「とにかく!今州に着いたら絶対攀花食堂の名物料理をご馳走してあげるからさ!」

 

俺は思わず大声を上げた。

「マジで!?熾霞さん、太っ腹!!」

 

仲間たちの笑い声の中、俺は剣を軽く握り直し、前を向いた。

「よし、じゃあ今州城に向けて出発!!」

 

「おおお!!」仲間たちの声が重なる。

 

後ろから白芷がため息をつきながら呟く。

「はぁ……。」

 

漂白者がそれを聞きつけて、少し笑いながら言った。

「元気いいな。」

 

俺たちは新たな目的地、今州城に向けて一歩を踏み出した。新たな謎と期待を胸に――。

 




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